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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-10 音楽祭と妹 俺、困る

「ねえお兄ちゃん、買ってよ」


「ダメだ」


「欲しいの!」


「我慢しろ」


「おにーちゃんのドケチ!」


「何とでも言え、お前を甘やかすわけにはいかない」


「どーしても欲しいの、買ってくれなきゃやだやだやだやだ!!」


「昨日新しいの買ってやったばっかりだろーが」


美羽は頬を膨らませて抗議の顔を見せた。

匠先輩からCDをもらった次の日の朝、美羽が朝のテレビを見終わったあとのことだ。

昨日、チカの家からの帰りの途中に近所のおもちゃ屋に寄って、

美羽の欲しがるおもちゃ、

《森のどうぶつのお家セット》なるものを買ってやったんだが、

今日も欲しいおもちゃがあるとねだりにねだっているのだ。


「でもこれ(昨日俺が買ってやったおもちゃ)だけじゃ楽しくないもん!」


どういうわけか説明しておこう。

美羽に買い与えた《森のどうぶつのお家セット》はシリーズものの商品で、

《森のどうぶつのお庭セット》、《森のどうぶつの畑セット》というふうに、

《森のどうぶつの○○セット》という子供にも分かりやすいネーミングがされている。

その中で美羽が欲しがるのは《森のどうぶつのお友達セット》という商品で、

買い集める上で基本となる商品、森のどうぶつのお家セットに

主人公と思われるウサギーの人形が一体同梱されている。

森のどうぶつのお友達セットとは、

この主人公の友達という設定のキャラクター数体が入っている商品である。

これを販売している会社にとってみればこの戦略は有効なのかもしれないが、

いくら小一のチビガキといえどもこれがおもちゃ屋で「販売」されているのは知っているわけで、

その本質は「友達がお店で販売されている」という、

よくよく考えると末恐ろしいものである。

こんなものを美羽が欲しがるようになった原因は、朝の子供番組の合間に放送されるコマーシャル。

こいつが《かわいい森のどうぶつのお友達セット〜♪[定価1980円(税込み)]》

などとぬかしやがるからこうなったのだ。


「お家に一人は寂しいから、友達を入れてあげたいの!」


「家に一人だけの寂しさは俺がつい最近まで現在進行形で体感していたからよく分かる。

 だから買ってやりたい気持ちもやまやま…「それなら買ってよ!!」」


あのな、美羽。

人の話は最後まで大人しく聞きましょうって学校で習わなかったか?

先生の言うことはしっかり聞いて守らないと、俺みたいなろくでもない人間に仕上がるぞ?


「美羽、お前が持ってきたおもちゃで我慢はできないのか?

