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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-13 音楽祭と妹 キカイとニンゲンの音の見え方

俺は今家の前で鍵を探している。

太陽は当然沈んだ。

図書館の近くにある遊歩道で日没をこの目でしっかりと見てきた。


「お兄ちゃん、お家のかぎなくしたの?」


「なくしてねえよ、多分」


俺の隣には美羽、後ろには零雨と麗香がいる。

何故途中で別れず零雨と麗香が家に来るのか?答えは簡単。

《持ってきた金属バットを持って帰ってもらうため》だ。

金属バットを持ったまま図書館内をうろついて、

通報されるというおぞましい事態に発展するなんて全力を挙げて勘弁だからな。

図書館に行くときに俺の家に置いてきたってわけさ。


「えーっと、かぎカギ鍵……あった」


ポケットから鍵を取り出して解錠。

ドアを開ければ例のごとく暗闇がお出迎え。

俺はそんなのはお構いなくズカズカと入って照明点灯。


美羽は自分の部屋に飛び込んだ。

零雨と麗香は玄関で俺がバットを持ってくるのを待っている。


「はいよ、バットだ。

 日が暮れてバットを持ち歩くのは怪しまれるから気をつけろよ。

 まだ今ぐらいの時間ならなんとか女子野球部の部活帰りに見えるだろうからいいが」


「ありがとう、気をつける」


俺は麗香に手渡す。

もし持ち歩いているのが男なら、

赤い回転灯のついた白黒の車がお出迎えにあがるだろう。


「そういえば、零雨の楽譜はどんな出来なんだ?完成したんだろ?」


零雨は頷いた。


「……気になる?」


「まあ多少は」


そういうと零雨は持ってきたショルダーバッグから一枚の手書きの楽譜を俺に。

楽譜が読めない俺でも、零雨が作ったとなれば興味を持つ。


「…………ひでえな、こりゃ」


零雨が作った楽譜は読めない俺でも分かるぐらい悲惨だった。

それを聞いた麗香が楽譜を覗き込む。


「どれ?…………零雨ちゃんには悪いけど、なんか違うものに出来上がってる気がする」


「これは何の楽譜だ?ギターか?ドラムか?電子ピアノか?」


そう聞かざるを得なかった。

書いてある楽譜が汚い訳ではなく、むしろ印刷されたように美しい。

だが、楽譜の中に入り乱れる音符の量が異常に多い。

楽譜の五本線が、おたまじゃくしで黒く塗り潰されていて、読めたものではない。

いや、塗り潰されているとかそういうレベルを越えて、

五本線の遥か上空や下にも音を示すおたまじゃくしがわんさか。

零雨は首を傾げて答えた。


「……楽譜はこれだけ」


「楽器別に書かなかったのか?」


「…………(コクリ)」


「完全にアウトだな、こりゃ。

 どうやって作ればこうなるんだ?」


「……聞き取った周波数を……直接音符に変換した」


なるほど、ベースのような低音からシンバルのような高音まで、

すべて一緒たくりに処理したわけだ。

つまりギターの音も、他の音も、全部一緒に記してあるということだ。


「楽器ごとに聞き分けて書かねえと意味ねえぞ?」


「……?」


「だから――――」


俺がそのことをじっくり説明してやると、ようやく零雨は理解した。


「……作り直す」


「その方がいい。

 明日、またチカの家に行かなきゃならんのだからな、完成は早い方がいい。

 何なら、俺の家で書いていくか?先輩から貰ったCDもある」


零雨は少し考えた後、靴を脱ぎだした。

ここで書いていくことに決めたようだ。


「私はバット(これ)があるから、遅くならないうちに先に帰るね。

 作曲もしないといけないし」


「何作るか決まったのか?」


「うん」


「どんな(曲なんだ)?」


「うふふ、出来上がるまで秘密」


麗香はそう言ってドアを開けた。

零雨は俺の横を通り過ぎ、なんの挨拶もなくリビングに入っていく。


「じゃあ、お先。

 何かあったら、連絡してね」


「おう」


ぱたりとドアが閉まった。

俺はため息混じりに鍵をかける。


中に入ると、零雨がCDをあのプレーヤーに入れているところだった。

零雨はプレーヤーのリモコンを手に一人用テーブルに腰掛けると、

俺に新しい紙と筆記用具を要求した。

いくらなんでも、その態度は厚かましいと思うぜ?


