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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
キカイノツバサ ―不可侵の怪物― PartB
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第5話-B19 キカイノツバサ 4人の護衛



「護衛の選抜の件でお話がございます」


 買い物から戻って一息つくとすぐに、ロイドが俺の部屋まで訪ねてきた。


「ああ、ちょうどそっちも少し気になっていたところだ」


「またグレアさんがいませんねぇ」


 ロイドは部屋を眺めつつ呆れた物腰で言い放った。いつも俺のそばにいるはずのグレアがいないことが気に食わないらしい。彼女は隣の自分の部屋にいる。帰り際、廊下で別れて買った品物を部屋に持ち込んだのはいいが、それっきり出てこない。まあ、やっと帰ってきたと椅子に腰掛けた途端にロイドのご訪問があったわけで、タイミングが悪いのも事実だった。


「彼女に頼みごとをしててな」


「さようでございますか」


 グレアをサボらせてショッピングさせたことは、ロイドには内緒にしてある。一応、今回遅くなったのは俺の用事に付き合ってもらったということになっている。彼は嘘に納得してくれたようだが、一つ隣の部屋ではグレアが今日買ったものを鼻歌でも歌いながら部屋に並べているだろう。


「それで、本題は?」


「はい、今回は政務院からのご連絡でございます」


 俺宛の書類はなく、同じ政務院に属するロイドへの内部文書での伝達のため、話は口頭で進められた。今まで書面を受け取っていたため、慌てて紙とペンを用意した。話によると、神都へ行くために雇う護衛の人数は、4名が限界だということ。普段は8人とか12人とか、それぐらいの人数で行くらしいが、俺に割り当て可能な予算のうち大部分が飛行機に流れてしまったため、こっちの予算が削れてしまったらしい。

 要人警護という削っちゃいかんところを大胆に削ってくれている訳だが、そもそも飛行機がないと移動すらできないことを考えれば、飛行機を第一にする考えも理解できなくはない。だが正直に言おう。護衛力は紙だろうと。


「その人数で大丈夫なのか……?」


「移動ルートを工夫すれば、大丈夫ではないかと」


「そんなルートがあれば、もうとっくに通ってると思うんだが」


「――そういう見方も一部ではあります」


 苦しそうに言うその顔から、その"一部"とやらは、判断した連中のほぼ全員のことを指しているのは明らかだった。そりゃそうだ、国外の要人を危険な場所へ連れて行くなんてことは、グレアを除けばまずない。死なれたらそれこそ国際問題である。俺が逝ったところで国際問題は発生しないだろうが、少なくとも「飛行機とかいう出しゃばった乗り物乗ってたクソッタレが逝ったらしい。ざまあみろ」程度の話題になることは確かだ。


「その4名についてですが、政務院が募集をかけたところ相当な数の応募がございまして」


「そうなのか」


「はい。こういった仕事は相当報酬が高いので人気なんですが、とりわけ今回は異界の人とだけあって――」


「前代未聞の珍しい依頼に、我こそと名をあげるべく応募が殺到したというわけか」


「ご名答です」


 注目されるのは仕方ない。俺が男六人を一人で片付けたとかいう話が街中に広がっているのは知っているし、ここに届いていることも大体想像できる。応募者は俺のことをそこそこできる奴だと思っているだろうが、中身は残念なモヤシ野郎である。もしや、依頼が殺到したのは「国賓がそこそこ強いから俺たちが多少弱くても何とかなる」なんていう甘ったれた発想からくるものではないだろうな? 絶対1人か2人はそんな魂胆で応募してるぜきっと。モヤシに期待されちゃ困る。