 ほら、大きさは違えどもクマや犬のぬいぐるみとか、持ってきてんじゃねえか。

 昨日買ってきたウサギの友達にすれば喜ぶんじゃねえのか?」


美羽はそっか、と一瞬納得したようだったが、

やはり買ってほしい衝動は押さえられなかったらしい。

何でもするから買ってほしいと言い出し、とうとう泣き出してしまった。

だからガキは嫌いなんだよ。

とうとう俺はウサギの友達を買ってやることを約束してしまった。



さて、美羽が朝早起きしたのは初日の朝だけで、

それからは俺が眠い中、美羽との約束を守るために起きて、

朝のテレビが始まる前に美羽をたたき起こしてやることが日常になっている。

それでそのテレビ番組を見て欲しいとおねだりしはじめ泣き出す。

ここに俺の利益は一切含まれていないというから困りもんだ。

こんなことが毎日繰り返しになることは俺の精神衛生上、

そして家計上悪いからどうにかしたい。


この問題に打つ手はあるのだろうか?なんとかせねば。

美羽にCMを見せずに本編だけ見せる方法……


……ハッ、簡単じゃねえか。


俺は携帯電話を手に取り、麗香に電話をかけた。


《もしもし?》


「おう、俺だ」


《コウくんどうしたの?》


「ちょっとお願いごとがあってだな……聞いてくれるか?」


《うん。何?》


「実はな――――」


「―――というわけだ」


《うん、いいよ。

 じゃあ、ちょっと準備してから行くね》


「助かるぜ」


俺がしたあるお願いを快諾した麗香は一時間後、俺の家に来て作業をしてくれた。



翌日。

朝の十時ぐらいに起きた美羽は、

既に例の番組が終わってしまっていることに気づき、俺に文句を言った。


「なんで起こしてくれなかったの?」


至極当然の問いであろう。


「もうこれからは早起きもしなくていいぜ」


俺はテレビのスイッチを入れた。

画面には今朝放映された爆走昆虫野郎のオープニング。

そう。録画すれば問題なかったのだ。

今どきのレコーダーにはCMカット機能がついている。

俺の家にはレコーダーがないから、

麗香に頼んでレコーダーを借りて、取り付けてもらったのだ。


これで美羽がCMをみてモノを欲しがる心配も無し、

俺も早起きもしなくていいし、一石二鳥とは正にこのことだ。

美羽が昼に起きるという悪習を身につける可能性があるが、

それを補って余りあるメリットがこの方法にはある。俺には。


「わあ、ありがとう!」


「昨日来た姉ちゃんにちゃんと礼を言うんだぞ」


「うん!」


美羽は喜んでその録画した番組を見はじめた。



昼飯を食い終え、美羽が美羽の部屋で新しく買い与えたおもちゃで遊びだした頃、

マンションの廊下からカラカラカラカラン、という金属音が聞こえてきた。


「何だ?うっせえな……」


俺は冷房の効いた部屋の中で、

テレビを見て午後のひとときを堪能していたが、その音が何となく気になった。

音がどんどん大きくなってくる。こっちに近づいてきているようだ。


カラカラカラン、カラン……


俺の家のドアの前でその音が止み、続いてインターホンの音が鳴った。

インターホンの受話器をとってみるも、返事はない。

ただムフフフ……という笑い声が聞こえてくるのみだ。


「お兄ちゃん、お客さん?」


「知らねえ、お前はそこにいろ」


何となく嫌な予感がした俺は、恐る恐るドアのレンズを覗いた。

が、なんということはなかった。

白髪と黒髪の私服姿の女子高生二人組の姿が見えた。

笑っている麗香と無表情鉄仮面の零雨だ。


「おいおい、俺がインターホンに出たら何か応答しろよ、びっくりするじゃねーか」


そういってドアを開けると、麗香はさらに微笑んだ。

俺のHPが二十五回復。


「私達、ちょっとだけ人間っぽくなったよ」


そう言いながら麗香は後ろに回していた右手を高らかに上げた。

手にはさっきの騒音の元凶となるものが握られている。


「それで……俺をどうしようってんだ?殺しに来たのか?」


俺の顔から血の気がスゥーと引いていくのが分かった。

冗談じゃない!





なぜ麗香はニコニコしながら金属バットを引きずって俺の家に来たんだ!?





麗香が新しく覚えたのは何だ?怨みか?嫉妬か?

俺は麗香の琴線に触れるようなことをしたのか?

そしてなぜ零雨が一緒にいる?


「最終テストに協力してほしいの」


確かに麗香は言った。


「……とにかく、中に入れ。

 中に美羽がいるから発言に気をつけろよ」


二人をリビングまで上げると、美羽が部屋から半身身を乗り出した。


「あ、お姉ちゃん!昨日はありがとう!」


「?」


麗香はなぜ美羽から感謝されているのか分からないようだ。


「美羽は今まで辛いのを我慢して朝早く起きてテレビを見ていた。

 麗香がレコーダーを持ってきてくれたおかげで、

 辛い思いをせずに堕落の道……いや、『十二分』な睡眠時間が確保出来たんだ」


「堕落?」


「言い間違いだ、気にするな。

 決してレコーダーを使ったことによる、

 美羽の生活習慣の乱れを懸念して言ったわけじゃない」


麗香は眉を寄せ、少し考えて言った。


「使い方には気をつけないとね」


意味深な言葉だ。

レコーダーの使い方に気をつけないとと言ったのか、

それとも俺の言葉の使い方に気をつけないとと言ったのか、

・・・・恐らくは両方の意味だろう。

零雨は例の如く言葉の裏の意味を理解するハイレベルな会話についていけず、「???」。


美羽がリビングに足を踏み入れ麗香の元へ加速しながら向かうと、

厚かましくも抱擁を求め、ダイブしやがった。

麗香は突然の小飛翔体に驚くまもなく、

抱き着かれてバランスを崩した。


……ドスン!


「コラ美羽!麗香にタックルするな!危ないだろ!」


「は〜い……」


零雨が麗香に手を差し伸べ、麗香はそれを受け取って立ち上がった。

それでも美羽はしつこく麗香に抱きつき、俺が力ずくでやっとのこと引きはがした。

だがしかし、美羽はなぜか麗香にものすごく懐いてしまってるようで、

磁石のようにまた抱きついてしまった。

ひぃっ、と小声を上げる麗香。

何だ、やっぱり麗香は子供が苦手なのか?


「お姉ちゃん、お母さんとおんなじ香水の匂いがするね」


「へぐっ!?」


「どうした麗香?」


「い、う、ううん、何でもない!」


どうみても怪しい。

麗香は隠し事とか分かりやすいからな。

例の秘密は今のところバレてはいないが、少し不安が残る。

ちょっと失敬して匂いを嗅がせてもらう。

確かにしっかり香水がついている。

ちなみに、念のために失敬させてもらった零雨からはそのような匂いは検出されなかった。


「麗香、お前発情期か?」


「は、発情!?」


「零雨、麗香はなぜ香水をつけてるんだ?これから彼氏とデートか?」


「……香水をつけた理由は……私には理解できない。……思考の対応外」


「アハハ、お姉ちゃん顔赤いよ!」


「いやっ、その、これは……」


「これは?何?」


「実は……匂いもオシャレのうちって話を聞いて、それで……

 私そんな香水が発情のサインなんて知らなかったから……!」


「『発情』ってのは俺が適当にお前をからかうのに言っただけだから本気にするな」


「コウくんひどい!

