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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A25 Lost-311- 調理の際は台所から離れてはいけません

どうしてこうなった……

結局、この間財布を買った円形広場まで行って、

適当な露店でお好み焼きっぽいやつを二人前、合わせて700レルを出して購入した。

広場から家までの道を歩きながら、一人反省会を開催中である。


「本は余計な出費だったか……」


なんか、わざわざ書物屋で本を買わなくとも別に良かったような気がしてきた。

距離はあるが広場まで歩いて行きゃ、既製品の晩飯が手に入ったわけで、

本代が900レルと、晩飯代よりも高くついてしまったのが今回の反省点だな。


まあ、買っちまったものは仕方がない。

重要になってくるのは、買ってしまった本をどう活用していくかだ。

……といっても、料理本の活用方法はどう考えても

「それを使って料理する」の一択しかないから悩む必要は無しなんだが。


俺が抱えるお好み焼きっぽい晩飯(名前は忘れた)は、

安物の布でクレープを巻く紙と同じ要領で巻かれている。

買った時は鉄板の上でアツアツになってる出来立てを貰ったがために、

やけどしないようどう持ち帰るか悩んだものだが、

しだいに冷めてきてしまい、今じゃぬるま湯のような温度だ。

猫舌にはちょうどいい温度かもしれないが、

この冷め具合じゃ、家に戻った時には常温まで冷めちまってるかもしれんな。

そりゃ、このお好み焼きっぽい晩飯を俺の懐に入れて保温すりゃ、

常温にはならないだろうが……

他人(ひと)の懐に入ってた飯を誰が食うかって話だ。


正確に覚えているかどうかは疑問だが、

確か有名な話の一つに、豊臣秀吉は織田信長の草履を、

冬場でも足が寒くならないようにと保温していたというものがある。

豊臣秀吉はそれで織田信長の信頼を得たとかいう話だが……

草履だったからまだ良かったものの、これが晩飯だったらどうなるだろうか?

ちょっと想像してみよう。



「おい、(豊臣秀吉)! 俺の飯はどこだ!?」


「はい、信長様がいつお召し上がりなられても温かい食事が出来るよう、

 私が温めておりました」


「なん……だと!?」


「ですから、信長様がいつお召し上がりなられても温かい食事が出来るよう、

 私が温めておりました」


「……キモい!」



うん、間違いない。

当時に「キモい」という単語があったかは別にして、キモがられること確実だね。

俺が信長なら草履でもキモいと言ったかもしれん気がしてきたが、

とにかく食品は絶対ダメだ。

まあ、そんな頑張って保温しなくとも、

飯が家に帰って冷めてりゃ、台所でもう一回温め直したら済む話だし。


そういえば、中学時代にファンタジー系の小説にはまっていた時が一時期あったが、

なんというか、その、こういう「飯が冷めたら台所で温め直ししよう」みたいな、

現実味のある描写はなかったな。

俺みたいに変な空想ばっかり広げてる変人キャラもいなかったし。

自分で自分を変人というのはおかしいかもしれないが、

それはそういう剣と魔法と怪獣みたいな、

バリッバリのファンタジー系の物語にはそういうのは不要なキャラ、

いたらおかしいだろ、ということで、

現実世界からリアルにファンタジーに飛ばされた俺に、

そういう物語の主人公は似合わないということだ。


ファンタジーな物語はたまには苦難もあるかもしれないが、

大低とんとん拍子で進んで行くものだ。

もし、ファンタジーに飛ばされた俺が主役の物語があるなら、

とんとん拍子で物語が進んでいるかと言うと、答えはNO。

そういう物語は旅に出掛けていろんな場所を冒険するのが醍醐味であるのに対し、

俺はと聞かれれば地に足しっかり付けて、ちゃっかり花屋で仕事中。


んで、何か偉業でも成し遂げたかと聞かれれば、

今回の事件はある意味(事件に)巻き込まれる形で、

なんとか収束させることができただけで、あれを偉業とは言わない……はず。

ましてやこんな世界で連続誘拐犯を締め上げたところでな……

ちょっと事件がありました、的なレベルでしかないだろうし。

そもそも相手の背後を狙い撃つなんざ、

剣で真っ向勝負がある意味お決まりの物語に於いては、俺の戦法は邪道。


……ネガティブなことばっか考えてると、気分が落ちそうだ。

それに、一人反省会をやってたはずが、いつの間にやら話が脱線しちまってるし。


そしてそんな考え事に耽っているうち、

自分の家を通り過ぎてしまっているということに、

家三軒ほどオーバーランしたところで気がつく俺。



「はぁ、俺は一体何を考えてるんだ?」



自分の家を通過して、一体どこへ行くつもりだったのかと冗談交じりに問いかける。



「俺にはここしか居場所がねえってのに……」



裏口の鍵を開け、「リン、帰ってきたぞー」と呼んでみる。

声が届いていないのか、返事はない。

家の明かりは俺が出掛ける前に付けておいたから、真っ暗闇ということはない。

予想通り、すっかり冷め切ってしまった晩飯を温め直すため、とりあえず二階の台所に向かう。


かまどの燃え木に火を付ける。

火が十分燃え広がるまではしばらく時間がかかる。

その間にどの調理器具でこのお好み焼きっぽいやつを焼き直すか選定しておこう。

このフライパンに近いやつなら……ううっダメだ、生臭い。

リン、使ったらすぐ洗わねえと臭いが残るぞ……てかもう染み付いてるだろ、これ。

他に使えそうな器具……

この小さいフライパン……は、お好み焼きが入らねえ。

じゃあこの中華鍋っぽいやつで料理するか?

