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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-3 音楽祭と妹 麗香の暴走

タクシーに揺さぶられることおよそ一時間半、俺の住んでいるマンションに到着。

自転車で三時間もかけて移動して来た道程(みちのり)を、

二倍の速度で巻き戻して帰ってきたわけで、俺は人間と機械の越えられぬ壁を痛感。

道中の美羽の様子を述べておくと、

見慣れない街の景色に興味津々で、

クルマの窓に鼻を押し付けんばかりの勢いで眺め、

それだけならば良かったのだが、途中でお茶を飲もうとしてこぼしかけるわ、

突然トイレに行きたいと言い出すわ

(トイレ探しでメーターが二段階も余計に上がりやがった、ちくしょう!)で、

飛行機の中で大人しくしていたかどうかも疑わしい程の元気さであった。

後部座席で俺が美羽を見張ってたから良かったものの、

ちょいと目を離せば走行中にシートベルトを外し、

流れる景色の中に飛び込んでしまいかねない程のじゃじゃ馬ぶりだった。


我ながらよくコイツを生きたまま自宅に連れ帰ることができたもんだと感心するね。

これから暫くの間、コイツと一緒に過ごさねばならぬのか……胃が痛くなるぜ。


俺は運転手の男に二万円弱の料金を払った。


「次、何かご用がありましたら、ぜひ私にお願いします」


運転手の男は連絡先の書かれた名刺一枚と、ティッシュ二つをちゃっかり俺に渡し、

自転車をトランクから下ろすと、アクセルを踏んで颯爽と視界から消えて行った。

憎い奴だな……帰りも頼んでやろうじゃねえか、バカヤロー。




家に戻ると、時計は午後二時を指している。

俺が家を出たのが朝八時半、六時間ほど家を空けていたわけだ。

外出時間のうちおよそ半分が自転車を漕いでいた時間であることを思い返してみると、

俺って意外とすごいんじゃね、と思ったり思わなかったりだが、

まあこんなことも今回が最初で最後さ。

そうであってほしい。


「お家、きれいだね!」


美羽が生意気にも俺の住居についての評価をし始めた。


「美羽の家よりずっときれい!」


「ああ、そう。良かったじゃねえか」


「ねえ、美羽のともだちここに呼んでもいい?」


「お前の友達がわざわざここまでやって来るとは思えんな」


「あ、そっか。ここは美羽の家からずっと遠いんだった」


美羽はヘヘヘと笑う。

こんなちびっ子に対して授業をする小学校の先生は偉い。マジ尊敬する。

こんなのが何十人と束になって「せんせー」とか言って迫ってくるわけだろ?

ああ、恐ろしい。俺がもしその立場になったら下手すりゃ半日で辞職だね。

俺にガキは扱えねぇ。



「おい、美羽ちょっとこっち来い」


俺は美羽のリュックとキャリーバッグを両手に、

以前チカによるジョーへの激しい制裁を行った部屋、旧修羅場ルームに(いざな)う。

部屋には急遽用意した布団と、あらかじめ空にしておいたタンス、

実家から送られてきた衣類などの生活用品一式、元からあったミニテレビなどが用意されている。


「なに?」


「この部屋はお前が自由に使っていい部屋だ。

 勉強するのもよし、遊ぶのもよし、寝るのもよし、好きなようにしていい。

 ああ、暴れ回るのは、なしだ」


「美羽の部屋?」


「そうだ」


そういうと美羽は異常なほど喜びだした。

やったー、と大声を張り上げ、ぴょんぴょん跳ね回る。

恐らく実家には美羽の部屋など存在しなかったんだろうが、はしゃぎすぎだ。


「今暴れるなっつったろ?」


「あばれてないもん、うさぎさんのマネしてるだけだもん」


「跳ね回らなくてもいいし、うさぎのマネもしなくていい。つーかするな」


俺の目にはうさぎではなく、バッタが跳びはねているように見えたが。


「は〜い」


俺は半分呆れながら、キャリーバッグを開けた。


「なんじゃこりゃ!?」


中には美羽のおもちゃがぎっしり詰まってんじゃねーかよ!

おもちゃ同士の隙間は一切ない。

髪の毛が入る隙間さえだ。

これは正に3Dテトリスだ。縦横奥行きの全ての方向から見ても完璧。

キャリーバッグをひっくり返してだそうとするも、

おもちゃとキャリーバッグの隙間が存在しないため、落ちてこない。


「お母さんがね、全部用意してくれたの」


と、美羽。


お袋、こんな才能を隠し持っていたのか!

