ジョナ山、初土俵!
土俵バフはありませんが、ジョナ山の初陣です。
「いたぞ……だが普通のオーガじゃないな」
斥候として先頭に立つエウロスが、門の前にたむろするモンスターを見て声を漏らした。その横に親方がやって来て、唸る。
「ありゃハイ・オーガだな。いわゆる上位個体だ」
ダンジョンのモンスターは、まれに上位個体が生まれることがある。それが門番の出現と重なれば、危険度は跳ね上がってしまう。
「やれるか? ジョナ山」
「ごっつぁんです!」
しかし、おいどんは迷うことなく踏み出した。脳裏によぎるのは、戦い方を理解せず、空腹で挑んだ時の記憶。あの時とは違うということを、立合いで示すのだ。
「どすこい、どすこい」
一団から抜け出し、先頭をすり足で歩くおいどん。気づいたハイ・オーガが雄叫びをあげた。
「ウゴァァァァァッ!」
先日戦ったオーガよりも激しい叫びが、鼓膜に張り手をかましてくる。だが、そんなことで力士はひるまない。
「よいしょーっ!」
膝に手をつき、股を割って右足を高く掲げる。天を指すほど高くだ。そして、力強く打ちつけた。
ズンッ!
「ウゴアッ!?」
踏み込みの衝撃はハイ・オーガの咆哮を打ち消し、ヤツを怯ませるに至った。おいどんのコンディションは抜群だ。
「ジョナ山、頑張れ!」
「負けるなよ!」
「頑張って!」
皆が応援してくれている。声援に背中が熱くなるのが分かった。おいどんは腰を落とし、両手の拳を地面につける。立合いの姿勢だ。
「ウグルルルルルル……」
おいどんの姿勢に警戒しつつも、ハイ・オーガは迫ってくる。一歩、また一歩と。まだだ、堪えろジョナ山。技の射程まで引きつけるんだ。
「くっ……」
額から汗が流れ、ハイ・オーガの一歩一歩がまるでスローモーションのように感じられた。そしてついに、その瞬間が訪れる。
「今っ!」
おいどんは地面を蹴り上げ、ただ一直線に、全力でハイ・オーガに体当たりをした。つまり、ぶちかましだ。
「ウゴアッ!」
だが、ハイ・オーガも上位個体なだけはある。両手でおいどんのぶちかましを受けてみせたのだ。ハイ・オーガは、足裏で地面を抉り跡を残しながら食い下がる。
「ウゴアァァァァ!!」
ハイ・オーガは、その巨体でおいどんを押しつぶそうと、体全体を使って上から力をかけてきた。ゴーレムに劣らぬその圧力に、たまらず膝をついてしまいそうになる。
「だが! 膝は! つかんでごわす!」
戦いの最中に足の裏以外が地面につくと、途端に力が抜けてしまう。それが力士の特性なのだと親方は言った。これもまた制約なのだ。おいどんは、膝が地面につかぬよう、腰を割ってすり足で下がり、ハイ・オーガの圧殺から抜け出した。
「まだまだぁっ! どすこいっ! どすこいっ!」
おいどんは、押し込まれた借りを返すため、返す手刀で張り手を繰り出す。ハイ・オーガの頭部を狙い、右、左、右、左。激しく交互に掌を打ちつけた。
「ウゴアァァァッ!」
たまらず手で払い除けようとするハイ・オーガ。だがおいどんは、その瞬間を待っていた。今、ヤツの腰はガラ空きだ。
「行くでごわす!」
おいどんは、ハイ・オーガの腰を掴み、身体を捻って投げ飛ばした。
「ウゴァァァァァッ!?」
ハイ・オーガは1回、2回と地面をバウンドしながら、門に激突した。その衝撃は、ダンジョンの入口まで届くのではないかという大きさだった。
「ごっ! つぁん! です!」
おいどんは万物に感謝し、手刀を切る。オーガへのリベンジ成功。しかも相手は上位個体という大金星だ! 親方達に胸を張れる結果に、鼻も高くなる。
「やったなジョナ山。これで市街地に入れる」
見れば、先程の衝撃で門が開いていた。その奥に見えるのは、おいどんが騎士として巡回していたあの懐かしき街並みだ。
「まさか、騎士団に居られなくなった立場でここまで来れるとは……」
行けるかもしれない。実家に。実家の隣の礼拝堂に。親の眠る墓を参りに。門と共に、おいどんの展望も、開けたような気がした。
「まだまだ教えることは山ほどある。どうだ、一時的で構わん。パーティーに加わらんか?」
腕を組み、笑顔を向けてくる親方。おいどんの答えを分かっているようだ。この人に相撲を教われば、騎士でなくなったおいどんでも、行けるかもしれない。ならば……
「ごっつぁんです!」
おいどんは、黒くなったまわしを、パァン! と小気味よく叩き、覚悟を表した。
「よぉし! 共に行こう!」
親方の声を受け、おいどんは一座と共に、門をくぐった。
◇◇◇
ズンッ!
ダンジョンで起こった揺れが伝地表まで伝わり、地面を揺らす。
「なんだこの揺れは!?」
フィンが驚き、身構えた。ダンジョンアタックの準備をしていた騎士と冒険者の全員が、揺れの原因と思われるダンジョンの入口に注目する。
「新手のモンスターかもしれん。入口の警備を固めろ!」
モーガンが指示を出すと、騎士や冒険者が素早く動き、木箱や柵でバリケードを整え始めた。未知の敵に備えるために。
「くそ、まだジョナサンが中にいるってのに!」
ジダルノスが焦りながらも準備を進める。ダンジョンの入口を警戒しつつも、王女殿下から手配された物資を分配する手は止めていない。
「待っててくれよジョナサン! 必ず捜しに行くからな!」
騎士達は準備を急ぎつつ、戦友がいるはずのダンジョンに向かい合った。
ジョナ山は既に序二段ですが、まわしを締めての初陣なので、初土俵として扱いました。




