表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
112/229

第5話-A16 Lost-311- 偶然の結果

どうする、どうするよ俺!?

俺の手首を掴んでいる相手は、命の危険を本能的に察知したようで、掴む力は半端なく強く、息も荒い。

これが火事場の馬鹿力ってやつか……ちくしょう!


俺の動きを封じ込められてしまった以上、このままやられてしまう他ないのか?

そもそも、俺が強行手段に出たのが間違いで、

吹き矢で後ろからスナイパーごっこしていた方が得策だったのかもしれない。

俺一人に対して、残る敵はあと二人。

状況的に言えば俺が圧倒的不利だということは目に見えている。


とりあえずリン……リンだけは今のうちにここから逃げ出して――!

俺は相手と力攻めをしつつ、ちらりと流し目でリンを見やる。

リンまでもが俺が突如乱入してきた事に対して混乱してしまい、頭脳は思考停止状態らしい。

口をポカーンと開けて放心中。

いや、だから今のうちに逃げろってバカ!!

口に出して逃げろと叫べば様になるし、カッコよく見えるかもしれんが、

叫んでしまうとこっちの注意がリンに行ってしまっていることを敵に伝えてしまう。

こういう状況に慣れているならともかく、

実際は胸に若葉マークのステッカーを貼っているような俺では、その一言が命取りになりかねん。

要は、ひどい言い方かもしれんが、リンの身よりも、自分の身の方がかわいいってことだ。



「ウォリャアァッ!!」



そんな叫び声が横から聞こえ、俺も俺の手首を掴んでいる敵もその方を見た。

元気いっぱいに叫んだその男――レンは、両手で何かを掴んで振り上げていた。

星の光で青白く反射する直線状の金属。

――剣を振りかぶってるのか!

レンは剣を逆さに持ち、何かを刺すような形でそれを振り下ろそうとし、

手首を掴んでいた男はそれを見るやいなや、反射的に手を離して俺と距離を取る!


ヤバッ、殺される!





カキン!!



レンが剣を振り下ろすと、足元からそんな音とともにオレンジの火花が散った。

火花を散らしたのは、レンの持っていた剣と――俺の靴!?



……ああ、そういえば俺の靴は軍靴だった。

見た目は革靴、中身は金属装甲のイカツイ戦闘用シューズ。

敵二人から少し距離を置き、火花を散らした靴を見ると、

外の革の部分が切れ、中の金属の光沢がキラリと反射している。



「残念、軍靴でした」


「チッ、動きを止められると思ったのによ!!」



剣を持ったレンは、元々俺の足を串刺しにするつもりでいたらしい。

俺の足を串刺しにして地面と固定すれば、

なるほど、俺はなす術もなくただタコ殴りにされるだけ、というわけか。

さすが、危険度No.1の男が考えることだと褒めてやりたいところだ。


俺は手に持っていた未使用の吹き矢の針を投げ捨て、

こんなことはしたくなかったのだが、盗賊から拝借した例の剣を取り出して構えた。

中学の時に習っていた剣道のフォームを身体が覚えていたらしく、自然と構えの態勢になる。

剣道では竹刀を使っていたが、

今俺が握っているのは殺傷能力のある重たい金属製の剣で、

それがこれから俺がやることの責任の重さを物語っている。


――と、そこまではいい。

忘れちゃならんのは、

俺は剣道の試合で一勝もしたことがないという折り紙付きの平和主義者だということで、

専ら相手の攻撃を防ぐことしかしてなかった。

そりゃ、相手のいない素振りとかはやってたが。

当時は

「平和ボケした日本で剣道なんて意味があるのかよ、

 こんなことしてる暇があったら、カネの稼ぎ方の勉強をしたいところだね」

などと考えながら授業を受けていたような有様で、

まさか異世界に飛ばされてファンタジーに剣で戦うなんて思ってもみなかった。

もっと真剣に授業受けてれば良かったぜ、まったく。



「俺達の邪魔をするんじゃねえ! 死ねぇっ!!」



体勢を立て直したらしいレンは、すぐに斬りかかる!