「ほらよ、紙が足りなくなったらまた俺に言ってくれ。また渡すから」


「……ありがとう」


「あ、零雨姉ちゃん!どうしたの?」


リビングの異変に気がついた美羽は部屋から飛び出してきた。


「ちょっと静にしてろ、零雨は今大事な作業をしてるんだ」


俺は美羽を部屋に押し戻し、ドアを閉めた。


……ガチャリ

またドアが開いた。

あまりにも早くドアが開いたので、

俺はドアを閉めきってなかったのかと思ったが、

ヤツがまた出てきたのでそうではないようだ。


「今度はなんだよ美羽!」


「一人であそんでばっかじゃたのしくないから、一緒にあそぼうよ」


「はぁ!?なんでお前と……!」


零雨が耳コピしてる間は騒音防止のため家事ができねえから、

その間は漫画の新刊を読もうと思ってたんだが……


「……ちょっとだけだ、いいな?」


美羽はニィ、とほほ笑んで俺の腕を掴み、部屋に引き込んだ。

俺が遊んでやる気になったのは、

ここでまた美羽に駄々をこねられて騒ぎ立てられては困るからだ。

騒ぎ立てて零雨の作業効率が落ちれば、零雨の帰宅時間が遅くなる。

遅くなるということは、家事をする時間が減るということで、

下手をすれば睡眠時間を削って家事をやらねばならなくなってしまう。

明日は朝からチカの家で練習がある。

それで寝坊して遅刻でもしようものなら、

チカが鬼のような形相をして俺を殺しにかかるだろう。

恐ろしい恐ろしい、負の連鎖だ。

芽は早いうちに摘み取った方がいい。


「お、早速遊んでやがるな?」


美羽は例の《森のどうぶつの○○セット》で遊んでいた。


「美羽のね、いちばんのおきにいりなの♪」


「ほう、そうかい」


例の「購入されたお友達」も前買ったお家の中でイスに座らされたり、

台所らしき場所で料理をしていたりと、美羽を喜ばせるために必死に働いている。


美羽に買ってやった《おうちセット》を見るたびにつくづく思うのだが、

こんな壁一面が取り払われて中身丸見えの家、プライバシーもクソもねえよな。

商品的に考えたらこんなタイプになったのだろうが、

こんな家に住まわされてる

ウサギ(おうちセット付属の人形)もたまったもんじゃねえはずだ。

俺がこのウサギなら、


「こんなあからさまな欠陥住宅になんぞ住んでられっか!」


と家を飛び出しているに違いない。

もともとウサギは地面に穴掘って生活してんのに、

気がついたらこんなオープンプライバシーな家で

生活を余儀なくされているわけだし、そりゃ文句の一つは言いたくなるよな。

口が糸で《×》に縫われただけで声も出せないことや、

綿を詰め込まれてウサギの形状を保ってることを差し引いても、

そこから逃げ出さないお前はスゲエと思う。


まあ欠陥住宅云々はあるが、

ホームレス状態のウサギの友達がほぼ居候するからにはさぞ賑やかなのだろう。


「じゃあお兄ちゃんはおともだち役ね」


美羽は主人公のウサギを握りしめると、他の人形をすべて俺に渡してきた。

……全部やれってか?

まあいいだろう。

これから俺が子供用の人形セットで妹と戯れることは、

余程のことがない限りないだろう。

刮目(かつもく)して見ておくといい。


俺は受け取った人形の中から適当に一体を選んで右手に持った。

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