取っ手が金属製じゃ、これ扱いづらいよな……


ぬああっ! 電子レンジみたいな便利道具はねえのかっ!


半ばやけくそで台所の収納を探してみると、中型の鍋が見つかった。

取っ手は木製、扱いやすそうだ。



「なんか、もうこれ代用でよくね?」



買ってからまだ一度も使ったことがないのか、

火に当たったような跡はどこにも見受けられない。



「新品でも……まあ、いっか」



一度に二人分を焼けるほど大きくないから、

とりあえず一人分を入れ、かまどの上に置いて焼く。

その間に井戸の水を汲み上げ、別の小さめの鍋に流し込んで、

そいつもかまどの上に置いて加熱しておく。


数分後、程よく暖まったそいつを皿の上に移し替えて一丁上がり。

鍋で温め直したから取り出すには多少の工夫が必要だったが、

なんとか形を崩す事なく取り出せた。

二枚目も鍋に入れて温めておく。


暖まったコイツは俺が先に食ってもいいのだが、

食ってる途中でリンに会ったら……なんというか、その、気まずい。

お前だけ一人ちゃっかり飯食ってるんじゃねーよとか思われんの嫌だし。

二枚目を温めている間に、コイツをリンのところへ持って行こう。

さて、リンはまだ寝てるのか? 寝てるならさすがに寝過ぎというやつだろう。

そりゃ、俺はそこまで鬼畜じゃねえから、

起きたらさっさと仕事しろと言う気はねえけどさ、

目え開けてじっと安静にしておくぐらいにはなってもいいと思う。


リンの部屋の前で三回ノックしてリンを呼んでみる。



「おーい、晩飯買ってきたぞ〜」


「…………。」


「リ〜ン! 起きてるか〜?」


「…………。」



…………まだ寝てるのか?



「リン、部屋、入るぞ」



部屋のドアを開けると、部屋は真っ暗だった。

窓から星の光が部屋に差し込み、深青の色で部屋が染め上がっていた。

リンはベッドの上でまだ寝続けている。



「……やれやれ、寝る子は育つなんて言葉もあるが、

 これはいくらなんでも寝過ぎというやつだろ……リン、起きろ」



何度も揺さぶってみるが、今だに起きる気配はなし。

……まあ、今起こしたところで夜は始まったばかり、

今起こして体内時計が狂って昼夜逆転の生活になっちまったらそれはそれで大変だろうし。

今晩は、今晩までは寝かせておいてもいいだろう。

もし翌朝になっても起きてこなかったら――その時はその時で考えよう。


しばらくそこでじっとリンを見ていたが、やっぱり起きてくる気配はない。

俺はリンの机の上に晩飯をそっと置いて……ん?

なんか焦げ臭い……って俺の晩飯!?



「うわああああっ! 俺の晩飯がぁ〜!」



部屋を飛び出し、

急いで台所まで戻った頃には時既に遅し、俺のメシが白煙を吹いてました。



「ちょ、俺のメシ……」



ってボーッとしてる場合じゃねえ!

かまどから熱々になった鍋を取って、一旦調理台の上に置いて冷やそう。


「熱っ!!」


やばい、取っ手が触れねえほど熱々に仕上がってる。

水を入れた方の鍋もグツグツと沸騰してるし、

ととと、とりあえず、えっと、あー、そうだ!

かまどの火を消すんだ! うん、消火だ消火!

最高速で井戸水を引き上げ、かまどの中に直接水を流し込む。


ボウッ! という音がして火柱が上がった。


ちくしょう、まだ消えねえ!

もう一回井戸水を汲んでかまどにぶち込む!


ボウッ!


てめえ火力強すぎだろ! ていうかリンは普段どうやって消火してんだ?

料理云々の前にかまどもまともに扱えない俺って……

そうこうしている間に俺の晩飯から黒煙が!

ちょっタイム! タイム!……っつってもやっぱり時は止まってくれるはずもなく。

井戸水で消火するにはかなり時間がかかりそうだ。

どうにかして一撃で消火できる方法は…………



「そうか! 魔法という手があるじゃないか!」



台所を飛び出し、自室に置いてある魔法書を持ち出して、

目的に合いそうな魔法を探してみる。

どれだ……どこに載ってる? ……あった!

