ハルピン紀行
諏訪に行った時の話
哈爾浜紀行
哈爾浜といっても、中国のハルピンへ行ったわけではない。行き先は、諏訪のハルピンラーメンだ。以前から一度は、諏訪を中心にチェーン店を持つ、このラーメン屋で食べてみたいと思っていたのだ。
ハルピンラーメンとは、創業が昭和四十九年、中国の哈爾浜と関係があるようだ。以上はネットの情報。
先日、すわっチャオで信文協の会議があるから行ってくれと言われたので、この機会を逃してなるものかと、事前に諏訪の観光協会やハルピンラーメン諏訪店に、電話を入れ、またネットでかりんちゃんバスの時刻表をチェックし、乗るべきバスや降りる停留所を確認して、当日を迎えた。
六時三十一分、長野発飯田行きのJRに乗り岡谷で乗り換え上諏訪の駅に着いたのは、八時四十五分だった。
とりあえず、すわっチャオに行き、他誌へ配布を頼まれた「層」二十五冊をコインロッカーに入れた。観光案内所でかりんちゃんバスの時刻表を貰い、バス路線と停留所を確認した。
乗るべき市内循環外回り線のバスは、上諏訪駅西口から九時四十五分発車になっていて、三十分以上余裕があった。上諏訪駅は東口側が栄えていて、西口は割とのんびりした感じで、長野駅とは逆だなと思った。
まだ当分の間、バスは来ないだろうと停留所の椅子に座っていると、バスが来たので乗り込んだ。三百円の一日券を買い、ハルピンラーメン諏訪店から一番近い飯島というバス停を通過するか、女性の運転手さんに確かめると、
「ええ、通りますよ」と言ったので、僕は安堵した。だが、現地を知らない者の悲しさ、飯島で降りた僕は、ラーメン店が見えず少し焦った。このバスを利用した事のある、諏訪が地元の方は、ここを読んでニヤついているだろう。
定刻になりバスは発車した。古くからの街らしく、道幅は狭く入り組んでいる。そこを通るには大きめのバスがゆっくりとスムーズに走る。僕は以前、保育園バスを運転していた経験があるが、ここのバスは凄い
高度なテクニックが必要な感じがした。
途中、高島城が見え、しばらく目が離せなかった。見学できるなら、一度は見てみたいと思った。
やがてバスは目的のバス停、飯島に着いた。降りたらハルピンラーメン諏訪店が見えるだろうと、勝手に決めつけていたが、その通りに店は見えなかった。
こりゃまずい、グーグルマップでも使って調べるしかないか、と多少不安になっていると、ベビーカーを押した女性が近づいてきたので、
「すみません。ちょっと伺いたいのですが……」と言い、これは老化現象か、ハルピンという言葉が出てこず、「中国の名前のラーメン屋ここら辺にないですか」と言ったら、女性は、
「は?――」要領を得ない顔つきだ。
やばい事態だ、ここまで来てハルピンラーメンを食せず帰宅するのは、一生の後悔の様に思えたが、面倒くさくなり半ばヤケクソで、
「近くにラーメン屋ありませんか」と言ったら、
「あっ、ハルピンラーメンね。それならこの通りをまっすぐ行って、突き当たりを左に曲がって歩いて行けば、すぐに見えますよ」
ありがとうございます、と頭を下げ教えられた方向に歩いた。突き当たりを左に進むと、程なくネットにあったハルピンラーメンの看板が見えてきた。
長年の念願が成就出来る確信を持った僕は、足取り軽く、ハルピンラーメン諏訪店に着いた。
開店の十一時には四十分位あったろうか。駐車場には諏訪ナンバーの高級そうなバイク(ハレーダビットソンか)が二台駐まっていて、若そうな兄ちゃんが親しげに話している。やがて二台の似たようなバイクがやって来た。これらは県外ナンバー。
