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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
ハウス・クリーニング
47/232

第2話-20 ハウス・クリーニング マトリョーシカ人形の如く


パンパン、と2回音がした。




歩くのをやめ、下を向く麗香。


「ぁ……」


制服の右胸と左脇腹の辺りが、じわりと赤に変色していく。


麗香が撃たれた!


撃たれた身体をしばらく見ていた麗香だったが、

身体がふらりと揺れて倒れそうになり、足で踏ん張る。

4,5歩粘って歩いていたが、やがてひざを折った。

麗香は倒れた。


あの変態ジジイ、何の躊躇もなく引き金を引きやがった!


「おい、麗香!」


俺は麗香をここから助け出したい気持ちでいっぱいだったが、

両隣の男に抑えられ、どうすることも出来なくて不甲斐ない。

腹の底から巨大な怒りが湧き出てくる。


今の俺にとって、ハト派がどうのこうの、そんなのは全く関係ない。

とにかくあのジジイとそのチンピラを殺してえ!

何気軽にトリガー引いてんだ、ゲームじゃねえんだぞ!

俺の目の前にもし拳銃が落ちてたら、

例え背後の構成員に最終的に殺される運命にあったとしても、

間違いなく俺はジジイとそのチンピラ野郎のミソに風穴開けてるね!



零雨は表情一つ変えずに早足でジジイに近づいていく。

表情には表さないが、麗香が攻撃されたことはしっかり分かっている。

零雨はふらふらと大きく変則的に蛇行しながらジジイに近づく。

いいぞ零雨、復讐だ!


ジジイは、一瞬眉を寄せ、零雨に向けて数発撃つ。

弾は零雨の横すれすれを掠めていくが、なかなか当たらない。


撃つのをやめ、チッと舌打ちしたジジイは銃口を零雨からそらし、拳銃振ったり叩いたりしている。

その表情には焦りが見える。

弾切れか弾詰まりかは知らないが、絶好のチャンス!

今だ零雨、殺ってしまえ!俺の代わりに麗香の仇をとってくれ!


チンピラは近づいてくる零雨を恐れ、後ずさりをしている。

いいザマだ!



―――パン!


ジジイとは違う方向から聞こえた銃声。



音源は、俺のすぐ近くにいる、

側近の如く振る舞い、俺に偉そうな口を叩いたあの男だった。


零雨の頭に凶弾が直撃し、零雨は踏ん張ることもできず、地面に接吻した。


「零雨、死ぬんじゃねえ!」


俺の叫び声は辺りに響くこともなく、どこかへ吸い込まれていってしまった。


犯人は俺のすぐ近くにいたのに、俺は2人目の被害者を出すことを防ぐことが出来なかった。

俺の手の届く範囲にいるのに、怪しい行動になぜ気づかなかったんだ俺は!

自分が腹立たしくて、自分自身を殺したくなってきた。

やりきれないこの思いを、俺はどこへぶつければいいんだよ?



”わ、私だって身体の強度や運動能力はコウくんたちと変わらないんだから、

 怪我だってするし、骨折したりもするわよ!”


昨日、麗香が俺の家で昼食を作っているときに言った言葉だ。

結局のところ零雨も麗香も、

ただ人間に超能力という+αがついただけの存在だったのかもしれない。



―――結局、二人は銃殺されてしまったのだから。





俺の隣で零雨に発砲した男が、地面に倒れた2人の少女に近づいていき、脈をとる。


「頭、死にました」


ジジイの奴はうむ、と一回頷いて俺に顔を向けた。

その瞬間、空が一瞬暗転したかのような錯覚に陥る俺。


「安心しろ。

 お友達の葬儀はここできっちりやらせてもらう。

 お前を殺すのは葬儀が終わってからだ」


零雨と麗香はもう動かない。

地面にに血だまりができている。

なんだよ、あっけなく殺されやがって!



