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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
計算式の彼女
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第1話-4 計算式の彼女 特集と日常

 さて、そんなこんなで自宅に帰ってきた俺は、鞄を自室に放り投げ、制服から私服に着替えてテレビ前のソファーに座る。

 テスト一週間前なのに、えらく余裕こいてるじゃねえかとか思ってる、そこの君(誰もいねえよ)。残念ながら俺は下校してすぐ自宅勉強出来るような精神的スタミナ、それとモチベーションは持ち合わせていない。とりあえずテレビとか家事とか少しこなしてから、ゆったりと勉強を始めようってのが俺スタイル。

 どうせ俺が帰宅早々勉強を始めたって、集中力を欠いて効率が落ちるのは目に見えているからな。何と言われようが俺はこのスタイルでいい。“()いては事をし損じる”なんて便利な言葉もあるが、正にその通りである。まあこの時間帯にやってるテレビっつったら、どの局もほぼニュース番組だがな。


 リモコンでテレビの電源をつけると、ちょうど緊急特集が始まるところだった。やや改まった顔でアナウンサー(男)がニュースを読み上げる。


《本日午前9時20分頃、

 ○○県加治市港区にある石油精製工場で爆発を伴う大規模な火災が発生しました。

 付近の建物では窓ガラスが割れるなどの被害が起こっています。

 ここで山本記者が現場上空よりリポートです。山本さん?》



 音がここまで到達するようなビッグな爆発だ、付近じゃ衝撃で窓が割れるのは当たり前だろう。ここで画面がスタジオからヘリからの映像に切り替わり、炎と黒煙を吹き上げる円柱状のタンクと傾いた金属製の塔(煙突か?)が映った。現場からやや離れたところからズーム撮影しているのか、映像がぶれている。画面右上には“中継”の文字が躍る。ヘリ独特のキーンという騒音の中、記者がやや声を荒らげてリポートを始める。


《はい、今現在画面中央に映っているのが爆発のあった蒸留塔です!

 火災の熱の影響で塔が大きく変形しているのが見て取れます。

 また、事故のあった蒸留塔にパイプラインで繋がっていた、

 原油貯蔵タンクにも火が及び、タンクが炎上しているのが確認できます!

 化学消防車50台以上が現場に駆け付け、懸命な消火活動を行っていますが、

 現在は蒸留塔が倒壊する危険があるとして一時撤退、現在はタンクの消火活動にあたっており、

 火災発生から6時間以上経った今も炎上・延焼を続け、消火のメドは立っていません。

 万が一の二次災害を防ぐため、現場から半径1キロ以内の住民に避難勧告が出されています。

 付近の住民で、頭痛や吐き気を訴えて病院に搬送された人数は、

 これまでに16人に上っていますが、いずれも軽症だということです。

 また、爆発当時、作業員2名が付近を巡回しており、一人は腕の骨、一人は足の骨を折る重傷ですが、

 命に別条はないということです。以上、現場からお伝えしました》



 えらい騒ぎだな、としかテレビの前の俺は言えない。今回の事故で犠牲者が出なけりゃいいが。

 その後、テレビに白髪混じりで眼鏡の堅苦しそうな専門家が現れて、施設の説明とか、どういった経緯で爆発、延焼したのか、いろいろと解説していた。要約すると、蒸留塔というのは原油を蒸発させて、ガスやらガソリン、軽油、重油などを抽出する装置で、爆発したのはその蒸留塔に原油を送り込むパイプ周辺らしい。で、どうして蒸留塔が吹っ飛んだのか、どういういきさつで原油貯蔵タンクに引火したのかは原因不明らしい。


 その話も終わり、北陸地方で梅雨明けが発表されたとか、この夏を乗り切るひんやりグッズとか、番組がどうでもいい別の話題に移ったところで、俺はテレビの電源を切った。時計を見ればこの特集だけで40分も割いていたらしい。


 俺は台所の冷蔵庫から冷やしておいた麦茶を取り出してガラス製のコップに注ぎ、最後に氷を入れた。やっぱ暑い時は麦茶だよな、と冷房の効いた部屋の中で思いながら一口。

 とはいっても、暑い時だけ麦茶を飲むのかと聞かれればそれは違う。夏が終わりに近づいてくると、スーパーで麦茶パックが安売りにされる。節約志向の俺は、去年その麦茶パックを思わず買いだめ、そいつを消費するために12月になっても今だに麦茶を飲んでたのだ。12月に入る頃には味に飽き飽きした反省から、今年は買いだめはしないつもりだ。今年の冬は普通に緑茶が飲みたい。


 またもう一口茶を飲んでコップに継ぎ足し、それを持ってパソコン専用の机に座った。コップの外に水滴が付きはじめたそいつを、とりあえず邪魔にならないところに置いてパソコンの電源をオン。俺の家にはスーパーのチラシが届かないから、ネットでチラシを見て今日のお買い得商品をチェックしようってわけだ。

 俺の自由に使える金は、当然ながら親からの仕送りから生活費を差し引いた残りである。つまり、生活費を節約できりゃ、俺の自由に使える金が増える。そのためにはこういう日々の努力が必要ってことだ。


ブラウザを起動し、毎回出てくる


「最新のバージョンがあります。アップデートしますか?」


にNOと選択する。

 アップデートは、セキュリティーの脆弱性の修正とか大事な要素があるのは分かっている。いつかは更新するつもりだが、面倒なのでどんどん後回し後回しになってしまっているのが現状だ。ブラウザのブックマークから、いつも行っているスーパーのサイトへ行き、パパッとチラシを表示させる。

 なるほど、今日は肉と卵が安売りしてるのか。



「おっと、ペンとメモ紙がねえ」



 テスト勉強も必要だが、夕食の確保も必要である。ペンとメモ紙を探しに立ち上がった時、手に冷たいものが触れた。



ゴト、ゴロゴロゴロ――パリン!!




「あ〜あ……」


 手に触れたのはガラス製のコップ。当たった衝撃で倒れ、机から転げ落ちて見事に粉砕。氷と麦茶が机と床にぶちまけられた。茶がパソコンにかからなかっただけマシか……


「また新しくコップ買ってこねえとな……」


 台所から雑巾を持ち出して茶と氷を拭き取り、割れたガラスをホウキとチリトリで回収する。新しいコップはアクリル製にでもしよう。


 ゴミ掃除を終えてペンとメモ紙を持ち出し、今日買うものをメモする。どうせ目玉商品は専業主婦の方々にあらかた根こそぎ持って行かれてるだろうが、そこはどうにもならないところだ。学生の俺が昼間のタイムバーゲンに参加する為に、わざわざ授業を抜け出すわけにはいかない。実際にやらかしたら笑い者だ。



「さてと、ちょいと買い物行くか」



 パソコンの電源を切って、財布の残高を確認する。そろそろ気温も下がってくる頃だし、出かけるなら今がちょうどいいタイミングだろう。

俺は部屋の照明を消して、家を出た。


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