お前かぁ
還暦過ぎの純三は、夕飯のカレーを作り終えそうになっていた。
なにか小説を書くネタないかな、と思いつつカレーのトロミが出るように
かき混ぜていると、家の電話が鳴った。
ナンバーディスプレイに表示されている番号は、携帯らしい。
見覚えない番号だが、とにかく受話器をとる純三だ。
「もしもし」そう言うが、近頃、物騒なので名乗らずにいると、
「もしもし、私です」こもった女の声がする。
「あの〜、どなたですか」
純三は、変な女がかけてきたのか、と警戒する。
「もしもし、私です」と繰り返す女。
この声、聞いた事ある様な気もしたが、特定は出来ない。
「誰よ。◯◯さんか」
予測不能な行動をする、親戚の従姉妹の名を言ってみる。
「もしもし、皆さんお元気ですか。久しぶりに電話しました」
「なんとかやってます。◯◯さんもお変わりないですか」
「もしもし、私です」
怪しい女だ。純三は、いっそ切ってしまおうか、と思っていると、
「もしもし、私です」と同じ事を言う。
ーー誰よ。純三は、こいつ誰なんだ、と頭の中でぐるぐる思い巡らせ、
「お前かぁ!」思わず、怒った様な声をあげる。
「そうです。私です。たまには電話しろってラインされたんで」
「元気か」
「なんとかやってます」
「そっか。年末、帰ってこれそうか」
「できたら」
電話をかけてきたのは、東京で暮らす一人娘だった。
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