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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A28 Lost-311- へーゲルの診断

「うう……これマジ痛てえって……」



全身の痛みで起き上がれず、

俺は泣き顔の空を痛みで顔をクシャクシャにしながら眺めていた。

一刻も早くリンを診療してもらうために飛んできたのに、

そもそも俺がこんなところで悶えて苦しんでどうするんだって話だ。

高度約5メートルとはいえ、ポイ、と軽々しく空中投棄したルーの責任は重い。

腕をガクガクさせながらでも何とか持ちこたえようとして、

それでも力及ばず落としてしまったのなら、まだ許せる。

ルーの奴、普通にパッと放しやがった。

俺を自由落下爆弾か何かと勘違いしてんじゃねえだろうな?

これで俺の身体に後遺症が遺ったら絶対ルーには最後まで責任とってもらう。

何が俺を信用しろだ!

やっぱ会って間もない人間を信頼するのは考えもんじゃねえか!


さっき姉さんと一緒に落ちた時は、高度も今よりも低かった上に、

姉さんが幾分か踏ん張ってくれたから良かった。


満を持して言える。

この世界にぶち込まれてから、

何度も落下体験を味わってきたが――今回はその中で最悪だ。


雨天の中、突如として空から降ってきた俺に、

一時若干の混乱状態にあったらしい周囲の人間達は、

シチュエーション的な謎多くも俺が誰かということは認識してくれたらしく、

兄さん、大丈夫か!? と近くの若い男が駆け寄ってきてくれ、

他の人々も俺を囲むようにして集まってきた。



「大丈夫、起き上がれますか?」



最初に駆け寄ってきた若い男が、俺の背中に手を回して起こしてくれた。

着地の衝撃で後頭部を強打したこともあって、頭が割れるように痛い。



「ああ……大丈夫っすよ……助かったっす」



頭を抱えつつも、かろうじて受け答えをすることができたが、

こんちくしょおぉぉ! と根性で立ち上がれるほど俺は強くはない。

それ以前に落下の衝撃で身体が言うことを聞いてくれないのだが。

そうさ、俺はどこの世界でもただの小市民さ。

男はさらに続けて言う。



「僕、覚えたてですが、回復魔法が使えるんです。

 今から鎮痛と、どこかケガしてるかもしれないので、

 創傷治癒を施しますので少しじっとしててください」



男は小さく魔法発動の詠唱と、指で小さく印を切ると、

手にまるで自然の恵みを凝縮しているかのようなほのかな緑の光を宿し、

俺の身体に当ててくれた。

あれ、そういや姉さんと爆撃機(ルー)は今どこにいるんだ?

俺を囲む人の隙間から覗き込むようにして前を見ると、

花屋の前で姉さんが怒り心頭の様子でルーを怒鳴り付けていた。

ルーは両手を小さく前に出して何か弁解したがっていたが、

姉さんは潔く非を認めようとしないルーの女々しさについにプッチン。

左手を背に回して何やら印を切っているところを見ると、

何か魔法をかけるつもりらしい。

人の命を何だと思ってんだこの愚図野郎! という、

優しいあの姉さんのイメージを総崩れにさせる暴言は、

やや離れた場所で全身の痛みに堪える俺からも確実に聞き取ることができた。

その暴言とともに裏でかけていた魔法が発動、

姉さんの周囲に赤いオーラが具現化し、

小さくなったルーの胸倉を捕らえて何と片手で持ち上げた!


誘拐グループの締め上げと7人の少女を救うミッションは、

実はなんと姉さんが適任者だったという意外な事実がここで突き付けられた。

女は強し。この一言に尽きる。



「……あれ、回復魔法が全然効いていない。どういうことだろう?

 お兄さん、痛みの方はどうですか?」



飛び立つ前にケガした肘の擦り傷に手を当てて治療してくれている男は、

不思議そうな顔付きで言う。



「ん、ああ、少しは楽になったっすけど、完全に痛みが引いたわけでは……」


「おかしい、これだけ力を込めても、

 痛みは消えないし、肘の擦り傷すら治癒できないなんて……」


「治療はもう十分っすよ、今ならもう一人で歩いていけますから」



俺はゆっくりと立ち上がった。

身体の節々が痛むが、まあ打撲で済んだのが奇跡的ってもんだ。

背中に手を回してゴツゴツと叩くと、背中が毛羽立っているのを感じた。

俺にもとうとう翼が生えたか?

