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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
キカイノツバサ ―不可侵の怪物― PartB
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第5話-B50 キカイノツバサ バカ二人


 燃えさかる船の中に人がいるかもしれない。

 そんな話を耳にしたあと、すぐにザグールも同じことを口をしに俺達のところに来た。


 ――そう報告しに来ただけだ。

 誰も俺達になんとかしてほしいなどとは一言も口にしなかった。

 俺は要人扱いで、グレアやクラリは俺を守るためにいる。ただでさえ数の少ない要人とその配下を危険に晒すようなことを、誰も口にできるはずがなかった。


「ボス、俺達ならやれる」


 そう力説する一人の馬鹿野郎を除いて。正義感に駆られる男は、なまじ実力があるがゆえに口走る。

 そもそもさっきからボスという言葉を連発している彼だが、あれは俺が教えた言葉だ。その語感が良かったのか知らんが、彼はひどく気に入ったようで、俺のお気に入りの呼び方になったらしい。


「誰が閉じ込められているのか知らねぇけど、そいつ俺達の関係者なんだろ? いや関係者だとかそんなのはどうでもいい、誰かが助けを求めている状況を、みすみす見捨てておけるかよ。なあボス!」


 彼はわだちの荷台に腰掛ける俺に説得させようと、握り拳で自らの胸を力強く叩き強調し、熱弁を振るう。

 俺の隣に座るクラリは、そんな彼の様子と、彼の隣で徐々に賛同できない様子を明らかにしていくメイドの様子に目を交互に移しながら話を聞いていた。


「ブロウル、あなたが今いる立場を少しは考えたらどう?」


 眉をハの字にしてため息をつき彼を牽制したのは、やはりグレアだった。


「そう思うのは素晴らしいことだし、思うだけなら構わない。でも今のあなたはアダチの護衛。好き勝手に命を放り出して無茶できる立場にない。わかる?」


「じゃあ、船の中の人を見捨てておけって、そう言いたいのかよ」


「ブロウル、なぜ動物は群れで行動するのか、どうして自らの身体を切り離して逃げることを覚えた生き物がいるのか知ってる? 一部を切り捨ててその他を守るため。あなた一人で助けだして帰ってこれることが保証されるなら、私は諸手を上げて賛成するけど、そうじゃないんでしょ、『俺達ならやれる』っていうのは。私達もそのバカに巻き込む算段ってこと。違う?」


「あ、ああそうだ。誰ひとりとして傷つかずに戻ってくるにはお前らの助力がいる。悪いかよ」


 反駁するブロウル。

 こんな夜中にグレアはよく饒舌になれるほど頭が回せるものだと、本筋とは関係のないところで感心してしまう。

 グレアはさらに言葉を続ける。


「私はあなたのような蛮勇には付き合えない。私はこんな火事ごときで死ぬわけにはいかないの」


「火事ごときって、燃えてんだぞ!」


 目を見開いて炎上する船に指をさす。

 傍目から見る俺には、彼にまともな論理が手持ちになく、反論はただの感情論だと言わざるをえない。

 そんなブロウルの発言の中で、彼女のツボにはまったものがあったらしい。グレアはこみあげる笑いを顔を伏せて隠し、それが収まるなりとどめを口にする。


「燃えてるから火事なんじゃない。あるいはどうやってそれを実現するのか、今ここでその腹案を教えて」


「それは……」


 切り返されたその言葉に、ブロウルは口ごもる。

 ほれみたことかと、その様子にグレアが言葉を紡ぐ。


「これまで見たこともない大きさの炎に野生の魂をくすぐられて興奮するのは、あなたなら仕方ないかもしれない。けどそんなんじゃ護衛は務まらないことくらいは自覚するべきじゃないの? 今のあんたじゃ、鉄砲玉としての使いみち以外に有効な活用法が考えられない」


「煽りを楽しんでるとこ悪いが、そんな暇はない。決断のときだ。そうだろブロウル」


 俺は止めに入った。

 鉄砲玉の話はさておき、グレアの言うことはもっともの話で、それが大人の対応というものなのかもしれない。だが、グレアはもっと重要な事を見落としていた。


「ああ、そういえばあなたも前科があったことをすっかり失念していたわ」


 グレアは眉間をつまんでうつむいた。

 そもそもボスである俺が、以前一人で屋敷の中に潜入して誘拐犯を無力化した上、被害者の全員開放を成し遂げた、輝かしい馬鹿野郎だということを。


 グレアの言うことは正しい。

 しかし動物の群れは、ときとして捕食者に襲われた仲間を救うために戦うことがある。それはただの集団の一部ではない、仲間だからだ。今回人がいるなら、そいつは俺達の関係者、仲間で間違いない。

 俺は三人にそう言った。


「やるだけやってみようじゃねえか。たとえあの船の中でその人が死ぬとしても、なにもせず傍観するより、足掻くだけ足掻いたほうが俺は納得がいく。お前らはどうだ?」


 俺の問いかける。グレアは静かに首を横に振った。ブロウルは白い歯を見せて親指を突き立て首肯。


「クラリは賛成。人助けをすれば、きっといいことがあるに違いないのです!」


 グレアはブロウルへの反論の中で言及しなかったが、そもそも船の中に人がいるかどうかさえ不確かだ。命を賭して突入したところ、中には誰もいませんでしたというオチが待っている可能性は充分ある。


