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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
ハウス・クリーニング
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第2話-6 ハウス・クリーニング 特急列車【嵩文零雨】

次に俺が目覚めたのは、解散する前に座った、あのベンチの上だった。

気を失っている間に、俺は不覚にも三途の川を奇声を上げながら

泳ぎまわる夢を見てしまったのだが、ここは現実だよな?。

足がちゃんとあるから、きっと現実に戻ってきたに違いない。そう信じよう。


見上げると、ショッピングカートを持ったまま、

直立不動で俺を見つめる零雨と目が合った。

俺は零雨がわざと俺を吹っ飛ばしたわけじゃないのは知っている。

吹っ飛ばした後の対応には不満が残るが、零雨だから仕方ない。

さっきの事は許してやろう。


「麗香はどこに行った?」


俺は麗香がいないことに気がつき、零雨聞くと一言。


「……グループに戻った」


「そうか」


不思議なことに、腹に響くようなあの鈍痛もなく、

麗香に相当な勢いで殴られたはずの頭は、コブすらできていない。


ちょっとタイム。

痛くないって、俺ホントは死んでるんじゃね?

もしそうならなぜ零雨がここにいるのか説明がつかねえから、多分ここは現実。

そうじゃなかったとしても、どのみちこの世界で生きていかなければならない。




「今何時だ?」

俺が零雨に問うと、俺が何時か聞き終え、零雨がそれを理解した瞬間が、

午前11時3分56.82631…[中略]…23452秒だったという。


俺がストップをかけるまで、零雨は小数点以下、数字を吐き出すのを止めなかった。


QRコードに続く零雨の無駄な妙技そのニ、超正確な時刻。


麗香も正確な時刻を言えるのだろうか?

旧システムの零雨が言えて、新システムの麗香が言えないはずはないだろう。


それはさておき、このベンチで解散したときは、確か10時半頃だったと思うから、

俺が気絶して夢の中でヒャッハーしてた時間は大体20分くらいか。



俺は立ち上がった。

零雨の持つカートの変形は、

何事もなかったかのように綺麗に元通りになっている。

他のカートとすりかえたかと思うほどだが、

カートには特徴的な傷があり、それがすりかえられたものではないと証明している。


俺はカートを覗く。が、そこには何も入っていない。

つまり俺達は20分ぶんチカ達に遅れてるわけだ。



「このままだとチカ達を待たせることになる。

 さっさと買い物しねえとチカに何されるかわかんねえ。ちょっと急ごう」


零雨はゆっくりとうなずき、購入リストとペンを貸してほしいと言った。


何をするつもりなのかは知らんが、俺は言われたとおりに貸す。


零雨は購入する商品に適当な数字を書いている。



「この店の商品配置から考えると……この順番に回る方が……効率がいい」


いつの間に調べたんだ?

辺りを見回すとなるほど、近くに店内の地図がある。


「それじゃ、その順番で回って行こうか」


俺達はベンチから再出発した。





その直後。

零雨の歩く速さに俺が走って追い掛けるという不思議な構図が出来上がっていた。

その速さは競歩の選手もおったまげるほどで、ほとんど俺は全力疾走に近かった。


零雨はリストに載っている一つ目の商品の売場、トイレ用品売場へと直行。


「零雨歩くの速すぎ!俺がついていけねえよ!」


俺の声に若干速度を落とした零雨だが、まだまだ速い。


零雨はラバーカップの陳列エリアに入ると、その速度を維持したまま、

数あるスッポンのなかから適当に手にとって、カートに突っ込む。



「おい、もうちょっと商品を確かめてから突っ込めよ!」


「コウの家のトイレの……タイプには、私が今……入れたタイプのものが最適」


零雨はそういってトイレ用品売場を通過。


言葉はちょいちょい詰まるくせして、動きだけはスムーズな奴だ。



特急列車【嵩文零雨】は、次の消臭・芳香剤売場駅も停車することはなく、

零雨が適当に商品を突っ込んで去っていく。

俺はバテバテでかろうじて追い掛ける。



エアコン用品売場駅、通過。


ごみ箱売場駅、通過。


箒売場駅、通過と、零雨の速度がスローダウンする気配はない。

誰かコイツを止めてくれ。


そう俺が願っているとはつゆしらず、

零雨は通路の狭い売場に入り込み、高速で歩き抜ける。

走り抜けるのではない。



十字路の交差点に差し掛かろうとしたとき、零雨がいきなり急停止、

零雨の学校指定の黒の制靴から金切り声が上がる。


「え、あ、ちょっ……!」


俺はあまりに急なイベントに対応できず、零雨に突っ込んでいく。

すまん、ぶつかる!!


ドッと零雨の背中に激突した俺。


「ぶつかってすまん」


俺が謝ると零雨は振り向いて言った。


「……構わない。むしろ私にぶつかって……正解」


ぶつかって正解?


