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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-21 音楽祭と妹 学校の怪談

「それはもう自分達で何とかするしかないわね、残念だけど」


校舎の会議室で俺達の話を聞いた玉城先生は、困った顔をして答えた。


「元々補欠って、誰かが出られなくなった時に出るものじゃない?

 補欠も通常メンバーに入れちゃったら、そうなるに決まってるわ」


玉城先生は、俺達を補欠を通常メンバー化させたことで一通り静かに怒った後、

選択肢が三つあると言った。


「一つは、出場を諦めること。

 一つは、牧田くん抜きで全部やり通すこと。

 そしてもう一つは、同じ出場メンバーにお願いして、

 牧田くんのパートをやってもらうこと。

 誰かにお願いするなら、腕のいい子を見極めないと、

 あなたたち、順番が最後とはいえ練習時間が短いのには変わりはないから、

 本番でちゃんとできないかもしれないからね」


「すみません、先生。……迷惑かけて」


俺は一礼した。

俺が、何とかせねばならない。そう感じている。

なぜと聞かれても俺は知らん。


……そうだな、音楽祭に出たいと言い出したのが麗香だったからかもしれん。

美羽までとは言わなくとも、手のかかるやつで、俺がいないと何も出来ない。

俺が何とかせねば。

……まずいな、チカの変態母性本能がうつったかも。

早いところどっかでこの症状を治してもらわねえと、髪型がワカメになっちまう。


……少なくともチカがそう言いだしてこうなったなら、

俺もメンバー構成がおかしいことに気づかなかったことを棚に上げて、悪態の百や二百ぐらいかましているだろう。

俺は零雨と麗香の友達である以前に、二人の協力者なのだ。

この世界に住まわせてもらってる家賃(・・)ぐらいは払ったっていいだろ。

それに極道の一件でも、散々な目に遭ったが、借りがないわけでもねえし。

めんどくせえけど助けてやろうじゃねえか。

―――俺一人で頑張るにも限界はあるけどな。


「コウ、あんた口では『めんどくさい』だの『やる気ない』だの言ってるくせに、やっぱやる気あるんじゃん」


「う、うっせぇ、チカ。

 俺はただ目立つこともなく平穏にこの一日を乗り切りてえだけだ。

 他人の前で赤っ恥をかかされるのなんざまっぴらゴメンなんだよ!」


そうだ。

そもそも行動しようってのは、俺が恥をかきたくねえっつう理由が大部分で、

家賃だの借りだの、そんなの食玩についてるオマケ程度の比率なんだよ。

……オマケ程度のな。



「どうするかはあなたたちの自由だから、よく考えるのよ。

 はい、じゃあ他に用はない?

