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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-20 音楽祭と妹 トラフィック・アクシデント

当日の朝、俺は携帯の着信音で目が覚めた。

寝ぼけて視界がかすんでいるが、

俺の部屋のカーテンの隙間から降り注ぐ光り輝く太陽光線はしっかり確認できた。

まだ視界はぼかしをかけたように不鮮明で、細かい部分はよく見えない。

俺はぼんやりと見える携帯を手に取った。

なんかめんどくさいから発信者の確認はパス。

手探りで通話ボタンを探しだし、押す。



ピッ……



「……もしもし」


《……私》


「んあ?悪い、もう一回言ってくれ」


《……私》


「お前か」


《……そう。私》



電話してきたのは今回も零雨だった。



「どうした?昼飯の待ち合わせにはまだ時間があるだろ?」


時計はまだ午前十時を指している。


《……違う》



昨日、練習が終わった俺達は、本番当日である明日の予定を組んだ。

まず正午に高校近くのファーストフード店に集合、

後に学校へ行き、そこで地下室の楽器類を運んできた匠先輩と合流、

リハをやって本番、そういう手はずになっている。

しかし、零雨が伝えたいことはそれではないようだ。


「そんじゃ何の用で俺に電話を?」


《……連絡。ジョーが……出席できなくなった》


「ジョーが……どうかしたのか?

 ドラムの叩き過ぎで手首でもイカレたのか?」


《……分からない。

 ……昼は予定通りに……『一応』集合》


「……おう、分かった」





***




「ジョーのお父さん、今朝ランニングしてて、

 飲酒運転の若い男女二人組の乗った軽自動車との事故に遭ったんだって。

 今意識がなくて、生死をさまよってるって」


麗香は低い声で言った。


高校近くのファーストフード店の

テーブル席に、俺、零雨、麗香、チカの四人が座っている。

本番当日ということで、美羽は匠先輩に預けている。

昨日、匠先輩が進んで預かると言い出してきたので、

ご好意に甘えているというわけだ。

まあそれはおいといて、ジョーの話。


「あぁ、そうなの…………麗香はいつ彼から連絡を受けたの?」


「朝十時前に、ジョー本人から、病院の公衆電話からだって」


「それは気の毒な話だな……」


ジョーの親父さんがどういう職業についているかどうかは知らんが、

一家の大黒柱なのだから、経済的にも精神的にもその打撃は大きいはずだ。


「電話してる時のジョーの様子ってどうだった?」


チカは紙コップ入りのジュースを口を湿らせるように一口飲んで聞く。


「淡々と用件を言ったら、すぐ向こうから切っちゃったから」


「こんな時にこういう話をするのはあれかもしれないけれど、

 家族のお葬式をあげた人の話だとね、

 式の間はバタバタしてて実感がわかないんだけど、

 一通り終わると思い付いたように悲しくなってくるんだって。

 そんな感じかもしれないわね。

 あたしは四、五歳の時以来、お葬式に行ったことがないから、

 どんな感覚なのかよく分からない、というか覚えてないんだけど」


「そういう話を今ここで、しかもこんな状況で言うか、普通。

 最初に断っておくっつーのを免罪符と勘違いしてねえか?

 ……で、その親父さんの容態はどうなんだ、麗香?」


「一応緊急手術は終わって、後は運。今日の昼が峠だって」


俺は思わず大きなため息をついた。

いくら他人の事故とは言えども、こればかりは他人顔など出来るはずなどなかった。

俺はジョーの親父の顔なんて見たことねえし、インターホン越しに話したとか、

そういうことも一切ない、ただの赤の他人の事故だ。

それでも、心配せざるを得ない。



「助かる確率はどれぐらいなんだ?」


「コウくんごめんね、そこまでは聞いてなくて……」


「なんで麗香が謝るの?

 電話越しに根掘り葉掘り聞くのはジョーにとって辛いことだろうし、

 そっとしておいた麗香の判断は正しいって」



俺が心配していることには変わりはないのだが、

助かる見込みを聞いた時の俺の心情に、

《話に対する好奇心》が少なからず含まれていた。

以前、『人の不幸は蜜の味』と言ったことがあったが、

それも程度のわきまえた状態での話。

好奇心を抱いた俺は人間失格だね。本気で。



「それで、音楽祭の方はどうする?

 ―――そういえば、メンバー登録の際、補欠一人が必要だったよな?」


「コウ、なに馬鹿なこと言ってるの!?頭起きてる?

 あたし達のバンドは正規メンバー四人と、補欠一人の五人でできてるのよ?

