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旅の拾い唄 第一章 北辺の唄



 北辺の唄は、どれも短い。寒いからだ、と土地の者は言う。長く歌うと口が凍る、と。冗談の顔で言うのだが、白霜の月の峠でこの身に試したかぎり、半分は本当である。短いぶん、北の唄は骨と皮でできている。余計な飾りが、雪と一緒に落ちてしまうのだと思う。


一「雪数え唄」


 拾った土地と年 ロヴニの村 王国歴1602年 白霜の月

 場 吹雪で家に籠る晩、子らが囲炉裏を囲んで、眠くなるまで数を数える。


  ひとつ ひらりと まどのゆき

  ふたつ ふわりと やねのゆき

  みっつ みちを  うずめゆき

  よっつ よなかに つもるゆき

  いつつ いろりの ひがはぜる

  むっつ むこうの やまのゆき

  ななつ ならんで ねるこども

  やっつ やさしく つもるゆき

  ここのつ こんこん まだふるか

  とおで とうさん かえるころ


 注。十まで数えて父さんが帰らなければ、また一つから数え直す。つまりこれは、遊び唄の顔をした、待つための唄である。教えてくれた子は、六つあたりでもう舟を漕ぎ、十を待たずに眠ってしまった。それがこの唄の正しい仕舞い方だと、家の婆さまが笑っていた。


二「狐罠の唄」


 拾った土地と年 北辺トージの猟師宿 王国歴1599年 聖燭の月

 場 若い猟師が罠の掛け順を覚えるための唄。仕掛けながら、小声で口ずさむ。


  かぜしもえらべ あしあとよめ

  わなはふたつ みちにはひとつ

  えさはこおらぬ うちにおけ

  ゆきをかぶせて てをあらえ

  においのこせば きつねがわらう

  あすはあさいち みまわりわすれな


 注。歌い手の猟師は、これを唄と呼ばれるのをひどく嫌がった。唄ではない、手順だ、と言う。だが手順に節がつくとき、それはもう唄である。私は謝って、書き取らせてもらった。文句では「きつねがわらう」が良い。匂いを残した罠は、狐に見抜かれて素通りされる。あれを笑われたと言うあたり、北の猟師は狐を、獲物というより碁敵のように思っている。


三「ゆきのふとん」


 拾った土地と年 北辺ラムの村 王国歴1611年 聖燭の月

 場 ねんね唄。なかなか眠らない子の枕元で歌う。


  ねんね ねんね ゆきのばん

  ゆきはしんしん ふとんのよう

  ねないこ どこのこ まどのそと

  ゆきのかあさんが のぞいてる

  ねたこはいいこ うちのなか

  あったかふとんで あさがくる

  ねんね ねんね ゆきのばん


 注。ゆきのかあさんが何者なのかは、村の誰に訊いても知らなかった。眠らない子を覗きに来る、とだけ皆が言う。文句は少し怖いのに、節はどこまでも優しい。ねんね唄とはだいたいそういう作りになっている、ということを、私はあちこちの土地で確かめることになる。怖い文句は子のためではなく、夜どおし抱いている親のほうの、まじないなのかもしれない。


四「峠の掛け声」


 拾った土地と年 北辺ドマの峠 王国歴1593年 白霜の月

 場 荷橇を数人で引き上げるときの、音頭と受け。音頭取りは橇の先頭が務める。


  (音頭)ひけばうごくぞ  (受け)ほうい

  (音頭)うごきゃとまるな (受け)ほうい

  (音頭)とめりゃもどるぞ (受け)ほういほうい

  (音頭)もどりゃふもとだ (受け)そいつはごめんだ ほうい


 注。私が生まれて初めて拾った唄である。十九の冬、旅団の橇を押させられながら覚えた。仕舞いの「そいつはごめんだ」のところで、引き手が必ず笑う。笑うと、橇がほんの少し軽くなる。あれから四十年、唄の効き目というものを疑ったことは一度もない。峠の上で音頭取りが言った。唄がなけりゃ、この峠はもうひとつ高い。


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