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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A15 Lost-311- 闇夜にまぎれて……

戦闘描写はとても難しいですね……

クスリと笑ってもらえれば幸いです。

事態は俺の前頭葉の意志決定を待ってはくれなかった。

とうとうリンと思わしき人物は力尽き、その姿は建物の群れ中に吸い込まれていったのだ。

それを追う五つの影は、ここぞとばかりに加速し、また彼等も同様に建物の群れの中に入って行ってしまった。

俺は彼等が着地した大体の場所を記憶し、その場所めがけて一段と走る速さを上げる。


俺がマークした地点に近づくにつれて、だんだん声が聞こえてくるようになった。

それは紛れも無くリンの声だった。

嫌、近寄らないで、といった叫び声が聞こえてくる。

リン、一体どうしてこういう状況になった!?

リンの声が聞こえてくる路地に繋がる中規模の通りの角に着くと、

その場で息を殺し、しゃがみこんで建物の影から路地を覗き込む。

今まで散々走らされた結果、息もかなり上がって、息を殺すのが苦しい。

しかし、はたから見れば、ナイトローブのフードを被った今の俺は、

完全に闇夜に紛れて依頼をこなす冷酷無血の暗殺者が、

路地にいる目標人物(ターゲット)の様子を伺う格好そのものである。

ま、ローブを一枚剥ぎ取れば、そこにいるのはゴテゴテにの装備をした小心者の平和主義者なんだが。


辺りが暗くて良く見えない。

暗視ゴーグルとか、赤外線カメラとかあれば鮮明に見えるんだろうが、

残念ながら今頼りにできるのは、星の光と肉眼だけである。

そんな状況下でも、確かに確認できた。

リンは、路地の行き止まりに追い詰められていた。



「いいじゃねえか、俺達と今晩遊んだってよ」


「えへへ、別に悪いようにはしねえからさ」


「悪いようにしないなら、……早く家に返してください……」


「んー、それは無理難題だなぁ、俺達をここまで追わせといて、やすやすと帰すのは」


「こんな綺麗なの、いままでやったことがないぜ」



どうやらリンはこの男らに“襲われて”いるらしい。

で、リンを壁際まで追い詰める五人組は自分の欲求を抑えられないどうしようもないクズ、という状況のようだ。



「……か、家族が家で待ってるんです」



リンは涙目になって訴えかけている。

家族……まあ、俺を家族と見なしているのかは別にして、心配して家を出てきたのは事実だ。



「へぇ、君、家族いたんだ。

 それならなおさら返せないなぁー」



このどうしようもない男達は高らかに笑い声を上げる。

俺からはその後ろ姿しか見えないが。



「どうし、て……」


「なぜって、君が家に帰ったら俺達のことを言うに違いねえからだ。

 そしたら俺達は警邏隊(けいらたい)に捕まってブタ箱行き、下手すりゃ奴隷身分だ。

 だから君を帰すわけにはいかねえ。

 俺達の奴隷になるか、ここで死ぬか、それはお前次第だがな」



へえ、この世界には奴隷身分もあるのか。

多分警邏隊=警察だな。

って、学んでる場合じゃねえっての。

何とかしてリンに被害が及ぶ前に助け出さねば。

辺りを見回してみるが、明かりはどこも点いていない。

人通りもない。

