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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
計算式の彼女
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第1話-5 計算式の彼女 重なる怪事件

一学期期末テスト三日前の金曜日。



「暑い……てか太陽頑張り過ぎだろ……」



 朝から照り付ける強い陽射しにさらされながら、今年も猛暑になりそうだと憂いながら登校する俺。毎度の如く汗ダラダラである。


 先日の石油精製工場爆発事故は、火災発生から二日後の深夜4時頃に消火された。30時間以上燃焼していたということになる。ニュースで見た映像では、傾いた蒸留塔は倒壊、浮き屋根式の円形タンクも大きく変形し、タンクの亀裂部分からは原油が海に大量に流れ出たらしい。んでもって環境保護団体がなにやら抗議してるんだと。世の中は忙しいね、まったく。


 やっとのことで教室のドアを開けると、クラスの雰囲気がいつもと違っていることに気がついた。テスト直前でピリピリしているとか、そういう次元ではない、鉛色の空気。クラスの女子から「え〜なにそれ怖い」なんて声も聞こえてくる。とりあえず教室に入って自分の席に座る。


 いつもの日課である教室での二度寝も、今日はする気にはならない。教室を見回すと、男子はそうでもないのだが、女子が不安げにしているのが見て取れる。



「オッス、コウ。今日は寝ないのか?」


ジョーが寄ってきた。



「ん? ああ。それよりもだな、ジョー。ひとつ聞きたいんだが、この重苦しい雰囲気は?」


「連続失踪事件が最近話題になってるのは知ってるよな?」


「連続失踪事件……ああ、この近辺で起きてるあれか?」



 連続失踪事件とは、俺達の住む加治市で起きている事件のことである。火災事件も相当なニュースであったが、そのあとに起きたのがこの事件。

 

 5日前の夜11時頃、ある19歳の女子大生Kが“バイトに行く”と行って自宅を出ていったが、予定の時間になってもアルバイト先には彼女の姿はなく、その約1時間半後、彼女の携帯から“助けて殺される”のメールを同性の友人2人に送ったのを最後に行方不明になっている。

その翌日、友人2人のうちの一人、アパートで一人暮らしをしているTが失踪。大学の講義は欠かさず出席していたTの欠席を友人達が心配して彼女の部屋を訪れたのが発見のきっかけだったそうだ。部屋には争ったような形跡が見られ、床の一部にはわずかに彼女の血痕が残っていた。そういう事件である。


 電波、停電、火災、失踪と、短期間になにかと名の上がる加治市。個々の事件はなんら関連性がないが、一部ネットではそれをオカルト・都市伝説と掛け合わせて論ずる者が出てきたそうな。



「そう。今朝のニュースで“3人目”が出たって報道があっただろ?」


「あ、そう、今朝はテレビ見てなかったから知らんかった」


「その失踪者の自宅がうちの学校の近所にあってさ」


「なるほど、それでみんなビビってんのか。……それで、三人目ってのは?」


「最初に失踪した人の友人二人のうちの最後の一人、Iさんだとさ。警察が任意の事情聴取をしようとした矢先だってさ」


「ふうん。ならビビる必要なくねえか?」


「どうして?」



ジョーは首を傾げて聞く。



「冷静に考えてみろ。連続で失踪したのは全員それぞれ縁のあった人間なんだろ?

 縁のない俺らが次の目標(ターゲット)になる確率は低い。犯行の現場でも見ない限り安全だ」



すると、ジョーは渋い顔をして言う。



「だとしても、こんな近所で事件が起きてるんだぜ?

 被害者は俺達と歳が近いし、次の当事者が自分になるかもって危機意識を持つのは当然だろ?」


「あのな、ジョー。おまえらみんな揃って過剰反応し過ぎなんだよ。

 女子がそういう事件に敏感になって怖がるのは理解できるが、男が危機意識を持ってどうする、男が」



 大事なことなので二回言っておく。冷房の効いた教室にいたおかげで汗が大分引いてきた。そのかわり喉が渇いてきたので水筒に詰め込んだ麦茶を飲む。



「男だって被害に遭わないとは限らないじゃないか」


「ぷはぁ……そういう場合もあるかもしれないが、男が被害に遭うときは、大低その場でサクッと殺されるか怪我するかのどっちかで、男を狙う動機も金か怨恨のどちらかがほとんど。よっぽどの理由がない限り、わざわざ男を誘拐、失踪させることはないだろう?」


「ひょっとして、そうやって必死に否定しているお前が一番ビビってんじゃないのか?」


「…………。」


「その顔、図星だな?」


「……正直、この街で事件が起こりすぎてて気味が悪いと思っている。

 失踪以外、個々に何の関連性もないのは承知だが……なんというか」


「俺も、いや、俺だけじゃない。クラスのみんなは口には言わないだけで、メディアで報道されるほどの出来事がこうやって立て続けに起こるのは、なんかおかしいと思ってる。教室が曇るのも仕方ないだろ?」



 おっ、今日は珍しく寝てない、と呟いてチカが現れた。いつも通りの天然ヘアーに眼鏡。見た目からしてまさに日常そのものであり、こいつからは不安げな様子は微塵も感じられない。



「おはよ、何の話してたの?」


「いや、近所で起きてる失踪事件諸々について、茶を啜りながらしみじみと語り合ってた」


「茶を啜りながらって、なにそれ、あんたその歳して中身老人? ……失踪事件って、例の女子大生の?」


「それ」


「あたしさ、今までテレビとかでそういう事件見てた時は、『早く見つかるといいね』ぐらいにしか思ってなかったけど、まさか近所でこんなことが起きるなんて……」


「怖いのか?」


「当たり前じゃない! こんな近所で次々と人が消えていくのよ? 次があたしにならないか、怖がっても不思議じゃないでしょ?」


「いや、お前なら大丈夫だと思うぞ、俺は。なにせ、常日頃から近接戦闘術の訓練に励んでるんだからな。もし犯人が誤ってお前をどっかに連れていこうとしたとしたら、逆にお前に締め上げられて首根っこ掴まれて警察に引きずられていくに決まってる」



そういうとチカは眉間を寄せてムッとした表情を浮かべ、手をパキパキと鳴らした。



「……その“訓練”、今ここでやってもいーんだけど?」


「それは……遠慮する」


「遠慮しなくていいから、ねっ!!」



 ね!! を強く発音すると同時に繰り出された右ストレートが俺の目前に迫った。

 もちろん、洗練された拳を避けるヒマなど俺にはなかった。


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