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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
113/229

第5話-A17 Lost-311- 警邏隊に連行されました

何とこの小説も気がつけば100話目です。

先日、総合PV数が60,000を超え、ユニーク数は9000人を突破ました。

皆さんどうもご愛読ありがとうございます。

lost-311-の次話も構想だけはありますので、今度は祝200できるかなを目指したいと思います。


注意:だんだん丸くなってきた主人公、コウですが、今話は一気に黒くなりますのでご注意を。

この小説による損害、特に、

コウの模倣をしたことに関する損害等は一切補償できませんのであしからず(笑)

「よし、こいつの止血はこんなもんでいいだろう」



俺は立ち上がり、戦闘に使った針を回収する。

暗くて針を探すのには苦労したが、一応全部見つけることができた。

これはリンの親父さんの形見だからな、使い捨てにするわけにもいかない。



「あっ、コウさん……手、ケガしてますよ」


「ん、これか?」



俺が回収し終えた針をしまっていると、リンが俺の手の傷口を見つけたらしい。

こっちの傷は腕ほど深くないから放置しときゃそのうち治るだろ、と、そのままにしていた。

まだ出血中だが、さほど気にするような量ではない。



「まあ、これぐらいなら傷口に唾でもつけときゃ治るだろ。気にするほどのもんじゃない」



リンは俺の手をとると、しげしげと見つめる。

そして突然、その傷口のキスしだす。

いや、キスというより舐めるといった方が正確かもしれん。

これは衛生上非常に危険な行動だ。

リンだけじゃなく俺までも細菌などの感染症にかかるおそれがある。



「おい、ちょっ……リン!!」


「ごめんなさい、もう、我慢できなくて……」


「……何が?」


「えっと……その……ね」


「ね、じゃ分かんねえよ」


「私にとって……ものすごく大切だから、つい」



リンはつまり、俺のことが好きで奇行に走った、のか?

まあ、このことについて延々と追及したって後の祭り、だからといってどうにかなるわけでもない。

俺はこれ以上は何も言わなかった。

それに、少女にキスされるのに対しての、役得感は否めない。



「お前達、こんな所で何をしてる!」



突然、誰かから光を照らされる。

光が強くてその声の人物が見えないが、複数人いることは足音で分かった。



「こちらは第三警邏隊(けいらたい)だ。

 この近辺で黒服の不審者がうろついているとの通報があった」


黒服の不審者……それ、どこからどう見てもその不審者は俺じゃねえか!

警邏隊は俺とリンを取り囲む。

俺を照らす光源は、白く輝く何かをランタン状の容器に入れたもので、水銀灯のような強烈な光だ。

その途中、警邏隊の一人が床に倒れている変態五人衆を見つけ声を上げる。



「被害者と思わしき人物が五名!!」



そりゃ勘違いだ、そっちは被害者じゃなく加害者だ。

俺はただそいつらからリンを守ろうと……

むう……厄介なことになっちまった。



「罪なき一般人を襲うとは言語道断!! 女は保護し、男を捕らえろ!!」



厳つい顔の警邏隊の隊長とおぼしき人物が部下に命令を下す。

おいおい、マジかよ……



「ちょっと待ってください!」



リンが声を上げるも、俺は手に縄をかけられる。

ここで抵抗の様子を見せるのは良くないだろうと思い、抵抗はしない。



「こんな夜中に駆り出されるのはゴメンだってのに……ったく」


「そう言うなって、この仕事を選んだのはお前だろう?」


「まあな……」


「それにしてもこいつ()、やけに大人しいな……」



そんな声が警邏隊員から漏れるのを聞きながら、

見事なまでに罪人扱いされている俺は、なぜこうも巻き込まれてばかりなのかと嘆く。

警邏隊はリンから事情を聞くだろうが、彼らはリンの話をどこまで信用してくれるのか。

日本では裁判で起訴された場合の有罪判決率が99.9%らしいが、ここではどうだろうか。

きちんとした公正な捜査をしてくれるのだろうか。

不安の種は尽きない。

ファンタジーな世界だとことあるごとに思っていたが、こういうところだけ嫌に素晴らしくリアルな展開を見せてくれる。



「今からナクル第三警邏隊本部に来てもらう。大人しくついてこい」



隊長はそう言って空に舞い上がる。

え、まさか本部まで飛んで行くつもりじゃないよな!?

