第5話 B-76 領主の説得
「急に言われてもなぁ……俺ぁ、難しい話は知らねぇぞ」
ガルの表情は読みにくい方ではあったが、今回ばかりは少し困惑していた。
俺は執務室にガルを呼んで、もうじき応接室で始まるベルゲンとの会話の同席を依頼したのだった。
「俺に何を期待しているんだ?」
そう問うガルに、俺はなんとも答えられなかった。ただ、一人でベルゲンと対峙するような気力もなく、ぼんやりと、そこにいるだけで構わない、精神的に支えてほしい、そういう抽象的なオーダーであったのだ。
「……申し訳ない」
ガルは視線を上向きに逸らして、しばし何かを考えていた。数秒経って、俺も信頼されたって事だな、と呟き視線を俺に戻す。
「――期待が分からない以上、お前さんの思いに応えることはできねぇ。何か言われたら場を読んでそれなりに援護はするつもりだが、かえって俺が場を乱すかもしれねぇ。特にここの領主は切れ者で有名だ。一端の傭兵の年の功でどうにかなるもんでもない。それでもいいなら」
それに異界人のお前には、話が追いつかないこともあろう。ガルはそう言ってくれた。
それだけで俺は十分だった。
*
セイレンの案内で、応接室に入ってきたベルゲンを、俺とガルは立って出迎えた。
心臓が締まる思いだった。
「久しぶりですな」
そう口にするベルゲンは無表情だった。彼の落ち着いた――目の据わった眼差し。少なくとも、リンを失い、グレアの意識が戻っていない状況で、俺達も笑顔で出迎えられるような状況ではなかった。彼も状況を理解してそうしているのかもしれないが、これから切り出されるであろう話を思うと、別の意図もあるように見えて、背筋が寒くなる。
俺はひとまず、日本流にベルゲンを先に座らせた。
「ああ、どうも」
ついで俺達が腰掛け、テーブル越しに顔を合わせる。一瞬の気まずい空白の間を、切り裂いたのはベルゲンだった。
「そちらは?」
「お初にお目にかかります。アダチ様の護衛として雇われたガル・シグニスと申します」
「あぁ、あなたが。噂には聞いていた。なんでも盤外戦で勝利したとか」
「もはやこの歳となると、もはや力は若い者には及ばぬゆえ」
ベルゲンの盤外戦とは、ガルが護衛選びのためのイベントで雇われたわけではなく、直接俺達に売り込みに来て交渉してきた、そのやり口のことを指しているようだった。
「私も政務院から報告を受けたときは、それを受け入れる意向だというアダチ殿の大胆さにも驚かされたものだが。確かに旅において力や技ではどうにもならぬ、智をもって制さねばならぬ場面もあろうな。身の上は調べさせてもらったが、驚くほどに何もなかった」
結果としては悪くない選択だったのかもしれんな。ベルゲンはそう言って両手を組む。これから本題に入るのだ。俺は生唾を飲んだ。
「しかしお付きの者ではなく、ガル殿がここにいる理由に興味を引かれますな。何か理由があってのことかな?」
「ええ。アダチ様は異界の者でありますので、この世の理には疎いのは致し方なく、今までグレアが水先案内の役を背負い補っていたようですが、いまや彼女も倒れておりますので。畏れ多くもアダチ様より、次鋒として」
それは、と言いかけた俺より先に、ガルが答える。とっさに出たもっともらしい理由のように見えて、彼の回答は言語化できなかった俺の本心を見抜いているかのようだった。
「よほど信頼されているのだろうな。アダチ殿も心強かろう」
実際、そう答えたベルゲンはその回答に納得した様子だった。
「私がここに来た理由の一つは、グレアの見舞いだ――その理由が分かるかね」
俺は頷いた。隣に座るガルは俺を横目で知らんぞ、と言うように見るだけで何も言わなかった。
「アダチ殿との手紙のやりとりでも分かっていたが、やはり実直な男だ。その様子、周囲の誰にも話をしていないのであろう?」