つまり、俺一人で五人の男からリンを一刻も早く救い出さなければならない。

こういう試練がテレビゲーム上のものなら喜んでミッション開始なわけだが、

こちとらファンタジーな世界とは言え現実は現実。

失敗してもコンティニューボタンなんか現れてはくれない。

大量の装備を身につけている俺だが、やはり一人での行動は心細いものがある。

女々しいと笑うなら笑ってくれ。

同じ状況に置かれた時に相応の行動をする覚悟があれば、だが。


俺はまず、リンの親父さんの吹き矢を取り出した。

いくら相手が腐っているとは言えど、相手を傷つけるような真似は、

鳩ポッポ主義の俺としては納得がいかない。

弓矢や剣はあくまで最終手段で行きたいと思う。

だが、それじゃあ名案でもあるのかと聞かれれば、

そんなものはない、と哀しくも軽く一蹴できてしまう。



吹き矢の矢を見ると、どうやら矢の針に何か仕込めそうな構造をしている。

俺は瓶の存在を思い出し、「睡眠薬」と書かれた瓶を取り出した。

そして、よくよく矢の構造を観察する。

なるほど、ここに液体の薬を流し込むと、目標に当たると、

針がちょうど注射針の代わりになってその薬が相手の体内に流れ込むと。

やはり、俺の思い通り、この瓶の薬は吹き矢用の薬だった。

リンの親父さんは生前猟師をしていたって話だから、

今俺が持ってる薬は恐らく鳥獣用なんだろう。

ハハッ、欲求に身を任せて行動するケモノにはピッタリの薬じゃねえか。


早速矢に薬を流し込んで仕込みをする。

平和主義者として16年間、誰とも拳を交えずにひょろひょろと生きてきた俺は、

人生で初めて自ら戦闘行動を起こすことになるのだが、今のところ後悔はしていない。

人の命、ましてやリンの命がかかってる重大事件だ、

ここで俺が平和主義を貫いて、男らが言う警邏隊を呼びに行くという行動を取ったら、

その間にリンが被害にあってしまうことに疑問の余地はない。


矢には薬をこれでもかって程詰め込んでおいた。

これだけの睡眠薬を喰らえば、確実に夢の中に落ちるだろう。

だが、一度に打てるのは一発だけ。

それに、一発放てば相手もこちらの存在に気がつくだろう。

つまり、こいつだけだと一人しか倒せない。

あとの四人を倒すのならば、別の方法が必要だ。

方法が思い浮かばねえから、とりあえずコイツを一発かまして、まず一人倒すことにしよう。

親父さん、娘のリンの為だ、力を貸してくれ。



吹き矢を構える頃には既に俺の息も安定していて、照準がぶれることはなかった。

どこを狙うのがいいだろうか。

まあ、セオリーに首辺りを狙ってみるか。

某メガネの少年もいつもあのオッサンの首を狙ってるし。

初めての吹き矢なのだが……まあ大丈夫だろうと普段信用しない自分をこういう時だけ信じて……撃つっ!



プスッ!!



……チッ、外した。

俺が放った睡眠薬デリバリー注射器は、始めのうちは首に向かって飛んでいってたのだが、

俺の息の吹き込み方が悪かったのか、速度があまり上がらず、

放物線の軌道を描いて――――ケツにデリバリーしちまった。



「痛ってぇ!!」



ケツに吹き矢兼注射器が刺さった男は、やはり声を上げてケツの痛みを訴えた。

うわぁ……むっちゃくちゃ痛そう……男よ、変なところに刺してしまってすまない。

謝る義理はないが、ものすごく痛そうにしていたのでついつい謝ってしまった。

というか、ケツって痛みを感じにくい部位じゃなかったっけか?

