第2話-END ハウス・クリーニング ホームタウン・クリーニング
「…………。」
帰ってきた。
今俺は自分の家のリビングのソファに座りながら、
麗香の家で散々な説明を聞かされた後の俺のように、若干魂が抜けている状態である。
あの時と違うのは、ソファの横にあるものが、菓子の入った袋ではなく、
見知らぬ人のバッグであるということ、家が綺麗さっぱりしていることぐらいだ。
勘違い防止のために言っておくが、見知らぬ人のバッグは俺が引ったくったとかそういうのではない。
俺は無実だ。
あの赤い境界線を越えた後、零雨、麗香と別れ、俺は真っすぐ家に帰ってきた。
二人がどこへ行ったのかは俺は関知はしないが、
ステージ0に作った空間のコピーの後片付けをしなければならないと言っていたことだけは覚えている。
分解されて粉末になったナントカ会の連中を、宇宙空間全体に密度が均等になるように散布するとも言ってた。
恐ろしいやつらだよ。
零雨と麗香は、俺の家の掃除だけではもの足りず、隣町から進出してきたゴミまで掃除してしまった。
警察でさえもなかなか手出しできない社会のゴミが溢れる、
いわばゴミ屋敷だった港区をバッサリ斬った零雨と麗香。
さすがだとは思うが、どう考えてもやり方は荒かった。
生ゴミを捨てるように、零雨と麗香は人間を捨てた。
それは、真の意味では平等な扱いなのかもしれないが、
そんな理論はこの地球にいる限り通用しない。
もちろん、帰る途中で俺がたっぷり時間をかけて、
「郷に入らば郷に従え」と教えてやったから、次はそんなことをしないだろう。
次からは、まあ今回は半分仕方なかったのかもしれないが、
よっぽどのことがない限り簡単に人を攻撃したり、粉々に分解するようなマネはしないはずだ。
ふう、と溜息を漏らしながらボーッと宙を見る。
説教のし過ぎで喉が痛い。
「ん?」
CDプレーヤーがペロリと舌を出しているのが見えた。
電源切った時に間違えてイジェクトボタンを押したのか?
俺はCDをプレーヤーから受けとって、ケースの中にしまい込んだ。
CDのジャケットって前衛的なものが多い気がする。
ショップの中で目立つ装飾を施して注目してもらおうという魂胆なのかもしれないが、
そういう装飾がショップに溢れてしまうと、逆に地味なものが目立ちそうな気がする。
CDのジャケットのデザインで思い出したが、
そういえば零雨と麗香は結局私服がないままなんだよな。
ポケットに入っている携帯電話を取り出して、チカに電話をかける。
余計なお世話かもしれないが、零雨と麗香の私服の購入を依頼するためだ。
《もしもし、コウ、あんたがあたしに電話してくるなんて珍しいわね》
電話に出て最初の挨拶がこれだ。
若干の上から目線のこの言い方、イラッと来る。
「何でもいいだろーが」
《分かった!もうお金を使い切っちゃって、援助してほしくて電話したのね?》
「違うね」
俺は瞬答。
そんな世の終わりみたいなことがあってたまるかってんだ。
《も〜そんなこと言って〜、素直に援助してくださいって言えばいいのに》
「他人の金をあたかも自分の金の如く使う誰かさんとは違うんだよ」
俺の金を握らせ、勝手に零雨に水を買わせに行ったチカとか、
アイスクリームを買って食べていたチカとかな。
《何そのイヤミ、あれはあれで私が昼ご飯作って終わりじゃなかったの?》
「………ふう、とにかく、俺がお前に電話したのは別の用件のことだ」
こんなところで言い合いしてても先には進まん。
少し強引だが、本題に戻らせてもらう。
《自分の不利な状況になると、そうやって逃げるのね》
「俺はたださっさと本題に入りたいだけだ」
《………で、何?》
「零雨と麗香の服装のことなんだが」
《ああ〜それね。あたしも気になってたのよ、
昨日は日曜日だってのに学校の制服姿でコウの家にいくなんて。
(理由を)聞いてみようかなと思ったんだけど、
なかなか言い出すタイミングがなくて、結局聞けずじまいになっちゃったのよねー
それでさあ――――》
用件の主題を言っただけで、
よくもまあ準備していたかの如くペラペラと言えるな。
これが女の特徴ってやつか。
電話で長話になりやすいというのも頷ける。
「……ちょっといいか?