ベルゲンが言う。
実際、俺はグレア――ユリカが高位の貴族の家の出であることを本人から告白された話は、仲間内にそれを打ち明けるような機会もなく、まだ俺の心の内に留めていたのだった。
彼女の意向に沿うか分からない状況を思えば、そういう話を俺が勝手に言いふらせるわけもなかった。
「グレア――ユリカは貴族の家系、それも高貴な家の娘だ。本来ここで給仕として働くような身分の者ではない。私は深い縁あって彼女を匿っている――ユリカにとってはここも、もはや安全とは言えなくなったがね」
「……知っていたのか?」
「前に」
俺の返事にガルは特に言わなかったが、鼻で一息深く呼吸してみせた。それはため息を抑えたようであって、実際その解釈で正しそうに俺は思えた。
「彼女はガラスを自在に操る能力を神使様から授かっていたようだが、それが災いの元でもあった。政争から逃れるため神都からここに逃げてきた彼女を、私は匿ったのだ。しかし、アダチ殿の身に危険が及ぶとなれば、彼女はガラスの力を使わざるを得なかったのだ」
ベルゲンは端的に彼女について語り、そしてガラスの力という特徴的な能力がいかに目立つかということを話した。それが、ベルゲンがユリカにとって、ここが安全ではないとする根拠だった。
「ここナクルにも、敵対していたセレス家の一味がいるやもしれぬ。神都も危険だが、アダチ殿と一緒に居れば、相手も下手は打てまい。なにより、彼女の家系――バルザス家は健在だ」
ベルゲンは続ける。
「残念ながら、私はユリカを大手を振って守れる立場にない。ナクルは危うい力の均衡の上に成り立っている。ゆえに、私は彼女をアダチ殿の飛行艇とやらに乗せて、神都の両親の元へ一度返そうと思うのだ。ここも、神都も、どちらも危うい。しかし彼女の希望は神都に還ることだ。彼女が還るにはいささか若すぎるとは思うが、私はその思いを、一人の人間として尊重したい」
もっとも、彼女の意識が戻れば、という話だが。ベルゲンは付け加えた。
グレアは、近いうちに意識が戻るだろう。医者からそう言われていることをセイレンから聞いていた。
ガルが尋ねる。
「アダチ様のご意向は?」
「俺は、彼女の願いを引き受けるつもりでいる。グレア――ユリカを非公式の護衛として忍ばせて、連れていくつもりだ」
その言葉に、ベルゲンは静かに頷き、ガルは下唇を噛む仕草を見せる。そして今回は、ガルはため息をついて一言、なるほど。
「短い間ながら、私がユリカ様とお供した時間のご様子を思えば、そのご意向というものが、よく分かる気がいたしますな」
ガルもこの展開は予想していなかったのだろう。ガルの言葉は少し苦々しいニュアンスが聞き取れた。そうかもしれない。護衛対象は俺だけだと思っていたら、グレアが増えるのだ。待ち受ける危険が大きくなる可能性も否定できない。
ガルだけではない。ブロウルにも、クラリにも負担をかけることになる。
もっとも、グレアは彼女なりに身の不安を感じて戦う術を身につけていた。それは彼らにとって少しは安心材料かもしれないが、不安を打ち消すには足りないのではないかと俺は思う。
それでも。
「ベルゲン様、ユリカ様のご意向、深く共感いたします。必ずや、アダチ様とユリカ様を神都まで送り届けてみせましょう」
ガルは堂々と言い切った。それは予め用意されたセリフを読み上げるかのように、迷いなく。
心強いな。ベルゲンはそう言って何度か頷くように頭を揺らした。
「――して、亡くなったリンという少女についてだが、アダチ殿がこの世に落ちて、初めてその身を案じ、自宅に招き入れた温かい人柄であったことは私も聞き及んでいる。私が徒に踏み込んで、アダチ殿の癒えぬご傷心を抉ることはとてもできぬ。ただただ、哀悼の意を表したい。葬儀については、こちらで段取りを」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