反射的に自分の剣でそれを受ける。

相手はそこから押しをかけ、俺を力でねじ伏せようとする。

どうする? 一体どうすればいい? 深呼吸? そんなヒマはない!

考え込んでいる間にも相手はどんどん圧力を強めてくる。

この状態でもう一人、手首を掴んだ男が応援に駆け付ければ、俺はひとたまりもない。

一度に何人も相手はできねえ。


とりあえず俺はどんどん強くなっていくレンの押す力を受け流す。

その行動がレンにとっては意外だったらしい。

そのまま前につんのめって危うくバランスを崩しそうになる。

その一瞬の隙をついて、というか“偶然に”俺の右足が前に出ちまって、

レンはそれに足を引っ掛けて、躍動感溢れるコケ方をした。



「グフッ!」



そのまま倒れ込んだ彼は、すぐさま体勢を立て直そうとする。

俺はそんな無防備な彼を――正確には彼の例のアレを思いっきり蹴ってやった。

声にならない声で叫び声を上げるレン。

男だけの弱点を狙うのは戦い方としては、

特にリンという少女の前では汚らわしく、フェアじゃないかもしれない。

だが、いまはそんな悠長なことを言っているヒマはない。

俺は一度砂利の上に投げ捨てた吹き矢の針を拾い上げ、痛がるレンの首に刺した。

一度落ちた針を刺すのは衛生的に問題があるかもしれないが、コイツを無力化させる方がどう考えても先決だ。



「(うがっ!?)」



この野郎、やりやがった!!

俺が刺した直後、こいつが突然暴れだし、持っていた剣を乱暴に振り回したのだ。



「グァ――ッ!!」



俺は本能的に腕でその剣を受け、刃が腕に食い込む。

ちょ、コレって切り口が骨まで……リアルに逝ってるかもしれん。

しかも太い血管を切ったらしく、かなり出血しちまってる。

血、ポタポタ流れ出てるし……あぁ、見たくねえ……


大きい傷はそこ一カ所だけだが、小さい怪我としては手の甲を切ったのが挙げられる。

マジコイツ危ねえ奴だ。

ちゃんと注射したのに暴れ出すとか、あれか?

アドレナリン大量放出につき睡眠薬受付不可ってやつか?

傷口から暴れた張本人に視線を移すと……バッチリ熟睡してやがる。



「おいお前! そっから動くんじゃねえぞ!! 動いたらコイツの命はない!!」



その声のする方を見ると、俺の手首を掴んだあの男がリンの首にナイフを突き付けていた。

リンは刃物に怯えて小さくなる。

あーあ……逃げりゃ良かったものを、なぜ逃げなかった、リン?

リンを人質にとっている男の声は震えていて、戦々恐々としている感がひしひしと伝わってくる。

確かにあの男からすれば、

謎のナイトローブの男が自分以外の仲間全員をあれよあれよと倒しちまったわけだから、

俺が百戦錬磨の英雄に見えてもおかしくはない。

だが、実際の所どうかと聞かれれば、俺は間違いなくこう答えるね。

“あれは幸運のもたらした結果だった”と。


さて、人質にされたリンだが……どうする?

