第5話-A38 Lost-311- リン、復活
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##S0自己修復シーケンス##
起動しました.
自己修復プログラムがシステムを制御,管理プログラムの修復を試みます.よろしいですか?[Y/N]
時間内に返答がなかったため、予め設定されたシーケンスを読み込み、実行します.
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s0-v1.7f用修復プログラム
ステージを一時停止.
>プライマリシステム(S0-v3.0a) のモジュールのログの検査を開始.
検査中...
プライマリシステムの異常終了を確認.
不具合を発見.合計 1 箇所
(1/1)
感情制御プログラム -> オーバーフロー(桁あふれ) を検出.
この不具合がシステムに与える脅威:高
>プログラムに従って オーバーフロー 対策プログラムを生成中...
自動生成に失敗.対応外のモジュール.
>セカンダリシステム(S0-v1.7f) のモジュールのログの検査を開始.
検査中...
プライマリシステムからの停止命令による正常終了を確認.
状況を検証中...
不具合なし
>セカンダリシステムのみを起動,システム管理権限をセカンダリシステムに移譲.
終了.
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セカンダリシステムの正常起動を確認しました.
S0自己修復プログラムは検査結果をセカンダリシステムに送信しました.
シーケンスを終了します. Bye :-)
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――――まどろみの中で、手を引っ張られたような感覚がした。
「あ……」
俺が重たい目を開けると、上体を起こしたリンが片目をこすりながら俺を見つめていた。閉め忘れていた窓からは優しい朝日が差し込み、すがすがしい空気が充満している。
「よく眠れたか?」
「えっ……?」
「10日ちょいぶりのお目覚めだな、おはよう」
「えっと…………どういうことですか?」
「言葉のまんまだ、お前、ずっと寝っぱなしだったんだよ。
体調はどうだ? 腹減ってるか?」
リンは視線を落とし、どうして……と自分の身に起きたことが信じられないといった表情を浮かべた。視線がそのままリンの腰についている鍵のところまで下がっていったところで、ハッ、と声を上げた。
「コウさん、台所のあの棚、開けましたね!? 開けないほうがいいって言ったのに!!」
「はぁ!? 俺開けてねえよ! 何を根拠にそんなことを……」
「私が今こうしてここにいるのがその証拠です! 中身も見ちゃったんでしょ?」
「俺はその鍵を持ち出してどうこうなんて、これっぽっちもやってねえよ」
「そんな気遣いなんていりません! 正直に教えて! 開けましたね?」
「……だーら、俺はあの棚の中に何が入ってるのか、一切関知してねえよ」
起きだした直後に一体何なんだよ……あの棚の中に何があるってんだ? リンが今こうしてここにいるのがその証拠って……意味不明かつ中身の予測不可能である。
「いいです! 私が棚の中を確認してきます! あの棚は私がちゃんと中身の配列から何から全部管理してますからね! コウさんが開けたのなら配列が変わっているはずです」
リンは鋭い目で俺を睨みつけて、あなたはここにいてくださいと言い残してベットを飛び出し、台所へとかけ出していった。……とりあえず健康そうでなによりだ。
「なんなんだよ……」
俺は背後の部屋の出口を眺めながら呆気に取られていた。口調からして中身を見られるのが相当嫌らしい。開けなくて正解である。五分ほど彼女を待ったが、彼女は俺のいる部屋には戻ってこない。棚の中身を確認するのにしては時間がかかりすぎだ。よいこらせ、と椅子から立ち上がり、長時間俯いていたせいで凝った首をぐるりと回す。コキッ、という音がした。今日も筋肉痛がひどい。神使に冗談半分で脳内注文したはずのアスピリンはまだ届かない。てか届いちまったらそれはそれでかなり怖い。俺はゆっくりと台所へと足を進めた。
「……リーン?」
俺が台所を覗き込んだ瞬間、リンは慌てた様子で荒々しく例の棚を閉じた。そしてゆっくり鍵をかけ、振り返って俺に目を向けた。その表情は完全に困惑した様子を呈している。
「コウさん…………どうして私はここにいるんですか? どうして私は生きてるんですか? どうやって……」
「リン……もしかしてお前、自分が急性魔力欠乏症だったことが分かるのか?」
「…………。」
「なあ、どうなんだよ?」
「やっぱり、そうなったんですね」
リンの言葉の断片がうまく繋げられない。リンは自分が急性魔力欠乏症になったということを知っていたことは間違い無いだろう。それも今回が初めてではない。発言からして過去にもそんなことがあったことは容易に推測できる。そしてあの棚の中にはそれを治療できる何かが入っている……? だがもし中身がそうだとすると、なぜリンがあれほどまでに俺が開けることに対しての拒絶反応を示したのか、そもそもなぜ隠す必要があるのかの示しがつかない。
「コウさん……本当に、本当に開けてないのですか?」
「ああ。俺は基本的に小心者だ。知らないほうがいいこともあると言われたら、いくら気になっても言われたとおりにしておく人種でな。棚の中の配列、変わってたか?」
リンはそっと首を横に振った。それは当然の反応なのだが、首を振っているリンを見て安堵している俺も確かにいた。何も俺はやましいことなんざしてねえのに。
「そういうことだ。俺はその鍵には指一本触れてない。そんなことより今のことは水に流して、朝飯といこうじゃねえか」
「…………。」
「お前さんがぐっすり熟睡してる間に人付き合いがちょっとばっかし増えてな。そこのカゴの中のパン、食品店のデブ店主から貰ったんだが、早いとこ食っちまわないとカチカチになっちまう。好きなのどれか一つっ!?」
「…………ごめんなさい」
「ちょっ、おい……」
これがこの世界での謝り方なのだろうか。まさかこんなことをされるとは、予想だにしなかった。
俺に、リンが抱きついていた。
お久しぶりです。超電動改め、電式です。
3ヶ月越しの更新となってしまいました。
更新を楽しみにしていた方、申し訳ありませんでした。
その代わり、この3ヶ月間で新第1話の作成に力を入れ、先日ようやく完成しました。
目次ページをご覧になって気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、
2012/02/04付で新しい第1話へ置き換えさせていただきました。
物語を大きく見直し、以前とは大きく異なったものになっています。
ほとんどの方が未読だと思います。
旧第1話は、目次ページ下のリンクより閲覧いただけます。
お気づきかと思いますが、同時に小説のレイアウトを変更させていただきました。
大長編の小説になったため、長時間読むことが予想される読者の目の負担を考え、このようなスタイルに変更しました。
文字が少し緑ががっていて、違和感があるかもしれませんが、長時間の閲覧の際は文字がギラつきにくいため、目疲れしにくいかと思います。
今後とも、この作品をよろしくお願いいたしますm(_ _)m




