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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
キカイノツバサ ―不可侵の怪物― PartB
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第5話-B21 キカイノツバサ 爪痕

長期間空けちゃってごめんなさいですorz


 二人目の男が入ってきた。長身ですらりとした体格の男は、一人目と同様に大衆に向けて挨拶。状況の確認なのか、視界を一巡させているようだった。腰に頼りなさげな短剣を2つほど下げている以外、特に目立った武器は持っていない。あれで戦おうというのか。


「彼は魔術師ですね。魔法が主ですから、派手な戦いが見れますよ」


 ロイドは期待上々、といった感じでそう説明した。なるほど短剣は万が一のための道具なわけだ。逆を言えば、しょぼい短剣を持っても大丈夫なほど強いということか。

 男はメガネをかけているらしい。観客に紛れていた俺達を見つけて改めて挨拶をしたのだが、その時に目が何かに反射して光ったから恐らくそうだ。自信に満ちた力強い眼差し。挨拶一つだけで感じた、戦う人間としての風格と努力。


「堅牢というかなんつうか、負けるってことが想像できないタイプの人間に感じるな」


「ああいうタイプは中遠距離での戦いは強いけど、詠唱とか要るのもあって接近戦に持ち込まれたら詰みだから注意ね。それに得意なのは支援で、たいてい前方に盾役がいる。正直なところ、今回みたいに一人で戦うのはやや心細いってのが心情じゃない?」


「そんなもんか」


 グレアの解説が終わったと同時に、さっきと同じ狼が三匹、フィールド内に現れた。


「でも飛べるから距離保てるんじゃないのか」


「飛んでくる獣とか魔物がいるのよ。飛ばないよりはマシだけど利点になるほどじゃないわ」


「空に逃げれば大丈夫なほど自然は甘くはないかー」


 男は両翼を大きく羽ばたいて空へ舞い上がった。飛べない狼が相手なら、空から狙ったほうが安全だ。一人とはいえ、中距離戦が得意な魔術師にとっては負ける気がしないはずだ。空に上がれば、あとは落とし穴にはまった動物を仕留めるのと変わらない。


 彼は空中で口を動かしブツブツ何かを唱えはじめる。

 すると、直下の砂が風に煽られて渦を巻きだした。この世界に来てから、本格的な戦闘向けの魔法を見るのは始めてだ。


「あれは竜巻でも作るのか……?」


 渦は徐々に大きくなっていき、砂埃が舞い始める。ここ数日雨は降っていないせいで、乾燥した砂は容易に舞い上がる。俺達のいる場所は物理的な結界の外側なので、細かい砂埃が目や鼻に入ることはない。


「もし古族を雇うのであれば、彼を雇う価値はあまりないかもしれませんね」


 ロイドは舞い上がる砂の様子に視線を釘付けにされながら言った。雇う価値なしとはこれまたきつい物言いだったが、否定はできなかった。

 太陽にさえ届きそうなまでに成長した竜巻は、まるで意思を持つかのようにひとりでに動き始め、後ずさりしていく狼達を吸い上げた。空高く吹き上げられた狼は、悲鳴を上げ、足をばたつかせながら自由落下していく。


「……っ」


 思いついたように視線を足元にそらす。グレアの足元が見えた。その瞬間を、俺は直視することはできなかったのだ。あまりにも生々しいじゃないか。ここはデフォルメされたキャラクターと可愛らしい声でオブラートに表現された世界ではないのだ。さっきの剣士のときだって、俺は狼が斬られるところを見ていない。


 地面に叩きつけられた後、狼はしばらく足を力なくばたつかせていたが、結局一匹として立ち上がることはなかった。


 湧き上がる歓声。これは文化の違いなのだ。動物愛護という概念が発達している現代人の俺の目には過激で野蛮に映る。だがこの世界ではそれは茶飯事であり、何の変哲もない普通の出来事なのだ。


「この死んだやつは、その後どうなる」


「食べられる状態であれば、食用の肉になります。新鮮なうちが美味しいので、もうじき肉をぶら下げた売り子がやってきますよ」


 ロイドからそう聞き、罪悪感のようなものが少し軽くなった気がした。ただ辛い思いをしながら死んでいって終わるのではなく、その死が少しでも有効活用されるというのなら。


「調理済みのものも売られずはずですが、売りに来たら召し上がりますか?」


「そうだな」


「あまりおいしくないと思うけど」


 横のグレアが付け加えた。重要なのは肉がうまいとかマズいとか、そんなことじゃない。それを俺が口にすることだ。一個体一個体の肉を食べることはできない。代表しての供養というか、いたわる気持ちというものだろうか。


「なんつうか、俺のために死んでると思うとな」


「そういうことはあまり考えないのが暗黙の了解なんだけど……」


 グレアは横目で俺を見ながら言った。そもそもああいう動物は人に危害を与えやすいから、見かけたら駆除するのが一般的。だからこういう場によく出くわすかもしれない敵の代表格として出る。


「でも、あんたの思っていることも理解できる」


「殺さなくて済む方法があればいいんだがな……酷っつうか、かわいそうだ」



 そう言った直後に出てきたのは、巨大毛虫である。全長は目測3メートルほど、高さが腰ほどもある黒い塊が、のっそりとフィールド内に現れた。長く硬そうな毛が波打ち、地面をブラッシングしながら、のっそり出てきた。警戒色なのだろう、胴体横に帯のように彩られた朱色の不気味なブツブツの円模様が、歩くたびに伸縮を繰り返す。それが5匹。


