表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
102/235

第5話-A6 Lost-311- 職と屋根

「くそっ、こいつらを殺せ!敵討ちだ!!」



盗賊のボス格の男は手下に命令する。

ここで大人しく死体を回収して「覚えてろ」の捨て台詞とともに、

どっかへ飛んで行ってくれるとありがたかったのだが、現実はそう甘くはなかった。

うおお、と叫び声を上げながら、

一度は俺達から距離を置いて囲んでいた男達が剣を突き立てて俺達に突進してきた。

砂の上での動きにくさを、男達は超低空飛行によってカバー、

砂煙を舞い上げながら加速度的に接近してくる。



「おい、リン!」



俺は何も考えることができず、とにかくリンの名前を呼んだ。

このままじゃ俺達は串刺しだ。

そんな超ピンチの状況にもかかわらず、

リンは手に持っていた短剣、花の入ったカゴ、袋、所持品をすべて投げ捨てた。

リン、まさか剣を持った屈強な相手に素手で挑もうなんて馬鹿なことを考えてるんじゃねえだろうな!?



「コウさんも早く荷物を捨ててっ!!」


「はぁっ!?」


「重量オーバーですっ!!」


「重量オーバーって何なんだよ!!」



俺は訳も分からないまま手に持っていた盗賊の剣を手放した。



「絶対に離れないで!!」



リンはそう言うと、子供を抱き上げるように俺に抱き着き、

強烈な風と砂煙が俺とリンを包み、俺は反射的に目を閉じた。



「「「「「「ぐぎゃあっ!!」」」」」」



そっと目を開けると、俺の足は宙に浮いていた。

その下には串刺しになった盗賊の姿がある。

……なるほど、俺はリンと上に上昇したわけだ。

俺達を四方から串刺しにせんと超低空で突撃してきていた男達は、

目標が上昇したにもかかわらず、飛んでいるために急に止まることもなく、

向かいの相手と互いに刺し合う形になったというわけだ。

その証拠に、男達は中心に集まり、その全員の屈強な身体を鋭い剣が貫いていた。

放射状に広がる剣、刺し合ってしまった男達の構図は、上から見るとまるで花のようだ。

盗賊の命の花が散ったことでできた花……なんとも皮肉なものだ。



「……もう……限界」



リンが苦しそうに言ったその一言を皮切りに身体が大きく傾き、バランスが崩れた。



「グデッ!!」



砂の上に墜ちた俺の上にリンが重なるようにして墜ちてきて、俺は思わず奇声を上げてしまった。

俺の上のリンの息が乱れている。

俺を抱いての飛行は相当の体力を必要とするらしく、眉を寄せてゼエゼエと息を上げている。



「ちょっと……コウさん重すぎ……」


「重すぎ?

 俺はそんなに重かったか?」



俺は一応身長、体重共に全国平均ピッタリの数値なのだが……

やはり少女には俺は相当の重量物だったらしい。



「まるで金属の塊を持ち上げてるみたいでした。

 絶対に何か他に隠し持ってるでしょう!」


「いやいや、ホントに俺は何も持ってないから」


「絶対嘘!

 そんな体格でその体重なわけがないです!!」


「まあ重い、重くないの話は後回しにしてだ、なんか盗賊が全滅しちまったみたいだが……」


「とりあえず、危機は去ったようですね」



リンは立ち上がって串刺しになっている盗賊の剣を抜き、

盗賊の輪の中心に落ちている荷物を取り出してきた。



「コウさんの荷物も持って来ました……って、

 このぱそなんとか、ものすごく重たいです。中に何が入ってるんですか?」



血しぶきで赤色に染まったパソコンを俺の前にズドン、と落とすように置く。

まだ使えるパソコンならば、

この取り扱い方は乱暴すぎて壊れるじゃねえかと、文句をつけなければいけないが、

どうせ壊れているのだから、このぐらいは大目に見る必要があるだろう。

それに砂に次いで血まで中に入り込んじまっているようだし、修理による回復も絶望的だ。



「中には薄い板が入ってる」


「板、ですか?」



リンは意外そうに答えた。

板、では語弊があるかもしれん。

詳しく訂正しておくべきだろう。



「正確には“マザーボード”とかいう名前の板だ。

 薄っぺらい板の上に色々なも部品がくっついている」


「装飾品のついた板、ですか……」


「いや、装飾品じゃなくて、ちゃんとくっついてるものひとつひとつに意味がある。

 まあ、俺にはどの部品が何の意味を持つのか、まったく分からないが」



リンは不思議そうにパソコンを眺めていたが、やがて何かを理解したらしく、顔に笑顔が宿った。



「分かった!魔法を使う際の補助道具ですね!」


「……残念だが、ハズレだ」



俺は立ち上がって盗賊の死体に向かって手を合わせた。

いくら俺達の命を狙ってきた敵とはいえ、このまま死体を放置するのはさすがに酷のように思えた。

リンが荷物を取りに行った時に2、3人分の剣を盗賊の身体から抜いたが、

俺は刺さっている残り全ての剣を盗賊の身体から引き抜くことにした。

いくら盗賊として死を迎えたとしても、盗賊になりたくてなったわけじゃないだろう。



「……何してるんですか?」


「見ての通り、剣を引き抜いてやってんだよ

 こんな無残な姿のままじゃ、死体も嫌がるだろ」


「はぁ……相手は盗賊ですよ?