いや、これは才能ではない。特殊能力の域だ。

キャリーバッグを根気よく叩き続けていると、プリンのように中身がツルンと出てきた。

おもちゃの塊が床に当たると、バラバラになり、個々のおもちゃが顔を出す。

リュックサックの方もひっくり返してみたところ、多少のおもちゃは出てきたものの、

ほとんどは地図だったり、学校の宿題だったり、実家から持参のお菓子だったりと、

健全な内容であった。

キャリーバッグの中にこんな伏兵が潜んでるとは思いもしなかった。





それから時間が進み、時は夕方。

美羽と久しぶりのまともな買い物を済ませ、

(一人の方が良かったが、マンションのベランダから転落してもらっては困るので仕方なく)俺は夕食の用意、美羽はテレビを見ていた。

実家には、美羽がここに無事到着したという連絡を

タクシーを降りてすぐにしたから、向こうも安心しながら飯を食えるはずだ。

美羽は口をポカンと開け、アホ(づら)のまま、ただただ食い入るように画面を見つめている。

時刻的には夕方のニュース番組が終わり、バラエティー番組の時間に差し掛かっている。

今日の夕飯は簡単なラーメンだ。

時間もかからず、すぐ出来上がる。


「おい、夕飯できたぞ」


「は〜い」


美羽は実家から送られてきた食べ慣れた食器にラーメンが入っていることに安心した様子で、

俺には目もくれず、ただひたすらテレビを見つめながら食っていた。

もちろん、テーブルは一人用であるから、俺は美羽に席を譲って、

パソコン用の椅子に座って食っている。

テレビばかり見やがって、俺に会いたいと言って聞かなかったんじゃねえのかよ。

まあ、ちびっ子なんて大概そんなもんだろうが。

それに、四六時中ついて来られるようじゃこっちも迷惑だし、

特に事欠いて言う必要はなかろう。


「ねえ、おにいちゃん、ちがう(番組)の見ていい?」


「え?ああ、別にかまわん」


俺も見たい番組があるのだが、これはあらかじめ予期できていたことである。

ここで俺は一歩大人になって譲らねば。

……ちょっと待て。

これって俺、チャンネル争いできんじゃね?

やったぜ、これで念願のチャンネル争いができる。

……いやいや、小一と高二が争ってどうするんだ、俺。

絶対に俺が勝つじゃねえかよ。大人げない。


美羽が変えたチャンネルでは、子供向けの大衆アニメをやっていた。



「美羽、それ食ってこれ見終わったら風呂入れよ」


「うん」


俺にわき目も振らずに答えた美羽は、どんどんテレビに引きずり込まれていった。

俺が家を出てここで生活し始めた一年数ヶ月の空白を蹴っ飛ばし、

片時も離れず一緒に暮らしていたんだという雰囲気をそれとなく醸し出す美羽は、

俺にわずかな安堵を与えてくれたような気がする。

面倒臭い奴であることには変わらないが。



美羽が見ている番組も終わろうかという頃、俺の携帯電話が鳴った。

俺は発信者を確認せずに通話ボタンを押した。


「もしもし」


《……私》


この声は零雨だ。

普通に会話しててもただならぬ、ミステリアスな雰囲気が出てくるが、

電話だと、零雨には悪いが、幽霊が電話してきているようで恐ろしい。


「お前から電話なんて珍しいじゃねえか」


《……ジョーからの伝言》


「ほう、何だ?」


《……音楽祭へのステージ出場メンバーに……選出された。

 明日午前十時に……高校前に来てほしい》


「はあっ!?んなこと一言も聞いてねえぞ!」


音楽祭とは、夏休み中、お盆直前に高校で開かれる祭で、参加は自由。

去年、俺も興味本位で行ってみたが、グラウンドに仮設されたステージの上で、

音痴なくせして歌が上手いと思っている、

自称バンド(中身はただのナルシスト集団)の痛々しいショーをやっているのを見て、

興ざめした記憶がある。

しかも伴奏も下手くそというからやってられん。

それでもやはり、こんな祭に来る輩は少なくなく、人でごった返していた気が。

ステージの近くでは、仮設テントの下、生徒が持ち寄ってきた不要な中古CDを格安販売したり、

アーティストのグッズを販売していたりと、文化祭の前哨戦的な雰囲気があった。

中古CDやグッズについてはなかなかのものも交じっており、そこ目当てに行く価値はあるかと。


話を戻すが、音楽祭の出場・出店申込期限は今月末であることから推測すると、

ジョーはやる気満々らしい。



《……苦情、依頼主に……伝える?》


「伝えなくてもいい。俺が直接抗議する!」


俺は通話を切って、ジョーにダイヤル。


「おにいちゃん、お風呂〜!」


「俺は風呂じゃねえ!」


あ〜!こんな時に!

受話器のボタンを押す直前で携帯を置き、浴室へと向かう。

美羽は浴室前の洗面所で何もせず突っ立っていた。


「一緒に入ろ?」


「誰がお前と一緒に入るかっ!

