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愛の4000段の階段

作者:ADI
最新エピソード掲載日:2026/10/14
これは、私にまだ石段すら築かれていなかった頃の物語だ。
当時の私は、山頂に神社を戴く険しい一峰に過ぎなかった。私の正面には「木材の村」、背後には「食材の村」があり、二つの村を行き来するには切り立った私を迂回するしかなかった。
双方の村には古くから伝わる伝承がある。
「麓から一滴の水もこぼさずに山頂の神社へ捧げれば、どんな願いも叶う」
だが、歴史の中でこれを成し遂げた者はたった二人しかいない。
――夕刻、二週間に及ぶ山籠もりを終えた樵(きこり)たちが帰ってきた。
その中に、十九歳の少年「ユル・ケンゾウ」がいた。
ユルが五歳の時に母が世を去り、六歳の時には父「チャンプ」が巨熊との相討ちで命を落とした。運ばれてきた父の胸には熊の爪痕が残り、熊の胸には父の斧が突き刺さっていた。幼かったユルは、父の顔すら満足に覚えていない。
成長したユルは、父と同じように一人で山へ入り、木を切り、自ら売り歩く。他の樵には家族がいるが、身寄りのないユルには一人で生きていくしかなかった。
そんな彼には、大切な存在がいる。
「食材の村」に住む二歳年上の幼馴染、「リハル・アカバネ」だ。彼女もまた身寄りがなく、幼少期から二人で助け合って生きてきた。
山から戻ったユルが薪や炭を携えて真っ先に向かうのは、リハルが働くベーカリーショップだ。
過酷な山から二週間ごとに彼が必ず帰ってくるのは――ただ一人、リハルに会うためだ。
ユルがリハルを心から愛していることを、私は知っている。
……だが、リハルもまた、ユルを愛しているのだろうか?
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