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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
ハウス・クリーニング
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第2話-19 ハウス・クリーニング お出迎え

クルマは港のコンテナ置場に到着した。

ドラマみたいにいい感じで雰囲気が出てる。撮影にはすごくリアルでいい。


ちょっと待て、何を言っとるんだ俺は。

ここで何されるかを想像したら、沈められるぐらいなもんじゃね?

で、そんな雰囲気が出とると。


「ほな兄ちゃん来てもらおうか」


同じような高級車が数十台、きれいに整列されているなかに、俺が乗っているクルマも入る。


この場所は鉄臭く、地面のアスファルトが赤褐色になっている。


コンテナ置き場の反対側を見ると、金属質の工場が軒を連ねている。

近くにあるトタン屋根の工場の入り口からは、物を切断する、キリキリという音がし、

時折赤い火花が飛び出す。

工場前の道路には大型のダンプカーが工場脇に路駐してあり、

その近くには擦り切れたタイヤや煙草の吸い殻、ペットボトルや空き缶がゴロゴロ。

誰かが不法投棄して行ったと思われる家電製品もちらほら。


どうやらここは工業団地のようだ。

海の匂いがぷんぷんしながら、ゴムや鉄といった人工的な臭いが漂う場所。

まさか俺がこんな所にくる羽目になるとは、思いもしなかった。


俺の両隣にオッサンが俺をガッチリ確保している状態で歩く。


5分なのか、10分なのか、俺には分からないが、結構歩かされた。

コンテナ倉庫の角を直角に曲がると、目の前には海が見えた。

子供ならはしゃぐんだろうがな……


俺の前に、正装をした男達が横6列、縦10列に並んで、

その先頭には若いチンピラと、年季の入ってそうなオッサンが待ち構えていた。


(カシラ)、連れて参りました」


「うむ」

(カシラ)の久方という男、年齢は60歳ぐらい、

オールバックの純国産の顔、がっしりとした体つき、腹から響くような、太い声。


俺の中での極道の(カシラ)のイメージにおもしろいほどピッタリだ。

頭がおかしくなったのだろうか、

極道のナントカ会が総出で俺を迎えてるっぽいにもかかわらず、恐怖は一切感じられない。


俺ってこんなに肝っ玉座ってたか?


「こいつで合っているか?」

きつい声で(カシラ)がチンピラに問うと、

チンピラは間違いない、早く殺してくれと言った。


このチンピラ、確か昨日の晩、

零雨と麗香に対して1対1のタイマンがどうのこうのと騒いでた大人げない奴だ。


で、ボロクソに負けたからパパ~って泣きついたと。迷惑どころの話じゃねえ。

しかも殺せって今サラッと言ったよな?


死亡フラグとかの次元を何気に飛び越して、死亡確定かよ!


「殺すのはまだ早い。

 お前の言ってた女二人を探し出してからだ」


いかつい声の(カシラ)はそう息子をなだめる。



今の状況を冷静になって考えてみよう。


まず、俺が立っているのはコンクリートの地面で、

右側には海、左側にはコンテナ倉庫っぽい建物。

前にはナントカ会のみなさんが勢揃いされているし、

後ろは無防備なように見えるが、物陰に隠れている人間が今チラリと見えた。

後ろへの逃走は諦めたほうがいいだろう。


脱出方向として一番現実的なのは海に飛び込むことだろう。

他はリスクが高い。

ただ、俺は泳ぎは速くない。

後ろから銃で撃たれたらそのままプカプカ海をさまようことになるだろう。

どちらにしろ脱出は絶望的だ。


かわいい声が緊張の中聞こえてきた。


「お電話です~」


(カシラ)こと久方龍男はおもむろに携帯電話を取り出した。


「ピッ……もしもし、久方だ」


お前かよ。

アイドルの着ボイスをまさかの(カシラ)の携帯電話から聞けるなんて、意表を突かれたぜ。


それよりも、なんかシリアスに色々脱出方法を探っている時に、そんな着ボイスを聞かされると、

何か表向きは殺したと言っておきながら、裏でコッソリ俺を逃がしてくれそうとか、

今回だけは助けてやると言ってくれるとか、

そういう実はいい人だった的なことを期待しちまうじゃねえかよ、ジジイ!

それはそれでラッキーだし、そんなことになれば一番いいのだが……


「……そうか……分かった……ピッ」



この(カシラ)が電話している間に、イメージががらりと変わったのは俺だけか?