 補欠が正規メンバー化してるあたし達のバンドに、補欠なんて……」


「ああ、そうだったな。悪かった。

 ううむ……そうだ、お前の兄(匠先輩)は代わりに出場できねえのか?」


「匠?ムリムリ。

 あたし達の出番の時間帯とバイトの時間が一部被ってて……」


俺はハンバーガーにかぶりついた。


「って、コウ!

 何?あんたこういう話をしながらへーきでハンバーガー食べれるの?」


チカは俺に目くじらを立て、麗香も「それは……良くないと思う」と肩を持った。


「こういう時こそ食わねえでどうすんだよ?」


「……コウ、何言ってるの?

 質問の意味が分からないんだけど」


「ここで俺達の出番直前までここでただ喋りまくってるつもりか?

 麗香はどうしても自作曲を発表したかったんだろ?

 ならばなぜ食わない?行動を起こそうとしない?」


こんな状況下では空気的にはそれはタブーなのだが、いつまでも昼食タイムをとっている訳にはいかない。

ここで議論だけしてても先には進まねえ。


「メンバー一人足りないのに、

 どう考えたって演奏なんて出来ないのは分かるでしょ?」


お前チカは今までの六十……いや、二十日間の練習の成果を簡単に捨てんのかよ!」


なんでこんなに熱くなっちまってんだろ、俺。


「確かにジョーは残念かもしんねえ、でもよ、チカ。

 特にお前は俺達が帰ってからのジョーの超絶特訓を知ってるんだろ?

 あいつのゴリラのドラミング(・・・・・)みたいなヘチョイ音だったのを、

 匠先輩の指導の雨を耐えて、あそこまで上達したあいつの努力を、簡単に捨てちまうのかよ!

 俺達だけでもしっかりやって、終わらせるのがベストだと俺は思うね」


チカは俺にいきりたって反論した。


「『不完全』なまま完結させていいの?

 確かにあたしはジョーの特訓を知ってる。

 しんどさも練習の空気から伝わってきた。

 …………だからよ。

 だから私はジョーがいないまま、

 ドラムがない、『不完全』なまま出場して、終わるのが嫌なの!

 あたし達の音楽はみんなで一つの作品でしょ?

 片翼を失った鳥は、どれだけ羽ばたいても空を飛べないのよ!」



そこまで言って、チカは黙った。

賑やかだったはずの店内はシーンとしている。

同じくシーンとしたまま注文したものには手を付けず、

ずっと座ってやや下にうつむき、

テーブルの角をただひたすら眺めている零雨は、まばたきを一回。


「……えっと、コウくんとチカちゃん、

 議論するのはいいんだけど、もう少し静かに、ね?」


麗香が俺とチカの中に入った。

他の客の目線が痛い。



「すまないな、迷惑かけて」


麗香に詫びて話を続けた。


「出るにせよ、出ないにせよ、とっととここから出て、

 何か行動しなきゃ始まらんだろうが」


「あ、えっと、私も、一つ意見があるんだけど、いいかな?」


麗香が小さく手を挙げて言った。


「コウくんの話も、チカちゃんの話も、自分視点からの話だけど、

 見方をちょっと変えて、ジョーくんだったらどう思うか考えてみようよ」


麗香は手で前髪を後ろにかきあげる。


「もしチカちゃんの案を採用して、出場しなかったら、ジョーくんはどう思うかな?

 私は、『俺のせいでみんなの出場を辞めさせてしまった』って思うと考えてるの。

 ジョーくんがテストで六点を取ってこっちが負けた時の行動、覚えてるかな?

 コウくんが、『これじゃCD諦めるしかないかな』って言った時の行動。

 彼、下唇を噛んで震えてたでしょう?

 きっと『自分のせいで負けてしまった、みんなの足を引っ張っちゃった』って、

 そう思って辛い気持ちを抑えてたんだと思う。

 もし私の推測が当たってれば、彼は同じようなことを思うんじゃない?

 『俺のせいで―――』って」


「なるほどねー、確かに麗香の話も一理あるかもしれないわね。

 とにかくコウの言う通り、早いとこお昼を済また方がいいかも」


「で、出たらまずどこ行く?」


俺が問うと麗香が答えた。


「まずは学校行って、担当の玉城先生に事情を話した方がいいと思う」



玉城先生、あの面倒見のいい先生なら、何か知恵を貸してくれるかもしれない。

おばあちゃんの知恵袋ってやつだな。


「なにはともあれ、学校に行かないと何も始まらないしね」


チカと俺の賛成票により、とりあえず学校に行くことが可決した。

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