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第4章 パーティー・タイム



リハルはエレベーターで一階へと降り、レセプショニストのデスクへと向かった。

「あの、キュウキはどこにいますか?」

デスクの裏に立っていた若い男性スタッフは彼女の言葉を聞くと、後ろの壁に掛かったカーテンを引き開け、中へ向かって声をかけた。

「キュウキ、お客様がお待ちだぞ」

カーテンをくぐって現れたキュウキは、リハルの姿を見るなり声を弾ませた。

「リハル! やっと起きたのね! ちょっと待ってて、すぐ着替えてくるから!」

「ええ、早くね!」

それから少しして、二人はホテルを出て近くのバス停へと向かった。

歩きながら、リハルの心の中は一つの疑問で渦巻いていた。

(……どうやって聞けばいいの? 彼女がユルの『彼女』なのかどうか……)

「それでリハル、まずはどこに行きたい?」

「ショッピングよ!」

「ふふ、行きましょう! ほら、バスが来たわ」

二人はバスに乗り込み、隣同士に腰掛けた。リハルの頭の中はその疑問で完全に占領されていた。ついに耐え切れなくなった彼女は、緊張で声を震わせながらキュウキに向き直った。

「ねえキュウキ……一つだけ、正直に答えてくれる?」

「何をためらっているのよ? 私たち、もう友達でしょ!」

「じゃあ教えて……あなた、ユルを愛しているの? ユルの彼女なの……?」

キュウキの表情がにわかに真剣なものへと変わった。

「そうね……彼のことは愛しているわ。……だけど」

リハルは息を呑み、心臓が握り潰されるようなショックを受けた。

「だけどって何よ、キュウキ!? 何なの!?」

「……プロポーズしたんだけど、断られたのよ。村に愛している女の子がいるって言われたわ」

リハルは身を乗り出した。

「それって……その子の名前は聞いた!? 村の誰を愛しているのか教えてくれたの!?」

「ううん、名前までは教えてくれなかったわ。……でも、あなたもユルのことが好きなんでしょ?」

リハルは顔を真っ赤にして狼狽えた。

「な、ななな何を言っているのよ! 誰がそんなこと言ったの!?」

「嘘つかなくても顔に全部書いてあるわよ」

「うう……」

リハルは視線を落とし、消え入るような声で打ち明けた。

「……実はね、すごく愛しているの。だけど、タイミングを待っているのよ。それに……彼が本当に私を愛してくれているのか確かめないと……下手に動いたら、一番大切な親友まで失っちゃうから……」

プシューッと音を立ててバスが停車した。

「私たちの降りるバス停よ、行きましょう!」

二人はバスを降りた。

「少し歩くわよ、モールは目と鼻の先だから。……ねえリハル、私に言わせれば、今すぐユルに全部ぶつけて告白しちゃうべきよ!」

「それができたら、何年も前にやってるわよ……」

キュウキが前方を指さした。

「ほら、ショッピングモールよ! 好きなものを何でも買いなさい!」

リハルはモジモジと床を見つめながら呟いた。

「ねえ……一つだけお願いしてもいい?」

「ユルへの告白の説得ならお断りよ! 私には無理だからね!」

「そうじゃなくて! ユルは一年のほとんどを山で木を伐って過ごして、街に売りに来るでしょ? だから……彼がどんな色の服が好きか知っていたりしない? 彼好みの服を着たら……もしかして彼からプロポーズしてくれるかもしれないじゃない!」

キュウキは目を丸くし、腹を抱えて爆笑した。

「ちょっと! 何そのロマンチックな妄想!? 王様が家にプロポーズしに来るわけじゃないんだから!」

「笑わないでよ……! 助けてくれないならいいわ。だけど私にとって、ユルは王様なの!」

半べそをかいて口を尖らせるリハルに、キュウキは両手を挙げて降参した。

「あーもう! 時計の針だってあなたの喜怒哀楽ほど激しく動かないわよ! 分かった、分かったわよ! 手伝ってあげる……ただし、一つ条件があるわ!」

「本当!? 条件でも何でも飲むわ!」

「……まったく、条件も聞かずに即答するなんて、呆れたおバカさんね!」

二人は一日中モールを連れ回り、何着ものドレスを買い込んだ。そしてモールのカフェで一休みすることにした。

山のように積まれたショップバッグを見つめながら、キュウキは呆れていた。

(好きな男の反応を見るためだけに、こんなに服を買い込むなんて……完全に恋の病ね)