ジジイは不愉快極まりない高笑いを撒き散らしながら、近くの部下に命令をする。


「ハハハハハ、では早速葬儀を始めよう」


ジジイは人を殺して上機嫌である。

社会のゴミ野郎という表現はこのジジイには生やさしすぎる。

言葉で表現できないほど腐った野郎だ。


こんなやつが、のこのこと何十年にも渡って生きられるこの社会、

こんなやつに仕立て上げたジジイの親、

こんなやつの前で無力さを実感する俺、そのすべてに俺は怒りを覚えるね。


数人の部下が、使い古された大型トラックのタイヤと鎖をそれぞれ二人分用意する。


部下は鎖でタイヤと亡き骸(なきがら)をチャリチャリ鳴らしながら、

ぐるぐるに巻き付け、離れないように固定している部下の服に赤い血が付く。


やがて顔が青くなった零雨と麗香の遺体に鎖を巻き付ける作業が終わってしまい、

男達は数人がかりでタイヤと一体になった麗香を海に投げ込んだ。


ジジイとチンピラは微笑を浮かべながらその光景を眺めてやがる。


俺が死んだら、こいつらだけは俺の手で絶対、絶対に呪い殺してやる。

その狂った脳味噌を俺が潰してやる。


男達は続いて零雨を海に投げ込んだ。

水しぶきをあげ、海へ沈んでいく。



「……葬儀は終わった。最後はお前だな」


ジジイは、部下から新しい拳銃と、使えなくなった拳銃と交換して、俺に銃口を向けた。

俺はあいつを呪い殺してやるという怨念を持てるだけ持って、死を覚悟した。



―――――パン




もう聞き慣れた乾いた音が聞こえた。




その銃声はジジイが発したものではなかった。

俺はしぶとくまだ生かされている。


目の前のジジイの手にあった拳銃が消えている。

手から消えた拳銃はジジイの足元に転がっていた。



「もう私怒ったからね!」


高いところから声が聞こえ、俺は反射的に倉庫の屋根を見上げる。



………麗香!?


なぜ麗香があそこにいる!?

たった今麗香は零雨と一緒に海に沈められたはずだ。


麗香は最初に現れた時と同じように屋根に腰掛け、

手には薄い、色だけ見ればかわいらしい金属光沢のある桃色の拳銃が一丁。

その銃の狙いの先にはジジイ。

つまり麗香がジジイの拳銃を神がかった精度で撃ったわけだ。




「ぁあ?」


俺の隣の側近らしき人物が見上げる。

チンピラが見上げる。

ジジイが見上げる。

ジジイの後ろに整列している手下が見上げる。



この場にいた全員が、この意味不明な事態に混乱。


後ろから、最初と同じようにひょいと顔を出した零雨。


「お前ら、誰だ!?」


チンピラが叫ぶ。



「今あなたたちが殺した私達よ」



「死人が蘇るだぁ?

 んな馬鹿な話があるかってんだ!」


隣の側近[略]がまたまた吠える。



「信じられないでしょ?

 死んだ人が蘇るなんて。

 ゾンビみたいでしょ?」


麗香は屋根からひょいと飛び降りた。


「あっ――!」


俺は思わず声を上げた。

あんな高さから普通に飛び降りたら死ぬだろうが!

スカイダイビングをしたときはきっとチートを使ったんだろ?

今は使っていない……はずだ。



案の定、麗香は飛び降りた後、地面に伏せた状態のまま動かなくなった。



「なんだこやつ?

 飛び降りなんて気でも狂ったか?」


ジジイは目を大きく見開いて、この混沌とした状況の理解に励んでいる。


コンテナ倉庫の屋根から見下ろす零雨の右手にも拳銃がある。

お前ら、どこでその武器を手に入れられたんだ?

仮にもここは日本で、それを持ってるだけで塀の向こう側へ連れていかれる国だ。


屋根を見下ろす零雨の隣から、麗香が現れた。

麗香が飛び降りた地点には、麗香の横たわる姿がある。


つまり、麗香が二人いるのだ。

地面に横たわる麗香と、屋根から見下ろす麗香。


いや、海に沈められた麗香もカウントすれば三人か。

まるで人形の中に人形、その中にも人形、で有名なマトリョーシカ人形のようだ。


零雨は屋根からぴょいと飛び降りると、

麗香と違い、すたっと両足で着地した。



「お、お前は何者だ!?」


チンピラが叫ぶ。


零雨は目の前の衝撃的な光景に自失茫然としているお頭一行に言った。


「私の現在の活動名は嵩文零雨。

 本名はS0-v1.7f。

 この世界の他、およそ数十の世界の管理をUSERから委託されているプログラム。

 ステージ25、つまりこの世界で活動する上で足立光秀(俺の名前)は

 この社会に私と神子上麗香、S0-v3.0aを順応させるのに必要な重要な存在である。

 彼に危害を加えることは、いかなる理由があっても認めない。

 よって、足立光秀に危害を加えているあなたたちを排除する」


なんかペラペラ喋るな、おい。

喋ったら世界が変わるんじゃないのか?