俺が下手に動けばリンに危害が加わる。

ここは男の言う通りにした方がいいに決まってる。



「ぶ、武器を放せ!」



男のビビりっぷりはかなりのもので、

いくらなんでもそこまでビビる必要は無いんじゃねえかと心の中で呟きながら、

手に持っていた剣を手放す。

剣が砂利の上に落ちる音があたりに響いた。



「そ、そこから動くんじゃねえぞ……」



男はリンを人質にとったまま、じりじりと路地から通りの方へと移動する。

リンと一緒にどこかへ逃亡する気らしい。

そこらで地面と接吻している仲間達を見捨てて。

だが、俺は手が出せない。黙ってそれを見ているほかない。



そんな状況を打ち破ったのは、他の誰でもない、リン本人だった。

彼女はいきなり懐に手を突っ込んでナイフを取り出し、それを使って男の手首を切り付けたのだ。



「お、お前……隠し持ってたのかっ……!」


「このナイフ、切れ味が悪いから余計に痛みを感じちゃうんですよね〜」



俺はこのタイミングを見逃さなかった。

地面の剣を拾い上げると、そのまま男に突撃、リンを力ずくで奪うと、

今度は俺が男の喉元に刃を向けた。



「お前にいくつか質問する。嘘偽りなく答えろ。いいな?」



男は俺の言うことに対して大人しくうなずいた。



「まずはナイフから手を離せ」



男はナイフから手を離した。



「お前、女を襲うのはこれが初めてじゃないな? 何回目だ?」


「は……初めて、だ……」


「嘘つけ!! 俺はお前らがここに来てからの一部始終をしっかり見届けてる。

 俺に嘘は通用せんぞ。正直に答えろ」


「……も、もうわからない……」


「最初からそう言え。次、嘘ついてみろ。

 お前の嘘が言い終わらぬうちに俺が生首にしてやる。

 ……次の質問だ。

 お前らの“コレクション”とやらは何人いる?」


「し、七人だ……」


「本当か?」



俺は刃を一層喉元の近くに、それこそ刃が喉に当たるぐらい近くまで寄せる。



「う、嘘じゃない、嘘じゃない! 信じてくれ!!」


「ほう、七人か。よくそんなに集めたもんだ。

 ……で、だ。

 俺もその“コレクション”とやらに興味がある。“コレクション”の場所を教えろ。」


「イーカ教会のすぐ近くの屋敷だ……」


「イーカ教会……知らねえなぁ?」


「この近辺で一番デカイ教会だ! そのすぐ近くにある!!」


「情報提供、どうも」



俺は剣を捨て、その男のみぞおちを蹴り上げて行動の自由を一瞬奪い、

その隙に柔道の投げ技を一発かましてやった。

無防備な相手に対しての柔道技はスポーツマンシップどころか倫理的にアウトかもしれないが、

今回は、今回だけは大目に見てくれ。


男は投げ技を受けると、いとも簡単に気絶してしまった。

まさか……死んではないよな?

