第九章 鏡は顔を持たない
病室の窓際へ落ちていた薄い鏡は、長谷部が手袋を着けて持ち上げた直後には、もう三浦の背後にもう一人の男を映してはいなかった。
角度を変えれば、ベッドの上で青ざめている三浦の顔が映り、その後ろには白い壁と閉じられたカーテンが見えるだけである。しかし、鏡の表面をわずかに傾け、病室の天井灯を斜めから当てると、三浦の右目と口元に重なる位置へ、笑っているように見える別の目と唇が浮かび上がった。
生きた人間が鏡の中へ現れたのではない。
鏡そのものに、あらかじめ顔が仕込まれていた。
「これは普通の鏡ではありませんね。表側に反射層があり、その下に、角度によってだけ見える画像を重ねている。子供向けの玩具や偽造防止印刷にも似た仕組みがありますが、ここまで自然に人の顔へ重ねるには、見る人間の位置と照明の向きまで計算しておく必要があります」
榊原が鏡を横から見ながら言うと、長谷部は病室の床とベッド、窓の位置を順に確かめた。
「三浦君がベッドの上にいて、久世さんがその手前に立ち、鏡がこの位置へ落ちることまで想定されていた、ということですか」
「少なくとも、病室の構造は把握されていたのでしょう。鏡に印刷された顔は三浦さんの輪郭へ重なるよう作られていますが、位置が少しずれれば、ただの歪んだ二重像にしか見えません。犯人は、鏡を拾う人物がどの位置から覗き込むかまで、ある程度予測していたことになります」
三浦は、ベッドの上から鏡を睨むように見つめていた。
「つまり、さっき俺の後ろに見えた男は、最初からそこへ印刷されていたってことですか。あの映像の男も、旧図書館で見たやつも、本当は俺と同じ顔じゃないかもしれない?」
「その可能性が高くなりました」
長谷部は鏡を証拠袋へ入れながら答えた。
「地下駐車場の映像についても、顔の皮膚の動きにわずかな不自然さがあると解析担当から報告が来ています。映像が暗いため断定はできませんが、薄い人工皮膚か、精巧な仮面を着けていた可能性があるそうです」
「それなら、首の三本の傷も偽物にできるでしょう」
遥人が言うと、長谷部はすぐには頷かなかった。
「できます。ただし、真壁さんが傷のことを誰にも話していないという証言が正しいなら、犯人は二十二年前の乳児を直接知る人物か、真壁本人の記憶を何らかの方法で事前に聞き出した人物です」
「真壁さんが本当に誰にも話していなかったかどうかも、確認する必要があります。人は、自分にとって重要な秘密ほど、一度も口にしていないと思い込みながら、酔った時や病気の時、あるいは相手を信頼した瞬間に話していることがありますから」
「友人へ向ける言葉に比べて、元警察官へは容赦がありませんね」
「真壁さんを疑っているわけではありません。ただ、誰にも話していないという記憶は、物証にはならないという意味です」
三浦が、疲れたように枕へ背を預けた。
「久世、お前はそうやって、人の言葉を一つずつ疑いながら生きていて、疲れないのか」
「疲れるが、一度信じた相手に裏切られた時、最初から何も考えずに信じていたと気づくほうが、もっと苦しいと思っている」
「それなら、俺のことも疑っているんだな」
「疑っている。君が覚えていないだけで、事件の一部に関わっている可能性もあると思っている。ただし、君が御厨教授を殺したという結論には、今の証拠では届かない」
三浦は、露骨に嫌そうな顔をした。
「昨日よりは慣れたけど、やっぱり友達から聞きたい答えじゃないな。ただ、何も考えずに信じると言われるよりは、あとで疑われた時の腹立ちは少なくて済みそうだ」
「その言い方は、少し前向きに受け取ってもよいのか」
「勝手にしろ。俺は今、頭も痛いし、自分と同じ顔の男がいるかもしれないと言われて、かなり機嫌が悪い」