……つまり、零雨と麗香は本気でこいつらを排除しようとしているってことか。

死人に口なしってわけだ。


「面白い演説を聞いたなぁ?

 『あなたたちを排除する』だとさ!」


チンピラは己の恐怖を打ち消すためだろうか、そう言って零雨を馬鹿にする。


その間、ジジイは地面に落とした拳銃を拾い上げ、銃口を再び零雨に向けた。


「無駄」


零雨はいつもの通り、表情一つ変えない。


「それがハッタリだと今証明してやろう」


ジジイは引き金を引いた。

それに続く発砲音。



だが、零雨は倒れなかった。

そして俺は目を見張った。

零雨の右手は、顔の直前では何かを捕らえている。


「無駄だと私は言った」


零雨は捕らえたもの――――銃弾を手の平に広げて見せた。

俺も驚いた。


ジジイは何発か撃ったが、全て直前で零雨に捕らえられてしまう。

そのザマは俺にとって爽快極まりないものであった。

つーか、ジジイ撃ち過ぎだ。


ジジイは何を血迷ったのか、銃口を俺に向けた。

それを見た零雨は、桃色の拳銃を取り出し、ジジイに向けて一発。


それはジジイには当たらなかった。

その代わり、ジジイはまた拳銃を落としていた。

何故かは分からないがジジイは銃を拾い上げても、俺に銃口を向けることはなかった。



「その銃、もう使い物にならないわね」


「なっ!?」


俺のすぐ後ろで声がし、直後に俺を囲んでいた男達は倒れた。


「コウくん、お待たせっ!」


麗香が俺の隣に来る。


「零雨ちゃん、あの久方とかいう男の拳銃の銃口に弾を突っ込んだのね。

 銃口に零雨ちゃんが撃った弾が突っ掛かってるから、撃ったらその場でドカン。

 だから撃てない」


「……親切に解説をどーも」


零雨もミリ単位の精度で発砲したのはすげえと思う。

ただ、それよりもその解説を聞いている途中でまた一人、俺達に銃口を向けている奴がいるのが気になる。

チンピラ野郎だ。


麗香はチンピラに言った。


「撃てるものなら撃ってみなさいよ」


引き金を引いたチンピラの銃口から、ブワッと綺麗な花が飛び出した。

手品か何かでよくありがちなやつだ。


「ぁあ?!どうなってんだ?」

チンピラがほざく。


「うふふ、面白いでしょ?」


麗香は俺に微笑みかけるが、

拳銃を持った数十人もの極道者が俺を殺そうとしているという、

戦場以上にエクストリームなリンチ状態を体験中の俺にとって、

そんな小ネタは正直面白くなかった。面白く感じれるほどの度胸はない。


「それよりも、なんか零雨がペラペラ喋るようになっているのが気になるんだが」


俺の素朴な疑問である。


「ああ、今私達Level3の状態だから、ステージ0に配分される処理能力がちょっとばかり増えるのよ。

 だから、処理が追いつかずに途切れ途切れの発言しかできない零雨ちゃんがあんなに喋るの」


Level、あのリミッターがどうのこうのという話で出てきた単語だ。


「零雨はあんなにペラペラ喋ってるが、

 もし一人でも排除し損ねたらお前らの正体が世間にバレるかもしれんが、

 そのことについてはどう思ってるんだ?」


「やだなあ、ここは私達のホームグラウンドよ?

