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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-4 音楽祭と妹 面倒な奴

翌日。

俺は集合時間に遅れないよう、朝七時に起きた。

というか起こされた。あのチビに。


夜中の一時頃、美羽は一番のお気に入りと思われるおもちゃを握り締め、

「一人で寝るのが怖い」、と半泣きになりながら俺の部屋に飛び込んできた。

どうやら寝ている最中に目が覚めてしまったらしい。


その時俺は、勝手に強制参加決定になった音楽祭のステージの上で、

どのポジションにつけば一番目立たないかをベットに寝そべりながら考えていたところで、

結局どの位置にいても同じように目立つという最悪な答えしか見つからぬまま、

一人用のベットを二人で共有して泣き寝入りする羽目になってしまった。

それで、偶然朝早く起きた美羽の目に最初に飛び込んで来たのは、俺が寝ている姿。

それを見て本能的に俺を起こしたようだ。


俺はもう少し寝ていたかったが、今朝十時に高校前に集合という予定がある。

二度寝は遅刻の可能性の最大要因であることを考えると、勇気をだしてベットから降りる必要があった。


「今日の朝ごはんは何?」


美羽は目をこすりながら話しかける。


「朝メシは顔洗いと歯磨きをしてからだ」


俺は歯ブラシをくわえたまま、フライパンにベーコンを二枚突っ込んで加熱、

中の脂が染み出てフライパンにまんべんなく広がってきたところで

昨日買った新鮮な生卵を二つ、それぞれ目標(ベーコン)に向けて爆撃。

一回で一気に二人分の目玉焼きを作る。

完熟の目玉焼きが出来たところで、顔を洗い、歯ブラシを収納。


それから冷蔵庫から早く傷みそうな野菜をちょいと引っ張り出し、パパッと調理。

電気、ガス、水道は親持ちであるから、

加熱時は当然火力はMAX。

これが日頃のストレス解消に役立っている。

もちろん、生で食えるやつをわざわざ調理するのはダルいから、

生オッケーのやつは洗って皿に盛るのみ。

後はパンでも焼いときゃ一丁上がりだ。


「おい美羽、できたぞ」


「は〜い」


美羽を例の一人用テーブルに座らせ、朝メシを並べる。


「ほらよ、オレンジジュース」


「あ、忘れてた!」


美羽は昨夜、一人で風呂に入ったのは良かったものの、

肝心のオレンジジュースをもらうのを忘れるアホをやらかしていた。

こいういうガキは大低、自分に不利なことはすぐ忘れるくせして、

有利なことはいつまでも覚えているものなんだが、美羽はちょっと他とは違うらしい。

田舎ののんびりとした雰囲気が美羽をそうさせたのかもしれない。


美羽は幸せそうにジュースを一気飲みする。

俺はこの後出かけにゃならんのだ。頼むから、腹壊すなよ?