 ……そういえば楽器の貸し出し申請、昨日が締切だったんだけど、

 あなた達は申請出してないわよね。?今ならまだ間に合うけど?」


「大丈夫です、私達の方で準備してますから」


麗香はフフッっと、優しく笑った。


「そう。分かったわ」


失礼しました、そういって俺達は会議室を出た。

グラウンドに出ると、盆直前のハイパワー太陽が地面を溶かすような勢いで照射し、

蝉の狂ったような鳴き声が聞こえる。

空には雲一つない青空。

入道雲の一つぐらいあってもおかしくないのだが、

俺達の気持ちとは裏腹に爽やかな空が広がっている。


時刻は午後一時。

音楽祭のステージ開演は、熱中症予防のために気温が下がりだす午後三時から始まるらしいが、

すでにグラウンドにはどこぞのPTA寄贈だの卒業記念だのと書かれた、

白いテントがグラウンドを埋め尽くし、

人工の日陰の中で生徒が汗を垂らしながら商いを始め、

あちこちから客引きの声が響いている。

掘り出し物目当てだろうか、昼飯を食った学生ら、つまりは客と一部の出場者が早々と店を回っている。


それにしてもまったく、暑さの最高潮の時間帯だっつうのに、よくやるぜ。

一緒に出店した仲間と、売上(生徒会に出店手数料を取られた残り)で

カラオケに行くのだというバカ元気な意気込みの声が聞こえてきた。

――カラオケ、最近行ってねえな。


「これから、どうする?」


俺の顔を麗香は覗き込む。


「さあな。

 そろそろ匠先輩が楽器運んでくる時間だからな、とりあえず校門前で待つべきだろ」


グラウンドにできたテント迷路を解き、校門の前につくと、白い軽トラが一台。

荷台に大きなブルーシートがかかっており、その運転手は俺の担任と何か話しているようだった。

運転手は俺達に顔を向けると大きく片手を上げ、それにつられて担任も俺達の方を見た。


「匠、もう来てたんだ」


チカは近寄って窓から身を乗り出している運転手に話しかけた。


「まあ、楽器を荷台に載せる作業が思いの外早く済んだんでな、ちょっくら早めに着いたってところ」


「……で、この軽トラどうしたの?《わ》ナンバーじゃないけど」


「ああ、ちょっと友人のを借りたんだよ」


「そうなの」


「で、どうするんだ?牧田のパートは」


「匠は代わりに出られないの?」


「バイト先と掛け合ってみたけど、ダメだった。

 時間をずらすのも『仕事が忙しいからやめてくれ』だとさ」


「なんだかお前のとこ、出場ピンチらしいな」


担任が割り込んできた。


「もしかしたら出場やむなしキャンセルになるかもしれんのだろ?

 見たかったな〜、足立がステージで演奏してるところ。

 六十年に一度花を咲かせる竹よりも珍しい光景だろうからな」


そういう目で俺を見られんのは嫌だね。

そんなに珍しいなら担任の目を潰して、いっそのこと幻にしてやろうか?

実際には、やんねえけど。

ちなみに竹が六十年に一度花をさかせるっつうのは間違いらしい。

あまりにも珍しすぎて、ある竹が六十ウン年周期で花を咲かせたのを見ただけで、

実際は分からないそうだ。


「ま、とにかく一応楽器(こいつ)は持ってきたし、教室の中にでも入れておこう」


匠が親指で後ろの荷台をさして言うと、担任は軽トラの前に立った。


「おいお前らぁ!トラックが通るから道を開けろ!」


担任は叫びながら匠先輩の乗る軽トラを誘導しはじめる。

海がパックリ二つに割れた例の伝説のように、生徒がテント側に寄って道を譲る。


「まるで王様気分だ」


匠先輩は笑った。




トラックの荷台に載せた楽器は、俺達+匠先輩の五人で、

現在使われてない、二階の特別教室に保管した。

予想はしていたが、やはり楽器は重かった。

ここまで運んできたのが報われるかどうかは、あとは俺達次第だ。


楽器を運び終え、俺達は埃っぽい特別教室の中で、

自販機で買ったお茶を飲み、一息つく。


「さてと、俺はそろそろバイトの時間が迫ってきてるからちょいとここらでドロン」


一気飲みして空になったペットボトルのキャップを締め、

忍者の真似をしておどけた先輩は、

「俺もお前らが出場出来るよう、最善を尽くすからな」と言い残して教室から出て行った。



「どうにかして、ジョーくんの代役を見つけなきゃ」


麗香がシンとした教室の中、ぽつりと呟く。

蝉の鳴き声で埋まっているグラウンドから、

軽トラのエンジンがかかる音が僅かに聞こえてきた。


「……ちょっとあたし、トイレ行ってくるね」


チカはそういって教室を出ていき、教室には俺と零雨と麗香の三人だけが残った。



「もういっそのこと、作っちゃおうかな……」


また麗香が呟いた。


「何を?」


「ジョーくん」


……それは、この世にジョーが二人存在することになる、ということ?

やめてくれ。

もしジョー(複製版)が俺達と共に出場している最中に、

モノマネ番組のようにご本人が登場すれば、

「お前、誰だ!?」のリアル珍シチュエーション、つまりリア珍が生まれるわけで、

恐らく演奏後姿を消すであろうジョー(複製版)の存在が、

「あの人は一体誰だったのか?」というオーディエンスに解決不能な問いを与えると共に、

俺達のバンドを伝説(レジェンド)として後世に語り継がせることにもなりかねん。

ましてやこの季節、

怪談なんなんかも旬の話題としてテレビやら雑誌やらで取り沙汰されることも多い。

学校に伝わる《本当にあった怪談》として残ることも考えられる。


【おい、知ってるか?】


《何の話だよ》


【この学校の音楽祭、以前に生き霊が、バンドに出たことがあったんだってよ】


《はぁ?そんな馬鹿な話があるかよ》


【いや、これマジの話なんだって!