まあいい、ここで新たなことわざが誕生した。



ケツに吹き矢……(意)感覚の鈍いケツでも強烈に感じるほど痛いものの例え。



……なーんちって。



「ん?何だこれ?」



必死に痛がる男の横にいた男は、ケツに刺さった吹き矢の針を見つけ、それを引き抜いた。



「誰だ!コソコソしてねえで出てこい!!」



その男は大声を上げて俺の方を向き、慌てて俺は建物の影に身を隠す。

……バーカ、後ろからコソコソ吹き矢で睡眠薬を撃ち込む奴(=俺)が、

出てこいと言われて、はい、分かりました、とあっさり降参して出てくる訳ねえだろ。

俺は聞き耳を立てて建物の影から男達の会話を聞く。



「おい、アンド、ビエスにこんなオモチャを撃ち込んだ奴がいる。

 飛翔音が聞こえねえから撃ち込んだ奴はまだこの近くにいるはずだ。

 取っ捕まえて引きずり出せ」


「おう……おい、ビエス!!」



どさり、という音が聞こえたと同時に、アンドという男がビエスという男に駆け寄る音が聞こえてきた。

どうやら睡眠薬が効いてきたらしい。

薬が効くまでにはもうしばらく時間がかかると思っていたが、意外に即効性だな、コイツ。

しかしそれにしても、“取っ捕まえて引きずり出せ”なんて言い方をするのは

悪役ぐらいなもんなんだが、自分達が悪役だということはきちんと認識しているのだろうか?



「吹き矢に睡眠薬が仕込まれていたのか……誰かは知らんが小細工しやがって……」


「俺も探す。一人より二人の方があぶり出すには効率がいい」


「そうか、なら俺は上から探す。アンド、お前は地上を探してくれ」


「おう」


「おっと、レン、お前はそいつが逃げないようにしっかりと監視してくれよ?」


「わーってる、わーってる、安心しろ。逃がしはしねえよ」



それから羽ばたく音が聞こえ、それと同時にアンドという男が俺の隠れている角に

近づいてくる。

いや、もしかしたらこういう事態になるのではないかと頭の中では予想していたが、

実際にこういう事態になったらどうするかは全く考えてなかった。

さて、どうする?

上から監視されているから下手に動けば、

こちらがいくら闇に溶け込んでいるとはいえ、相手も気がつくだろう。

かといって、このままじっとしていれば、アンドとかいう男に見つかる。

何かいい手はないだろうか……



……あ、あそこに空の木箱がある。

あれを被って隠れれば、上空から見ても、ただの路上に無造作に置かれた荷物にしか見えない。

俺は足音を立てないよう、そしてできるだけ早くその木箱に向かう。

……まだ見つかってないな、よし。

そして俺はそいつを被った。

出発前に敵の捜索を抜け出す為に段ボールを好んで被っていた奴を俺は奇人扱いしたが、

隠れる側になって分かった。

こいつは意外に有効な戦術だと。

この木箱は丁度板切れ一枚が外れかかっており、そこから外の状態をうかがい知ることができる。


俺のいた通りの角に、路地からアンドと呼ばれていた男が出てきた。

そいつは周囲を警戒しながら俺をくまなく探している。

俺が木箱に隠れているなんて発想をあいつがしてくれなきゃいいが……

ちなみに今の俺の状態は足ガクガクで心拍数もかなり高い。

精神的に緊張状態にあるってわけだな。


そうだ、こうして隠れている間にも次の一手を打てるように準備しておかねば。

だが、外は暗いが、木箱を被ったせいでさらに手元が暗くなり、とても作業できるような明るさではない。

火魔法を照明代わりに使って箱の中で作業するという案も一瞬浮かんだが、

外から見れば暗闇の中に一つだけ、光が漏れ出ている箱があるという状況になることはほぼ間違いない。

隠れているのにわざわざ俺はここに隠れている、と公言するのはアホがやることだ。

ということは、今は隠れることだけに専念して、次の一手の準備はそのあとにやるしかないな。


もしこれが俺じゃなくてジョーなら絶対に見つかってるわ、

あいつ結構何も考えずに行動しちまうタイプだし。

零雨と麗香なら俺みたいにコソコソせずに背後から堂々と近寄って締め上げるはずだ。

チカなら多少は作戦立てて行動するだろうが、結局は感情に流されて乱闘に突入するだろう。

乱闘の結果、チカも捕まってゲームオーバーになる確率は高い。

匠先輩は……どうだろう?