テレビをつけると、朝のニュース番組で特集をやっていた。

集団失踪の特集だ。

内容は、港区に拠点を置く指定暴力団の東播会の構成員が忽然と消えた、というものであった。


「何のじけんなの?」


美羽がニュースに興味を示したようだ。


「人が一度に何人もいなくなったんだとさ」


「ふ〜ん、見つかるといいね」


「…………そうだな」


もうあいつらはどうあがいたって見つからない。

粉分塵になって宇宙空間を漂っている彼らをどう見つけることが出来ようか。

俺はチャンネルを変えた。

まあ、どこの局もこの時間帯はニュースだからさして変わりはないが、

この話題にはできるだけ遭遇したくないのが本音だ。


いつも見慣れているのとは違う番組を見ていると、朝八時に番組が終わり、

「キッズタイム」と称した一時間半の番組が始まった。


テレビで番組表(地デジの特典的(オマケ)機能)を確認すると、

三十分の番組が三連で一つの番組になっているらしい。

なるほど、これは夏休みに入ったガキ共が、

俺のような休日昼起きの堕落した生活を送らせないよう、

子供らが好きそうな番組を朝に持ってきて、釣るってわけだ。

ただ、大人の事情で予算はあまりないらしく、

放送できるのは旧世代のアニメだったり戦隊ものだったりと、昔のテープの使いまわし程度。

今は、昭和の香りが漂う実写カラーで、

昆虫野郎がバイクで爆走しているオープニング映像が流れている。


俺は立ち上がって食器の後片付けを始めた。

美羽はどうやら雑食らしく、

明らかに男子向けの番組であるにもかかわらず、美羽の目は完全にテレビに吸引されていた。


「美羽、それおもしろいか?」


「……………」


「おい、聞こえてるか?」


美羽はテレビを見たまま反応しない。

おもしろいかどうかは、もう聞かなくても分かった。

すっげえおもしろいらしい。


「ねえ、おにいちゃん、このテレビ(番組)は次いつやるの?」


昆虫野郎がホネホネの雑魚を蹴散らし、

明らかに悪党と分かる人物と対決するシーンの最中、美羽が口を開いた。


「明日もやってんじゃねえの?」


「じゃあ、(またこれが見たいから)明日起こしてくれる?」


「……別に構わないが、二度寝するなよ?」


ハハ、美羽のやつ完全にテレビ局側の思惑通りの反応をしてやがる。

俺はこの時はただそうとしか考えてなかったのだが、

このあと、これが意外な方向から俺を苦しめることになる。





集合時間一時間前、俺は行く支度を始めた。

学校前集合と言われただけで、

麗香がどこで何をするつもりなのか、俺には見当がつかない。

まあ、もし学校に用があるにしても、

夏休み中は私服登校ができるから、改まって制服に着替える必要はない。


「どこに行くの?」


俺の行動に気づいた美羽は、テレビから一瞬目を離して俺に聞いた。


「ああ、ちょっくら出かける必要があってな。

 一旦高校まで行く」


「こーこー?」


「学校だ、学校」


大低、ちびっ子にとって、外出は(比較対象としては不適切かもしれないが)犬と同じように出るだけで喜ぶものである。

俺みたく年を取ってくると、

これまた俺のように留守番したがるインドア指向が出てくるやつもいるが、

時間を遡ればきっと外出したくてたまらない頃がどこかにあるはずだ。多分。

で、俺の予感通り、美羽も行きたいと言い出した。


「お前は一人で留守番してろ」


「イヤ!美羽も行きたい!」


「大人しく留守番してりゃ、今度はぶどうジュース買って来ようと思うんだが」


「美羽も行く!」


チッ、この手は効かねえか。

大体、もし学校に入ることになった時、部外者である美羽を中に入れてくれるとも限らん。

そうなれば俺は必然的にクソ暑い陽射しがそれこそ俺を()す中、

校門の前かどこかでみんなを待つ羽目になる。


「美羽、邪魔しないから!」


「あのな、俺は遊びに行くんじゃねえんだぞ?

 遊びといわれれば遊びなんだろうが、俺にとっては一大事なんだ。

 それにお前がついてきても、することなんてないと思うぞ?

 家で大人しく遊んでた方がいいと俺は思うがな」


「それでもいい!」


「……分かった、早く服着替えて行く準備しな。

 その代わり、何があっても絶対に文句を言うなよ?」


「うん!」


美羽は大きく頷いて、自分の部屋に駆け込んで行った。

負けたよ。

これだからガキは苦手なんだ。




「着替えてきたよ!」


「おま、何ちゅう格好して出てきやがる!?」


靴下は左右別々、ズボンはいいとして、前後逆のシャツ、よくそれで「できた」などと言えるな。

ったく、コイツはマジで手がかかる。


「ほら、ちょっとこっち来い、手直しだ」





というわけで、俺は美羽と学校前に到着した。


「ちょっと、遅いじゃない、十分も遅刻よ?」


俺以外のメンバーは既に揃っており、俺待ちだったようだ。

チカは俺を睨み付けたが、俺の手に繋がれている小動物を見てほっこり。

どうか変にチカの母性本能が刺激されませんように――――


「おい、そのちっこいのはどうしたんだ?

 もしかしてお前、どこからか誘拐してきたのか?」


「バカヤロー、俺がそんな変態(ロリコン)に見えるなら

 お前(ジョー)、ちょいと病院行って眼球取っ替えて出直して来い。

 俺の妹だ、俺の。昨日電話でちらっと話したろ?」


ジョーは納得した様子で頷いた。


「悪いな、俺が出かけるときになってコイツが一緒に行きたいと言い出してな。

 そんで遅れた」


「いいのよ、こんなかわいい娘が遅れた原因なら、いくらでも許すわ!