 情けをかける相手じゃありません」


「こいつらみんながみんな、子供の頃からこんな腐った人間だったとは思えない。

 誰が言ったのかは忘れたが言ってたろ?

 “俺達は4日も何も食ってねえんだ、せっかく見つけた獲物を逃がすわけにはいかない”と。

 自ら進んでこんな困窮生活に身を投じるはずがない。

 だから俺には生活に困って盗賊にならざるを得なかったとしか考えられない。

 辛い人生を送ってきただろうこいつらの人生の終わりぐらい、弔ってやってもいいと思うがな」


「…………。」



盗賊に刺さっていた剣を全て引き抜き終え、

俺はこれから万が一に対応するための、つまりは護身用に盗賊の剣を一つ、貰って行くことにした。

剣にまだ乾いていない血がついているのを、砂の地面に刺して擦り落とす。

死んだ人間のものを勝手に持って行くことには後ろ髪を引かれるが、仕方がないだろう。

死んだ人間の持ち物を剥ぎ取って行く……

ハハッ、某有名小説、羅●門のババアとまったく同じシチュエーションだな……



「さて、大分と足止めを喰らったな。

 食料が尽きてナクルに着く前に餓死するのはまっぴらだ」


「そうですね、行きましょう」



俺達は盗賊の死体に背を向け、その場を後にした。






その日の晩、星の光が地面を照らす中で、俺とリンは座って例の話をしていた。



「ということは、コウさんはこの世界とは全く別の世界から来た、ということですか?」


「そういうことになる」


「向こうの世界の人達はみな、翼を持たない人間なんですよね?」


「まあ、そうだが……それが?」


「遠出するときとかはどうしてるんですか?

 まさか歩いて移動するわけじゃないですよね?」


「陸、海、空の交通手段が発達しているから、徒歩で遠出することはほとんどないな」


「えっ、ちょっと待ってください!今、空の交通手段って言いました?」


「え?ああ。

 人間だけでは空は飛べないが、飛行機という乗り物に乗って、空を移動することが出来る。

 ちなみにだが、元いた世界の飛行機は、

 本気になれば今日一日歩いた距離を2分ほどで移動できる」


「2分……」


「時間の単位、分かるか?」


「ああ、はい大丈夫です。

 それにしても、今日一日歩いた距離をたったの2分で、ですか……ものすごく速いです」


「まあ、そこまでぶっ飛ばせる飛行機といえば、軍用の飛行機ぐらいだ。

 マッハ超えると衝撃波がすさまじいから、一般の飛行機はマッハは超えない」


「あの、『マッハ』って?」


「速さの単位だ。

 音が伝わる速さがマッハ1だ。

 マッハを超えるっつうのは、音の伝わる速さを超えるってことだ」


「すごすぎてよく理解できないです……」


「とりあえず、話が逸れたから元に戻そう。

 とにかく俺はこの世界に飛ばされてきた。

 ここで俺は何をしていけばいいのか分からねえし、

 この剣と壊れたパソコンだけが、俺の全財産、ほぼ丸裸に等しい」


「では、なぜコウさんはナクルに向かうのですか?

 行くあてもないのに、行っても無駄じゃないですか」


「ナクルで職と屋根を確保できればここで生活していけるだろう?

 確保できずにのたれ死ぬほうが、何もせず砂漠で干からびて死ぬよりマシだ」



俺は寂しく笑った。

確かに、ナクルで職と屋根が手に入るという保証はない。

リンは黒目、黒髪、翼なしの人間は見たことも聞いたこともなかった、といった。

そこまで珍しい風貌をしているならばどこかの物好きが雇ってくれる可能性もあるが、

盗賊の野郎も言っていたように、最悪見世物屋行きも考えておかねばなるまい。

リンはそれを聞いて、唇に指を当てて何かを考え始めた。

そして、多分大丈夫よね、と独り言を呟いて俺の顔を見て言った。



「私、花屋をやってるんですけど、花屋は私一人でやってるので、なかなか大変で。

 誰か雇おうかなって考えているんですが、人に賃金を支払うだけの店の収入がまだなくて……

 良かったら、うちで住み込みで働きませんか?」



うおっと!?

突然の求人(リクルート)情報ゲット!!

しかも雇い主が美少女ときたら、こりゃ乗るしかないっしょ!!

ビバ、ご都合主義!……あれ?なんか違う。

まあいいや。

ただ、俺に花屋という職業が適しているのかと聞かれれば……うん、そこは分かってる。

俺、すぐ植物枯らしちまうから、気をつけないとな。



「ああ、もう、是非是非よろしく雇ってください!」


「ただ、まだまともに給料は出せないので……

 私の家に食事付で下宿、これが給料の代わりになると思います」


「全然、もう構わないっすよ!最高の環境だ!」


「そう、ですか?」



生きていてよかったぁぁ――!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