一気に涙が吹き出る。ベルゲンは、彼女がエルベシアだったことを知っているのかは分からなかった。ベルゲンの言葉が形式的なものだったとしても、一際ゆっくりと、落ち着いて語りかける声色で、最後まで苦悩に苛まれていたリンが、少しだけ報われた気がした。
数秒の沈黙。目に浮かんだ自分の涙を指先で拭った。
鼻をすすって、俺が一息落ち着くのを、ベルゲンは黙って待ってくれた。
「アダチ殿。私がここに来たもう一つの理由――これからの飛行艇のことも、話さなくてはならぬ。よいかな」
「……はい」
いよいよ、本題に入る。ガルが再び俺に一瞬目を配った。
何を言われるのか、想像つかなかったが、今のベルゲンの口調ならば、受け取れるような気がした。
「昨日の防衛軍の無礼について、申し訳なく思う。彼らは間違いなく防衛軍の者――私の部下である。ゆえに、あの無礼は私の落ち度だ。どうか、お目こぼし願いたい」
ベルゲンは頭を下げて静かにそう謝罪した。
しかしながら。ベルゲンが続けて不穏な言葉を続ける。
「しかしながら。アダチ殿の意見について、私は報告を受けた上で、それでも、もうこうするほかに手はないと、私は思うのだ。アダチ殿は、異界の出ゆえに、この世に疎いのは致し方ないが――」
ベルゲンは告げる。予算が逼迫していることも、出立の予定期日に間に合わないのも承知している、と。
飛行艇の開発資金の原資は、ナクルに住む民からの税であること。その税金が何に使われているかに衆目が集まるのは当然の成り行きであって、相当大きなカネが流れ、大がかりなことをしている以上、否が応でも目立つのだと。
「税からの拠出に対する分かりやすい『効果』がなければ、たとえ必要な支出であったとしても、私に対する不信感が高まってしまう。これは、私の身分の問題のみならず、ナクルという都市の安定に関わる問題なのだ」
ベルゲンは続ける。
「工業ギルドは確かに技術を蓄えているのであろう。貴重な異界の技術を授かるのは願ってもない話だ。しかしそのような無形の財産を、民衆は見向きもしない。正しく言うなら、人々には見えぬのだ。分からぬのだ。分かりやすく目に見える成果になって、ようやく評価されるかどうかの舞台に立てるのだ」
分かりやすく丁寧に語るベルゲンの内容に、俺は何も言えなかった。
ベルゲンの言葉は、重い現実だった。俺は言われて初めて、今まで忘れていた民衆の視点に気づかされる。俺自身も日本ではよく分からない税金の使い方に首を傾げていたはずなのに。資金の源泉が為政者からのものである以上、それはすなわち税金だということも、少し考えれば分かるはずなのに。
自分の立場に集中するあまり、それらが見えていても、どうすべきかまで知恵が十分回っていなかった。
歯が立たないと思った。
グレアとの会話でもこの観点を中心に据えられなかったのは、俺も、グレアも、税金を払う民の視点から遠く離れている立場だったからなのだろう。
為政者でありながら、立場に甘んじることなくバランスを取ろうとしている目の前のベルゲンに、俺は遠く及ばない。
「アダチ殿が作ろうとしている飛行艇は、状況をもっと難しくする」
ベルゲンは言う。
ここ、ナクルの属するレムノア王国は、隣国のヴォルグラド帝国と過去何度も戦争を繰り返していると。ナクルは辺境ながらヴォルグラド帝国との国境に近い街であり、砂漠に面した厳しい環境ながら、高度な工業技術を持ち、貿易ハブ拠点という高い価値から、歴史上過去何度も侵攻の憂き目に遭った経緯があると。