長谷部は二人の会話を止めずに聞いていたが、病室の入口へ立っていた若い鑑識員から声をかけられると、鏡が落ちていた窓際へ移動した。
窓は開閉できない構造になっており、厚いガラスの外側には、人が立てるような足場もない。天井の換気口や空調設備にも、封筒を落とせるほどの隙間は見つかっていなかった。
それにもかかわらず、白い封筒は、遥人たちが病室へ入ったあと、誰の手にも触れられず、突然窓際へ落ちたように見えた。
鑑識員が自動カーテンの下端へ手を入れ、細長い金属部品を取り出した。
「カーテンの巻き取り部分に、小型の磁石と薄い留め金が仕込まれていました。封筒は、この金具に挟まれた状態で、カーテン上部の箱の中へ隠されていたようです。午前十時二十三分、日射センサーが反応してカーテンが五センチほど動いた記録があり、その動きで磁石が外れ、封筒が落下したと考えられます」
「日射センサーなら、犯人が遠隔で操作したわけではないのですね」
遥人が尋ねた。
「少なくとも、封筒を落とした瞬間に、誰かが病室の近くにいる必要はありません。ただし、この部屋へ封筒を仕込んだ人間は、三浦君がここへ入院する前に、部屋番号を知っていたことになります」
長谷部は、病室の入口に掲げられた番号を見た。
五一二号室。
三浦が救急搬送された直後、警察から病院側へ、一般患者と接触しにくく、警備しやすい個室を用意してほしいと依頼した。その結果として、この病室が選ばれたはずだった。
「病室の割り当てを決めたのは誰ですか」
「病院の入退院管理室です。ただ、昨夜確認した時点では、当初は五一七号室へ入れる予定だったものが、搬送直前に五一二号室へ変更されています」
長谷部は、廊下にいた坂井へ連絡し、病室変更の理由と、変更操作を行った職員を確認するよう指示した。
数分後、坂井から返ってきた報告は、変更を行った病院職員など存在しないというものだった。
入退院管理システムには、感染対策上の理由により、五一二号室を使用するよう医師が指示した記録が残っている。しかし、その指示を入力した医師の識別番号は、現在、病院に所属する誰のものでもなかった。
「識別番号は、二十年以上前に使われていた古い形式です」
電話の向こうで坂井が説明した。
『登録名は冬木玄蔵。二十二年前、玲泉療養所と青岳記念病院の双方で非常勤医師として勤務していた記録があります。ただし、病院側の説明では、その番号は二十年前に無効化されており、現在のシステムからログインできるはずがないそうです』
遥人は、父から聞いた名を思い出した。
三人の乳児を区別できると話しながら、出生記録を持っていなかった医師。
二度目の停電後、旧図書館から玲子内親王とともに姿を消し、その後、国外へ出たまま消息を絶った冬木玄蔵。
「冬木医師が生きていて、病院のシステムへ侵入したということでしょうか」
三浦が尋ねた。
「そう考えさせたいのでしょう」
遥人は、長谷部より先に答えた。
「犯人は、私たちが一つの証拠を見つけるたび、次に疑うべき人物を丁寧に用意しています。三浦の鞄から血の付いたハンカチが出た時には三浦、識別札と車が見つかった時には真壁さん、青い指輪からは玲子叔母、そして今度は冬木医師です。犯人は、まるでこちらへ容疑者の順番を指定している」
「冬木玄蔵が本当に生きている可能性もあります」
長谷部が言った。
「もちろんあります。しかし、その可能性と、犯人が彼を疑わせようとしていることは両立します。大切なのは、冬木医師の識別番号が使われたという事実ではなく、なぜ犯人が二十二年前の古い番号を、わざわざ見つかる形で使ったのかです」
「見つけさせるためだと言いたいのですか」