そもそも捜しに行くのを面倒臭がって家でゴロゴロしてるか、

もしくは捜しに行ったとしても「俺の動きについてこられるかな、諸君?」とか言って、

後ろから剣を構えて格好だけはちゃっかりつけて登場、

ここはファンタジーな世界だし、と訳の分からない理由も持ち出して、

どこぞの中学生が妄想して作り出したような痛々し〜い技名を堂々と口にしながら戦い、

結局のところ力尽きて終わるかのどちらかだろう。

戦って勝ち目があるのは零雨と麗香(system)しかいねえじゃねえか。

日本人がどれだけ平和ボケしてるかがよく分かるぜ、ハハハ――

――と、笑ってる俺も日本人なわけだが。


気がつけば、足音は俺のすぐ近くまで近づいてきていた。



「……チッ、どこの誰かは知らんが、どこに隠れやがった?」



アンドはそう呟いて俺の隠れている木箱を見やる。

箱の中からその様子をうかがっていた俺と目が合う。


(あ……やべえんじゃねえか、コレ?)


しかし、男はこちらの存在には気がついていないらしく、すぐに視線を他の場所に移して俺を捜している。

そして俺のいる木箱の横をあっさりと通りすぎてしまった。

セーフ。

だが、油断は禁物だ。

いくらあっちがこっちの俺に気がついていないとはいえど、あいつらは俺を探しに来てるわけで、

ちょっとでも動けばすぐに見つかってしまうだろう。

5人のうち、2人が俺を捜索中、1人が熟睡中、つまり、2人がリンを拘束中という状況は、

俺にとってはリンを救い出す最高のチャンスなのだが、動けないのが厳しい。



「……見つからねえ」


「俺も上から探したが見当たらねえ。もう逃げちまったんじゃねえのか?」



しばらく箱の中でじっとしていると、とうとう男達は俺を探すのを諦めたようで、

リンの監視役の下に集まってきた。

その声を聞くやいなや、俺はそろりと箱を抜け出し、吹き矢の数を確かめる。

飛ばせる吹き矢の数はあと三つ。

俺はその全てに睡眠薬を仕込むと、建物の影からさっきと同じように路地裏を覗く。

寝ている一人は建物の壁にもたれかかるようにされて、

残りの四人がジリジリとリンに歩み寄っていく。


「い……嫌、来ないで――」


「怖がることねえって、俺達の奴隷になったら、たくさんかわいがってやるからよ」


「やめて……帰して……」


「これからお前が帰ってくるのは俺達のところだ。

 なあに、心配することはない。お前は俺達のコレクションに仲間入りするだけだ」


「こういう嫌がる仕草がぐっと来るんだよな、俺。いじめてやりてえ……」


「ハハハ、おいレン、変態癖も程々にしろよ?」



おいおい、コレクションって……誘拐の常習犯かよ、こいつら……

そしてレンとか言うS野郎、俺が見た限りではこいつが一番危険度が高い。

こいつらの脳内辞書に「人権」というワードはきちんと収録されているのだろうか。

恐らく入ってないだろう。




……吹き矢でちまちまと一発ずつぶち込んでるようじゃ埒が明かない。

夜も更けすぎてそろそろ眠くなってきた。

仕方ねえな、睡魔に襲われて思考停止する前に特攻すっか。

いい作戦思いついたし。


俺は両手に吹き矢の針を一つずつ持って、思い切って路地裏に突入した。

足音をできるだけ立てず、リンに夢中になっている4人の背後につく。

俺と変態集団との距離は……残りおよそ3メートル!

そこから俺は全力で加速し、通り魔の要領で4人のうち俺から一番近い2人の首筋に

睡眠薬の仕込まれた針をダイレクトに手で刺し、さらに押し倒す!!




「ぐあっ!!」

「あ゛っ!!」



小さく悲鳴を上げた二人は地面に接吻する!

倒すのはあと二人!!



「誰だ!」



突然の事態に混乱気味の男の首筋に狙いをつけると、

すばやく取り出せるようにしておいた最後の針を――――!!!



バシン!!



「(クソッ!!)」



狙いをつけて首筋に向かっていた針は、男が俺の手首を掴むというとっさの判断で阻まれ、

俺の速攻作戦は失敗に終わってしまった。

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