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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A11 Lost-311- 結果

「コウさん、助けて!!」



硬い床の上にで熟睡していた俺はそんな声が聞こえてきた気がして目を覚ました。

朝。まだ朝だ。いや、まだじゃない。もう起きなければいけない朝だ。

俺が上体を起こすと、悲鳴のような声が聞こえてきた。



「ちょっと早く来てっ!!」



この声は間違いなくリン。

俺は寝起きそのままの状態で部屋から飛び出し、声がする一階の方へと続く階段を駆け降りた。



「なんなんだ、これは――っ!!」



花屋が人で埋まっていた。朝から。

原因は単純明快、価格を下げたからだ。

それは寝起きボケボケの俺の脳でも理解できた。

しかしそれにしても、なぜ朝からこんなタイムセールさながらの混雑状況?



「コウさんも早く手伝ってくださいよ!!

 会計に行列が出来て詰まってるんですよ!

 もう私一人じゃさばき切れなくて……」


「……俺、まだ顔も洗ってねえし、朝飯食ってねえし、手伝うのはその後で……」



それを聞いたリンが俺のところへ駆け寄って頬にバチンと平手打ち。

その感覚は俺の寝ている脳を強烈に刺激し、俺の寝ていた思考回路にスイッチを入れた。



「ぐはっ……」


「何とぼけたことを……今やらなきゃいつやるんですか!」


「あ……ああ、今のは冗談だ、忘れてくれ」


「そんな冗談を言う暇があるなら、早く手伝ってくださいよ!」


「悪い、悪い。すぐ手伝うから」



俺は会計のカウンターにリンと並んで立ち、会計業務を始めた。

だが、並ぶ人の列は二人会計が終われば二人新しく並ぶといった状況でなかなか減らず、

ホッと息をつくことが出来たのは、それから一時間ほど後のことだった。



「リン、朝の行列、ありゃなんだ?」



俺は早速リンに聞いてみる。



「部屋に飾るための花を買いに来たんですよ」


「いや、花は観賞用のものだからそれは当たり前だが?」


「一般家庭では、家の入口や部屋の中などに花を飾る習慣があるんです。

 だから、定期的に花を買わないといけないんですよ」


「イマイチ納得できないな」


「神使様は花を好むと言われています。

 神使様のいらっしゃる神殿には、常に枯れることのない満開の美しい花が飾られているそうです。

 私達の使う水、太陽、天気などの様々な事象は、

 神殿様の御加護によって成立していますから、

 神殿様がいなくなれば、私達は死んだも同然なんです。

 花を各家庭に置くことで、神使様を慕っている意志表示を表して、

 いま戴いている加護をこれからも末永く続けていただきたいという願いを込めるんです」


「なるほど、要は神使をヨイショするためにみな花を買っていくってワケだ」


「神使じゃなくて、神使様です。それに、ヨイショって言葉は不適切です」


「様付けしなきゃいかんのか?」


「神使様に失礼ですから」


「様付けはともかく、ヨイショって言葉は表現としては正解だと思うんだがな……」


「ま、ち、が、い、で、すっ!!」



リンは目を細めてじろりと俺を睨みつける。



「何も睨みつけることはないだろう。

 大体、神使様がどういう存在なのか、俺あんまり知らねえし」



そもそも、俺はこの国の名前も、政治状況も一切知らない。

そんな中、神使がこの国の中でどれだけ偉大かなのかを言われたとて、

俺には全然実感がわかないのは当たり前の話である。



「それじゃあ、私が説明しますから、よく聞いてください」


「まあ、この話は出会って最初に聞いておくべきだった話だ、真剣に聞こう」



リンがこの世界の歴史について熱く語ってくれたのだが、

ここにすべてを記すととんでもなく長くなってしまう。

そこで、俺が重要部分を適当に抜粋してまとめておいた。

以下が、そのまとめだ。


昔、この世界に名もなき神様が降りてきた。

その神はこの世界の創造主で、植物、動物、鉱物すべてを創った。

その中に我々人間(翼なし)も含まれていた。

すべてのものを創造し終えた神は、その世界から姿を消し、どこか遠くへ消えてしまった。



残された人々はあまりにも無知で、言葉も、意志疎通する手段も持っていなかった。

ただただ野性の動物を狩り、木の実を採取して生きて行くだけの生活。

いわば原始時代そのものだな。


そこに創造主である神の使いが突然舞い降りて来て、

その使いの持つ不思議な力で人々にまず言葉を与えた。


その降りてきた神の使いこそが、神使だということらしい。

人々に言葉を与えた神使は問うた。

「この世で生きて行くために欲しいもの・願い事はあるか」、と。

何か唐突な展開のような気もするが、まあそういうことらしい。

んで、人々は話し合い、三つのお願い事を神使にしたという。



・自分達も鳥のように大空を飛んでみたい

・神使様の不思議な力を分けてほしい

・人間の住む世界を、ずっと見守ってほしい


鳥になりたい、その願いはお願いをした翌朝に叶えられた。

なんと朝目が覚めたら背中に翼が生えていたらしい。


その翌日には、神使は何やら呪文を唱えだし、唱え続けて約五日後に、

人々が魔法を使えるようになった。


そして、最後の願いは、人々が神使様の為の住居、

つまり神殿を作り上げ、そこに神使が住むことによって実現した。

そして神使はその神殿に一度入って行ってしまったっきり、出てこないそうだ。

神殿で神使に仕える役職の人もいて、たまにだが姿を現すらしいから、

神使は実在するということらしい。




とりあえず、これが神使にまつわる歴史だ。

ここでは人々の生活の営みの変遷、

ここでいうところの、集団生活から国が出来上がるまでのプロセスは省略させてもらったが、

それは元の世界にいた時のそれとおなじだった。



「ま、神使を一言で説明するなら、“引きこもり”ってわけだな」


「引きこもりって……何でそんなに神使様を悪く言うんですか?

 何か怨みでもあるんですか?」


「いや、特に怨みはないっちゃないんだが、

 今のリンの話を聞いて神使に対して不満に思うことがあると言えばある。

 だが、引きこもりという言葉を使ったのは、

 それが的を得た表現だと思ったから、という理由が一番だ」


「コウさん、あなたの表現の適切、適切でないの判別基準がわかりません」



判別基準が分からないって、だってそうだろ?