この世界の住人は空を飛べることが当たり前になっていることを考えれば、

空での移動を採用してもおかしくはない。

他の隊員達も次々と地面を蹴り上げて空へ舞って行く。



「おい、何もたもたしている、大人しくついてこい!!」



俺の縄を持つ隊員の一人がなかなか飛び立とうとしない俺にイラついてか、荒々しく罵声を浴びせる。



「あの……」


「何だ?」


「俺、飛べないんすよ」


「はぁ? 何寝ぼけたこと言ってんだ!!

 そんな人間がいる訳ねえだろ! ガキじゃあるまいし」


「いや、ホントに飛べないんすよ」


「それじゃあお前の背中についてる翼は一体……ん?」



隊員がそういって俺の背中を叩く。

と同時に背中の触った感触の異常に気がついたようだ。



「ない……だと!?」


「そういうことです」


「そんな馬鹿な、お前には神使様のご加護がないのか!?」


「まあ、いろいろ事情があって、図らずもここにいるわけで――」


「……おい、ちょっと聞いてくれ!」



その隊員は空中で待機している仲間に声を上げ、俺の事情を説明した。



「本当に翼がないのか?」



事情を信用してくれない隊員の一人がそう言って俺の背中に手を回すと、

驚愕の表情を浮かべる。



「翼のない人間なんて見たことがない……」


「一体どうなってる、神使様の加護は絶対のはずだ」


「黒服を着た翼のない人間と、五人ないし六人の被害者……何か不吉な予感がする」


「とにかく後で教会の人間を呼んだ方がいいだろう。

 こいつが厄災の前触れでないとは限らん。教会所蔵の古文書から文献を探させるか……」


「そこは上層部の判断を仰ぐとこだ、俺達下っ端が判断するもんじゃない」


「そうだ、俺ら下っ端が今心配しなくてはならないのは、こいつをどうやって本部まで連行するかだ」


「やはり、歩いて本部まで?」


「ここから歩きで本部まで行こうとすると小一時間はかかるぞ」


「だがそれ以外の方法があるのか? 徒歩しかないだろう」



俺は厄災の前触れ扱いか……とんだ好待遇だな。

俺たちが本部までどうやって行くかをあれこれ議論しているうちに、

警邏本部に俺のことを連絡するために一人が先に飛び立って行った。



結局、俺の移送方法は隊長の鶴の一声で空輸に決定し、現在移送中。

どうやって運ばれてるかって?

