表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
110/229

第5話-A14 Lost-311- リンの行方と五つの影

本文が意外と長くなってしまったので、分割しました。

「遅い……どこで道草食ってんだ……」



太陽が沈んでもリンは買い物から帰って来ない。

日没と同時に俺一人で今日の店じまいを済ませ、木製のシャッターを閉めた。

こんな時間になっても帰って来ないことなんて今までなかった。

大低は遅くとも日没直前には買い物を済ませて帰ってくるリンなのだが……

今日帰りが遅いのは、リンが豹変したのと関係があるのだろうか。

とりあえず、しばらくリンが帰ってくるまで待ってみるか。それしか方法はない。


俺は二階の自室に上がり、小さな木製の窓代わりの扉を開けた。

部屋の中に外の風がさらりと吹き込み、小さくひゅう、と音を立てた。

俺はその窓から闇に染まりつつある空を見上げ、そのまま視線を下に下ろす。

通りには、まだ日没直後ということもあり、人通りもかなりある。

また、日没後も明かりを点けて営業している店も多く、

リンが一人で街を歩いていたとしても、なんら不自然ではない。



「あんまり心配させんな、バカリン」



俺は一人呟き、部屋が暗くなってきたので火魔法を使ってランプに火を点した。

異世界人で凡人という俺だが、どうやら魔法は普通に使えるらしい。

俺が火魔法を使うと、出てくる炎の色は必ず緑色になる。

これは、各個人が持っている魔法の最適な属性を示すらしい。

魔法書にそう書いてあったんだから間違いない。

大低の人の場合、無属性、つまりは普通の赤色の炎が出るらしい。

一部の人は火魔法を使うと、俺も含めそれ以外の色になるということだそうで。

で、俺の最適な属性は見たまんま、回復・医療系の魔法に適しているらしい。

平和主義の俺としては、戦闘系の魔法に適するより、こっちのほうが性に合っている。


で、一般の無属性の人達が発動できる魔法は限られており、

高度な魔法はその魔法に適した属性の魔力を備える者が行えるという。

ただ、無属性の人間や、違う属性を持つ人間でも、魔力を馬鹿みたいに持っている人間は、

高度な魔法でも魔力を大量に消費してしまうデメリットはあるが、

一応出来ないことはないらしい。


要は、一定以下のレベルの魔法は、誰でも属性を気にせず使えるが、

一定以上のレベルの魔法を使うときは、

適した属性の持ち主がその属性の魔法を発動させるのは効率が良いが、

そうでない人の場合はかなり燃費が落ちる、ということだ。




それから時間は経ち、次第に外の喧騒も聞こえなくなって、時刻はとうとう深夜帯に突入してしまった。



「いくらなんでもこれは遅すぎるだろ……」



まさかリンが蒸発したとは考えられない。

こんな深夜まで店をやってるのはせいぜい屋台か酒場ぐらいだ。

ということは、リンは何らかの事件に巻き込まれた?

とにかく、リンを捜しに行こう。


持って行くもの……何がいいだろうか。

夕方に買い物に出て行って、深夜になっても帰って来ないということは、

リンが何らかの問題に突き当たっていることは確実だ。

万が一の状況を考えると、着の身着のままで飛び出していくのはあまりにも無策すぎる。


家の前の通りから、酒に酔ったと思われる男二人の声が聞こえてきた。

ろれつが回ってない。

大声を上げながら、不規則な足音を立てながら、ゆっくりと歩いていく。

こんな人が徘徊する時間になっても帰って来ないのだ。

こちとて、捜索中に酒に酔った暴漢に襲われることなどに対する自衛策が必要だろう。


俺の部屋には使えそうな物が何もないので、リンの部屋にお邪魔する。

まず目に飛び込んできたのは、黒のナイトローブ。

どこでこんなものを手に入れたのか、また購入した用途は謎だが、

夜中に着て街を歩けば、暗闇に溶け込み、視認性を下げることができる。

これは着て行くべきだろう。


それから、リンが盗賊と戦った時に使った短剣。

その隣には、俺が盗賊から拝借した剣も置いてある。

他に、土砂崩れに遭った家の中から掘り出した、

猟師の父の形見と思われるボロボロの弓矢と、傷だらけのガラス瓶、

吹き矢、ナイフなども置いてある。

瓶には薬品が入っているようで、

置かれている三つの瓶にはそれぞれ「毒薬」、「麻酔薬」、「睡眠薬」と書かれている。

麻酔薬と睡眠薬の違いがイマイチ分かりづらいが、そんな小さなことは気にしない。

リンの親父さんは弓矢などの遠距離武器を使って狩猟していたことが伺える。


リンの部屋には初めて入ったが、

こんな女の子の部屋にこんなミリタリズムな装備があるのは異様だ。

元来、心がチキンな俺はあらゆる事態を想定して、

リンの部屋にある戦闘に使えそうな装備はすべて装備してしまったため、

全重量は結構な重さになってしまった。

あらゆる事態……そういえば零雨もそんなこと言って旅行にいろいろと変なものを持って行ってたな。

それはさておき、他に何か持って行っておいた方がいいものはないだろうか?