「大前提として、今回の件で俺達は誰ひとり欠けてはならない。やばいと思ったら、分かるな? 飛行艇も救助も諦めて逃げろ。神都まで護衛できない奴にカネは出せない。要救助者そのものが幻影かもしれないことを忘れるな」


「おうよ!」


 気合いの入った返事を聞き、グレアを見やる。

 相対する意見を上の立場の俺から言われた彼女は、俺の視線から顔を背けた。


「俺達は絶対に戻ってくる。なにせ、指揮官は筋金もない(・・・・・)ヘタレだ」


「あんたに何かあったら私が困るの。分かるでしょ」


「分かってる。お前の頼みの為にも無茶はしねえ。その上でこの話に乗るかどうか、お前自身の判断に任せる。何もしないなら、せめて俺達の邪魔だけはしてくれるな」


「……分かった。手は貸すけど、前提条件は守ってもらうから」


「感謝する。では話を作戦に移す」


 大きな火の手が上がる船体の方向を見る。

 見ての通り船体上部の構造物は、既に火焔がしゃぶっているのは明らかで、玄関から挨拶して踏み込むには遅すぎる。


「見ての通り、船上から進入することは不可能だ。助け出すには、船の横っ腹に穴をあけるしかない」


 では、どうやって孔を開けるのか。開ける方法としてまず考えられるのが、造船所にあるだろう工具を使って切開する方法だ。

 上からロープを垂らしてぶら下がり、ノコで人が入れる大きさの穴を作る。レスキュー隊ならやってくれそうな近代的な救出法だ。

 電ノコなんて便利なものはない。ノコを扱うなら人力だ。船殻(せんこく)は木製といえど、薄いものではないはずだ。人力で分厚い木材の切断となれば、かなりの時間がかかる。そもそもロープを垂らすとて、固定するにも上が燃えているんじゃ話にならん。


「くそ……」


 眉間を摘む。こうしている間にも船は焼け落ちようとしている。

 自分でも無理難題を突きつけたものだと、刹那の間俺自身の行動を後悔する。

 ロープを使わず、船殻を破壊する方法など――ああ、あの手がある。

 心のなかで悪態をついたものの、つい先程聞いた話を思考の一部に取り入れるまでに、さほど時間はかからなかった。


「よし」


「ボス、なにを思いついた?」


「あの船の側面を砲撃し、破孔から進入するのはどうだ。飛行艇のお隣じゃ、自衛用の火砲に爆薬炸薬しこたま積んだフルコンボ船が退避中だ」


「そういう豪快なやり方、俺の好物だぜボス! 投射系武器の扱いで俺の右に出る者はいねえ。俺に任せろ」


「分かった。ブロウルは船に協力を取りつけてこい」


「アダチ、私のガラスで穴を広げるのは? 熱に弱いから時間勝負だけど」


「できるなら頼む。それと、クラリとグレアは近所の家に頼んで不要な衣類をできるだけ多く用意してくれ。グレアは俺の服の寸法をだいたい知ってるだろ。大きさはそれと一回り、二回り大きい物も頼む」


「何に使うの?」


 衣類の使用目的を伝えると、グレアはあからさまに嫌そうな顔をした。クラリは心配そうな表情を見せ、ブロウルは俺を大胆だと笑い飛ばした。

 目的の達成には絶対必要なものなのだと、二人に説得して納得してもらう。


「俺は工業ギルドの連中に話をつけてくる。それぞれの準備が終わり次第、ここに戻ってこい。いいな?」


 各自、承知の返事をして解散。

 俺も腰掛けていた荷台から降り、運転席に座って造船所の入り口まで走らせた。






「お前ら、準備はいいな」


 全員戻り、この短時間で応急的にできる準備をあらかた整えた。俺はわだちの前に立ち、布で覆われた重たい口を動かして言う。

 俺はクラリとグレアが集めてくれた服を上下ともに大量に重ね着している。着る服はすべて、クラリの魔法や井戸水によって、たっぷりと濡らされていて、水の重みと冷たさが身体にしみる。腕を上げる動作でさえ、水の重みと布の摩擦で少しばかり力がいる。

 足元から鼻、頭まで濡れた布で何重にも包んだこの状態で、生身が晒されているのは目だけだ。

 即席の蒸発式防火服。濡れた服を何重にも重ね着すれば、外側から水分が蒸発していく。デカい肉は内側まで火が通るには時間がかかる。船内に突入し、人間のボイルが出来上がる前に事を済ませることが今回の作戦だ。


 この重装備を俺がするということは、突入という一番危険な役目を俺自身がやるということ。だからグレアは嫌そうな顔をしたのだ。


「地位とか役職抜きで考えると、突入は俺が一番適しているはずだ。」


 そのとき俺はそう言った。俺には尻尾や翼といった燃えやすいものが特にない。あって髪が焼けるくらいだ。

 一瞬で生死が分かれるような場面があるかもしれない。中で足元をとられそうになったとして、尻尾や翼を反射的に使って体勢を立て直そうとしても、それを濡れた布に阻まれてうまく動けず失敗して命を落とすくらいなら、それらがない俺のほうがよっぽど向いている。

 立場上は全く向いていないが、俺はそう説得して二人の納得を勝ち取ったのだ。


 全員の顔を見る。ブロウルもグレアもクラリも、みな水に濡れ、真剣な顔で俺を視線を返す。


「特にブロウル。突入のしやすさはお前の射撃の腕にかかっている。間違っても市街地に砲弾を落とすな。俺の責任問題だけじゃすまなくなる」


「安心しろ。俺の精度は天下一品だぜ」

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