手に掛けられた縄を隊員達が分担して持ち、

俺は吊されて全身でタケノコを表現するというコメディースタイルだ。

縄をかけられている手首が……痛い。

もちろん、足元はぶらぶらである。

高高度を飛ぶのは俺が逃げ出さないようにするためだろう。

俺の隣のリンは、

体力と魔力の消耗で(飛ぶときは体力と魔力を消耗するらしい)自力で飛行できないため、

隊員一人に支えてもらいながら何とか飛んでいる。



「こいつ、やたらに重いな……」


「出発前に武器装備と魔法書を没収したのに、コイツ単体で何ちゅう重量だ」


「気が滅入る……」


「俺、こいつよりあっちの少女の護送がしたかったぜ」


「そういうなって、俺らみんなそう思ってるんだ」



そんな愚痴が俺の上方から流れてくる。

そういや、リンも盗賊から脱出するときに俺がむちゃくちゃ重いとか言ってた。

俺自身はそんなに体重が増えたとは思ってないのだが……

途中、前方から警邏隊の服装をした集団とすれ違った。

どうやら、彼らはあの変態五人衆を保護して、警邏隊本部へ移送するらしい。



警邏隊本部に移送された俺は、その足で取り調べを受けることになった。

日本の警察では取り調べは密室かつ少人数で行われるが、

ここの取り調べはその真逆、大広間かつ大人数で行われるようだ。

取り調べの部屋は豪華で、立派な装飾品も飾られている。

この部屋は取り調べ以外にも使われていると簡単に推測できた。

取り調べに装飾品は必要ないしな。

警邏隊職員(?)の人数は、ザッと数えて20人弱。

どうやら、俺が来ると同時に取り調べが始まるよう、前もって準備していたらしい。


長テーブルの前に腰掛けている彼らの俺を見る表情は険しい。

俺は縄をかけられたまま立たされ、その両側には警邏隊職員が俺を見張っている。

逃走防止にだろう、この部屋には出入口が一つしかなく、窓もない。

その中で、俺は部屋の出入口からもっとも遠い場所に立たされている。

扉と俺が向かい合うような形だ。

ところで、普段体力を使わない深夜にいろいろ暴れたせいで腹が減ってきたのだが、

ここは例のアレを出してくれるのかね、えっと、なんだったかな――そう、カツ丼。

ちょっと両側にいる職員に聞いてみる。



「ここって――」


「喋るな。」



見事に切り捨てられた。

俺は仕方なく前を向き直す。

職員達はみな黙り込んで、部屋の中には静かな緊張感が流れている。

誰かを待っているような雰囲気が感じられた。


それからかなりの時間を待たされ、俺もこの代わり映えのしない景色に飽き飽きしてきた頃、

コンコン、と扉がノックされ、外の通路から声が聞こえた。


「総合警邏隊長殿がお見えになりました」


「ああ、どうぞお入りください」



長テーブルの職員の一人が沈黙を破って応対すると、扉がゆっくりと、厳かに開く。

扉が開き切って、中に入ってきた人物はやはり長老っぽい人物だった。

もう完全に外見が仙人スタイルの白髭じいさん。

足元をドライアイスの白い煙で装飾して、

後光でも差しとけば、誰がどう見ても仙人に見えると断言できる。


その総合何とかという役職のじいさんは、俺の目の前まで歩み寄り、いろいろな角度から注目する。



「ふむ、珍しい……わしは今まで翼のない人間なぞ見たことがなかった……」


「警邏隊長殿、そろそろ取り調べを開始しても――」


「そうじゃな。だが、その前にやらなければいけないことがある」



じいさんはそう言って俺の背中に回り込むと、俺の手首に結ばれていた縄を外した。

それを見た両隣の職員が止めに入ろうとするが、じいさんはそれを手で制する。



「彼を取り調べる理由はない。

 被害者だと思われていたあの五人は目下手配中の男じゃった。

 その場にいた少女が語ってくれたよ、“彼は命の恩人です”と。

 わしが遅れたのはその事実と五人の男の確認をしていたからじゃ」



職員の間にちょっとしたざわめきが起こる。

じいさんはさらに続ける。



「彼の行動はあくまで自己防衛の範疇じゃということも、五人を見れば一目瞭然。

 誰一人として瀕死の重傷の者はおらんかった。

 みな眠らされているだけで、怪我人は……一人おったが、きちんと止血されていた。

 それも彼のローブでの。君は元々相手を傷つける気はなかった、違うかね?

 まあ、どのみち取調べはせんといかんがのう」



最後にそう聞かれ、俺はゆっくりとうなずいた。

誤解が解けてよかった。それも仙人のお墨付きである。



「ということは、今から取り調べるのはその手配犯の五人ということでいいですか?」



職員の中の一人が立ち上がって質問する。



「いや違う。彼らは薬で眠らされておる。しばらくは起きてこんじゃろ」


「では、一体誰ですか?」



じいさんは職員の中からある人物を指差した。

それは俺にとって見覚えのある顔、俺を連行したときの、あの第三警邏隊隊長。



「あいつじゃ」


「お、俺ですか!?」



隊長は驚きのあまり立ち上がり、それから抗議の表情を見せた。



「お前さんが彼を捕らえる前に事情を聞いてれば、

 罪のない一般人にこんな迷惑を書けることもなかったじゃろう?

 それに、五人の顔をしっかり見ていれば、手配中の人間だと一目で分かったところを、お前さんは確認したのか?

 確認しなかったから、こういう事態になったのではないか?」


「それは……その……部下が確認したので……信頼して……


「たわけ!! それを職務怠慢というのじゃ!!