 小学生になったんだろ?自分で身体洗えねえと友達に笑われるぞ」


「え〜」


「『え〜』じゃなくてよ……

 ……一人で入れたらオレンジジュースあげてもいいんだが、どうする?」


「やっぱり一人で入る〜!」


「よし、ちょっと待ってろ」


ジュースに釣られるとは、かわいいじゃねえか。

俺は高い位置に掛かっていたシャワーを低い位置に掛け、

シャンプーその他諸々を床に置き、湯加減を調節する。

作業をしながら気がついたのだが、

美羽の頭の中は、《オレンジジュース>>>>俺》なんだな。少しへこんだ。


「ほら、準備できたぞ」


既に裸になって待機していた美羽だが、俺にはそんな趣味は存在しないのでスルー。

浴室に飛び込んだ美羽は、覗かないでねと言い、ドアをぴしゃりと閉めた。

覗くなといいつつ、洗面所で自らああいう恰好をしている時点で……な?

俺は洗面所にバスタオルと美羽の着替えを用意し、再び携帯電話を手にとった。


プルルルル……


《もしもし》


「もしもし」


《ああコウ、零雨から連絡は届いた?》


「バッチリ聞いた。だからこうしてお前(ジョー)に電話している。あれはどういうことだ?」


《知らねえよ、俺はチカに言われて零雨とお前(コウ)に連絡を回しただけで、

 俺も何故か強制参加になってて仰天だぜ》


「チカが?」


《おう、チカは麗香から頼まれたと言ってた》


「何だよ、その芋づる式の連絡網はよ!」


《俺に言われたって知らねえよ!》


「勝手にそんなこと決まって、お前はどう思ってるんだ?」


《まんざらでもないかな〜と》


「俺はゴメンだぜ。

 俺の妹がこっちに来てるから、それどころじゃねえんだよ」


《だから俺に言われたって知らねえって!》


「……分かった。ちょっと犯人(麗香)抗議(講義)してくる」


……ピッ

めんどくせえ……

続いて麗香にダイヤル。


プルルルル……


《もしもし?コウくん?》


「ああ、そうだ」


《どうしたの?》


「どうしたじゃねえよ、何勝手に俺を音楽祭ステージの出場メンバーに登録してるんだよ!?」


《だって、登録には最低四人と補欠一人が必要なんだもん》


「だからって勝手に登録していいわけねえだろーが!」


《ちょっと、なんでそんなに怒ってるの?》


俺、チカ、ジョー、零雨、麗香の五人でやるつもりらしい。


「はあ、お前はこの世界に来てから間もないからな……仕方ねえか。

 いいか?こういう大事なことをする場合は、必ず当事者にオッケーを貰ってから

 行動を起こすものなんだよ。

 下手するとお前、せっかくの仲間が出来たのに孤立するぞ?」


《……そうなんだ、ゴメンね》


「というわけで、出場メンバー登録を撤回してくれ」


《ごめんなさい、一度登録したら変更できないんだって……》


「おい―――――!」


《本当にごめんなさい!》


「……チッ、そうなったもんは仕方ない。

 まず、なぜ参加しようという気になった?」


《この間ね、コウくんの家を掃除した時、音楽を聴いたでしょ?

 何で人間は音楽を聴くことを好むのかなーって、それが知りたかったの》


「『人はなぜ音楽を愛するのか?』えらく哲学的な疑問だな」


《答えを得るのは難しいと思う?》


「かなり難しいと思うね。

 お前の理解力のレベルで解が得られるかすら分からん」


《でね、音楽を聴く立場じゃなくて、

 演奏する立場になったら何か分かるかもしれないって

 考えてたら、ちょうどいいイベントがあって……》


「で、こうなったと」


《ごめんね》


「……仕方ねえな、明日朝十時に学校前なんだろ?」


《うん》


「処理能力オーバーで停止とかすんなよ?」


《大丈夫よ、停止しても一定時間が経てば、また再起動するから》


「俺は停止自体するなといってるんだ。

 チカやジョーの前でそんなことになれば一大事だろ?」


《うん、気をつける》


「じゃあな、また明日」


俺は電話を切った。

夏休み前に空想していた理想の夏休みからどんどん遠ざかっていく。クソッ!

気ままに起きて気ままに食い、気ままに宿題をし、気ままに遊び、そして気ままに寝る。

そんな生活が良かったのに……


誰だ?俺に人間失格(ニート)の烙印を押そうとしたやつ!

俺は宿題するからニートじゃねーよ!

とはいっても、説得力ねえなぁ………ハハッ

ニートと俺は紙一重か。心得ておこう。



とにかく、明日は学校に行かねば。

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