 私だってどんな反応されるのかちょっと怖かったし、

 からかわれたらどうしようって内心びくびくしてたのにっ!」


「……はいはい、どうもすみませんでした」


どうやら、麗香の思考回路は和式らしい。

自己主張の強い洋式なら俺達の反応なぞ一切気にせず、

「だからどうしたの?」ぐらい言うだろう。


誰だ?トイレを連想したやつは?



……俺だ。




「まあ、どっから匂いもオシャレのうちという

 言葉を聞いたのかは知らないが、それは合ってる。

 ただ、中には気づいているのかついてないのか強烈な香水をつけて、

 匂いというより臭いというべき香水(毒ガス)を振り撒いて、

 周囲に不快をもたらすテロリストもいる。

 俺はこういうやつは嫌いだ。

 そんなやつに対する俺の辛辣(しんらつ)かつストレートな感想を言わせてもらえば、

 『トイレの芳香剤付けて出歩くな』ってところだ」


「つまり、どういうこと?」


「何が言いたいかというとだな、使う濃度は程々にしておけということだ。

 気分を悪くする」


「コウくん、私はどうなの?濃い?」


「それぐらいでいいんじゃねえか?少なくとも俺はそう思うね」


麗香はホッとしたようで、目を閉じてため息を一つ吐いた。


「……美羽、そろそろ麗香から離れろ。困ってるのが分からないのか?」


「ねえ、お姉ちゃんのなまえは『何れいか』なの?」


俺の注意を無視して抱きついたまま美羽は麗香に聞いた。

いまさらそれを聞くか?


「私の名前はs0……じゃなくて、『神子上麗香』。

 麗香って呼んでいいからね」


「漢字でどうかくの?」


「神様の神に、子供の子、上下の上って書いて、

 下の名前の漢字は……難しい図形だからまた今度教えるね」


「美羽、『上』っていう漢字かけるよ!

 こうかいて、こうかいて、こうかくんだよね?」


美羽は空に指で書き順デタラメの上を書く。


「美羽、書き順おかしくないか?正しくはこうだろ」


俺は美羽の手を取り、正しい書き順《|》、《├》、《上》と空に書いた。


「ねえ麗香お姉ちゃん、誕生日はいつ?」


「うーん……秘密」


「じゃあ、好きな食べ物はなに?」


「えっと、秘密」


「好きな人はいる?」


「んー、どうかな?」


「体重は何キロあるの?」


「コラ美羽、女の子にその質問はしたらダメだ」


それから麗香、美羽の質問をはぐらかしてばかりいないで、

一個ぐらいはまともに答えてやってくれ。


美羽は麗香にコアラのように抱き付いたまま、零雨に顔を向けて言った。


「お姉ちゃんの名前は?」


零雨は表情一つ変えずに答えた。


「……嵩文零雨」


「誕生日は?」


「西暦二千△△年七月……」


「零雨ちゃんストーップ!」


俺も声をかけようかと思ったところだったが、麗香がいち早く零雨を止めた。

零雨が「誕生日」として言おうとした日付は、今月。

零雨は自分がこの世界に降り立った日付を「誕生日」として言おうとしていたに間違いない。



「美羽、この二人は俺に大事な話があるらしい。

 そろそろお話もこれぐらいにしてお前の部屋で静かに遊んでろ」


「はーい!」


美羽は自分の部屋のドアを閉めた。


「美羽ちゃんにバレないように、ちょっとロックかけておくね」


麗香は美羽の部屋のドアノブを握る。

ドアが一瞬大きく歪んだが、すぐにまた元通りになった。


「これで美羽ちゃんはドアは開けられないし、

 音も伝わらないから絶対にばれない。安心」


零雨と麗香はトランプをした時と同じように地べたに座った。


「で、最終テストって何の?」


麗香は俺にバットを渡して、二人は俺にくるりと背を向けた。


「とにかく、そのバットで私の後頭部を思いっきり殴ってみて」


「正気か?」


完璧なハト派を自称する俺に、殴れと?

ちょっと麗香はバグってる気がする。

おーい、USER!聞こえるかー!

お前さんの世界管理ソフトがバグってやがるぞ。

とっととこのバグを修復しろ!


「……早く殴って」


零雨までご乱心らしい。


「ちょっとお前ら、一回落ち着け」


「私は正気よ」「……落ち着いている」


「お前らは一体何のためにここに来たんだ?」


「コウくんに殴ってもらうため」「……コウに殴られるため」


二人同時に言った。

何がしたいのかさっぱりだ。

おまえら鬼畜ドSシステムじゃなかったのかよ?

いつからM属性に転換した?


「……コウが殴るまで……私達は帰れない」


「なぜ?」


「……USERの命令だから」


なるほど、つまりご乱心なのはこいつらじゃなくその上のUSERだったのか。

世界の創造主がそんなことさせたらもっとダメじゃねえか。


「お願いだから早く殴って」


麗香が催促する。

もう知らねえぞ?

俺はただ頼まれてやっただけだからな?

《完璧なまでのハト派(自称)》には傷一つつかないからな!


「いくぞ?」


「手加減しないでね」


俺は後ろめたさを感じつつ、どういうことか理解もできないままバットを振った。

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