ゴーレムとの稽古
「まずは好きにやってみろ!」
「ごっつぁんです!」
親方に返事をしようとすると、勝手に言葉が紡がれてしまう。しかし、おいどんの返事を聞いた親方は笑った。
「ははっ。いい返事だ、やれ!」
「ごっつぁんです!!」
親方は否定しなかった。それどころか、良い返事だと褒めてくれる。そう言われると、悪い気はしない。腹に力を入れ、胸を張ってもう一度返事をした。
「――――――――――!」
ゴーレムが無機質なうなりを上げ、拳を繰り出してくる。ストレートな右拳だ。おいどんはそれを、掌底を突き出す形で迎え撃つ
「どすこぉい!」
ゴーレムの拳とおいどんの掌が衝突し、激しい衝撃が生まれる。体の芯から空気、地面までもがビリビリと震えるような感じがした。
「――――――――――!」
「どすこいっ! どすこいっ!」
ゴーレムは反動を活かし、更に反対側の手で拳を繰り出してくる。おいどんも、それに合わせて反対の手を突き出した。交互に、交互に。
「いいぞ! それが突っ張りだ!」
ちらりと横に視線を向ければ、腕を組んだ親方が仁王立ちをして見ていた。瞬きすらせず、真剣に。親方の期待に、応えねば。おいどんは雄叫びをあげ、一段強い力で突っ張った。
「おおおっ!」
突然の強い反動に、ゴーレムは仰け反りながら半歩下がっる。その隙は、見逃すにはあまりに大きかった。
「どすこいっ!」
おいどんは地面を蹴り、ゴーレムの懐に飛び込んだ。そして腰に組み付いて、全力で踏ん張った。持ち上げ、投げ飛ばすために。だが……
「う……重いで……ごわす」
土と石の塊たるゴーレムは、想像以上の重さだった。腰をひねろうが、足を踏み直そうがびくともしない。
「ぬっ……ううぅっ!!」
まるで岩のように動かないのだ。土と石も似たようなものだと言いたいが、違う。まるで一塊の岩のように、たわみもしないのだ。
「そろそろいいだろう。ザガン!」
「おうっ!」
ザガンが魔力を練り上げると、足元の地面が盛り上がり始めた。1段目は正方形に盛り上がり、更に次の段は円環の形に。それを認識した瞬間、おいどんの筋肉が脈打った。
「ごわすっ!?」
自らの肉体の変化に驚き、思わず後ずさってしまうが。おいどんの背中を、親方の声が押し留めた。
「退くな! 土俵を踏みしめろ!」
「ど……ひょう……!?」
その言葉を聞くと同時に、まるで大地から湧き上がる力を、借り受けているかのような感覚が駆け抜ける。思い出すのは、教会で加護を受けた時の感覚だ。
「土俵は神事の舞台。聖なる力を己のものとしろ!」
親方にそう言われ、腑に落ちた。これは聖職者が使う、聖域のようなものだ。ならば、この力をゴーレムにぶつけるだけだ。
「おおおおお!」
おいどんは改めてゴーレムに組み付き、腰にある岩の出っ張りを掴む。そして、密着しながら全身の力で土俵の外へと押し進めた。
ズウン
鈍く重たい音を立て、土俵から出たゴーレムは崩れてゆく。バラバラになり、元の土と石の塊へと戻っていった。
「勝負ありだな!」
「勝った! ジョナ山が勝ったよ!」
エウロスと茜も声を上げ、喜びをあらわにしている。
「ジョナ山、見事な寄り切りだ」
気がつけば土俵も崩れ、おいどんの張っていた肉体も落ち着いてゆく。深く息をついて、体を落ち着かせた。そうしていると、親方は、おいどんの下半身を指さした。
「ジョナ山、まわしを見てみろ」
「ごわす!?」
親方に言われて自分の体に視線を落とすと、黒かったはずのまわしが、純白の輝きを放っていた。
「はじめの黒はひよっこの稽古まわし。白くなれば、猛者の稽古まわし。まわしに認められた証拠だ」
複数の魔法金属を織り交ぜ、持ち主に合わせて色を変えるとは……このまわし、やはり高度な技術が用いられているのではないだろうか。
「そこからもう一度黒くなれば、晴れて一人前だ。精進しろ」
「ごっつぁんです!」
おいどんの返事が、ダンジョンの通路にこだました。
補足です。
実際の相撲では、白い稽古まわしは関取しか身につけられません。この世界では、稽古まわし(黒)→稽古まわし(白)→まわし(黒)→締め込み(色は自由)の順番で成長していきます。
今後も、実際の相撲と大きく異なる部分については、あとがき等で補足していきます。