冗談半分、毛羽立っているそれを少しばかり引きちぎってみると、

それは俺の黒ローブの繊維だった。



「えっと……服、穴が空いてますよ」


「えっマジ!?」



俺の後ろにいた二十ぐらいのの女性に指摘され、

雨の中ローブを脱いで後ろを確認するとなるほど、直径20センチの大穴が空いていた。

ここまでボロボロになりゃ、さすがに次回からこれを着て出かけるのは無理そうだな。

もう一度後ろに手を回してみると、ややほつれた俺の服があった。

どうやら俺の唯一の自前の服に穴が開く事態は、

この黒ローブ君が犠牲になってくれたおかげでギリギリ回避されたようだ。

止血に使ったり穴が開いたりでまさしく“黒いボロ雑巾”に成り果てたそれを、

敬意を込めて俺は丁寧に畳んだ。



「……自分から治療するっていったのに、何もできなくて申し訳ないです」



さっき俺に魔法での治療を試みた男が、残念そうに頭を下げたので、

俺は気持ちだけで十分だからあまり気を落とさないでくれと言った。

男の回復魔法がなぜ俺には効かないのかは全くの謎である。

しかし、手に緑の光が宿ったということは、

あの時点で魔法は完成していたということで、

俺は当然回復していても良かったはずだ。

何がその効果を阻んでいるのかは分からない。

だが実際、ここでは俺は回復魔法が効かないわけで、

原因が分からないうちはそれはどうにもならない。


ここで突っ立っていてもしょうがないので、

とりあえず俺はその場から離れ、姉さんのところに向かった。



「オラこのっ、愚図の、脳無しの、ヘタレの、人外!!」


「グゥッ! ア゛ッ! グフッ! ベホッ! グァッ!」



見ての通り、

姉さんは目に見える赤いオーラと、目に見えない黒いオーラをまとい、

雨で濡れた地面に力尽きて伏しているルーの横腹やら顔やらを、

思いっきり蹴飛ばしていた。

てか姉さんやり過ぎだろ!



「あの……姉さん? 今何をして……」


「うん? ああ、コウさん大丈夫だった!? ケガは!?」


「とりあえず骨折とかは奇跡的に免れたみたいで。特に大きなケガはないっすよ」


「そう、それは良かった。

 今はルーに次からコウさんに今回みたいな危険なことを起こさないように、

 私がしっかりと注意してあげてるの」


「注意というか……これって完全に私刑っすよね?」


「あら、バレちゃった?

 ――そうね、最近なんか疲れとイライラが溜まってたのもあるかもしれないわね」



欺瞞が下手すぎる。

というか、ストレス発散で人ぶん殴るとか、どんだけ鬼畜なんだよ。

あのバイオレンス少女チカでも絶対やらねえぞ。

もちろん、全俺が集まって催した緊急会議の結果、

この姉さんを取扱注意人物に認定することが決定したのは当然のこと。

イライラの矛先が俺だったらどうなるかと想像しただけで震えてくる。

殴られたせいで顔が腫れてしまったルーは、

ぅぅ……と小さなうめき声を上げるだけであった。

姉さんは突然いいことを思いついたような顔つきをして俺に言った。


「そうだ、コウさんも何か一発かましてやりなさいよ!」


「それ人間の言うことっすか?」



これは明らかに人格疑わざるをえない。

どうやったらその思考にたどり着くのか、プロセスが知りたい。



「だって、痛い思いさせられたのよ?

 蹴りの1、2発ぐらい入れたって何も文句は言えないわよ」


「ていうか何で姉さんそんなに強いんすか?」


「居酒屋やってると、お客さん同士で喧嘩が始まっちゃう場合も遭遇するのね。

 最初はあたし達は自分達で何とかするだろうって無視してるんだけど、

 騒ぎが大きくなると他のお客さんに迷惑かけたり、

 皿を割ったりして店が被害を被ることだってあるの。

 被害を最小限に押さえるためにも、

 喧嘩している客を店から追い出すのは最重要事項。

 だから今のはそのためのとっておきなんだけど、

 この若造のヒドさに頭が来ちゃって」



俺と少し話しただけだが、

姉さんの過熱した感情は徐々に冷却されているようで、

話す口調も穏やかになってきた。



「でも姉さんだって行くときに俺の体重を支え切れずに落ちたじゃないっすか。

 自分だって失敗してるのに、

 ルーをタコ殴りはいくら何でもひど過ぎというものでは?