「水召喚の魔法」と書いてあるページを発見。

ええっと、


紙に右図のような魔法陣を描いて水に浸し、二日ほど陰干しにしておく。

注意する点として、直射日光に曝さないように干すこと。

陰干しが終わったら完成。暗いところに保存しておくこと。


ってなんなんだこれは――!

魔法陣を描いた紙を陰干しって、おいおい洗濯物かよ!

てかそんな時間ねえ……




……

…………

………………ってちょっと待て。



『右図のような魔法陣を描く』ってことは、

魔法書の図をそのまま切り取ったら使えるんじゃねえのか?

陰干しに関しては、

書物屋の中で長期間本棚の隅に放置されてたわけだし、使えないこともないはず。



「高価な本だが……しかたあるまい」



本からその図だけをビリッと破り取って、次の説明を読む。



使用方法 術者の血で魔法陣に十字を切り、二つにちぎる。

どちらでもよいので破った紙の片方を出現させたい場所に置き、

もう片方をさらに二つにちぎると、水が召喚される。

必要な水量が確保できたら、四つ切りになった紙を

魔法陣の描いてある面を合わせると、そこで召喚は終了する。

水量は術者の所有する魔力に比例する。



えー、何これ血が要るのかよ……めんどくせえな。

まあ血はともかく、消火が優先事項だ。

台所まで戻って、包丁で指を切る。

指にじわっと血がにじんできた。これでいいだろう。


それで次はなんだ?

魔法陣に血で十字を切るんだったな……よし。

で、紙を二つにちぎって、片方を任意の場所に置く、と。

洋皮紙だから、ちぎるの結構力要るんだよな……よし、ちぎれた。

とりあえず、紙は井戸水を汲む木製バケツの底に置いておこう。

ここに置いときゃ、多少水が多めに出てもバケツだからある程度は溜められる。

あとはもう片方の紙をちぎるだけだ。



「よし、いくぞ……せいやっ!」



ビリッ…………









…………ありゃ、水が出てこねえや。失敗か?

バケツの中を覗いてみると、魔法陣からチョロチョロと水が沸き上がってはいる。



「これって成功か? いや、水が出てるんだから成功、なんだよな……」



なんかショボすぎて話になんねえ。

やっぱ古すぎたらダメなのか〜、と思いつつ、

バケツの紙を取り出そうとした時だった。



ズドドドドドド――!



「おま、ちょ、出過ぎ!出過ぎ!」



バケツからものすごい量の水が水柱となって噴き上がり、

勢い余って天井に吹き付ける!

かまどごときの消火にこんなに水いらねーよ!!

台所が水浸しになるじゃねえか!


とりあえず、消火に必要な水は出てる。

バケツを持ち上げて脇に抱え、

消防士さながらのスタイルで水柱をかまどの中へと向ける。

水柱の噴き出す反動がものすごく重い。

反動で飛ばされそうだ。

ジュウウウ……という音も水の噴き出す音で掻き消されてしまったが、

とにかく消火は出来たようだ。



バキッ!



不穏な音が聞こえたと認識した瞬間、

背中に高圧を感じ、前方へ吹き飛ばされ、かまどに激突。



「ごぶっ!(なんだ!?)」



顔面に高圧の水がかかって息が……!

マジ死ぬ! 死ぬから!

台所で溺死とか洒落になんねえからマジで!



「ゲホッ、ゲホッ……ぷはあ、死ぬかと思った……」



なんとか水圧地獄を脱した俺の目に飛び込んできたのは、

底の抜けたバケツが地面に転がり、台所が水浸しの大惨事。

どうやら水流の反動に耐え切れなくなったバケツの底が抜け、

魔法陣を描いた紙が底板もろともペットボトルロケットの要領で後ろに吹き飛んだらしい。

で、前にいた俺がぶっ飛ばされた、と。

紙は底板と一緒に反対側の壁に張り付いて元気いっぱい放水中。

水の力は恐ろしや……

とにかく、もうこれ以上水は要らん。

四つ切りにした紙を合わせて召喚終了っと……



カランカラン、という音を立てて底板が床に落ち、召喚が終わった。



「台所どころか、俺のメシまで水浸しだ……」


あーあ、どうするかね、これ。

お好み焼きっぽい晩飯は黒コゲの水浸しでぐちゃぐちゃ、食えたもんじゃねえ。

台所は壁床天井びしょ濡れ、かまどの灰やら炭やらが水に溶けて床にぶちまけられてるし、

なにより井戸水を汲み上げるバケツを昇天させたとなれば、

リンに怒られること必至だな……

女を怒らせると怖いのはチカのおかげで痛い程よく分かってるし。



「とりあえず掃除だな……」



濡れた服を上だけ脱ぎ、掃除用具を探しに階下へ下りる。

やれやれ、今夜は長くなりそうだ。

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