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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
キカイノツバサ ―不可侵の怪物― PartB
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第5話-B74 帰れ!


 俺が迎賓館への立ち入りを許可して少し経ち、ロイドとセイレンが迎賓館の正門へゆっくり歩いていく様子を、執務室の窓から眺めていた。

 正門前に三列で並んだ防衛軍の陣形は一糸乱れず、遠巻きに流れる俺達には美しい長方形にさえ見えた。


「二人もなかなか焦らすなぁ」


 隣で同じ景色を眺めていたガルが呟いた。飛んでいけばすぐに門を開けられるものを徒歩――つまり牛歩戦術で時間稼ぎしていることについての彼の感想だった。

 時間稼ぎをしているのは、来訪に俺が対応する準備時間を稼ぐためなのだろう。


「本当に大丈夫か――今ならまだ引き返せる」


 ガルは確認するように俺に声をかける。


「俺は新参者だ。まだ飛行艇計画の状況もイマイチよく分かっちゃいねぇ。グレアの嬢ちゃんみたいな気の利いた援護はできねぇぞ」

「っ、問題ない」

「へぇ強気だねぇ」


 いつか来るだろうと思っていたことだ。

 俺自身も弱っている。信頼していたグレアもいない。迎賓館もまだ静かに慌ただしい。状況はどうみても良くない。

 ひねくれた見方をすれば、防衛軍は俺達が弱ったところを突いてきたわけだ。単に双方タイミングが最悪なだけかもしれないが。


「若気の至りにならなきゃいいが」


 その場しのぎには、ガルの助言通りに動く方がいいのだろう。

 今は都合が悪い、あとで話を聞くから出直してくれ。俺が直々に言いに行けば、相手も納得するだろう。

 加えてわざわざ俺に言わせたとなれば、防衛軍の世評にも多少の影響はある。


 しかし、防衛軍は良くも悪くも飛行艇開発の協力者(パートナー)なのだ。

 腹でどう思っているかは知る由もないが、「仲良くやっていきましょう」という体でやりとりをしている。

 入門を許可したのは、粘り強く開門を要求した理由が、万一の火急の事態を伝えに来たからだという可能性を考えてのことだが、それだけじゃない。相手を立てる必要もある関係なのだ。面倒くせぇ。


「お前さんの切り替えの努力は評価するが、言っちまえば単に強がってるだけだってことを忘れるなよ」


 門が開くその瞬間を眺めながら、ガルはそう言って葉巻を口にくわえた。

 俺も、火急の可能性と、相手のメンツだけで開門を許可したわけじゃない。


 “アダチ。仲間には自分の限界や弱味を見せるものよ。でなければ、仲間はあなたが危ないってことさえ分からないわ。

 でも敵に限界を見せちゃいけない。底の見えた相手ほど、やりやすい相手はいないの。”


 ある夜、この部屋でグレアが偉そうな口調で俺に語った言葉だ。対応策はある。


 ――毎日ギルドから迎賓館に帰ってきて、夜遅くまで俺は何をしていたと思う?

 進捗が遅れ、費用の膨らむ飛行艇計画を改善する糸口を探っていたのだ。

 上がってきた技術的課題をどうすれば解決できるか、日本にいた頃を思い出して、ヒントを探していたのだ。

 交渉が想定される関係者との想定問答と、交渉を有利に進める計画を練っていたのだ。


 「これがうまく進めば大丈夫」などといった楽観的前提のもとで計画を立てることほど、無意味で愚かなものはない。

 最悪が現実になることを前提に動かなねばならない。それを飛行艇計画で学んだのだ。



 ならば、いつ来るかもしれない事態を、何もせず放置してるだけなんておかしいだろ?