「それで、勝手ではありますが希望者の過去の実績などから選考を行い、精鋭を選出しました。明日、ナクル円形闘技場にて一般戦を模した選考会を開く予定です」


「えっと、実戦か?」


「ええ」


「誰と? 俺と?」


「いえいえ、あなたは観戦するだけです!」


 ロイドは文書を持った手をひらひらさせて否定した。良かった、ここで「あなたも出るので今晩あたりからアップしといてください」とか言われたらどうしようかと思ったぜ。


「つまり、試合を見ながら誰が良さそうか見ればいいというわけか」


「さようです。1人につき2回出場してもらい、それぞれ対人と対獣の対応能力を見ていただきます。希望であれば、出場者以外の人物を護衛として雇うことも可能です」


「だいたいイメージは掴めた」


 選考会に出る人物は、政務院から実力があるとお墨付きをもらった人物。彼らの実戦での能力を吟味し、その中からピンときた人物を護衛として雇う。対人は主に盗賊を、対獣はその名の通り鳥獣と魔獣の遭遇を想定していることは聞くまでもない。


「それから、4名のうち1名は古族を採用したほうがいいかと思います」


「古族?」


「ええ」


 ロイドは目の前で文書をめくりながら答えた。


「我々人間族以外にも、いくつか種族がありまして。古族に限った説明をすれば、彼らは身体能力の非常に高い種族です。姿は人の形ですが、その能力は我々人間とは全く異なる別次元のものです」


「我々が練習してようやく習得できるような高等魔法もたやすく発動させますし、感覚も鋭敏なので異状を発見するのも得意です」


 雇える数に限りがある今、一人あたりの能力は重要な問題だ。通常の人間とは段違いの能力を持っているという古族は心強い存在となりそうだ。


「この話だけ聞けば無欠のようにも思えますが、彼らは幼いという欠点もありまして」


「幼い? どういうことだ」


「文字通り幼いんです。古族は我々ほど頭が良くないのです。大体6歳から10歳の子供程度の知能しかありません。性格も子供と変わりませんから、あまり多くの古族を連れていこうとすると――」


「察した」


 幼い子供と聞いて思い出したのは、妹の美羽だった。駄々コネ、自己中、泣きわめく。さっき全員古族にしたらどうかという考えが刹那よぎった。そのイメージは頼れる護衛だったが、今の話を聞いて優秀な護衛が全員美羽とすり変わっちまった。イメージは移動保育園。ああ、子守をしながら移動とか間違いなくヘトヘトになる。

 戦闘能力は高いが、中身は子供同然。現実はなかなか思うようにならないものだ。


(体は大人、頭脳は子供。古族のオッサンが泥団子を作って遊び、ばあさんが木登りして遊ぶ――)


 ……首を激しく振り、邪悪なイメージを意識の彼方へ。何考えとるんだ俺は。ともかく採用は多くても二人、だいたい一人いればいい。


「古族は明日の選考会には出るのか?」


「いえ、古族は別格なので参加できません。希望でしたら後日古族の居住区にご案内しますが」


「頼む」


「居住区には何度か行ったことがあるのですが、結構可愛くて癒されますよ」


 ロイドは笑顔でそう言い、持っていた文書の一番上の紙を最初のページに戻した。


「連絡はこれで以上になりますが、何かご質問は?」


「一つだけ。明日の選考会はリンも連れていっても?」


「もちろんです。警護対象者ですから。彼女にはまだ選考会のことをお話しておりませんが、私からお伝えしておきましょうか」


「いや、俺が行く。リンとはここ数日会ってなくてな。様子見もかねて」


「さようですか。当日は私も同伴します。明日の午前9時にエントランスホールへ集合です。遅刻のないようお願いします」


「了解、ご苦労だったな」


 ロイドが部屋から出ていった直後、グレアがまるで様子を見計らったかのように戻ってきた。無愛想な顔には変わりないが、心なしか穏やかそうな感じがする。


「さっき赤服とすれ違ったけど、なんか話した?」


 俺は走り書きのメモをグレアに渡した。


「明日、護衛を選ぶことになった。詳細はそれに書いてある」


 メモを見たグレアの眉がハの字に。何か気になる点でも見つけたか? 直後、グレアは俺にメモを突き返した。確かに走り書きで字は汚いが、読めないほどじゃないはずなんだが。