誰が呼びはじめたのかは知らんが、引きこもりを“自宅警備員”などと呼ぶそうじゃないか。

神使はこの世界自体が自宅のようなものだろう。

そう考えると、この表現は決して間違っていない。はずだ。

それと俺が感じた不満とは、

俺がこの星に到着した時点で神使は気がつくべきだったということだ。

今の話を聞くと、人間の住む世界を、ずっと見守ってほしいとお願いしたそうだ。

ということは、その世界がどこまで含まれているのか、

宇宙の隅の隅までなのか、それともこの星を一つの世界とみて言ったのかは分からんが、

悪く見積もって、この世界=この星という意味合いで言ったとしたとしても、

神使は俺がこの星に来たと同時に異常を察知、

なにかしらのアクションを起こさなければならなかったのではないだろうか。

だが、神使は俺に対して何もしなかった。いや、何もしていない。

偶然にリンが通りかからなければ、俺は砂漠に埋もれて死んでいた。

そこが、納得できないというか、不満なのである。


確かに、俺がここに来たことを神使が察知してアクションを起こしたとしても、

それが俺にとって友好的なものとは限らない。

俺を異形のバケモノと認識して幽閉させるかもしれない。

もしかしたらその不思議な力で俺を殺しにかかるかもしれない。

そこら辺の話は抜きにして、人間の住む世界を見守るという仕事だけを考えれば、

この状態は、まさに神使の怠慢が生み出したものとも言えるのではないか。

まあ、今の状態をブツブツ言ってたっていたずらに時間を空費させるだけだし、

これぐらいで留めておくほうがいい。



「やっぱりたくさん人が来ると、店の中汚れちゃいますよね……」



俺から視線を外して店の中を眺めながらそんなことをぼやきだしたリンは、

近くに立てかけてあったほうきを持ち出して、店の掃除を始めた。

確かに、さっきの購入ラッシュ時に客が買っていった花から落ちた花びらやら葉っぱやらが、店のところどころに落ちている。

それにしても、値段を下げただけでこんなに大盛況になるとは、俺も予想してなかった。



「そういえば、リンは朝飯は食ったのか?」



俺の問いに、リンは地面とほうきを見ながら答える。



「食べましたよ」


「俺、顔も洗ってねえし、朝飯も食ってねえし……」


「コウさんの朝食はいつもの通り、台所に置いてありますよ。

 店番は私がしておくので、食べてきたらどうですか?」


「ああ、そうさせてもらおう」



俺は二階の台所に向かった。

台所の隅に、俺の朝食は置かれていた。

井戸の水を汲み上げ、台所でバシャバシャ顔を洗い、それから朝食にありついた。

朝食は、例の塩気のあるパンと、昨日の夕食の残り、つまりはシチューっぽい何かだ。

俺はそれを手にとって、行儀悪いが、その場で食べる。


途中、台所の棚の中に、木製の観音開き式の収納扉が目に入った。

その扉には南京錠型の鍵がかけられていて、容易には開けないようになっている。

この扉についてリンは、

「何があっても絶対にこの扉は開けないで」と言っていたのだが、

そう言われると開けたくなるのが人間というものである。

その好奇心を拒むのが扉についている鍵で、

これを開ける鍵はリンが腰に付けて肌身離さず持っている。

だから、中身はリンしか知らない。

……中身が気になる。

リンは扉の中のそれを頻繁に使っているらしく、鍵穴の周辺は細かい傷がある。

だが、リンにこの扉の中のこと聞いても、一向に教えてくれそうにもない。

知らないほうがいいこともあるのですよ、と笑ってはぐらかすばかりだ。

同居している以上、隠し事はあまり良くないと思うのだが、

リンはどうしても何かを隠したいらしい。


扉の奥に何があるのかをいろいろ想像しながら朝食を済ませ、台所に来たついでに皿も洗っておく。

小一時間ほどでそれを終えた俺は自室に戻り、昨日貰った魔法書を手に一階の店に降りる。

店番していると、どうしても暇なときというものが出てくるもので、

その暇つぶしに魔法書を読んでおこうかなと、まあそんな軽いノリだ。

