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シングアソング

最新エピソード掲載日:2026/05/06
 札幌・ススキノ。ネオンが滲む夜の街で、大学四年生の藤井悠はギターを手に歌っている。文学部に通いながらも将来に確信は持てず、弾き語りの日々が、現実と夢のあいだで揺れる自分をかろうじて繋ぎとめていた。

 夜の路上での出会いは、どれも一瞬だ。酔って絡む者、足を止めて耳を傾ける者、無言でコインを置いていく者。そんな断片的な関係の中で、悠は“誰かに届くかもしれない音”を信じて歌い続けている。やがて、夜の店で働く女性・アゲハと出会う。彼女は優しさと距離を併せ持ち、社会の現実を突きつけながらも、悠の歌に静かな眼差しを向ける存在だった。しかしその関係は、同じ夜にいながら決して交わらないものとして、悠の中に刻まれていく。

 一方、大学では同級生・美咲や、ススキノで弾き語りを始めた後輩・玉木蒼との関わりが生まれる。将来に向けて着実に歩む美咲の姿や、音楽に悩みながらも成長していく蒼との時間は、悠に“誰かと向き合うこと”の意味を問いかける。就職活動に苦戦し、音楽を続けるべきか迷う中で、悠は次第に気づいていく。自分が求めていたのは成功ではなく、ほんの一瞬でも誰かの心に触れることだと。

 高校時代の演奏映像に触れた夜、未熟でもまっすぐだった過去の自分と向き合い、悠はオリジナル曲『シングアソング』を書き上げる。それは、誰かのためでありながら、自分自身のためでもある歌だった。やがて後輩・蒼の成長を目の当たりにし、自らの役割が次の世代へと移りつつあることを悟る。観客のいない夜を経て、悠は弾き語りに一区切りをつける決意を固める。

 最後の夜、悠は『シングアソング』を歌う。評価や結果ではなく、ただ生きている証としての歌を。やがて大学四年へと進み、福祉の道へ歩み出すことを決める。

 数年後、社会人となった悠は再びススキノを訪れる。かつての場所には、今も歌い続ける者がいる。夜の中をひらりと一羽の蝶が舞い、過去が確かに通り過ぎていったことを告げる。

 歌は終わらない。
 それぞれの場所で、それぞれの人生の中で。
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