俺が前を見ると、80歳ぐらいのばあさんが、

俺達の目の前をよちよちと、愛嬌のある動きでゆっくり横断中。


俺が零雨にぶつからなければ、あのばあさんにぶつかってたわけか。


「もしコウがあの人と……衝突した場合、相手は……全治数ヶ月の大怪我を

 避けることは……できなかった」


「できればお前の持ってるその殺人カートで俺を吹っ飛ばしたときも、

 今みたいに直前で防いでくれたら良かったのだが」


俺はそっと悪態をつく。


「覚えた。この道具の……名前は『殺人カート』」


ちげーよ。

零雨に冗談は通じないのか。

まあ、麗香も理解力が乏しいと言ってたし、今のは俺の落ち度を認めざるを得ない。

電解コンデンサとかいうマニアックな部品の名前は知っていて、

ショッピングカートを知らないのはなぜだ?


「いや、コイツの名前は『ショッピングカート』、略して『カート』。

 今の『殺人カート』は忘れろ」


零雨は頷いた。

頷く返事が多いのは零雨の癖だろうか?


「それから、あの時……私は停止する……発想がなかった。

 停止することを教えたのは麗香」


ほう、俺が気を失っている間にそんなやりとりがあったのか。

麗香、サンクス。


つーことは、俺があの時カートでホームランされてなければ、

零雨はカウキャッチャーのついた蒸気機関車、さっきのばあさんは線路の上に佇む牛、

という関係だったわけだ。分かるよな?


挿絵(By みてみん)


もっとも、こんなに急いでるのは俺が零雨に吹っ飛ばされ、

麗香に殴られ気を失っていたからで、

あのばあさんと会っていたという保証はないが。


「……時間を潰した。

 少しペースを……上げる」


へ?


零雨はそういうとまた(とんでもないスピードで)歩きだす。


「ちょっと速過ぎるって、さっき言ったばっかじゃねーか!」

俺は零雨をまた追い掛ける。






「はぁ…はぁ……」


俺と零雨が集合・解散場所に指定された例のベンチに戻ると、

3人は既にそこにいた。


「コウ遅かったじゃない、どこで何してたの?」

チカが聞く。


「ああ……ちょっと……いろいろあってな……」

零雨に吹っ飛ばされて遅くなったとはとても言えない。


で、チカとジョーが手にしているソフトクリームは誰の金で買った?


「あっ、そうそう。

 コウたち帰ってくるのが遅いから、これ(ソフトクリーム)買っちゃったわよ♪」


やっぱり俺の金かよ。

確かソフトクリームはここでは一個300円だから、二人で600円か。

財布を握らせるんじゃなかった…………

人の財布にたかる豚野郎に!


これはいくらなんでも俺だってキレる。

一丁怒鳴り込んでやらねえと……ただしあくまでもハト派だから

理性が持つ限り暴力抜きでな。


「てめえら……俺が金欠なのを知ってて……ざけんなよ!

 ……俺を……殺す気だろ……帰れ。

 ……こっちは生活がかかってるんだよ!

 てめえらの小遣いみたいに有り金全部自由に使えるんじゃねーんだぞ!」


久しぶりに怒鳴ったな。

チカとジョーは思ったよりも素直に反省してくれているようだ。

その反省が真意なのか、はたまた演技なのか、

そこまで俺は見極めることはできない。


だが、この辺にしておくのがいいだろう。


「………ごめん」

チカが謝った。


「勝手に使った分は返すから」


「いや、もう返さなくていい。

 お前ら、本気で反省してそうだし」

俺が言うと、チカは意外そうな顔をする。


「零雨、今何時だ?分単位でいいから教えてくれ」


零雨は午前11時45分と答える。


「昼メシの時間だな。

 チカ、お前料理できるか?」


俺が聞くとチカは、

「えっ、私が料理するの!?」

という。


「温室育ちのチカには難しいか?」


「そ…そんなことないわよ!私だって料理ぐらい……」


「そんじゃ、今日の昼メシよろしく」


チカに昼メシを作るように頼んだのは、300円分の仕事をしてもらう為に他ならない。


え?300円でその仕事は労働基準法違反だって?

今、俺の持っている100円の価値は、

チカやジョーたちの金銭感覚で言うところの一万円だ。

そう考えると安いもんだろう?



俺は今度はジョーに目を向ける。

コイツには……そうだな、今日の買い物で買った荷物を運んでもらおう。

結構な重量があるから、罰にもってこいだ。


「ジョー、お前は今日買ったやつの荷物運びだ」


「うへぇっ!これ全部!?」


「なんだ、何か文句あるのか?」


「…………」


「はい、お仕事決定」


こうして俺は、見事手ぶらで帰れることになった。



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