 お前の隊はいつもいつも冤罪事件ばかり起こしよって、ちっとも成長せん!!」



おお……仙人がキレた……

俺のすぐ近くで怒鳴り散らすじいさんの迫力に、思わずびくついてしまった俺。

いやあ、このじいさん、見た目は仙人だが中身はまだまだ若々しい。

ていうかさ……俺の顔に相当な量の仙人のツバがかかってるんだが。

仙人のツバに美顔効果があるならまだしも、ただの唾液だと言うから不快だ。

……何の効果があるにせよ不快には変わりないか。



「それは、部下の判断が……」


「お前はそうやって人のせいにするのが得意じゃのう!

 前々から思っていたが、お前は上司としての責任能力に問題がある!!」


「……申し訳ございません」


「今回という今回はただじゃ済ませんぞい!!

 わし独断でお前の処分が決められるなら、八割減給一年じゃ!!」



すると、眼鏡をかけた別の職員がすくっと立ち上がって言った。



「では、今の総合警邏隊長殿の提案に異議のあるものは挙手を願います」



え、えええっ!!

おいっ、ちょっ、今の仙人の発言は提案だったのか?

隊長の顔は真っ青に変色している。

この世界はゆったりしてていいじゃねえかとか思ってたが、やっぱりどこの世界も世知辛いんだな。

そして勇敢にも異議を唱えようとする者はいない。

総合警邏隊長という役職がどれぐらいの地位なのかは知らんが、

相当な地位にあることは明白で、誰もそんな重鎮級の人間にたて突くなんざ怖くてできやしないだろう。


「では、ナクル第三警邏隊第6部隊長は今月から一年、80%の減給処分ということでよろしいでしょうか」



俺は何も言わなかった。

挙手して被害者側の立場から今回だけは見逃してくれとも言えなくはなかったが、

なんというか、こいつが俺に対してした仕打ち、突き詰めて言えば飛べない俺をぶら下げて連行したことが、

俺にはどうも許せないというか、あの苦痛を許す気にはなれなかった。

隊員も隊員で俺のこと罵ってたし。



「では、ナクル第三警邏隊第6部隊長は減給処分ということで」



………………考えれば考えるほど腹が立ってきた。やっぱ挙手する。



「あの、ちょっといいっすか?

 ちょっと思ったんすけど、隊員達が俺を中傷した件については処分されないんすか?」


「中傷……?」


「はい。

 顔は覚えてないんすけど、隊員の中に俺のことを外見だけで“厄災”呼ばわりした人がいるんすよ、

 隊員のモラルの低下ってやつですかね?

 これってやっぱ指導者の日頃からの管理に問題があると思うんすよ」


「なんと! そのようなことまで!

 ますます許しておけん!!もう、部隊長隊員全員解雇じゃ解雇!!」



よっ、出た解雇!!

人の不幸は蜜の味というが、これほどまでの優越感に浸ったのは久しぶりだね。

え? ちょっと酷くねえかって? 別にいいじゃねえか。

だってよ、飛べない俺を吊るし上げたままの空中散歩(スカイウォーク)だぜ?

そんじょそこらの遊園地の爆走ジェットコースター(安全設計)の比じゃない高度を、

高速で、しかも縄一本で飛んでいくなかで、厄災だとかいろいろ罵倒されたわけで、

精神的苦痛というのも処分の計算に入れるのは普通だろ。



「ナクル第三警邏隊第6部隊長ならびに隊員全員を解雇処分にすることに異議のある方は挙手願います」


「……………………。」


「では、ナクル第三警邏隊第6部隊長ならびに隊員全員を解雇処分にするということで決定ですね」


「ち……チクショ――ッ!!」



眼鏡の職員に淡々と解雇処分を受けた隊長は、「これから妻子をどうやって養っていけばいいんだ!」と机を叩きながらわめく。

なかなかリアルな懺悔である。

リアルにリアルだというのもおかしな話だが。

しかし、懺悔の言葉の中に隊員を思いやるような言葉は隊長の口から欠片も出てこなかった。

まあ、今ここで解雇処分が決定されたのは恐らく隊長がとんでもないことをしない限り覆らないだろうが、

この隊長の言動を見ていると、今回の事件がなくとも近いうちに解雇されていただろうと俺は思った。

まあ、せいぜい職探しに明け暮れるこったな。

ちょっとコウは酷すぎたかな?

多分今までで一番黒くなってるんじゃないでしょうか……

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