 ギルドの人間に考え方が悲観的(ネガティブ)だと言われることもあった。悲観的で結構。

 楽観的予想を基に進めて失敗して「想定外でした」とのたまうことほど愚かなことはない。


 俺の机の引き出しには、グレアとまとめたノートと羊皮紙の紙束がある。

 それらは漢字で書かれている。俺以外に漢字の使い手はいない。つまり暗号化されている。

 飛行艇の軍事転用に使われそうな交渉パターンと応対など、とうに準備済みなのだ。

 やり合う立場は常に対等、あるいは俺達が優位。グレアの助力とともに、そういう立ち位置を作ってきた。


 つまり俺は想定パターン通りに喋るだけで十分。小学生でもできる。

 想定外のパターンに対する応対も一貫している。その通りにやれば、その場の会議で大敗を喫することはまずない。



 そう、戦うのは今の俺じゃない――過去の俺とグレアだ。



 ここまで入念に準備をしたことは人生で初めてだ。

 それは飛行艇計画に従事する工業ギルドや関係者を守るべき――胃を痛める立場に立たされている俺の、俺なりの守り方なのだ。

 グレアに意地悪な質問や状況を投げられて鍛えられた資料。二人で時間を掛けて作ってきたものが無駄じゃないと信じている。


 俺は誰からみてもピンチと思われているこのタイミングでやり返してこそ、有利に進められると思うのだが、グレアなら俺をどう評するだろう。蛮勇だろうか。

 資料がダメだったときはどうするかって? 決まってる。おとなしく白旗を揚げるのさ。

 ない知恵絞って時間掛けて準備してダメなら、もうどうしようもないだろ?



 俺が火をつけようとする葉巻に目をやると、ガルは手を止めてきまりが悪そうに葉巻をケースに片付けた。


「俺も老婆心とやらで話の場に出て援護してやるつもりだが、出たらそこで一服させてくれ。ケムリ臭くてすぐ帰るだろ」

「別に構わないが……人払いを要求されたら?」

「外で吸う」

「単に吸いたいだけか」

「そうだな」



ガルが喫煙者なのは知っていたが、いまほど葉巻の臭いを強く身体に染みつかせているガルを、今まで見たことがないことに、ふと気がついた。

 ガルに申し訳ない気持ちを抱いた。


 執務室に入ってきた防衛軍は、担当者を名乗るおっさん一人と、取り巻きの兵隊六人の七人だけだった。

 門から入る様子を見ていたが、どうやらロイドが気を利かせて人数制限を掛けたらしかった。残りは門の外で待機というわけだ。


「多いなぁ……」


 彼らが入る様子を見たガルが悠長にぼやいた。

 武装した兵隊六人の圧は強烈。体格のいい兵、紫のラインで意匠が施された大型の革と布と金物の鎧、心理的な圧迫感を抱かずにはいられない。

 そういえば、この場で連行されたり処刑されたりするリスクについて考えていなかった。

 しまった、判断ミスかと思ったが、もうなるようにしかならない。


「こんなに大挙して押し寄せるとは珍しいな。社会科見学はやってないんだが」


 自分を殺して口角を上げる。


「ええ、彼らもぜひ貴方の顔を拝みたいと」


 相手の表情は動じない。

 一言交わして分かる。あっ、こいつ強い。ヤベーよどうすんだよ。内心焦る。

 「社会科見学」なんて皮肉を使ったのは俺の機転だ。この世界には恐らくまだ存在しないだろう単語。

 未知の一言の解釈のために防衛軍がどれだけ困惑するか試したのだ。

 それに対し、言葉に惑わされず、こちらの意図を状況(コンテキスト)から瞬時に推測して間髪を容れず返答、それも的確に返してきたのだ。


 俺は今からこいつらと対峙するのだ。勝てる気がしねぇ。

 悟られぬように一つ一つの動作を丁寧に、執務机の上に資料を置き、羽根ペンとインク、それからメモ用の羊皮紙を三枚。震え始める手を押さえこんだ。

 大丈夫だ。負けなければいいだけの話だ。相手も同じ人間、話の分からない人間ではないはずだ――同じ人間(・・・・)