語るのはそれぐらいにして、そろそろ俺に用件を言わせろ」
《あっ、ごめん、つい喋っちゃって……》
「お前、通話料金で親に怒られたことはないか?
俺が考えるに、女同士の電話とかになると、携帯のバッテリーが
持たないぐらいの長話になってると思うんだが」
《……なかなか鋭いわね。
長話に備えて、今も携帯の充電スタンドを装着させたままこうやって電話してるのよ。
普通に使ってたら電池なんて3ヶ月ぐらいで寿命がきちゃうからお金がかかっちゃうのよ。
だから、家にいるときはこうやって極力電池を使わないようにして―――
っていうか、そんなことあんたには関係ない話でしょ?
……で、用件って?》
「今度あいつらと服を買いに行ってやってほしい。
あいつら、こっちに引っ越してきたはいいが、どういうわけか私服は持ってきてないらしい。
そんでよ、あいつら冗談抜きで服選ぶセンスねえから、
お前がしっかりとコーディネートしてやってほしい」
引っ越してきたということが嘘であるということは、今のところ俺しか知らない。
《何でコウがそんなこと知ってるの?》
「昨日、お前らが帰った後、買い物に行ったんだが、その時にそいつらもついてきてよ、
衣料品を見たいって言い出したから理由を聞いたらそれだったわけだ」
《――コウ、それ嘘でしょ?
明らかに昨日電話した時の話と矛盾してるわよ?》
ぅ……
自分で自分の首を絞めてしまった。
昨日の激安店にチャリで買い物に行った話をしてたことをすっかり忘れていたぜ。
もうちょっと頑張って働こうぜ、俺の海馬。
《……謎だわ。
昨日は何してたの?
まさか変なことはしてないわよね?》
「…………」
《まあいいわ、今度あたし、他の友達と久しぶりに買い物に行くことになってるから、
友達からオッケーもらえたら二人も誘ってあげる》
「そうか、悪りいな」
《『悪りい』って、あんたも親切心で電話してるんじゃないの?
もしかして、麗香に頼まれたの?》
「いや、俺が独断で」
《そう、用件はそれだけ?》
「ああ」
《じゃあ、切るね》
「また明日」
《バイバイ》
……ピッ
もう8時か……腹減った。
冷蔵庫の中には、今は大量のもやしが入っている。
塩茹でにして食うか。
どこか虚しい感じがするのは、もやしという響きが原因だろうか?
俺はそう思いつつも何気に携帯電話をいじる。
アドレス帳に、当然ながら零雨と麗香の名前があった。
何故そんなことをしたのかと聞かれても、俺には分からない。
俺は、零雨の備考欄に、「修理屋」、麗香の備考欄に、「理容師」と書いていた。
もしかしたら、俺はあいつらが目的を果たせば消えてしまうのを知っているから、
非日常という日常が確かに存在していたという、
証拠兼思い出を残しておこうとでも無意識のうちに考えていたのかもしれない。
テンプレ通りの起伏のない平坦で普通の人生を望む俺が、だ。
……そうだな、これからは零雨と麗香が何をしたか、この備考欄に書いていくことにしよう。
まて、やはり備考欄には字数制限があるから、パソコンに記録しておこう。
アホらしくなってすぐに記録なんてやめちまうだろうけどよ。
「……っとやべえ!」
今日バッグを送る約束だった。
早いところ出しに行かないと持ち主に迷惑かかるじゃねえかよ!
俺は空腹に耐えながら、大急ぎで数個の段ボールに、バッグを一つずつ入れる。
そして宛先が間違ってないかを確認して、住所を書いたメモ紙を貼る。
あとは、コンビニに行って住所を宅急便の注文用紙に写して終わりだ。
さっさと行っとかねえと、明日発送になっちまう!
その後、俺が近くのコンビニの敷地に駆け込んだ時、
コンビニから出て行く宅急便の車を見て、慌てて追いかけたことは秘密である。
第二話終了です。
作者自身、最後の極道の最期の描写はきつすぎたかな、と
思っていますがいかがでしょうか?
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さて、第3話についてですが、夏休みが舞台になる予定です。
普通に考えたらそんな絶好な舞台、逃すはずありませんよ。
一応第4話も夏休みを舞台にした作品を書きたいと思っています。
コメディー部分拡大は確実でしょう。
え?今までにコメディー部分なんてなかった?
それは困りましたねぇ……(笑)
というか、この小説の正式な分類はどの分類なんでしょうね?
ファンタジー?コメディー?SF?
この小説はフィクションです。
登場する人物、団体、組織名、地名などは架空のものです。