「……早速でなんだが、前言撤回だ。あれは殺していい」


 これは異論なしだろう。毛虫好き以外は。

 ああいうものがこの世に存在するというのが個人的に耐えられん。俺はよくできた完璧人間じゃないわけで、狼は同情できても毛虫には同情できない。さっさと始末してほしいものである。

 こいつの名前は聞くまでもないだろう。聞きたくもない。聞いたら覚えてしまいそうだ。


「むしろあんなのにまで『かわいそう』と言わなかったことに安心したわ」


「あの手に生き物にはトラウマがあってな……コイツに毒は?」


「ある。長い方の毛に強力な毒がね」


 鮮烈な警戒色の巨大毛虫である。つまり、刀剣等の近接武器は長い毒毛に阻まれて本体に届かない。毛を切ろうにも、不規則に動きまわる他の毛に邪魔されてしまうはず。


「そういやお前も持ってたな、毒」


「どういう意味?」


「毒舌による精神攻撃という意味だが」


「…………。」


 彼女は答えなかった。グレアの場合は毒舌というのか、少々行き過ぎた嫌がらせというのか。毒には変わりない。


「護送中にああいう生物と実際に出くわした事例もありますから、中遠距離から攻撃できる人材は確保しておきたいですね」


 ロイドも毛虫は好みではないらしい。フィールドから手元に冊子に視線を落とし、さっと一ページめくった。毛虫が敬遠されるのは、全世界共通のようだ。

 さっき男が凄まじい量の砂埃を巻き上げらからだろうか、後ろからクシュン。くしゃみの犯人はリンだった。

 通常の使い方では問題ない高度まで結界が張られているのだろうが、現実的に考えて無限遠の高さまで結界が続いているとは思えない。結界上部がどうなっているのかなんざ俺の知ったこっちゃないが、とにかく結界を飛び越えたか突き破ったかした砂塵が降り注いでいるらしい。俺もちょっと目がかゆいぞ。


「鼻、かみますか?」


「ごめんなさい」


 リンが片手で鼻を抑えつつ、メルから(鼻かみ専用の)ハンカチを受け取るために、そっと手を伸ばした。

 リンの手の平が赤く、爪の食い込んだ跡が見えた。拳を握り締めるようにして見ていたようだ。それもそうだろう。普段おとなしい彼女がこんな場所に来るとは思えない。俺もキツいと思っているぐらいだ。リンだってきついはずだ。だけど自分にも関係することだからと、きっと我慢して見ている。


「リン、無理する必要はないぞ」


 その一言で通じた。リンは俺を見て小さく俯き、丸まって鼻をかんだ。


 観衆の歓声が湧き上がった。再びフィールドに目を向けると、巨大毛虫と男の真剣勝負が始まったところであった。毛虫の足は短い。動きが遅いことは確かだろう。


 5匹の毛虫は毛をユラユラさせながら、ゆっくりと男に近づいていく。と思ったらいきなり突撃開始。毛虫とは思えない速さ。まるで黒光りする例の生物が如く。巨体であることを感じさせない、異常なフットワークの軽さ。これは意外で度肝を抜かれた。


 男が一発、直径が人の手えお縦に2つ並べるぐらいの炎の塊を作り上げる。それを一匹に向けて放った。剛速で迫る火炎弾を、そいつはひらりと小さく身を翻して避けた。


「アレ、人でも何でも食べちゃう雑食だから厄介なんだよね」


「気持ち悪い図体に加えて人食いなのか」


「そ。あとついでに言っておくと、アイツら飛ぶからね」


「それ以上気持ち悪い話はするな……」


 浮遊する巨大毛虫に食われるとか、気持ち悪いってもんじゃない。想像するのもためらうほどである。うん、あんなのと遭遇して突撃された日には、一生のトラウマとして心に残るだろうね。そう思った瞬間。


 ――フィールドの一匹が宙に浮いた。


 さっき火炎弾を投げられた一匹が、頭部を持ち上げ立ち上がった。はじめは周囲を見渡しているのかと思ったが、そうではなかった。その様子は、まるで透明な何かに下からすくい上げられるかのごとく。胴体前部から浮き上がっていき、ついに最後部が地面から離れた。長い毛がゆらゆら息をする。


「挑発に乗ったね」


 グレアは短くそう言った。さっきの炎は生存本能を刺激させ、戦いに向かわせるためのものか。

 彼らは集団で行動する生き物なのだろうか。一匹が浮上したのを皮切りに、他の虫も浮上する。一匹が、真横にスライドするように動き、男の正面に立ちはだかった。その緩急の激しい動きは宙に浮いていても変わらない。なるほどさっきの狼より手強い。


 多少の知能はあるのか、5匹は連携して男を中心に扇状の陣形をとる。

 あいつらがどういう力で浮いているのかは分からんが、翼だと高速機動は難しい。中遠距離から攻撃ができるとしても苦戦する相手かもしれない。


 突然、一匹が男に飛びかかった。

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