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ここにいていい

作者:Noct
最終エピソード掲載日:2026/11/03
入学して三週間、世奈は教室の空気が苦しかった。輪の端に引っかかったまま、自分から声をかける最初の一歩が踏み出せない。英語の時間、三人組に誘われても「だいじょうぶ」と断ってしまう。だいじょうぶじゃないのに、それがいちばん簡単だった。昼休みに逃げ込んだ階段の踊り場で、二年生の春之進と出会う。春之進は責めも急かしもせず、窓枠の小さな傷のそばで「ここ、いていい場所だよ」と告げる。その一言で、逃げ場所は世奈の居場所になった。
五月、図書室「白灯文庫」で美汐と出会い、薄い本を薦められて貸出カードに自分の名前を書く。踊り場では春之進の「そっか」が、図書室では美汐の「いいに決まってるじゃん」が、世奈の背を押す。春之進の声が自分にだけやわらかい気がして戸惑う世奈に、美汐は、春之進もかつて誰かに「だいじょうぶ」と言ってもらったのだと明かす。六月、春之進に初めて「世奈さん」と呼ばれ、名前を呼ばれることが「ちゃんと見ている」証だと知る。七月には廊下で「春之進先輩」と呼びかけ、名前を呼ぶ勇気を知る。
夏休み、喫茶店Café Lumenで、マスターの渚が冷えた指先に気づいてホットミルクを出してくれる。二学期、世奈は迷っている転入生に迷いながら声をかけ、図書室へ案内して自分の名前を渡す。受け取ったやさしさが、渡す側へ回り始める。
受験を控えた春之進に、世奈は「だいじょうぶです、きっと」と返す。三月、春之進と美汐が卒業し、美汐は薄い青の栞を世奈に託す。三年生の春、世奈は踊り場で一人でいる一年生に「ここ、いていいよ」と告げる。渚の口から、春之進を見守っていた帆乃華という名前がこぼれる。「だいじょうぶ」は、帆乃華から春之進へ、春之進から美汐へ、美汐から世奈へ、そして次の誰かへ旅を続けていく。光は、終わらない。
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