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エルデーン世界記録集 ― Chronicle of Eldern

旅の拾い唄~唄は、暮らしがいちばん忘れたくないものを伝う~

最終エピソード掲載日:2026/09/20
旅の途中で、誰にも知られず消えていく唄がある。

吹雪の夜、帰らない父を待ちながら子供たちが歌う数え唄。

狐罠の掛け方を忘れないため、猟師たちが口ずさむ唄。

嫁いでいく娘のために女たちが歌う泣き唄。

舟を海へ送り出す祝い唄。
市場の売り唄。
子守唄。
労働歌。
そして、旅人たちが帰らぬ仲間を待つための唄。

「吹き流れる知恵の収集旅団」で生まれ育ったサリ・ウィ・ロンネが惚れたものは、そんな名もなき人々の唄だった。

節は紙には残せない。
それでも、歌詞と、それが歌われた場所と、人々の暮らしだけなら残すことができる。

「道具の使い方は道具と一緒に廃れる。だが唄は、使い道が消えたあとも残る。半分でも拾っておけ」

その言葉を胸に、サリは四十年にわたって七種族の土地を旅し、唄を拾い続けた。

老いて旅に出られなくなった彼女は、山のような手控えから三十の唄を選び、一冊の本にまとめる。

これは英雄の物語ではない。

歴史書にも残らない人々が、働き、遊び、子を眠らせ、誰かの帰りを待ちながら歌ってきた――そんな「異世界の日常」を集めた、一人の旅人の民謡採集録。

この一冊は、唄の抜け殻の集まりである。

けれど殻さえ残しておけば、いつか誰かが、その中にあった節を思い出すかもしれない。
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