下では、掃除を終えたリンが、疲れ果てて店のカウンターに腰を掛けて寝ていた。

そういえば、昨夜、リンは花の値札の張り替えを一人で夜遅くまでやっていたな。

その反動が今ここにきているのだろう。

俺が手伝おうとしても、リンは一人でやりますと言って聞かなかった。

花の仕入れ値を見ながら価格を計算して、

それを値札に書き込んで、古い値札を外して新しいものを花にくくりつけていくという、単純で地道で面倒な作業。

二人でやれば早く終わっただろうに、なぜリンは自分一人でやると言ったのか、俺には理解できない。


リンが腰掛けるカウンターの隅には、今日の売り上げ分の値札が山積みになっていた。

一応、この店のシステムとしては、客が買いたい花をカウンターに持ってきて会計、その時に付いている値札を取り外すことになっている。

この外した値札は閉店後に一日の売り上げ計算の時に使うのだ。

客としても、買った後は値札なんて必要なく、

わざわざ自分で取り外さなくてはいけないのではかえって面倒になるだけだから、

値札の取り外しは、店も客もメリットがあるシステムである。


俺は魔法書をカウンターに置き、カウンターの下から売り上げを記す帳簿とインクを取り出した。

その音と振動でリンは目を覚ましたようで、眠そうな目を俺に向けた。



「……何してるんですか?」


「いや、今日は客が多いからな、店を閉めてからの売り上げの集計は大変だろうから、

 今のうちにある程度済ませておこうかと思ってな」


「ああ……そうですね……」


「……あれ、書くものがない」



カウンターにインクはあったが、肝心のペンがない。

あれ、昨日集計した時はあったはずなんだが……



「あ……ごめんなさい、

 ペンは昨夜値札を張替えてる途中に私が間違って踏んじゃって……その、壊してしまいました」


「……マジか」


「なので、これを使ってください」


「見るからに痛々しいんだが……痛くないのか?」



リンは背中の羽根を一枚引き抜くと、それを俺に渡してきたのだ。

リアル羽根ペンかよ。

その羽根の根元には引き抜いた時の血がついている。



「ちょっと痛いですけど、羽根は生え変わるものですから気にしないでください。

 それに、たかが羽根一枚ですし、ちょうどいい眠気覚ましになりましたから」


「インクさえあれば書くものには困らない……便利な翼だな」



俺は貰った羽根で、値札を一枚一枚、帳簿に書き記していく。

売上は値段改訂前の昨日よりもずっと良く、朝のラッシュだけで4万レルもの収入があった。

ちなみに昨日の収入は1万レル弱だ。

それにしても、計算を手作業でやらなければならないのは相当きつい。

パソコンとか電卓とかじゃなくていいから、せめてそろばんの一つは欲しい。

だが、この世界にはそろばんすらないらしい。



「すごい……やっぱり値段を下げて正解だったみたいですね」



俺が書き込んでいくのを、隣からリンが覗き込む。



「まあな。これだけの収入が続けば、欲しいものもいろいろ手に入るだろう。

 少なくとも、よっぽど浪費しなければ生活難に陥ることはないはずだ」


「私、自由なお金が手に入ったら、アクセサリーとか買って、オシャレしてみたいです」


「お前は今のままで十分かわいいと思うんだがな」


「オシャレしちゃダメってことですか?」


「いや、今の言葉には俺は何も裏を含めたつもりはないんだが。言葉通りだ」


「なんか照れるのでやめてください」



リンは指で俺の脇腹をつつく。



「ウヒョッ、ちょっ、そこは触るな、くすぐったいだろうが」


「コウさんの弱点はここですか……なるほど。

 それにしても、面白い反応の仕方ですね。

 ツンツンツンツンツン――」


「ウヘッ、だから、アハッ、ちょっ、やめろって、インクが……」


「降参ですか?」


「わかっ、降参、降参だ、だからやめろ」



はあ……一体何やってんだか。

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