 ……今からニ年前の話、部活の先輩に聞いたんだ。

 なんでも、そのバンドは男二人と女三人のバンドだったらしい。

 そのバンドは本番までに相当練習したらしいんだけどな、

 本番当日の朝、男二人のうち『M』って奴の親父が事故で緊急入院したそうなんだ】


《ほう》


【瀕死の状態の親父を病室でずっと見守りながら、

 頭の片隅では音楽祭のことも気にかけていた『M』は、

 知らず知らずのうちに生き霊を作り出してしまったらしいんだ】


《それで?》


【その生き霊は学校のグラウンドでメンバー不足で

 出場ができなくなった彼等の前に姿を現し、無事彼らは発表することができた】


《……》


【しかし、彼等の本番中、本物の『M』がステージに現れたことで騒動になった。

 ステージにいるうちのどちらが本物で、どちらが偽者なのかと……】


《……で?》


【結局、生き霊側の『M』は発表後、どこかへ消えてしまい、

 残った本人も、結局、あれが何だったのか分からなかった、そういう話だ】


《よく有りがちな怪談だな》


【最初は俺もそう思ってたんだよ】


《思ってたって、どういうことだ?》


【この話は今から「二年前」の話っつったよな?】


《まさか……》


【そう、その「まさか」だ。

 百人以上の観客が、服装から何まで瓜二つの二人がステージにいるのを目撃したんだよ。

 そして、その目撃者はまだこの学校にわんさか残ってる。

 俺がこの話を聞いた先輩も、目撃者の一人だったんだ】


《うわぁ、マジぱねえ……》



と、まあこのような感じで姿形を変え、脚色されながら伝わって行く。

言わなくても分かると思うが、

俺が学校の怪談にでてくるなんざ、有り得ねえ話。

全力で阻止しなければならない。



「麗香、それはマジでやめろ。

 つじつまが合わなくなったら大惨事だ」


「あ、ごめんね、ちょっと思っただけだから気にしないで」


「それならいいが……」


「まずは、他でリハーサルやってるところにひとつひとつ回って、お願いしてみようかな」


「そうだな、それがいいだろう」


俺の頭の中には、病院にいるジョーに会いに行くという選択肢も浮かんだのだが、

それは危篤の親父を残してドラムを叩けと言いに行くことを意味する。

タマの小さい俺には、そんな金属質な発言などできるはずもなく、

彼の気持ちを少し考えたなら、それがどれほど残酷なのかは容易に推測できる。



「ふう~、なんかトイレがきれいに掃除されてたわよ」


帰ってきたチカは少し嬉しそうだった。

俺達の学校、トン高(愛称)では、普段トイレ掃除も生徒がやるのだが、

文化祭や体育祭、入学式や卒業式といったイベントが近くなると、

業者に委託してみっちり掃除してもらう。

どうやら音楽祭の直前にも業者に頼んだらしい。


「へぇ~、どうだった?」


「一番大きいのは独特の《アノ》臭いがなくなったことね。

 芳香も適宜に効いてるし、今回の業者は腕が良かったみたい。

 清掃業者、変えたのかな」


「あれ?トイレって生徒が掃除するんじゃなかったかな?」


「あ、麗香は転校生だから知らないんだったね。

 普段は麗香の言う通りなんだけど、

 この学校、こういう大きなイベントがあるときは、

 業者に頼んでトイレ掃除してもらってるの」


「そうなんだ」


「麗香も、ちょっと覗いてみて……っていうのもなんか変なんだけど、

 今日行く機会があったら、確認してみて。キレイになってるから」


「うん、分かった」



お手洗いトークもここで終了。俺達は音楽祭出場メンバーを探すため、教室を後にした。

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