王女殿下の朝
今回は王女殿下側のエピソードとなります
「殿下、ご報告に上がりました」
早朝のノクトゥス王国臨時庁舎。その中の一室。朝日が差し込む王女の執務室に、近衛兵が訪れていた。
「昨日の午後にダンジョンに押し入った半裸の男。目撃証言からして、やはりジョナサンであると結論づけられました」
「やはりですか」
冥夜を表す深い紺色の絨毯に、同じ色のコートを着た近衛が直立している。夜空の星を暗示する白銀のボタンが、朝日を受けて煌めいていた。
「はっ、教会からの報告とも一致します。ジョブチェンジの際に不幸があり、装備を身につけられなくなったことで錯乱し、ダンジョンに向かったものと思われます」
王女はペンを置くと、椅子にもたれかかり深くため息をついた。見上げる天井には、花を模した魔導ランプ。窓から差し込む朝日が、舞うほこりと共に、それを照らし出していた。
「状況は?」
「騎士団の半数が捜索隊を組むために奔走しております。ですが、急な出動になるため物資をかき集めており、更に市民の生活に影響が出ない形を優先しているため、未だ出動できずにいます」
騎士団は王家と民を守る存在である。彼等はその理念を、王都が飲み込まれた後も守り続けているのだ。
「王家用の備蓄を回してあげなさい。ジョナサンは長年騎士団に尽くしてくれた組織の要。失うなんて以ての外。働きに報いてあげねばなりません」
「はっ! 今すぐに取りかかります」
王女の命を受け、近衛は足早に執務室を去っていった。彼が退出した執務室に静けさが戻ってくる。そんな中、王女は口を開いた。
「それで、騎士団のもう半分は?」
王女がそう言うと、物陰から黒装束が現れる。王国の暗部を務める者のひとりだ。足音ひとつ立てずに歩き、王女の影にひっそりと立った。
「どうやら工作員が騎士団の分断を煽る噂を流布しているようで、モーガン騎士団長が中心となってそちらを追っております」
王女は机に積まれた書類の中から、一つの束を引っ張り出す。工作員に関する報告書だ。そこには、かの国の名が記されている。
「西の帝国ですね」
「恐らくは」
帝国は常に領土拡張を続けて来た国だ。ノクトゥス王国が混乱に陥っている現状を見て、その領土を狙うのは自明の理であった。
「できれば私も動きたいのですが……」
「なりません。あなたを失えば王国は終わってしまいます」
確かに王女自ら動けば、事態は押し進められるだろう。しかし工作員が暗躍する中に飛び出せば、命を狙われる恐れすらある。暗部の制止に、王女は頷いた。
「……そうでしたね。昔のようには、いきませんね」
王女はモーニングティーを一口すすり、横目で暗部を見た。
「頼みましたよ」
「お任せを」
暗部は現れた時と同じように、静かに消えてゆく。そうしてやっと、真の静けさが執務室に戻ってきた。
「ジョナサン……あなたは今、何をしているの?」
誰にも聞かれない疑問が、執務室の中で消えていった。
◇◇◇
「どすこいっ!」
おいどんの押し出しと共に、大型ゴーレムが土俵の外へと飛ばされる。最初に戦ったゴーレムよりも、ふた回りほど大きなそれは、地響きと共に倒れ伏した。
「よおしっ、もういいだろう!」
親方の声を聞き、おいどんは手刀を切る。
「ごっ つぁん です!」
「万物への感謝も、様になってきたじゃないか」
エウロスが褒めてくれた。彼等【竜狩りの一座】とも、順調に打ち解けられている。それが今は嬉しかった。
「おいおい、ジョナ山の聖気で、ゴーレムの残骸が塩になりかけてるぞ」
ザガンに言われて振り向くと、ゴーレムだった残骸に、塩の結晶が生えていた。既に茜がそれを拾い集めている。
「おかげで塩に困らないから助かるよ。これで美味しいちゃんこをつくるからね!」
「えぇ……」
自分が出したものを口にするのは何か抵抗があるが、誰も文句を言わない。おいどんだけわがままを言うわけにもいかず、頷くことしかできなかった。
「ジョナ山。食って休んだら、オーガにリベンジしてみねぇか?」
その親方の一言は、おいどんの体に電流を走らせた。
ジョナ山は元気です