確かに、受け身を知らない相手に対しての投げは危険だ(と、中学教師が言っていた)。

もしかしたら頭を強打して――


その男の口元に手をかざすと、呼吸が確認できた。

大事には至ってないようだ。



「あ、あの……すみません」



背後から声が聞こえ、振り向くとリンがすぐ俺のそばまで来ていた。



「助けて下さって……あ、ありがとうございました……」



そう言うとリンは深々とお辞儀をした。

今までリンを遠巻きにしか見てなかったから気がつかなかったが、

いまこの距離で見ると、服は所々ほつれ、顔には小さな擦り傷があるのが確認できた。

顔色も悪い。

どれもリンが出かける前にはなかったものだ。



「ん? あ、ああ。」


「良ければ……その、被ってるフードを脱いで……お顔を見せてもらえますか?」



もしかして、いや、さっきからちょっと気になってたんだが、

まさかリンは助けてくれた男は見知らぬ男とでも思ってるんじゃ……

いや、絶対そうだろ。

というか、声で気づけ、バカ。

まあいい、脱いでやるよ! ……フードを。

俺は何の躊躇もなくそいつを脱いだ。



「……ぇ、え? コウさん!?」


「ああ、俺だが」


「何で……何で……」


「お前がなかなか帰ってこねえから、

 わざわざ筋肉痛の身体に鞭を打ってはるばるここまで捜しに来たんだよ」



ちょっと言い方的に嫌みっぽかったか? ……まあ、気にしない、気にしない。

リンは顔を歪めて俺に抱き着いてきた。

崩れかかってきた、という表現の方が正しいのかもしれん。

緊張の糸が切れて、足の力が抜ける、そんな抱き着き方だった。



「こ、怖かったぁ……」



リンは涙声にで言った。

日が落ちてからこんな深夜まで、この男らにずっと追われていたんだろう。

逃げる途中でつまずき、服がほつれても、顔にケガをしてもなお、逃げ続けた。

体力の持つ限り――

そんな状況に置かれたリンの精神的負担を推し量ることなど、俺にはとてもできない。

完全に泣きのモードに入ってしまったリンを、俺はただただ受け入れるしかなかった。



「俺も内心ビビってた。

 こりゃあ、しばらく刃物がトラウマになりそうだ」


「グズッ……。」



戦闘に参加するのはこれで最初で最後にしたいね。本気(マジ)で。

一対五とか普通に考えれば、俺は完璧に飛んで火に入る夏の虫状態、無謀だ。

今回うまく(?)行ったのはただの偶然だ。

例えば俺が靴屋で軍靴ではなく普通の靴を買ってれば、

今頃俺の足には風穴が空き、

さらにサンドバッグの気持ちまで否応なしに味わうことになっていただろう。

今回は天が味方してくれただけで、次はどうなるか分からん。

こうしている間にも、リンが俺に抱き着く力は強くなっていく。



「……大丈夫だ、リン。

 こいつらはしばらくはここで寝たままだ。もう襲われる心配もない」


「もし、コウさんが助けに来てくれなかったらって思うとっ……怖くて……!!」


「結果的に俺が来たんだからいいじゃねえか。結果オーライだ」


「うん……」


「ああ、そうだ。

 これは最初に聞くべき事だったのだが……ケガは大丈夫か?」


「大丈夫……」


「そうか、それは良かった」



こうやってリンと会話していると、

だんだん立っているのが辛くなり、吐き気に似た強烈な感覚が俺を襲う。

しゃがんで小さく縮こまっていたい、そんな辛い感覚。

これはまるで、いや、貧血の症状そのものだ。



「……リン、もういいだろ? 離してくれ。

 俺は腕の出血を止めにゃならん。ちょっと気分が悪くなってきた」


「あ……ああっ!! ごめんなさい……」



まったく、抱擁してるヒマがあればとっとと止血しろってんだ、と自分で自分に悪態をつく。

俺は剣でナイトローブを一部切り取り、それを腕にきつく巻きつけた。

魔法書には回復魔法の発動方法とかかいてあったりするのだが、あいにく俺はまだできない。

そういう時は傷口を直接圧迫して止血する、通称“直接圧迫止血法”が有効だ。

ガーゼや包帯などで出血している箇所を巻き付け、止血できれば完成だ。


他の止血法としては“止血帯法”といわれるものがあるが、

これは直接圧迫止血法と併用して行われる事が多いらしい。

なんでも、手足のケガ専用の強力な止血法で、

場合によってはこの止血法を行うと最悪細胞が壊死してしまうリスクもある。

まあ、この知識も全部中学の時の保健の授業の受け売りなんだがな。

世間一般的に、特に世の男性諸君においては、

保健とはあんな話やこんな言葉が教室内を飛び交うイメージが強いかもしれないが、

意外とこういうケガの応急手当のやり方が詳しく解説されていていて、

事故や災害、そして戦闘で負ったケガの対処には役立つ知識が盛りだくさんだったりする。


もし、いっぱしの異世界に飛ばされた出来損ないの高校生が偉そうに何をぬかしてるんだと思っている人がいるとすれば、それは正解だ。

俺もちょっと偉そうに解説しちまったと反省している。この通りだ、許してくれ。


俺の腕の止血のついでに、リンに手首を切られた男の腕も止血させておく。

人殺しにはなりたくないんでな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