リハルはテーブルに突っ伏した。

「キュウキ、もうクタクタよ……ホテルに帰りましょう……」

キュウキはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。

「私の『条件』を覚えているかしら? ショッピングに付き合ってあげたんだから、あなたには――」

「分かっているわよ! でも今日は無理! 何でもするから、今すぐホテルに戻りましょう!」

「だーめ! 今こそ条件を実行する時よ!」

「……分かったわよ! 一体何をすればいいの!?」

キュウキはリハルに顔を近づけた。

「条件はただ一つ――今日、何が何でもユルにプロポーズすること!」

リハルは顔を真っ赤にして叫んだ。

「はあ!? 狂ったの!? 周りにどれだけ人がいると思っているのよ!」

「いい? ユルに告白する前に、あなたには『液体で得る勇気』が必要よ! さあ、勇気を仕込みに行きましょう……パーティータイムよ!」

「待って、待って、待ってってば!」

キュウキはリハルを街頭へと連れ出し、タクシーを拾った。

「タクシー!」

後部座席に飛び乗ると、運転手が振り返った。

「どちらまで?」

「パーティータイムよ! 景気のいい場所へ連れていって!」

「なら、ビアショップ(酒場)で決まりだな!」

「最高! あなたに免許をあげた人は間違いなく伝説ね! 出発して!」

リハルは青ざめて抗議した。

「ビール!? 嫌よ! 私、お酒なんて飲めないわよ!」

キュウキはリハルの耳元に顔を近づけ、囁いた。

「あの店はただの酒場じゃないの。最高級のお肉が食べられるのよ? ユルから聞いたわ、あなたがお肉に目がないってね?」

リハルの目が輝き、思考が一瞬で切り替わった。

(最高級のお肉……!? 美味しそう……食べたい!)

「運転手さん、次のストップはビアバーよ!」

――その頃、ホテルの部屋では。

目を覚ましたユルは、床に座って飯を食っていた。平らげると、大きく体を伸ばした。

「よし、リハルに会いに行くか」

時計を見ると、まだ夜の七時だった。お祭りが始まるのは夜の九時だ。

「なんだ、まだ七時か……少し寝直すか」

ユルはそのまま床にゴロリと横になり、二度寝に入った。

――ビアバーにて。

キュウキはすでに泥酔しており、リハルは黙々とお肉の皿を空にしていた。アルコールがすっかり回ったキュウキがろれつの回らない声で絡みついた。

「リハぁ……あなたは私の大親友よねぇ……?」

「そうよ! 今日から私たちは大親友よ!」

「じゃあ……私からのこの一杯を飲みなさい! これがあなたに告白する勇気を授けてくれるわ!」

キュウキは大ジョッキのビールをリハルへ押し付けた。しかし、千鳥足のキュウキの手が大きく揺れ――ジョッキが傾き、リハルは一気にビールを煽らされる羽目になってしまった!

数分後、アルコールの暴風がリハルを直撃した!

頭はグラグラと揺れていたが、それでも彼女はお肉を口に運び、さらに酒を煽り続けた。

その泥酔ぶりに、今度はキュウキが青ざめた。

「ちょっとリハル、やめなさい! 一口って言ったのに、丸々飲んじゃうなんて!」

リハルは完全に酔っ払い、まっすぐ立つことすらできなくなっていた。彼女は誇らしげにろれつの回らない声で宣言した。

「今日……私、ユルにプロポーズするわ……! ホテルへ行きましょう……!」

ふらつきながら外へ出たリハルは大声を張り上げた。

「タクシーーーーッ!」

買い込んだ袋を片手に抱え、リハルが倒れないよう必死にしがみつきながら、キュウキは急いでユルに電話をかけた。事情を説明して切ると、リハルに告げた。

「リハル、ユルに電話したわ。ホテルの下で待っているって……」

「ふふ、いいわねぇ! 最高! フロントでプロポーズしてあげるわ!」

「駄目よリハル! あなた飲みすぎ! まっすぐ立ててないじゃない! 今日は休んで、明日にしなさい!」

「あなたがそう言うなら……分かったわ……待つわ……」

(こんなに泥酔して……私の言っていることが理解できているのかしら……)

