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『404 ―存在しない恋人―』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/28
雪の降る街では、
音が消える。

人の気配も、
笑い声も、
生きている実感さえも、
白く埋まっていく。

だから彼は、
通知音を愛した。

深夜一時十三分。
ポケットの奥で震える小さな光。

「起きてる?」

その一行だけで、
世界にまだ自分の居場所がある気がした。

彼女は海の向こうにいた。
見たこともない夜景、
見たこともない指先、
見たこともない未来を語った。

「あなたは優しい人」

その言葉だけで、
男はもう、
長い孤独を許された気になった。

数字は増えていった。
口座の中で、
画面の中で、
夢の中で。

金ではなかった。

彼が欲しかったのは、
老後でも、利益でもない。

誰かに必要とされる、
たった一つの理由だった。

だが冬の朝、
世界は突然終わる。

404 Not Found

そこにはもう、
愛も、
未来も、
名前さえ存在しない。

残ったのは、
送金履歴と、
既読のつかないトーク画面。

人はなぜ騙されるのか。

違う。

人は、
救われたかった場所で壊れる。

そして今日もまた、
どこかの夜の部屋で、
新しい通知音が鳴る。

「こんにちは。日本人の方ですか?」

雪は静かに降り続ける。
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