 ……確かに、ルーの場合は恣意的に俺を落としたという点では最低っすけど」


「それは……その、素直に誤ってくれるならまだいいんだけど、

 弁解しようとしだしたから、ついカッとなって」


「後悔は?」


「してないわよ。イライラ解消できたしね。

 それよりもコウさん、さっきまで着ていた黒い服は?」


「ああ、これっすか?」



俺は折り畳まれたローブを広げて姉さんに見せた。



「背中に大穴が開いちまって。もう使い物にはならないっすよ。

 まあもともとズタボロでしたから、いまさらどうこう言うつもりはないっすけど。

 あっ、医者が来たみたいっすね」



俺が落ちたことばかり意識が向いて気がつかなかったが、

飛んでいる間に医者を追い抜いていたらしい。

姉さんの子供に誘導され、俺の家の前にひらりと舞い降りるヘーゲルという人物。

俺と同じくらいの歳の、見た目18、9歳の金髪青年だ。

顔はどちらかというと面長で、目は水を張ったような綺麗な青で一重。

この世界の人は裸眼が多かったので見たことがなかったのだが、

この人は木製フレームの丸メガネをかけている。

メガネは折り畳み不可らしく、可動部がない。

どの世界でも医療に携わる人物は勉強家であることが伺える。

手に提げている大きな鞄は重そうだ。

大事な仕事を終えた子供達は母親の姿を見つけるやいなや、その懐に飛び込む。

それを見たヘーゲルは俺達の元へと歩み寄った。



「えっと、急病人がいると聞いたのですが、こちらがその……急病人……です……か?」



ヘーゲルは地面に伏してうめき声を上げ続けているルーを見て言った。

確かに雨の中、地面に倒れてうめく人物がいたら、誰だってそう思うだろう。

ヘーゲルの問いに、姉さんはルーの身体の上に足を乗せて答える。



「あっ、コイツじゃなくて、そこのお店の主人のリンっていう子です」


「いや、あの、どうみてもそこの人治療……」


「コイツはあたしがボコボコにしたからこうなっただけで、

 本当の急病人は建物の中です」



数秒間固まってしまったヘーゲルだが、やっと状況が理解できたらしく

メガネをクイ、とかけ直して、ややこしいのでやめてくださいと小声で呟いた。




部屋に上がった俺達は、リンの部屋の中に入って、

今リンに起きている症状を(といっても寝てるだけだが)ヘーゲルに話した。

ボコボコにされたルーは、

服も身体もドロドロだったので、

とりあえず風呂で身体をキレイに洗い流してもらうことにした。


よって、今リンの部屋にいるのは、

俺と姉さんと子供、ヘーゲル、そしてリン本人の6人。

部屋の一つしかない椅子をヘーゲルに座らせ、

俺と姉さんと女の子はリンのベットの縁に並んで腰掛け、

男の子は姉さんの膝の上に乗っている。

話を聞き終わったヘーゲルは、

下敷きと洋皮紙を金具で挟んだ記録用紙を鞄から取り出し、早速診察を始めた。


まず確認したのはリンの呼吸。

リンの鼻の下に手をかざして息を確認すると、今度は鼻をつまむ。

ぷにっという音が聞こえてきそうだ。

しばらくそのまま鼻をつまんだまま待機するが、

リンに変化はなかった。

すると彼は立ち上がって失礼いたします、と小声でリンに一礼。

右手を大きく振りかぶると、リンの頬に思い切り平手打ちした。

バチン、という音が部屋に響き渡る。



「ちょ、リンに何してるんすか!」


「これも検査の一つです」



ヘーゲルは淡々と答えて椅子に掛け直すと、その様子を用紙に記録する。

次にリンの寝ている掛け布団の中からリンの手を出して脈拍と体温の測定。

その様子も記録していく。


そして最後に鞄から握り拳大ほどのゴツゴツとした透明な石を取り出した。

ヘーゲルがそれを手に持つと、その石は透き通った黄緑色に変わった。

それを見た姉さんは、やっぱり医者は違うわね〜と感心した様子。



「何がっすか?」


「ほらあの石、黄緑色。

 知らない? 魔力の量を測定する道具よ」


「いや、知らないっすね。

 量によって色が変わるとかそんなやつっすか?」


「そう。

 確か、量が多くなっていくにしたがって、

 透明、紫、青、緑、黄、赤、白って変わるのよ。ねえ、ヘーゲルさん?」


「ええ、よくご存知で。

 一般の方に握らせると大体緑色になることが多いですね」



彼はその石をリンの両手に持たせ、

石が落ちないことを確認すると、そっと手を離した。

すると、黄緑色だった石の色がどんどん変わっていき、

紫の色になったところで色の変化がなくなった。

ヘーゲルはその様子を書き記すと、ふう、とため息をついた。

そして鞄から重厚な本を一冊取り上げた。

おそらく医学書だろう。

記録を参照しながら、本をペラッペラッとめくる。

しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。



「あなた方の話と検診結果を考えると、急性魔力欠乏症の疑いがあります」


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