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皇嗣は名を隠す ――旧図書館殺人事件

作者:極楽鳥
最新エピソード掲載日:2026/08/07
国立青嶺大学法学部に通う二十一歳の学生、久世遥人。
人付き合いを避け、目立たず、どこか世間知らず。妙に姿勢がよく、言葉遣いが古風なことを除けば、ごく普通の大学生に見える。
しかし、その正体を知る者は学内にほとんどいない。
久世遥人とは仮の名。本当の彼は、瑞穂国の皇位継承順位第一位――皇嗣・彰仁親王だった。
将来、国を背負う者として市井の暮らしを知るため、彼は皇室と政府の極秘計画によって身分を隠し、一般学生として大学生活を送っていた。
その静かな日々は、旧図書館で一人の教授が殺されたことで終わりを告げる。
被害者は近代皇室史研究の第一人者、御厨宗一郎。
密室状態の書庫で発見された遺体のそばには、七十年前の火災で失われたはずの皇室日記の一頁と、三つの時刻が書かれた紙が残されていた。
警察は、過激な皇室批判を繰り返していた教授に対する思想的犯行を疑う。
ところが、事件前夜に教授と口論していたとして、遥人の親友である学生が容疑者となってしまう。
友を救うため、遥人は身分を隠したまま事件を調べ始める。
だが、教授の死を追ううちに、二十二年前に同じ大学で起きた女子学生失踪事件、皇宮内で隠蔽された幼児の死亡記録、存在しないはずの戸籍、そして遥人と同じ日に生まれた「もう一人の子供」が浮かび上がる。
毎日四分だけ遅れる時計塔。
誰も読んでいない貸出記録。
名前を呼び間違えた老女。
雨の降っていない夜に濡れていた教授の靴。
事件とは無関係に見えた小さな違和感が、少しずつ一本の線へと変わっていく。
だが、真相に近づくほど、遥人は自由に動けなくなる。
皇嗣である身分を明かせば、警察も政府も動かせる。しかし、その瞬間に大学生活は終わり、友人たちも国家的な騒動へ巻き込まれる。
そして、遥人が最後にたどり着いたのは、殺人犯の名前だけではなかった。
二十二年間、皇室が隠し続けた一人の人間。
守られていたのは皇嗣の命なのか。
皇位の正統性なのか。
それとも、皇嗣になってはならない誰かだったのか。
真実を公表すれば、殺人事件は解決する。
しかし同時に、国の根幹が揺らぎ、罪のない者たちの人生まで壊れるかもしれない。
一人の人間として真実を明らかにするのか。
未来の君主として、守るべき秘密を選ぶのか。
身分を隠して人々の暮らしを知ろうとした若き皇嗣が、国家と家族、友情と正義の間で人生最大の決断を迫られる。
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