 俺の隣にいるガルが葉巻を咥えた。

 それを見た防衛軍は人払い、つまりガルの退室を要求した。


「とても重要な話ですので、密室で行いたいのです」

「……はいよ、承知」


 やれやれといった様子で手をヒラヒラさせながら、ガルは葉巻に火をつけて部屋を出ていく。

 俺は頭の回転の速さに彼らがELVES(システム)ではないかと疑いながら見ていた。

 相手が人間だろうと、ELVESだろうと俺の対応は変わらな――


「あぁ、そうだ」


 その道半ば、ふと思い出したように足を止め、振り返って兵達を細い目で眺める。鼻から白い煙をひとしきり吐いて言った。


「そういやお前ら、密室でやりたいんだろ。出てかねえの?」

「…………。」

「へぇ、ずいぶんなご身分だねぇ」


 ガルは硬直した空気を見て皮肉を吐き、葉巻を一息吸って、静かに部屋を出て行った。


 カタン。閉まる音を聞いて、少しの沈黙。

 遅れて兵隊も引き上げるかと思ったが、その気配もない。


 ガルが俺に伝えた、この状況の異常性。

 街を歩いていてたら、いつの間にか雑居ビルの個室に連れて行かれて、高価な美術品を買わないと出て行けない部屋に連れ込まれたような感覚になった。

 そこに誘い込まれるならまだしも、わざわざ出向いて自室をそういう空間に仕上げてくれるんだから最悪だ。


 そうだ。彼らは今わざとその状況を作り上げたのだ。

 今のところ、彼らの想定通りの状況、俺は術中に嵌まっているのだろう。

 この横暴な態度にだんだん腹が立ってくる。

 表情に出すな俺。あくまで冷静に理知的でいるんだ。


「俺は今、最高に気分が悪い。なんなら今ので相当機嫌も損ねたし、話を聞く気も失せた――これは、ナクル防衛軍という組織として見せる、俺に対する態度と見なして間違いないな?」

「お待ちください、アダチ様。これにはちゃんとした理由がございます。とても重要な話ですので『言った言わない』で不要な争いを避けたかったのでございます」

「そのための証人が彼ら(兵隊)とでも言いたいのか?」

「――さようでございます」


 ならなぜガルを追い出した。傭兵という(信用ならない)立場だからか?

 だとして証人は六人も必要か? 外で待機している十数人もそのために連れてきた?

 あまりにも人数が多すぎて納得できない。

 さっきまでの戦慄は俺の杞憂か、あるいはこれは無能を演じる相手の作戦か。

 いずれにしても相手は俺の気分までは考慮に入れてくれないらしい。


「たしかに証人が六人いるのは都合がいい――利害に関与しない、信頼できる第三者だったらな」


 話をするまでもない。

 防衛軍側の人間を証人に連れてきて、言った言わない論争が解決するわけがない。

 言い方は悪いが、元から買収されているようなものである彼らの証言など、クソの役にも立たねぇし、万一そう信じていたとするなら、ガルを追い出す理由にはならない。


「帰れ。防衛軍は、もっと紳士的で物分かりのいい組織のはずだ。こんなヤカラじみた真似をする集団ではない」

「お待ちください。我々は確かに防衛軍の者で――」

「そうか。では名乗れ。ここに立つ兵士も含め全員だ。防衛軍に書面で照会の上、必要に応じて抗議する」


 そうして彼らから恐る恐る名乗ったその名前を一人一人、記録する。

 リンが亡くなった翌昼に、いったい俺は何をしているんだと脱力したくなる。元気も気力も何もかも吐き出して、何もない身体から吐き出すものを絞ろうとしているように気持ち悪い。