俺はこの国の名前までは知っていたが、周辺の地政学的な事までは詳しく知らなかった。自分の身の回りのことに集中していたから、といえば聞こえは良いかもしれないが。
「そして飛行艇は、私が理解した限りでは、大重量を高速で運べる潜在能力があり、それはアダチ殿も承知の通り、交易のみならず軍用においても絶大な影響を及ぼす」
これは致し方のないことだが、とベルゲンは前置きをした上で、開発体制にも構造上の課題があることを指摘する。
「知っての通り、ナクル工業ギルドの実態は個人の工房の集合体にすぎない。飛行艇の技術情報について、統制しようにも限界がある。人の口に戸は立てられぬ」
確かに、飛行艇の開発情報は、税金の使い道の件と相まって、市井の人々の噂となっていた。
そもそも俺も、開発に携わる人々も、これが秘匿すべきプロジェクトだという認識はないままだった。
「貿易で商人がやりとりするの食料や道具だけではない。市井の情報も重要な商品なのだ。物流に乗って情報も都市外、国外へ流れていく。現に、政務院にさせた調査では、商人が飛行艇の開発情報を手に入れて、交易に使っていると報告されている。それが歓談のうちであったとしても、耳にした相手がどんな行動に出るやも分からぬ」
さらに、ベルゲンは語る。
不触石はこの近辺で豊富に採掘できる資源だが、大して利用価値のないものだった。子供のおもちゃとか、懐の暖を取るために使われるとか、その程度の価値しかない鉱石だった。
しかし、今回このように魔法の原動機として活用できる価値を見いだされた。
飛行艇の技術を持ち、原動機に必要な資源も揃っている地があれば、ヴォルグラドも黙って見ているわけにはいかないだろう、と。
工業ギルドの技術力と資源を狙われて侵攻の憂き目に遭う可能性が高い、ベルゲンがそう見立てていることを、俺に伝えていた。
「アダチ殿の平和に対する思いは、方々から聞き及んでいる。私も同じ思いだ。私の判断一つで、散っていく兵士、女、子供――老若男女の命を思えば、いかでか枕を高くして寝られよう」
「しかし理想を語るには、もはや遅きに失した。アダチ殿のいた世界の人々ほど、我々は立派ではない。今や平和を語る段階にはなく、現実に差し迫った安全保障の問題となりつつあるのだ――実際、ヴォルグラドの連中が怪しい動きをしているという報告もある」
さすがに無理だった。
俺は、飛行艇の実力は、完成して世に出て初めて認知されるものだと思っていた。だから、完成するまでは安全だと。完成して、その性能が明らかになってからが本番だと。飛行艇の性能を世界が認識するまでには、十分まだ猶予があると。
現実は自分が想定していたシナリオよりもずっと早く、深く、そして遠く想像の及ばないところまで影響していた。
「すみません。俺、どう責任をとったらいいか……」
誤算だった。ベルゲンになんと謝ればよいのか分からなかった。
飛行艇は神都に行くために必要だった。たとえ、飛行艇の計画を中止しようにも、原動機の技術は完成してしまった。産声を上げた機械文明の萌芽を、もはや摘み取ることはできないことを、感覚で理解した。
取り返しがつかなくなっている。握る手の爪先が手のひらに食いこむ。
今まで淡々と話していたベルゲンは、口を閉ざした。しばらくの間の沈黙のあと、一呼吸をおいて、ベルゲンは口を開く。
「アダチ殿、歳はいくつであったかな?」
「――十七です」
「アダチ殿。私は、十代の若者というのは、将来に希望を抱き、夢を追うものだと思っておる。親元を離れ、仲間との絆を深め、少しばかりの冒険をして、世の中を知る最初の一歩を踏み出すことが本分であると思うのだ」
「大きな組織を取りまとめ、年上の職人に頭を下げ、直面した難題を捌いて計画を推し進めるのは、大人であっても並大抵のことではない。ましてや少年を抜け、青年になって間もない齢のアダチ殿が、ここまで物事を進め、世に影響を与えていることは、私にとっては実に驚異的なのだ」