……あっ、魔法書を持って行こう。

あれがあれば、最悪本を見ながらでも魔法が使える。

これを持って行くとなるとかなりかさ張るが、それは仕方ない。

重量があって機動性が下がっている分はなんとかして補うしかない。

そういえば、某ゲームでは周囲の敵から身を隠すのに段ボールを使う奇人がいたな。

この世界に置換すれば木箱となるのだが……俺はパロディーをやるつもりはない。

木箱はさすがにかさ張りすぎる。

あと、金もいくらか持って行った方がいいだろう。

汚い話になるが、何かあった時はお金で解決するという策も持っておく方が、心持ち安心できる。

どこ行っても世の中コレだよ。コレ。



出発の準備が完了し、俺は裏口以外のランプをすべて消して回り、きちんと施錠をして出掛けた。

裏口のランプをつけっぱなしにしたのは、

単に家に帰ってきた時に真っ暗闇だと足元が見えにくくて危険じゃないかと思ったからで、特にコレといった理由でもなければ作戦でもない。


とりあえず、夕方リンが出掛けて行った方角を歩いてみる。

大声でリンの名前を呼びながら歩いて行きたいところだが、

夜中に大声は明らかに近所迷惑になるのは分かりきっている。

俺は声を出さない代わりに、足音を立てないよう歩き、目と耳に神経を集中させる。



「ん?今、そこから足音が聞こえなかったか?」



通りの向こう側から歩いて来ていた若い男の二人のうち一人が、俺とすれ違い様に足を止めた。



「……何にも聞こえないぞ?気のせいだろ」



もう一人の男はさらに、ほら、ぐずぐずしてねえでさっさと帰ろうぜ、と言い、

そうだな、と相槌を打ったもう一人の男とともにまた歩きだした。

どうやらこの黒のナイトローブは俺が思っていた以上に視認性が低いらしい。

闇夜に溶けてカムフラージュする方としては安心だ。



それから闇夜の中、屋台や酒場などの明るい場所を避けて小一時間ほど歩きつづけるが、リンの姿は見つからない。

まあ、こんな広大なナクルという街で、

特定の少年が特定の少女とバッタリ出会う確率はかなり低い。

んー、16の俺に少年(ボーイ)はちとキツイか?

ボーイがどうこうはさておき、確率を考えると当然の結果と言えばそうなんだが、

かといってリンをこのまま放っておくわけにはいかない。

捜すしかないのだ。



「はぁ……リンのバカ、どこで道草食って寝てるのか……」



道草を食ってるから道草を食って寝てるに若干グレードアップしたリン探しの俺の心境。

一旦家に引き返すか……もしかしたらリンが帰って来てるかもしれねえし。

ああ、また筋肉痛の種が増えそうだ。

そう思ってくるりと踵を返した時、ブァッ、ブァッ、と羽ばたくような音を俺の耳が捉えた。

視線を空に移して音の主を探す。

そして、俺のいる建物の屋根と屋根の間の細い路地から見える細長い空を、

慌てるように一つの黒い影が横切った。



「リン……?」



その後を追うように五つの影が空を横切る。

リンは、誰かに追われてるのか?

シルエットだけじゃリンかどうかを判別するには情報不足だったが、

リンがいなくなったこと、その間に起きたこの光景、という状況を考えてみると、

今の影がリンであった可能性は否定できない。むしろ高いぐらいだ。


俺はあいにく空は飛べないので、地上から走ってその影を追うことに、

というか、思う前から反射的に身体が動いていた。

一旦視界の開ける大通りに出て、その飛行物体を見つけると、俺はすぐにそいつを追って駆け出した。

ちくしょう、走って追い掛けるなんて俺の想定外だ!

重量級の装備が足かせとなって、俺から速度と体力を削り取っていく。

ああ、こんな時に原付か自転車があれば……!

そういえば、俺には原付の免許はない。ダメじゃん。

――って、いかんいかん!変な事考えるのに頭を使っちゃいかん!

ただでさえ脳は酸素の全使用量の30%を占めるってのに。

酸素は身体に回すべきだ。


グキッ、と俺の左足首を捻り、俺の身体は前につんのめって、

全力でヘッドスライディングしちまった。

くそ、出かける前にラジオ体操と柔軟運動をしておけば良かった。



「ってえ……走ってずっこけたのは何年ぶりだ、クソ……」



幸いにも立てない事はない。

俺は重装備の身体を奮い立たせ、影を見失わないうちにまたすぐに立ち上がって駆け出す。


逃げている黒い影は、着地と飛翔を繰り返していたが、だんだん時間当たりの着地頻度が上がってきた。

つまり、逃げる影は疲れてきているということだ。

俺も疲れ切っているので、鬼ごっこもそろそろこの辺でお開きにしたいところだ。


追い掛ける側は徐々にだが、着実に逃げる影との距離を縮めてきている。

俺と逃げる影との差も縮まってきて、その影が一体何者なのか、

遠目ながらも確認できる距離に迫ってきていた。



あれは俺と同じぐらいの年の――女――特徴はリンに酷似。

80%の確率で逃げる人物はリンだと、

全身で酸素が足りていない過酷な状況の中で、

俺の脳の知覚領域がが辛うじて計算結果を最高意志決定機関である前頭葉に報告。

それを受け取った前頭葉、つまり意識上の俺はどうするべきかの判断を迫られている。


お気に入り登録40件、ありがとうございます!!

感想、評価はいつでも受付中です。

作者の執筆の意欲が沸きますので、時間のある方はぜひ、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