ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

男の子が生まれないなら、アパートを手放しなさい

短編
あらすじ
結婚して三年。

 義母から届くLINEは、いつも同じだった。

「水天宮の安産御守は本当にご利益があるのよ」

「男の子を授かるって評判の子宝神社があるの。今度、一緒に行きましょう」

「女は三十を過ぎると、身体が変わるのよ。綾乃さん、そろそろ本気で考えてちょうだい」

 私は夫の佐藤直樹に訴えた。

「お義母さんに、毎日こんなものを送られるのはつらい」

 けれど直樹はスマホから顔も上げず、面倒くさそうに言った。

「母さんは孫の顔が見たいだけだよ。そんなに神経質になるなよ」

 結婚生活を守るため。

 世間体のため。

 佐藤家に嫁いだ女として「気が利かない嫁」だと言われないため。

 私は、ずっと耐えてきた。

 けれど、あの日。

 キッチンの入口に立ったまま、私はリビングから聞こえる義母と義妹の会話を聞いてしまった。

「美緒が結婚したら、綾乃さんのマンションを空けてもらいなさい。新居にちょうどいいわ」

 義妹の美緒が、甘えるような声で尋ねた。

「でも、お母さん。綾乃さんが嫌だって言ったら?」

 義母は、鼻で笑った。

「言えるわけないでしょう。佐藤家に嫁いで三年、子どもひとり産めない女が、あんな立派なマンションを独り占めしているほうがおかしいのよ。直樹と結婚したんだから、あの部屋だっていずれ佐藤家のものよ」

 私はキッチンの入口に立ったまま、洗ったばかりの湯飲みを握りしめていた。

 指先が、少しずつ冷えていった。

 その夜、私は直樹に聞いた。

「お義母さんが、私のマンションを美緒さんの新居にするって話していた。あなた、知っていたの?」

 直樹は顔も上げなかった。

「家族なんだから、そんなに線を引かなくてもいいだろ。お前のものは佐藤家のものでもあるんだから」

 私は彼を見つめて、ふっと笑った。

「そう。佐藤家のものを分けるのがそんなに好きなら、ちょうどいいわ」

「離婚協議書なら、もう用意してある」

「あなたには、この家を出ていってもらうだけ」
Nコード
N1138MI
作者名
熾星
キーワード
集英社小説大賞7 シリアス 女主人公 和風 現代 職業もの 群像劇 日常 家族ざまぁ クズ夫 因果応報 逆転劇 復讐 現代ドラマ 女性の自立
ジャンル
ヒューマンドラマ〔文芸〕
掲載日
2026年 06月11日 15時08分
感想
0件
レビュー
0件
ブックマーク登録
1件
総合評価
26pt
評価ポイント
24pt
感想受付
受け付ける
※ログイン必須
レビュー受付
受け付ける
※ログイン必須
誤字報告受付
受け付ける
※ログイン必須
開示設定
開示中
文字数
18,660文字
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから

同一作者の作品

N7894MI| 作品情報| 短編| ヒューマンドラマ〔文芸〕
作戦報告会で、婚約者の義弟が独断行動によって任務を失敗させたことを謝罪するよう求めただけだった。翌日、俺の個人情報はすべてダークウェブに流された。値段は二百二十円。コンビニのおにぎり一つ分にもならない額だった。 名前、//
N7876MI| 作品情報| 短編| ヒューマンドラマ〔文芸〕
親友の青柳莉奈は、ショップの規約違反を見つけて通報することに夢中になっていた。とはいっても、普通のクレームではない。数百円の安い雑貨をわざと買い、届いた箱の中に「星5レビューのスクリーンショットで電子ギフト券をプレゼント//
N6849MI| 作品情報| 短編| ホラー〔文芸〕
 午後十一時四十五分。  私は、息苦しさで目を覚ました。  部屋は暗い。  勢いよく起き上がった瞬間、喉に何かで締めつけられたような痛みが残っていた。  胸が激しく上下する。  私は枕元に手を伸ばし、スマホを掴んだ。  //
N6813MI| 作品情報| 短編| ヒューマンドラマ〔文芸〕
 日本アカデミー賞授賞式の壇上で、監督である夫・黒瀬悠真が、突然スピーチ原稿を破り捨てた。  紙が裂ける音が、会場中に響いた。  彼はマイクを受け取り、穏やかで、けれど迷いのない声で言った。 「このスピーチ原稿は、妻が書//
N6802MI| 作品情報| 短編| ヒューマンドラマ〔文芸〕
 私が死んで三日目の夜。  私は母の夢に出た。  お願いだから、お寺へ行って、私のために一度だけ供養をしてほしい。  卒塔婆を一本、立ててくれるだけでいい。  線香を一本あげてくれるだけでもいい。  花を一束、供えてくれ//
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