「アダチ殿に瑕疵があろうと、誰が責められよう? アダチ殿に成り代われる者など、私を含めてこの世には存在せぬのだ。自らの意見を持って他人と対話し、私への返信も欠かさず、日夜仕事に励む――身の丈以上のことを十二分にこなしていると、私は思う」
「元来、周囲の大人がアダチ殿を補い支えるべきだ。その任から目を背け、アダチ殿一人にすべてを負わせているのではないか。私にはそう思えてならんのだ」
「故に、私はここにおる。私が動く口実を手に入れるのに時間がかかってしまったがね。不運の直後で申し訳ないが」
俺は黙って聞いていたが、目から涙が流れることだけは止められなかった。痛み入るとは、このことなのだろうと思った。
ベルゲンは、今までの飛行艇の開発予算は、街区振興予算――街の治安維持や活性化のための区分から拠出していたと言った。こちらはこれ以上使えば、住民の生活に悪影響が出かねないため、もう使えないのだという。
一方防衛軍の予算は別に計上され、その額も大きくはある。しかし飛行艇の性質上、みだりに防衛軍の予算に手をつければ、都市ナクルの国への忠誠が揺らぐ――飛行艇を用いて反乱を起こすのではという疑いを持たれてしまう。
だから、ベルゲンはヴォルグラド帝国の不穏な動きを、国の中枢機関、監査機関でもある政務院にまず認めさせ、正当な予算行使の口実を用意する必要があったのだと説明する。
「アダチ殿。私は飛行艇を手に入れたい――いや、手に入れなければならぬ。ナクル防衛軍が飛行艇を手に入れ、将来の侵攻に対し備え、牽制する。誓ってこちらから手出しをするような野暮はしない。約束しよう」
ベルゲンはさらに言う。
防衛軍の装備の強化は、目に見える成果となる。
あの自走する荷馬車も、ベルゲンの管理下で計画的に生産して恩恵を人々に与えるようとりはかると。
多額の税の使い道も、民衆の理解を得るには時間はかかるだろうが、その成果をその身で感じ、いずれ誇りに変わるだろう、と。
「アダチ殿。先も伝えた通り、私はバルザス家に縁がある。魔法動力、飛行艇での成功という功績は、時間はかかるだろう、しかし必ずや神都に着いたあともアダチ殿とユリカの盾となる」
「だからどうか、私を信じて、飛行艇の技術を渡してはくれないか」
それでも、飛行艇の技術を渡すには、多少のためらいがあった。方便を並べているだけではないのかという不安も、心のどこかにあった。
俺はガルの顔を見る。ガルはベルゲンの顔を見ながらずっと黙って聞いているだけだった。
一瞬、俺に目を向けた。少し口を引き締めるような素振りを見せ、彼の渇いた口が開く。
「アダチ様。私は傭兵稼業を数十年しておりますが、傭兵にとってナクルは退屈な街でございます。あるときこの街で用心棒として雇われたことがありますが、いたって平和そのものでした。我々のような荒くれ者が出る幕などないのです。駆け出しの傭兵が集うような街でございます。隣国の脅威がありながら、このような安定した街を維持できるのは、ひとえに領主ベルゲン様の卓越した手腕の賜物でしょう」
ベルゲンはガルの発言に表情一つ変えず、俺の反応を見守っていた。
ガルは、ベルゲンがいかに優秀な領主であり、それは長年の実績の上に成り立っていることを伝えた。
「そうか……」
決断をせねばならない。
ベルゲンを信じて技術を明け渡すか、俺の理想を堅持するのか。しかし、ここで強情になってベルゲンの手を払いのけたとして、飛行艇の代金を払える財力は自分にはない。
そして俺の理想を、完全ではないにせよ、引き継ごうとまでいってくれているのだ。
「――わかりました。提案を受け入れます」