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『お前の全財産、いただくから。 ~完璧な乗っ取り計画は、超ド級の天然社長に全部狂わされた~』

あらすじ
夜の帳簿に、
静かに灯る電卓の光。

男は数字を愛していた。
いや――
数字しか、信じていなかった。

人は裏切る。
善意は赤字になる。
優しさは、いつか食い潰される。

そうやって、
幾つもの会社を解体し、
幾つもの笑顔を、
「合理化」の四文字で消してきた。

一条響。

彼は完璧だった。
冷静で、正確で、隙がない。

だから確信した。

古びた園芸会社。
無借金。
潤沢な現金。
土地資産。
温い経営。

――カモだ、と。

若き女社長は、
花の香りをまとって笑っていた。

「響さん、すごいですねぇ」

契約書もろくに読まない。
利益率も気にしない。
会議中に花壇の話を始める。

愚かだ。
脆い。
騙しやすい。

はずだった。

彼が切ろうとした慈善事業は、
地域の希望になった。

彼が作った架空会社は、
世界市場で黒字を叩き出した。

彼が仕掛けた資金流出は、
社員の未来を育てる制度へ変わった。

悪意は、
彼女の手に触れるたび、
なぜか誰かの幸福へ変換されていく。

まるで。

花が、
どんな土でも咲いてしまうように。

冬。

オフィスの窓辺に、
白い薔薇が咲いていた。

「寒くないように、置いておきました」

その言葉が、
彼には理解できなかった。

なぜ自分を信じる。
なぜ笑う。
なぜ疑わない。

俺は、
お前の財産を奪うために来たのに。

夜の帳簿を開く。

積み上がった利益。
増え続ける資産。
守られていく社員。

そして気づく。

奪うはずだった男が、
いつの間にか、
この会社を守っていることに。

「……俺の負けだ」

絞り出した告白に、
彼女は小さく笑った。

「はい。知ってました」

そして差し出されたのは、
告発状でも、手錠でもない。

彼名義の、
未来だった。

合法的に。
完璧に。
逃げ道すらなく。

「これで響さん、もう一生、
うちの人ですね」

世界で一番ずるい、
優しい買収だった。

数字は嘘をつかない。

けれど。

数字では測れないものに、
人生を狂わされることがある。

例えば、
誰かが淹れてくれる
夕方のほうじ茶とか。

例えば、
冬薔薇の匂いとか。

例えば――

「おかえりなさい、響さん」

その一言、とか。

Nコード
N0814MF
作者名
かおるこ
キーワード
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ジャンル
ヒューマンドラマ〔文芸〕
掲載日
2026年 05月17日 12時12分
最終掲載日
2026年 05月17日 13時29分
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文字数
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