諏訪ナンバーの二人が、よくラーメン食べるだけに、ここまで来るよな、と県外ナンバーに聞こえないように笑っている。
僕は、独りでいることが惨めに思えて、通りの向かえに見えた平安堂に入った。二十分位店内をぶらつき開店十分前に戻ってみると、アベックがドアの前に立っていた。僕はその後ろに並び開店を待った。
すると、バイクの兄ちゃんや、他の客達もその列についた。開店の数分前になると、申し合わせたように何台もの車が入ってきて、すぐに駐車場は一杯になった。ナンバーは半分くらいが県外のようだった。
それを見て僕は、さすが有名なラーメン店だなと思った。わざわざ早朝に家を出て、バスを調べ来たかいがあったと嬉しくなった。
十一時になりドアが開き、アベックに続いて入店する。入ってすぐの場所に券売機があり、最初、僕は店名のハルピンラーメンを食べるつもりだったが、ちょうど釣り銭が出ない千円の「並木」のボタンを押す。
並木とは、創業店が諏訪の並木通りにあったのが由来らしい。これもネットの情報。正確なところは地元の方に聞きたい。
店内はカウンターのみの席で、L字に二十席くらいあったか。アベックの次に座り食券を出した。店員が水とジャスミン茶?を客達に出す。
目の前に置かれたラーメンは、黒いスープに細い縮れ麺。スープを一口味見すると、ゴマ油だかニンニクだか初めての味覚だ。チャーシューは薄めのでかいのが一枚だった。ネットの書き込みを読むと、多くの方が褒めている。そういう評価は順当な感じだ。
他の客は餃子を頼んでいたが、僕は、ハルピンラーメンで食べられただけで十分だったから、一気にラーメンを食べ終わった。凄く混んできたし、僕だけが一人で来たような寂しさから、ジャスミン茶?を飲み、口を整えすぐに席を立った。
帰りのバスは、飯島バス停を十二時十一分に通過するので、一時間近くは時間があった。移動を考えてもかなり暇だったので、平安堂の隣にあったかっぱ寿司に入った。当然、この店に入るのは初めてだったが、かっぱ寿司ならよく行くので、緊張もせず三皿ほど食べて店を出た。
ゆっくりバス停に戻っていると、先ほど道を教えてくれてベビーカーの女性とすれ違ったが、向こうが僕を忘れたのか、知らない白髪頭のオッサン(僕)と関わりたくないのか、知らんぷりをしていたので、僕はお礼を言わず、聞こえない程度の声で、ありがとう、とひとりごとを言いすれ違った。
定刻にバスが来て、高島城が見える元来たルートで、上諏訪駅に着いた。
バスを降り、すわっチャオ一階のスーパーで、僕の諏訪土産として定番化してきた諏訪湖豆を買い、登り
のエスカレーターに乗った。
諏訪湖豆は、諏訪市内で作られている豆菓子。大豆に砂糖掛けした白色の物。煎った大豆に砂糖汁をかけて甘くしているのかな。ちょっとした土産物に良いかも。
長年、頭の隅にこびりついていた願いがかない、ヤレヤレといった感じだが、また行きたいかと問われれば、行っても良いけど、わざわざはどうかな、といった感じが正直なところ。
かりんちゃんバスの時刻表を見ていたら、諏訪湖を一回りするスワンバスの存在を知った。このバスを利用しクールなご婦人と二人で、温泉や神社巡りを楽しみ、岡谷では特上のウナギをご馳走し、彼女の嬉しそうな笑顔を愛でる事で、さぞ幸福感に浸れるだろうと思った。だが肝心のご婦人に心当たりはない。
しかたなく三十年近く連れ添い空気と化した配偶者殿を、拝み倒して行くのが現実だろうと納得する。それはうら寂しくもなるが、これが我が家の安泰、ひいては世界平和につながるのだ、と思い込むことにする。
読んでもらいありがとうございましたm(__)m