タクシーがホテルの前に滑り込んだ。

「止まって! ここよ!」

キュウキはふらつくリハルを抱え、ホテルの中へと連れ込んだ。

電話で報せを受けたユルは、慌ててズボンだけを穿いて一階へと駆け下りていた。泥酔したリハルを必死に支えるキュウキの姿を見つけると、一目散に駆け寄った。

「リハル! リハル!」

「心配しないで、飲みすぎただけだから。あとは頼んだわよ、私、仕事に戻らなきゃ」

「ああ、ありがとう。……リハル、歩けるか?」

リハルはトロンとした目でユルを見上げ、へらへらと笑った。

「誰が……抱っこしちゃ駄目って言ったの……? 誰か止めた……?」

「いや、誰も止めてないけど……」

「じゃあ何を待ってるのよお! 早く抱っこしなさいよ!」

ユルは溜め息をつくと、リハルを軽々と抱き上げ、部屋へと連れて上がった。

エレベーターの中でも廊下でも、リハルは同じ言葉をろれつの回らない声で何度も繰り返していた。

「あなたに……言いたいことがあるの……知ってるでしょ……?」

一階で見送ったキュウキは、ぽつりと呟いた。

(飲みすぎちゃったけど……今日こそ気持ちを伝えられるといいわね。そうすれば明日ユルに怒られずに済むし。……あ、でも一つ聞き忘れたわ。なんであの人、ズボンしか履いてなかったのかしら? シャツはどこへ行ったの……?)

――部屋の中。

ユルはリハルをベッドに横たえると、靴とコートを脱がせ、毛布をかけてやった。

「ここで待ってろ。ドアをロックしてくる」

鍵をかけて戻ってきたユルは、ベッドの縁に腰掛け、優しく嗜めた。

「どうしてお酒なんて飲んだんだ? 一杯も飲めない癖に、なんでそんな真似をしたんだよ」

リハルは可愛らしく口を尖らせた。

「だって……だって、あなたに言いたいことがあったんだもの! 勇気が必要だったの……だからキュウキが勇気をくれたのよ……!」

「明日キュウキとはじっくり話す必要があるな……」

「聞いてよぉ! 言いたいことがあるのよぉ!」

耐え兼ねたユルが声を荒げた。

「だから何なんだよ! お酒は飲むわ、わがままは言うわ……!」

「言いたいことがあるのっ!」

「何なんだよ!?」

ベッドの上で顔を寄せ合う二人。

その時、リハル自身も予想していなかったことが起きた。泥酔した身体が、勝手に動いたのだ。

説教するユルの男らしい胸板、割れた腹筋、そして鋭く整った顔立ち――リハルの視線がそこへ吸い寄せられた次の瞬間。

リハルは身を乗り出し、ユルの唇にまっすぐキスをした!

少し身体を引くと、彼女はユルの首に力いっぱい腕を回し、全力で抱きしめた。

「ユル……大好き……っ! 大愛しているのよ……!」

(……大好きなのに、言葉にできない。私、こんなにお喋りなのに、愛する人の前になると喉に刺のついた針金が巻きつくみたいになるの……! 『愛してる』なんて直接言えなかった。……今、彼に触れられたら、拒むことなんてできないくらい愛しているのに……!)

ユルは完全に凍りつき、絶句した。

するとリハルは、ユルの手を自分の胸の上へと直接押し当てた。

(本気で男を愛した女が試練を受けないなら、誰が受けるっていうの……!)

その瞬間、ユルはハッと正気に戻った!

