母と息子は藪の中
最新エピソード掲載日:2026/06/05
母と息子の藪の中
五月の生温かい風が
アスファルトの埃を巻き上げる
財布の底は冷え切り
還付されない四万円のタクシー代が
僕たちの行く手を阻んでいた
四時間半の果てしない道
線維筋痛症の母はなきべそをかき
「もういいよ」と崩れ落ちる
糖尿病、識字障害、アディクション
病気と発達障害をすべて背負った小さな背中
アスペルガーの僕の脚も、もう棒のようだ
いつもなら
「よかったね、今日も来られたね」と
満面の笑みで分け合うはずの帰り道
けれど今日の白い扉の向こう
母の悲鳴が静寂を切り裂く
「ちゃんと私の話、聞いていただけています?」
パソコンの画面しか見ない医師の目
誰にも届かない母の孤独
境界性の嵐が、愛着の飢えが
診察室の床で激しくのたうち回る
強度行動障害の僕の脳内で
パニックの引き金がカチリと鳴った
それでも、僕は暴れなかった
世界で二人きりの、僕たちの藪の中
ここで手を離せば、本当に居場所がなくなるから
汗ばんで酸っぱい匂いのする肩を抱き
「お母さん、僕が全部聞くから」と 囁く
病院中の冷たい視線の針を浴びながら
僕たちはまた、錆びついた自転車にまたがる
お尻の痛みも、終わらない困窮も
すべてをペダルに乗せて漕ぎ出す夕暮れ
「生きてていいよって、誰かに言ってほしかっただけなの」
涙の乾いた顔で微笑む母に
「分かっているよ」と 僕は風の中で応える
先も見えない、誰も分かってくれない藪の中
それでも二人の影は、夕日に向かって 確かに進んでいく
五月の生温かい風が
アスファルトの埃を巻き上げる
財布の底は冷え切り
還付されない四万円のタクシー代が
僕たちの行く手を阻んでいた
四時間半の果てしない道
線維筋痛症の母はなきべそをかき
「もういいよ」と崩れ落ちる
糖尿病、識字障害、アディクション
病気と発達障害をすべて背負った小さな背中
アスペルガーの僕の脚も、もう棒のようだ
いつもなら
「よかったね、今日も来られたね」と
満面の笑みで分け合うはずの帰り道
けれど今日の白い扉の向こう
母の悲鳴が静寂を切り裂く
「ちゃんと私の話、聞いていただけています?」
パソコンの画面しか見ない医師の目
誰にも届かない母の孤独
境界性の嵐が、愛着の飢えが
診察室の床で激しくのたうち回る
強度行動障害の僕の脳内で
パニックの引き金がカチリと鳴った
それでも、僕は暴れなかった
世界で二人きりの、僕たちの藪の中
ここで手を離せば、本当に居場所がなくなるから
汗ばんで酸っぱい匂いのする肩を抱き
「お母さん、僕が全部聞くから」と 囁く
病院中の冷たい視線の針を浴びながら
僕たちはまた、錆びついた自転車にまたがる
お尻の痛みも、終わらない困窮も
すべてをペダルに乗せて漕ぎ出す夕暮れ
「生きてていいよって、誰かに言ってほしかっただけなの」
涙の乾いた顔で微笑む母に
「分かっているよ」と 僕は風の中で応える
先も見えない、誰も分かってくれない藪の中
それでも二人の影は、夕日に向かって 確かに進んでいく
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