「はい。現在の職員の番号を盗めば、病室変更そのものを不正と気づかれずに済んだでしょう。しかし、犯人は古い形式を使い、調べれば冬木玄蔵へ行き着く痕跡を残した。これは侵入を隠す人間の行動ではなく、名前を示す人間の行動です」
三浦が、遥人と長谷部を交互に見た。
「俺には、犯人がわざわざ面倒なことをしているようにしか聞こえないんだけど、どうしてこんな回りくどい方法で人を疑わせる必要があるんですか。冬木って医者が犯人なら、名前を書いた紙を置けばいいし、違うなら、そもそも何も残さなければいいでしょう」
「犯人は、名前を知らせたいのではなく、私たちがその名前を選ぶ過程を見たいのかもしれない」
遥人が答えると、三浦は眉を寄せた。
「前にも似たことを言っていたな。誰を皇嗣にするか、お前に選ばせたいとか」
「今は、それだけではないと思っている。犯人は、証拠らしく見えるものを与え、私たちがその人物を疑い、やがて矛盾へ気づくことを繰り返させている。まるで、顔や名前、記録だけを信じて人を選ぶことが、どれほど危険かを教えようとしているように見える」
「人を殺してまで授業をしているっていうのか」
「本人は、そう考えている可能性がある。正しいことを教えるためなら、相手が傷つくことを後回しにする人間はいる。御厨教授も、方法は違っても似たところがあった」
長谷部は、遥人の言葉を聞きながら、証拠袋に入った鏡をもう一度見た。
「鏡に刻まれていた文章は、『私の顔を見ても、まだ三浦を選べるか』でした。しかし、鏡に見える顔そのものが偽物なら、犯人が本当に見せたかったのは、顔ではないのかもしれませんね」
「どういう意味ですか」
三浦が尋ねた。
「こちらが顔を見た途端、双子だ、三人目だと考えることを予測していたのでしょう。そして、その推測が間違っているとわかる証拠まで、同じ鏡の中へ仕込んでいた。犯人は、自分の顔を見せているのではなく、我々が人の顔にどれほど簡単に意味を与えるかを見せている」
遥人は、鏡の裏面を見せてもらった。
黒い樹脂で覆われた背面には、製造番号らしい小さな刻印があり、その横には、刃物で削ったような三本の線が残されている。
「この三本の線も、首の傷を連想させるためでしょうか」
「おそらく。しかし、傷の形は映像の男や医療記録と微妙に違います。真壁さんが覚えていた三本の傷は、首の上から下へ平行に走っていた。この鏡の線は、中央の一本だけ向きが逆です」
「傷を正確に再現したのではなく、三という数を強調している?」
「三人の子供、三人の母親、三つの時刻、三本の傷。犯人は、何度も三という数を見せています」
三浦が嫌そうに顔をしかめた。
「俺と同じ顔が二つあるだけでも十分なのに、今度は何でも三つに見えてくるのか。こういう事件って、考えれば考えるほど、普通のことまで全部怪しくなるんだな」
「だからこそ、一度見つけた規則へ、すべてを合わせないようにしなければならない」
遥人はそう答えたが、自分自身も、三という数へ引かれ始めていることを認めざるを得なかった。
三人の乳児。
三人の母親。
三つの時刻。
十一時四分、十三時二十八分、十七時五十二分。
そこへ、犯人は六時十八分を加えた。
それぞれの時刻は、二十二年前の出来事へ対応している。
ならば、十一時四分、十三時二十八分、十七時五十二分にも、それぞれ一人ずつ、選んだ者がいるのではないか。
午前十一時四分、皇宮から旧図書館へ電話がかかった。
午後一時二十八分、御厨助手が来館した。
午後五時五十二分、子供が運び出された。
午後六時十八分、父が到着した。
時刻は単に出来事の順番を示しているのではなく、それぞれの時点で、誰かが何かを選んだ瞬間を示している可能性がある。
「桑原さんの手帳に、午前十一時四分の電話を受けた人物は、館長と書かれていましたね」
遥人が言うと、長谷部は頷いた。