 絶対にバレないから、コウくんはそんな心配はしなくていいよ」


「ホームグラウンドの意味がよく分からないんだが」


現在地(ここ)はステージ0。

 ステージ0の中にステージ25相当のレベルの空間を一時的に作り出してるの。

 空間の広さは1キロ立方メートルの立方体。

 それよりも遠いところからの情報、例えば遠方の景色とかは、

 ステージ25からリアルタイムで取ってきてて、バレないようにしてあるのよ。

 この空間には私達しかいないから、どんなことをしてもオッケー」


話によると、いつの間にやら異世界に転送されているそうな。


「すごいでしょ?」


「あーあー、すごいすごい」


早く生きて家に帰りたいんだよこっちは。

麗香は俺の心中を察したのか、

前で銃弾のONE-WAY(一方通行)キャッチボールをしている零雨の隣まで進み、

ナントカ会に向けて言った。


「あなたたち、警告を聞かないなんて、

 もうどうしようもないから、今からバラバラにしちゃうね。

 水分、鉄分、カルシウム、各種タンパク質、アミノ酸……

 身につけている貴金属からプラスチック、紙切れまで……

 私直々に全部粉々にして物質別に分別してあげるから、感謝するのよ」


この女子高生が言ってることが恐すぎると感じるのは俺だけではないはず。

バラバラ事件なんて言われると、頭とか腕が胴体から……なんだが、

今麗香が言ったのは、物質別に分子単位で分解してやるという次元の違う話だ。




確かに粉々になって粉末の山がいくつか出来るだろうけどよ、

エグすぎないか?いくらなんでも。

極道の連中はビビってさっきまでの元気はどこへやら、

ただの真っ青な顔の連中と化していた。


まったく、零雨といい、麗香といい、いつもあいつらの発想は俺の予想の斜め上を飛んでいきやがる。

QRコードどで意志疎通を計ろうとする零雨しかり、

バスタブにワープホールを設置するのもしかり、

今の麗香の発言もしかり。



極道A「お、おい、お前白い粉が全身についてるぞ」

極道B「そういうお前だっていっぱいついてるじゃねえか」

極道C「なんだこれ、払っても払っても粉が取れねえぞ」


「全部分解されて意識が保てなくなる前に、ちゃんと今までの悪行を反省することね」


と麗香は言った。

どうやら白い粉=分解された物体らしい


「あなたたちが意識を保てるのはあと残り15分。

 それがあなたたちの寿命」

冷たい顔の零雨はそういい捨てると、麗香とともに俺の前に来た。


「待たせてゴメンね、帰ろ?」


「お前ってマジ、冗談抜きでやってること残酷だ。

 おもいっきり引くじゃねえか」


すぐ殺すならまだしも、ジワジワって。

俺はそこまでの復讐は望んでない。

さすがは鬼畜システム。


俺たちは麗香が作ったという脱出口へ向かう。


「そうかな?」


麗香は首をかしげた。


「そうだとも。

 どんどん自分が自分でなくなっていくのが目に見えて分かってしまうじゃねえか」


「…………そうなるのって、怖い?」


「怖いさ」


「……あのね、私思うんだけどね、

 人間って、生き物をひいきしすぎだと思うの」


「何をいきなり言い出すかと思えば……」


……これである。


「私達の立場から見るとね、

 ほら、そこの隅っこに転がってる空き缶、あれとコウくんはほぼ一緒の価値なの。

 どちらも同じように原子からなる物質で構成されていて、

 シミュレートを任されているプログラムも一緒。

 違うのは、あなたが自律して動くこと、不確定要素があること、それだけなのよ。

 例えば、生ゴミを土に変えるのは、何の問題もないでしょ?」


「まあ、生ゴミ処理機があるぐらいだからな」


「じゃあ、生きた人間を土に変えるのはどう?」


「まず、青い制服の人に連行されるね」


手錠付きでな。


「ほら、扱いが違うでしょ?」


「そりゃ、そうだろ」


「ね?」


「……もういい。さっさと帰ろう」


しばらく歩いて、麗香が立ち止まった。


「ここが、ステージ0と、ステージ25の境界線」


麗香が立ち止まったそこには、特に変わったものはなかった。

境界線が見えるわけでもなし、違った雰囲気を感じ取れるわけでもなし、

ただの普通の地面があるだけだった。


「ジャンプで境界線越えようよ」


提案した麗香だが、境界線が分からない凡人の俺にとって、

境界線をきっちり飛び越えられることだできるか自体が怪しい。


「まず、どこが境界線なんだ?」


「ごめんね、コウくんには分からないんだよね」


麗香がそう言って、ここが境界線、と教えてくれた。

すると、じわりと地面に赤い線が浮かんだ。

これが境界らしい。


「じゃあ、行くよ?」


「せーのっ!」




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