旅の拾い唄 第三章 南方の唄
南の唄は、独りでは終わらない。音頭には受けが、問いには返しが、舞には声が付いて、それでようやく一つの唄になる。乾いた土地は人を寄り合わせるのだと、ザレの高地の婆さまが言っていた。井戸がひとつしかなければ、皆がそこで顔を合わせる。唄も同じ作りになる。
十「舞の日の数え唄」
拾った土地と年 南方ザレの高地イサの村 王国歴1609年 日盛りの月
場 年に一度、雨乞いの舞が奉納される日。社の岩山に上がれない小さい子らが、麓で舞の数を数えながら、声の返るのを待つ。
ひとつのまいは といのまい
こえはかえらぬ あたりまえ
ふたつみっつと まいがたつ
かえったか まあだだよ
かえったか まあだだよ
かみなりさまが へんじしたら
みんなではだしで かけもどれ
注。乞いの舞に声が返らないのは挨拶だからだ、ということを、この村では小さい子まで知っている。声が返った瞬間、子らはいっせいに裸足で村へ駆け戻る。雨より先に着くためだそうだ。私が居合わせた年は、七つ目の舞で返った。麓の子らの数えのほうが、社の帳役の書き入れより早く村に届くのだから、大人たちは畑仕舞いの支度を、子供の足音で始めることになる。
十一「石積みの唄」
拾った土地と年 南方ザレの高地オンドの村 王国歴1610年 刈入れの月
場 段畑の石垣を組み直す共同作業。石を手から手へ渡す列で、音頭と受けを交わす。
(音頭)いしがくるぞ (受け)よこせ
(音頭)おもいぞ (受け)しってるよ
(音頭)おとすなよ (受け)おとしたら
(皆)あしをどけろが さきだ
(音頭)このいしどこへ (受け)かどのうえ
(音頭)だれがきめた (受け)じいさまのじいさま
(皆)もんくはいわない うえのだん
注。石には座りたい場所がある、と石工の年寄りは言う。唄は石が手から手へ渡る間合いを揃えるためのもので、間が揃っているかぎり、石は落ちない。文句では「あしをどけろがさきだ」に感心した。落ちてくる石より速い唄はないのだから、あれがいちばん正しい教えである。
十二「掛け合い唄」
拾った土地と年 南方ダレの町の酒場 王国歴1616年 白霜の月
場 酒場の座興。二人が交互に一句ずつ、相手の仕舞いの言葉を拾って返し合う。返せなくなった方が、その晩の酒代を払う。
(甲)おまえのろばは やせている
(乙)やせたろばでも みちしってる
(甲)みちをしってて まよったか
(乙)まよったんじゃない とおまわり
(甲)とおまわりして よめとられ
(乙)……こんやはおれが はらう
注。負けの認め方まで唄の内で、「こんやはおれがはらう」と節に乗せて言うのが作法である。決まりはひとつ、相手の仕舞いの言葉を拾って返すこと。よそ者にもやらせてくれるというので一晩挑んで、私は三句で沈んだ。旅団の名誉のために書き添えるが、連れの轍方はもっと早く沈んだ。翌年寄ったら、酒場の親父が私の負けた句を覚えていて、客に歌って聞かせていた。ああして唄は増えていく。
十三「オルサの売り唄」
拾った土地と年 南方オルサの町 王国歴1619年 刈入れの月
場 市の呼び売り。売り手はそれぞれ自分の節を持ち、客は節を聞いて店を探す。
(粉屋)
ひいたばかりだよ けさひいた
こなはしろいぞ やまのゆきより
(油屋)
ともしてながもち うちのあぶら
よるがながいぞ かっておいき
(青物売り)
とれたてとれたて つゆつきだ
つゆがひかるうち かえっておくれ
注。目をつぶって市を歩いても、節だけで誰の店の前か分かる。売り唄は看板より先に代替わりして、子供らの真似から次の節が生まれる。油屋の「よるがながいぞ」は冬の文句で、夏には「よるはみじかい、いそいでともせ」に変わるのだそうだ。商いの上手い者は、文句の替えどきも上手い。