 あんた一人だけで遅れてきたなら死刑だけど」


遅刻で極刑すか、世の中変わったな。命がいくらあったって足りん。


「コウくん、ごめんね」


麗香は俺と目が会って早々謝ってきた。

麗香は、零雨と共に夏の洒落た格好をして来ている。

ちゃんとチカとその友人たちと一緒に買い物出来たようだ。

チカもジョーも私服だ。


「麗香さ、昨日の晩に連絡してきてさ、


《コウから怒られた。勝手に決めてゴメン》って、あたしのところに電話してきたのよ」


「ああ、(ジョー)のとこにも連絡が来た」


「なんかさ、麗香って不思議ちゃんだよねー」


「不思議……ちゃん?」


麗香はチカの言葉に首を傾げた。


「そうそう。

 なんか、あからさまに表立って変なことしてるわけじゃないけれど、

 あ、今回は別ね?なんか、麗香の周りに不思議空間がまとわり付いてるって感じ?」


麗香は俺に不安そうな表情を浮かべた。


《私の正体、ばれちゃったかなぁ……?》


《いやいや、ばれてない、ばれてない》


俺は手を小さく振って合図した。


「おにいちゃんのお友達?」


隣にいる美羽が俺に聞いた。


「ああ、そうだ」


「みんなおっきいね」


「当たり前だろ、俺の歳でお前ぐらいの歳の友達がいたら、変な疑いをかけられる」


「まあ、一旦学校入ろう?」


チカの提案で学校の中に入ることになった。

俺が懸念していた美羽立入禁止の制約を受ける事なく、むしろ歓迎された。

グラウンドで部活に勤しむやつら、特に女子から熱烈な視線を浴びることになったのだ。

視線の先には美羽だ。

かわいい、かわいいと連呼し、美羽が視線を向けた先の女子は悲鳴を上げる。

中には携帯電話で撮影をするやつらまでも現れた。

心理が良くわからねえ。


「なあ、麗香」


「なに?」


「ちょっとお願いがあるんだが、こいつ(美羽)を引いてくれないか?

 女子の視線が痛い」


「いいよ」


美羽を麗香に渡し、下駄箱でスリッパに履き替え、二階の職員室へ。

麗香は職員室のドアを二回ノック、ドアを開け、職員室に顔を突っ込む。


「すみません、音楽祭担当の先生はいらっしゃいますか?」


「……おう神子上じゃねえか、どうした?お前らも出るのか?」


職員室の奥から出てきたのは一番見慣れた顔―――もしや担任が担当?


「はい、昨日申込みをしたんですけど、担当の先生がお休みだったので」


「担当の玉城(たまき)先生は今

 会議室で来賓(らいひん)とお話し中だから、ちょっと待ってもらわんといかん。

 そこは暑いだろ?待ってる間、中に入って涼んでおけ」


「失礼します」


担任は俺達を中に入れると、奥の待合室的なところに案内した。



足立()、お前が出るとは意外だな」


担任が絡んできた。


「勝手に名前書かれて完全に強制参加っすよ」


「ガハハハハ、だろうと思った。

 お前が人前に出るなんざ、普通じゃ考えられんからな。

 まあ、たまには青春を堪能したらどうだ?ハハハハハ―――」


「音楽、青春、か……」


担任が下品に笑う中で麗香がつぶやいたが、俺以外聞こえなかったようだ。

どうやら麗香の《人はなぜ音楽を愛するのか》という疑問に、

《青春》という単語が答えまでのパズルの一ピースとして追加されたらしい。


「で、そのちっちゃいのも音楽祭に出るのか?」


「いや、ただの俺の妹っす」


担任は《ただの俺の妹》の意味をしっかり理解できていないらしかった。


「そうか、兄妹でステージに出るのか。

 足立といい、その妹といい、中々異色のバンドになりそうだな」


「出ません。」


チカが担任の一言に触発されてしまった。


「いいね、妹も参加しちゃう?」


「言い忘れていたが、こいつの名前は足立美羽(あだち みわ)だ。

 それに、小一の妹が演奏できる楽器なんてたかがしれてる。

 せいぜい《キラキラ星》を鍵盤ハーモニカで一曲やるのが限界だろ。

 それとも本気で高校生が五人並んでキラキラ星を鍵盤ハーモニカで吹くつもりなのか?」


確かにあのレベルの曲ならミスることはまずないだろうが、簡単すぎて恥さらしだろ。

美羽とはレベルが合わなすぎる。

それに美羽が人前に出た時のあがり耐性がどれだけあるのかもわからん。

舞台の上で上がってしまうようなことがあれば最悪だ。

……一部の女子からはかわいいーと評価されるだろうが。


「お、(玉城)先生が来たぞ」


担任は待合室から出て行き、代わりに玉城先生が入ってきた。

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