「当時の旧図書館長、塚本正臣です。自宅の階段から転落し、二十二年前の十二月に亡くなっています」
「午後一時二十八分に来館した御厨教授も、今は殺されている。午後五時五十二分に子供を運び出した人物については不明。午後六時十八分に到着した父上は生きている。四つの時刻へ関わる人物のうち、少なくとも二人が不自然な死を迎え、一人が現在の事件へ巻き込まれている」
「犯人が、その順番で過去の関係者を狙っていると?」
「まだわかりません。ただし、もし時刻が人物を示しているなら、次に示される時刻は、次の標的を意味する可能性があります」
「四分、二十八分、五十二分、十八分。その次は?」
三浦が尋ねた。
「二十四分ずつ増える並びなら、本来は四十二分です。けれど、六時十八分はその規則から外れていました。犯人は数列を続けているのではなく、実際に起きた時刻を示している。次が何時かは、二十二年前の記録を見なければわかりません」
その時、病室の外で、坂井の携帯電話が鳴った。
短い会話のあと、坂井が扉を開け、長谷部を廊下へ呼び出す。二人は声を落として話していたが、長谷部の顔が次第に険しくなるのが、ガラス越しにも見えた。
やがて病室へ戻ってきた長谷部は、遥人ではなく、まず榊原へ目を向けた。
「玲子内親王殿下の行方について、新しい事実が出ました。皇宮側の説明では、昨日の夕方まで居室にいたことになっていましたが、実際には、最後に本人の姿が確認されたのは午前九時十四分です」
「護衛官は、午後にも室内から玲子内親王殿下の声を聞いたと報告しています」
「姿は見ていない。扉越しに、『一人にしてほしい』『食事はいらない』という返事を二度聞いただけです」
遥人は、御厨教授の遺体のそばにあった懐中時計を思い出した。
三浦の質問に応じているように聞こえながら、実際には限られた言葉だけを再生していた装置。
「声は、録音だったのですね」
「居室の中から、小型の再生装置が見つかりました。御厨教授の懐中時計へ組み込まれていたものと、同じ製造者による装置です。決められた時刻に、玲子内親王殿下の声を再生するよう設定されていました」
「叔母は、午前九時十四分より前に居室を出ていた」
「その可能性が高い。防犯映像を見直したところ、午前九時二十一分、清掃担当者が使う裏通路から、一人の職員が皇宮を出ています。顔は帽子とマスクで隠れていますが、歩幅と身長は玲子内親王殿下に近い」
「叔母自身が姿を消したのか、誰かに連れ出されたのかはわかりますか」
「映像だけでは判断できません。しかし、居室から争った痕跡はなく、着替えと現金の一部もなくなっています。少なくとも、本人が外出する準備をした形跡はある」
榊原が、険しい表情で尋ねた。
「再生装置は、いつ設置されたのですか」
「前日の夜までには、居室へ持ち込まれていた可能性があります。装置の中に残っていた音声は三種類で、いずれも玲子内親王殿下本人の声です。ただし、録音された時期は一致していません。一つは最近、二つは二十二年以上前の録音と推定されています」
「二十二年前の声?」
「若い頃の玲子内親王殿下が、同じ言葉を繰り返している。『その子を皇嗣にしてはならない』と」
御厨教授の手に握られていた写真の裏にも、同じ文章が書かれていた。
遥人は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
「写真の文字は、玲子叔母の筆跡だったのですか」
「まだ鑑定中です。しかし、声が本物であるなら、玲子内親王殿下は二十二年前から、三人のうち誰かを皇嗣にしてはならないと考えていたことになります」
「誰のことを指していたのかは、わからない」
「ええ。そして、もう一つあります」
長谷部は、自分の携帯電話を遥人へ差し出した。
