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『その婚約破棄、書式不備につき無効です』

作者:更田遅筋
最新エピソード掲載日:2026/08/08
「――殿下。恐れながら、その婚約破棄、書式が間違っております」

王立記録院・婚約解消記録課の書記官ヴィオラ・レンディッシュ、二十歳。三年間、貴族たちの婚約破棄を壁際で記録し続けてきた。その数、三百件。声を張り上げる者、泣き崩れる者、勝ち誇る者。そのすべてを、彼女は淡々と様式に流し込んできた。

三百一件目は、自分の番だった。

卒業記念夜会。第二王子ジェラルドが、身に覚えのない罪状三件を並べ、公衆の面前で婚約破棄を宣言する。だがヴィオラが指摘したのは、罪状の不当さではなかった。

――解消調書が、提出されていない。口頭の宣言に法的効力はない。
――罪状三件はいずれも学園在籍を前提とするが、彼女は三年前に入学を辞退している。
――この婚約は両家契約。解消を申請できるのは家長のみで、殿下個人に資格はない。
――そして王族の婚約解消には、第四十四条により国王印を要する。

「なお、その調書の受理窓口の担当官は、私です」

剣も魔法も出てきません。武器は規則書と、三年分の統計と、誰にも読まれない欄外の注記だけ。書式不備を一つずつ開いていく静かな逆転劇と、彼女の調書を七年間読み続けていたという監査長との、業務用語でしか進まない不器用な恋の話。

そして彼女は、受理印を押した夜、欄外にこう書き残す。

『宣言は、様式を欠いていた。立会申請だけが、十日前に、正しい様式で出ていた。順序が、逆である』
第1話 三百一件目
2026/08/03 22:28
第2話 窓口はこちらです
2026/08/03 22:29
第3話 在籍簿
2026/08/03 22:30
第4話 監査対象
2026/08/04 12:21
第5話 十日前の申請
2026/08/04 16:11
第6話 まだ、何も
2026/08/04 18:25
第7話 第四項
2026/08/05 08:00
第8話 永年
2026/08/05 14:00
第9話 七年
2026/08/05 20:00
第10話 欄外
2026/08/06 08:00
第11話 差し戻し
2026/08/06 14:00
第14話 祝典曲
2026/08/07 14:00
第15話 たすけて
2026/08/07 20:00
第16話 白紙
2026/08/08 08:00
第17話 謁見
2026/08/08 14:00
第18話 聴講
2026/08/08 20:00
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