急いで手を引き剥がすと、ベッドから跳ね起き、肩で息をしながら後退りした。

「……飲みすぎだ! いいからもう寝ろ! この話は明日だ!」

リハルも頭に血が上り、ベッドの上に起き上がって叫んだ。

「今答えなさいよ! 私を愛しているの!? 愛していないの!?」

「酔っているだろ! 明日話す! 君はベッドで寝ろ、僕はソファで寝るから!」

リハルはベッドから転がり落ちるように立ち上がり、ユルの胸元へ突っかかっていった。

「今すぐ答えを聞かせなさいよ――ッ!!」

二人の間で子供のような取っ組み合いが始まった! 髪の毛を引っ張り合い、リハルは退かず、ユルも酔った彼女のペースに呑まれまいと必死だった。

その乱闘の最中、リハルは床に引きずっていた毛布に足を引っかけてしまった!

後ろへ倒れ込むリハル。バランスを崩したユルも覆いかさなるように倒れ込んだ!

暴れる彼女を制するため、ユルはリハルの両手首を掴み、頭の上へと押しつけ、そのまま彼女の上に覆いかぶさった!

床の上に組み伏せられ、両手を頭上で固められたリハル。ユルは彼女の腰を両足で挟み込み、顔を極限まで近づけて叫んだ。

「聞きたいなら聞けよ! ああそうだよ! 愛してる!! 愛してるし、これからも愛し続ける!!」

リハルは目の前のユルを睨み返し、負けじと叫んだ。

「じゃあ何で抱いてくれないのよ!? 愛しているなら、何で私と寝てくれないのよ!!」

ユルは顔をさらに近づけた。彼の熱い吐息がリハルの肌を撫で、噛み殺した声が漏れた。

「……よく聞け。今のドレス姿の君がどれだけ魅力的か、言葉にもできないくらいだ。本当なら、今すぐ服を破り捨てて、何時間だって君にキスしていたいんだよ!」

リハルは彼の目をまっすぐ見つめ、激しく囁いた。

「ならどうしてそうしないの!? 私が許可してあげているじゃない!!」

ユルの瞳に怒りの炎が宿った。

「二人きりの部屋で、君の服を脱がせるのに『許可』なんて必要あるか!! ……だけど!!」

「だけど何よ!? 理由は何なの!? 愛しているのに抱いてくれないの!? あなたがローキャストで、私がハイキャストだから恐れているの!? 私と結婚できないのが怖いからなの!?」

ユルの眼差しが、どこまでも熱く、重いものへと変わった。

「……おじいさんに誓ったんだ。僕自身がその『危険』になろうとも、君を絶対に傷つけないってな! ……それと、恐れているだって? 覚えておけ、僕の体を流れる血は、巨熊の胸を斧で貫いた男の血だ!!」

リハルは彼の目をまっすぐに見つめ返した。

「……私と結婚してくれるの、くれないの……!? 行きなさいよ……私を愛しているなら、おじいさんのところに行って結婚の話をしなさいよ!!」

ユルは見下ろしたまま言い放った。

「明日の朝、今の言葉を少しでも覚えているなら……素 initiator の時に、もう一度僕にそう言え」

「言ったらどうするの!?」

「言ったら……僕が直接おじいさんのところへ行って、お前との結婚を申し込みに行ってやる!!」

――その瞬間、リハルの顔からスーッと血の気が引いた。

お腹が激しく蠢き、彼女は「うぐっ……!」と嘔吐き始めた。

ユルの目が恐怖で丸くなった。

(やべええええええっ! こいつ、山ほど飯を食った直後なのに、俺がお腹の上に跨がってた……!!)

ユルは慌てて彼女の手首を放すと、抱き抱えてバスルームへと突進した!

嘔吐を終えたリハルを綺麗に拭いてやり、ユルは彼女を部屋へ運んでベッドに横たえた。

彼女の肌に触れた瞬間、ユルはその異様な熱さに気づいた。急いで体温を測り、深く溜め息をついた。

「……やっぱりか」

「……何がよぉ……」

「お嬢様、知恵熱と高熱です。外食ばかりしているからですよ」

(朝、外で変なものを食べないようにって肉を焼いておいたのに……こんな姿で帰ってくるなんて……)

その夜、ユルは一秒も眠らなかった。

氷水で濡らしたタオルを何度も彼女のおでこに取り替え、体温を確かめながら、朝が訪れるまで看病し続けたのだった――。

第4章「パーティー・タイム」の結末

第5章:翌晩

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