「あのさ、暗号で書かれても読めないんだけど」


「……すまん」


 漢字を読めるのは、世界で俺だけだということをすっかり失念していた。




 夕食を終えて一息ついた頃合いを見計らって、グレアと一緒にリンの部屋を尋ねた。ロイドからされた説明をメモで間違いがないか確認しつつ、リンとそのメイドであるメルに明日のことを説明した。


「聞いた話はざっとこんな感じなんだが、予定は大丈夫か」


「はい、問題ないですよ」


 テーブルを挟んで向かい合って置かれた二人がけのソファ。俺の向かいに座るリンは笑顔ではっきりと答えた。ゼロから説明しなければならなかった俺と違って、リンは古族のことも知っていたおかげで話は早かった。

 話が終わったところで、メルが俺とリンの分の花茶を持ってきた。静かな声で挨拶し、ティーカップをテーブルの上に置いた。


「……あ」


 メルが気まずそうに声を上げた。話が一瞬で終わってしまっただけで、メルの仕事が遅かったわけではない。むしろメルの仕事は速いほうだった。


「ふふっ」


「……ハハッ」


 リンが笑い出したのに続つられて俺も笑った。唯一、俺の横に座っているグレアだけは鉄壁のツン顔を堅持したままだ。メルは手早くテーブルにモノを広げると、そそくさと給湯室へ去っていった。


「せっかくだ、もう少しここにいることにする。リン、いいか」


「どうぞお構いなく」


 メルとグレアには悪いが席を外してもらい、リンと二人きりで話をすることにした。グレアは去り際に「この変態ヤロー」などと意味不明な発言を残して出ていった。断じてそういう意図ではない。二人きりにしたのは、ここ最近の様子を聞いておきたかったからだ。


「ここでの生活には慣れたか?」


 窓の外から虫の鳴き声が目立つほど部屋は静かだった。俺の声が僅かに残響する。湯気を立てる花茶から優しい香りがする。


「はい。でも、まだ家が恋しいです」


「そうか」


 ホームシックというのは簡単に治るようなものではないのだろうか。なったことがない俺には分からない。

 リンはたまに庭園を歩くか家に帰る以外、一日のほとんどをこの部屋で過ごしているとリンは言った。数日おきに掃除と称して定期的に家に帰ることで気分を落ち着かせているということらしい。果たしてそれがここの生活に慣れるための正しい行動なのかどうかは分からないが、息抜きになるならそれでいい。


「特に用事がなくてもいい。時々俺んとこ顔見せに来いよ」


「はい」


 それから飛行機計画の進捗状況やら、過ごしていて起こった出来事について色々と雑談した。特にザグールの話はかなり好評で、俺が彼のモノマネしてやると小さく笑った。


「で、その後にグレアの買い物の付き合いだ。雑貨に服屋と何件もハシゴしやがって、しかも大量に買いやがる。量の多さに見かねて俺も荷物を持つハメになる」


「そうですか~、ご主人さまとメイドさんがデートですか~」


「ちょっと自由にさせてやっただけだ!」


「でもそんな話を聞けば、誰だってそう思いますよ?」


「あいつに恋心を抱いたことなどいっぺんたりともねえ!」


 俺をおちょくる元気はあるようだった。リンの事になると心配してばっかりな気がするが、少し気にかけすぎだったか。彼女らをあまり長時間待たせるのは申し訳ない。茶が空っぽになったところで、話を切り上げた。


 今日は特に疲れた。今日はさっさと寝て明日に備えることにしよう。ここ最近話すのが女の人ばかりで、バカが恋しい。さて、俺と気の合いそうな面白い奴は見つかるのだろうか。



次回予告 コウに相棒登場!……のような話かもしれないですん

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