「親父、いつまでアイドルの着ボイスにしてんだよ?

 もっとマシなやつにしてくれよ」


チンピラ息子の意見に同感。


「俺の好みにいちいち口出しするな、バカ息子」


息子がバカだという自覚はあるんだ。

てっきり親バカだと思ってたんだが、意外だな。


(カシラ)は側近らしき人物に小声で何かを話す。

そして側近らしき人物が一人こっちに向かってくる。


「昨日お前といた女二人を呼べ」


側近は俺にいかにも偉そうな口調で述べると、俺を睨み付ける。

電話っすね、はいはい……


周囲の厳しい監視の中、俺は鞄から携帯電話を取り出し、麗香にかける。

零雨と電話すると電話の向こうで下手に停止されてしまう可能性がある。

すると俺の命が危ない。


だから俺は麗香にかける。



3回のコールの後、麗香が電話に出た。


「かくれんぼ~♪

 楽しい楽しいかっくれんぼ~♪

 ドキドキのかくれんぼ~♪」


……ピッ


俺の友達の中にこんな電波キャラいたか?


「どうした?」

側近らしき人物が尋ねてくるから正直に答える。


「かけ間違えたみたいっす」


「早くしろコラ!

 お頭がわざわざ貴様のために待っているということを自覚しろボケが!」


お頭さんがどれだけ偉いとか知らねえよ。



俺は無視さながらの無言というささやかな反撃をすると、携帯電話の発信履歴を確認。


確かに今麗香の携帯電話にかけたことは画面にきっちりと証明されている。

じゃあ、今出たのは誰だ?


もう一度かけてみよう。


今度はコールが1回も鳴り終わらないうちに繋がった。


「コウくん、なんでいきなり電話切っちゃうの?」


ちゃんと麗香に繋がった、良かった。

麗香の声が何か違う。どこか震えているような気がする。


「さっきのお前か?」


「うん、そうだけど」


「あのさ、俺ちょっとやばいことに……


「知ってるよ。左向いて」


俺は電話を耳につけたまま左を向くが、倉庫の巨大なシャッターが見えるだけで、誰もいない。


「そのまま視線を上にあげていくと……」


麗香の誘導通りに視線をあげる。


―――いた。


コンテナ倉庫の屋根にゆったりと腰掛けてこっちに大きく手を振る麗香。

その反対側の手には、携帯電話を握っている。


《かくれんぼ》とは、周りを見渡して探してみろということか。普通にわからん。

こんな非常時には、もっと率直に正しく物事を伝えることが重要だってのにこいつは……


そんな麗香の後ろからひょいと零雨が登場。


俺の周りのやつらも突然現れた零雨と麗香に釘付けだ。


二人は倉庫の屋根の端にある排水管をつるつると伝って地上に降りてきた。



「こいつ、こいつらで間違いない!あの白髪の女、間違いない!」


指をさすチンピラの顔はこわばり気味。


数人の部下が二人を捕らえようと四方から迫るが昨日と同様、返り討ちにあう。


麗香は俺と頭と等距離の位置に立つ。

上から見ればちょうど(こんな)感じだ。


麗香は声を張り上げた。


「あなたたち、直ちにコウくんを解放しなさい!」


その口調からは怒りが滲み出ているのが良く分かる。

そして隣の零雨は相変わらずの無表情である。

あいつが怒るところを俺は初めて見た。


「お前ら誰にそんな偉そうな口をきいてんだ?ァア?

 こちらは東播会の久方龍男だぞ!」


俺の隣の側近らしき人物がもう吠える吠える……

誰か耳栓を貸してほしいんだが、もってないかね?



頭はううむと唸り、声を張り上げた。

「お前らにはこの会のことをよく知らんようだな。

 ここにいる俺達は皆、他の勢力から破門にされた者ばかりだ。

 掟を破り、居場所がなくなった者達が全国から集まる、

 最後の安息地、それが俺達の会だ。

 そこらの組織とは訳が違う!

 荒くれ者が多いのがこの組織の特徴、

 しっかり覚えて冥土の土産に持っていくんだな」


「早く解放しないと、あなたたちの方が冥土に逝くわよ?」


麗香は△の均衡を破り、零雨と共に頭に歩み寄っていく。


「親父、近づかれたら終わりだってのは今ので見たろ、早く殺ってくれ」


チンピラがうざい。


親父さんこと頭は懐からさっと拳銃を取り出し、

近づく麗香に向けた直後、引き金に力を入れた。

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