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『終の棲家で、地獄の公開裁判 〜新築の風呂場で裏切った夫の末路〜』

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/05/18
わたしは住まい手にはなれなかった

静かな朝だった
まだ木の香りの残る廊下に
未来だけが、満ちていた

手すりの高さを測りながら
「いつか」を思った
老いた親の背中
まだ見ぬ子どもの笑い声
冬でも冷たくない床
転ばない角
帰る場所になるはずだった家

あなたは笑っていた
「やっと完成したな」
その声を
私は信じていた

けれど――

脱衣所に落ちていた
見知らぬヒールひとつで
城は崩れた

曇る浴室
白いガラスの向こう
重なる影

あの瞬間
泣いたのは心ではない

人生だった

介護のために選んだ浴槽で
老後のために組んだローンの中で
未来のために灯した明かりの下で

あなたは
他人を抱いていた

怒りは
叫びにならなかった

その代わり
静かに証拠へ変わった

震える指で回した動画は
愛の記録ではなく
終わりの記録

新築のリビングに並んだのは
祝いの菓子と
離婚の書類

床暖房のぬくもりは
誰も感じない

ただ
大型テレビだけが明るく
裏切りを映していた

人は言う
家は人生だと

ならば私は
壊れた人生を売り払った

傷の染み込んだ壁も
嘘を聞いた天井も
未来を汚した浴槽も

全部置いて
私は出ていく

もう
「誰かのための家」はいらない

小さくてもいい
完璧じゃなくていい

朝、安心して目を覚ませる場所があればいい

新しい窓から射す光は
あの日よりずっと柔らかい

終の棲家とは
豪華な家ではなく

裏切りのない場所なのだと

私はようやく知った。

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