「玲子内親王殿下の私用端末から、今朝十一時四分に、あなた宛ての音声メッセージが送信されています。端末の電源は、送信直後に切られ、現在地は特定できません」
遥人は、画面に表示された再生ボタンを見つめた。
十一時四分。
二十二年前、旧図書館へ皇宮から電話がかかった時刻。
長谷部が、先に内容を説明した。
「声紋は玲子内親王殿下と一致しています。ただし、録音された時期まではわかりません。メッセージは短く、こう言っています」
遥人は、自分で聞くために再生ボタンへ触れた。
小さなスピーカーから、叔母の声が流れた。
『彰仁。御厨先生を殺したのは私です。けれど、あなたが追っている冬真は、三浦直哉でも、映像に映った男でもありません。冬真を探すなら、最初に死んだ子供を探しなさい』
一度、雑音が入り、そのあと、玲子の声は少しだけ柔らかくなった。
『そして覚えておいて。あなたは、三人の中から選ばれた子供ではない。誰からも選ばれなかったから、皇嗣になったのです』
音声はそこで終わった。
三浦が、何も言わず遥人を見ていた。
長谷部は携帯電話を受け取り、再生履歴を消さないよう画面を閉じた。
「自白としては、妙に親切すぎますね」
遥人は、叔母の声が残した言葉を、頭の中で何度も繰り返した。
最初に死んだ子供。
誰からも選ばれなかったから、皇嗣になった。
これまで遥人たちは、生き残った三人のうち、誰が誰として育てられたのかを考えていた。
しかし、玲子の言葉が正しいなら、前提が違う。
三人の乳児のうち、一人が死んだのではない。
死んだとされた子供の存在そのものが、入れ替えの中心にある。
「長谷部さん、二十二年前の出生記録と死亡記録を、子供だけでなく、母親も含めてすべて確認してください」
「何に気づいたのですか」
「私たちは、三人の子供が同じ夜、旧図書館にいたと思い込んでいます。しかし、医療記録では母親が三人、出産場所も異なっていた。三人が本当に同じ時期に生まれたのかも、同じ夜まで生きていたのかも、まだ証明されていません」
「孝仁親王殿下は、三人の泣き声を聞いたと証言しています」
「暗闇の中で声を聞いただけです。三浦が御厨教授の録音を本人の声だと信じたように、父上も、三人目の泣き声を装置から聞かされた可能性があります」
長谷部の表情が変わった。
二十二年前の時点で、御厨教授の懐中時計ほど小型ではなくても、乳児の泣き声を録音し、暗闇で再生することはできる。
三人の子供がいたという記憶そのものが、作られたものだった可能性がある。
「三人目は、最初から存在しなかった?」
三浦が尋ねた。
「それもまだ決められない。存在しなかった人物を、犯人が現在になって作り出しているのかもしれないし、反対に、死んだと思われた子供だけが本当に存在し、生きていると思われた誰かが記録上の人間にすぎない可能性もある」
「何を言っているのか、だんだんわからなくなってきた」
「私も、まだ整理できていない。ただ、叔母の言葉が事実なら、冬真を探すためには、生きている人間の顔を比べるのではなく、二十二年前に誰が死んだことにされたのかを、最初から調べ直す必要がある」
遥人は、証拠袋の中にある鏡を見た。
鏡には、見る者の位置によって、存在しない顔が浮かび上がる。
犯人は、三浦に似た男を見せ、三人目の存在を信じさせた。
しかし、鏡に顔が映ることと、その人物がそこにいることは同じではない。
二十二年前の夜も、同じだったのかもしれない。
泣き声が三つ聞こえたことと、子供が三人いたことは同じではない。
記録に三人の母親が書かれていることと、三人が子供を産んだことも同じではない。
そして、彰仁親王という名で二十二年間生きてきたことと、自分がその名を与えられるはずだった子供であることも、同じではなかった。