「名前は確かに把握した。立ち去れ」

「アダチ様。どうか、どうかお話を聞いてください。アダチ様は絶対損しません。巨額の資金が動く話でございます」


 うさんくせー……

 言い方がまんま怪しい商法で、反射的に言葉が喉まで出かけたが、幸いそこで留めた。


「それは危急の話なのか? 門前で断ったはずだ」

「巨額でございますので、一刻も早い方がいいと……」

「よく分からん。異界人ゆえ疎くて申し訳ないが、そういう文化なのか(・・・・・・・・・)?」


 あまりにも無礼なので素面に戻ってしまった。サンキュー防衛軍。

 ある意味異常な心理状態から連れ戻してくれた彼らには感謝すべきだ。なんてことしてくれやがった。

 しかも、どうやら彼らはその話をするまで帰る気はないようだった。もっとも、引き出しに入れておいた拳銃を使えばその限りではないだろうが、それは防衛軍と喧嘩別れ(戦争)になることを意味する。手を出した方が負けなのだ。


 それをいいことに彼ら――もとい渉外担当と名乗るモウヴという商人じみた男は、頼まれてもないセールストークを始めた。

 もはや冒頭に感じたような脅威はどこへやら。


「――つきましては、今後の製造において独占的な製造に関する権利の確約を要望しており――」

「…………。」


 何でもかんでも強引にやれば、自分の思い通りに進むとでも思っているのだろうか。

 ここまでは結果的に彼らの思い通りに事が進んでいる。心臓に毛が生えているだけでこんなにも強いものなのか。植毛したいね。


 結局、防衛軍の要求は、飛行艇の設計図および製造権・今後新規建造を行う飛行艇の使用権を独占的に譲り渡すというものだった。

 その見返りは開発資金提供・見返り料として、まず合計四億レルを一括提供。それ以上の費用がかかる場合は飛行艇開発完了までの資金投入というものだ。


 どうしてそんなややこしい見返りにするのか理解に苦しんだが、無尽蔵に並ぶ御託を聞きながら考えればピンときた。

 要は最大四億レルを自分のポッケにナイナイしていい、つまり宝くじ一等に相当する億単位のカネをやる、ということだ。


「――では、これに署名を」

「質問」


 散々気持ちよさそうに喋ったあと、さも当然のように差し出された契約書。

 それを受け取って口を開く。しばらく黙って聞いてたせいで上下の唇がくっついたわ。


「なぜ飛行艇を欲しがる?」

「はい。我々防衛軍が安定した発注を行うことによって、工業ギルドの獲得した技術の保全、ならびに機械産業の保護を目的としております」


「いや、防衛軍の利用用途を聞きたいんだが」

「獲得した飛行艇は防衛軍の活動支援に用いたいと考えております。防諜のためでもあります」


 グレアはすげぇと思った。

 早速想定問答に従って質問を進めていくが、彼女が想定した回答バッチリそのまま返ってきた。防諜というワードはなかったが。


「防衛軍の活動支援を具体的に聞きたい」

「個々の具体的な内容はお伝えしかねますが、防衛軍の活動全般にわたって広く活用していきたいと考えております」


 覚えてる。この問答は俺が想定したやつだ。

 政府が似たようなコメントをしてたのを思い出して書いた。

 いくつか問答に従って質問してみたが、概ね想定通りの曖昧な返答で終始していた。

 攻撃したいとか、嫌いなあいつらをブチのめしたいとか直接的に言わないあたり、防衛軍も俺のプロファイリングはある程度しているようだった。いや、それが普通か。



 しかし底は見えた。

 元々防衛軍にとっては飛行艇は喉から手が出るほど欲しいものだろう。

 しかし俺が多くの権利を持つ飛行艇。兵器転用に消極的姿勢をとる以上、防衛軍にとっては不利な立場からスタートする。

 そこで交渉を極力有利に進めるために、あえて人数で押しかけて圧をかけてきたり、ポッケナイナイできそうな条件にしてみたり、強引に署名を迫ったりしたのだろう。


 もうちょっと回りくどく巧妙な手で迫ってくるかと思ったが、そうでもなかった、というのが感想だった。


 想定問答から、今回の質問の回答に従った意見をモウヴに伝える。

 伝えた内容は以下の五点だ。


 ・工業ギルドは技術獲得と継続的な保全に意欲的であり、現状保護する必要がないように思える。


 ・飛行艇については、防衛軍の言うとおり幅広く活用することが可能な代物。

 防衛軍がこうして訪問しているとおり便利な代物であるから、軍用のみならず一般に対しても使用権を開放する方が、機械産業保護の観点でも防衛軍の払うコストが低くつくのでは。


 ・設計図の譲渡は、今後のナクル工業ギルドにおいて基礎技術からの応用や発展の芽を摘むのではないか。


 ・飛行艇の技術は一朝一夕で盗める代物ではなく、ナクルの基礎工業力と職人の技術の賜物であるから、設計図だけでは製造は困難を極める。

 戦争でも仕掛けるつもりでもない限り、飛行艇保有の事実等を隠蔽する必要はないのでは。


 ・政治的な内容にはあまり明るくないし、こちらがものを申す立場にはないと考えているが、地方自治領であるナクル防衛軍のみの戦力が強化される点について、国内あるいは近隣諸国の混乱を招くことを心配している。


「――契約書はこちらで保管しておく。こちらとしても急な話だ。内容を精査した上で判断したい」

「はい。しかし、回答はできるだけ早く、明日中に回答をお願いいたします」

「分かった。回答が間に合わず日付が変わった場合、話は白紙とみなしてほしい」


 俺がイエスと言うまで帰らない覚悟でもしていたらどうしたものかと一時は考えたが、彼らはそう話の決着がつくと、すんなりと帰っていった。


「あぁー……」


 ドアが閉まった音がしたことを確認して、それからさらに一拍空けてうなだれる。

 両手で顔をマッサージするように一通りぐしゃぐしゃにして、それからイスの背もたれに体重をかける。


 やっと終わった。やっと帰ってくれた。

 背もたれに身を預けたまま、目線を下げて机の上にやや乱雑に整頓された資料を眺める。

 「飛行艇の軍事転用を防ぎたい」なんてお気持ちだけでは、彼らの言葉をいなすことはできなかった。資料を準備していなかったらどうなっていたことか。


「…………。」


 確かに資金は俺の弱みであり、困っているところだ。開発の生命線である。人と材料が揃っていても、支払うお金がなければ飛行艇の開発は止まる。

 だからといって、防衛軍からの取引の話には期待しない。


 ……おかしな話だろう。

 防衛軍の提案を受け入れれば、資金面の不安は簡単に解消される。そのうえ宝くじの一等レベル――四億レルまでくれる。相手が違っていれば飛びついていただろう。

 あって損はしないだろうが、飛行艇を破壊的な行為に使ってほしくない。


 液晶画面の向こうで市街地に投下される爆弾。

 掃射から逃れるためクルマに逃げ込んだ親子の屋根に、ふざけた機関砲の雨。火だるまのクルマに「火葬の手間が省けたな」笑う無線。

 昔、ひょんなことで見ちまったリーク映像が忘れられない。


 ……それに。

 リンが生き返ってくれるなら。優しいその目に空襲する飛行艇の大群を見せたくない。

 この世界を少しでも守れるなら、俺に四億は必要ない。



 無駄なあがきだろうがな。




 ――ダメでした。ただの若者とタカをくくっていましたが。

 噂通り、戦闘で使われることに抵抗があるようです。カネをちらつかせても全く反応しません。やりづらい相手です。

 事前に準備されていたらしく、何らかの資料のようなものを読み書きしていました。

 文字は読めませんでしたが、彼の言い回しの違いが内容によって規則的に変化したことから、彼に入れ知恵している者がいると見て良いようです――はい、おそらくあの女と思われます。


 ――いえ、彼本人もなかなか利口です。教養もあります。私の所感ですが、下手な教育を受けた貴族より優秀やもしれません。

 しかし心理的な圧力には弱いようです。圧力に一時は抵抗を示しましたが、屈しました。


 ――はい。彼は優しすぎます。


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