第8話:もうひとつの告白
バスの中。
セムリがモコンを振り返った。
「モコン、ショッピングには行かないの?」
「ジャンキャストがいりゃ行ってただろうが、あいつがいないからな。とりあえず直接お祭り広場へ向かおう。ここから15分から20分はかかるからな」
ジャスキが声を弾ませた。
「私は全然オッケーよ! 街に来るなんて初めてだから、色んなところを見て回りたくてうズうズしていたの!」
「モコンとジャンキャストは、前に街に来たことがあるんでしょ?」
「ああ、何度か来たことはある。だが仕事ばかりでな。こうやってじっくり街を観光するのは俺も初めてさ」
――その頃、キュウキの家では。
ジャンキャストは焼き上がったパンケーキをお皿に盛り付け、キュウキの元へと運んだ。
「キュウキ、一口食べてみてくれ。味はどうだ?」
キュウキは一口パクリと頬張り、味わうように噛みしめた。
「ん……! 美味しい! 前よりずっと料理が上手になったんじゃない? どこで習ったの?」
「ジャスキを知ってるだろ? あいつのおふくろさんが村で屋台をやっててさ、教えてもらったんだ」
キュウキは満足そうに頷いた。
「本当に美味しいわ。見直したわね」
ジャンキャストの表情が真剣なものへと変わった。
「……キュウキ、聞いてくれ。お前に話があるんだ」
「何よ、言いなさいよ」
ジャンキャストは深く息を吸い込んだ。
「ずっと聞きたかったことがあるんだ。今日だけじゃない……お前が初めて俺たちの村に来たあの日から、ずっと言いたかった言葉だ。俺が言いたいのは――」
緊張が限界に達したジャンキャストは、突如として大声を張り上げた!
「俺はお前に初めて会った日からずっと好きだった!! 俺とデートしてくれ! プロポーズを受け入れてくれ――ッ!!」
「っ……!?」
キュウキはあまりの衝撃に完全に硬直した。次の瞬間、彼女はパンケーキを喉に詰まらせそうになりながら、大爆笑した!
「ブハッ……! クハハハハッ!!」
「ちょっと、人の気持ちを笑うことないだろ!?」
焦ったジャンキャストがお水を差し出すと、キュウキは涙を拭いながら笑い続けた。
「笑わずにいられるわけないじゃない! だってあなたを見てみなさいよ――あなたは地方の村育ちで、私は街育ちよ? どこをどう見てもお似合いじゃないじゃない!」
しかし、ジャンキャストの眼差しは真剣そのものだった。まっすぐ彼女の目を見つめる。
「俺はキュウキ、お前がいいんだ。俺を信用してもらうには、どうすればいいか教えてくれ」
キュウキは顎に手を当て、意地悪そうに思案する素振りを見せた。
「そうねぇ……あなたと結婚する……私がオッケーを出す方法……うーん、一つだけあるわね」
「教えてくれ! お前が俺のものになってくれるなら、どんなことだってやってやる!」
「本当に私を手に入れたいなら、証明してみせなさいよ」
「どうやって!?」
「『愛の村』って知ってるかしら?」
ジャンキャストはピンときた。(ユルとリハルが住んでいるあの村のことか!)
「木材の村……別名『愛の村』のことか?」
「そう! まさにその村よ! あそこには頂上にシヴァ神の神社がある険しい山があるでしょ? あの山を登りきって、水が一滴もこぼさずにシヴァ神へ捧げることができたら……あなたと結婚してあげてもいいわよ!」
自分の思いついた不可能な条件に、キュウキは再びクスクスと笑い出した。
ジャンキャストは目を丸くして息を呑んだ。
「キュウキ! でも、どうやって!? それは不可能な試練だぞ……!」
「歴史上、二人だけ達成した人がいるのは知っているでしょ? どう登ろうがあなたの自由だけど、そのお水を捧げない限り、私は結婚しないわよ!」
ジャンキャストは深く息を吐き、重々しく頷いた。
「……分かった、約束だ。だけど今は横になって休んでくれ。まだ病み上がりなんだから」
「……ええ」
ジャンキャストはキッチンへ向かい、残った皿を洗い、部屋を綺麗に掃除し始めた。
ベッドに横たわるキュウキの頭の中で、内なる二人の自分が激しい議論を始めた。
(キュウキ、あなたって本当に愚かネ! あんなに良い男がデートに誘ってくれたのに、何てことしたのよ!? 素直に受け入れないで、実行不可能な試練を与えるなんて!)
(ちょっと、じゃあどうしろっていうのよ!? あんなに突然プロポーズしてくるんだもの、まるで朝飯前みたいに言われて焦ったのよ!)
(『少し考える時間が欲しい』って言えばよかったじゃない!)
(嫌よ! 何年もプロポーズなんてされてなかったのに、いざされたら不可能な課題を出しちゃうなんて、私のバカバカバカ!)
頭の中の混乱に耐え切れなくなった現実のキュウキは、思わず大声を上げた!
「二人とも静かにしてよ! 私を寝かせなさいよ――っ!!」
キッチンからジャンキャストがひょっこり顔を出した。
「え……俺、何も喋ってないぞ……?」
キュウキは顔を真っ赤にして毛布を頭までかぶった!
「あなたに言ったんじゃないわよっ!!」
(……静かに寝なさいよキュウキ、もう……!)
その時、ジャンキャストのスマホが鳴り響いた。彼は外に出て電話に出た。
「はい、ユルか!」
――一方、街の反対側では。
ユルが必死の形相でリハルを探し回っていた。
しかし彼が知る由もなかったが、当のリハルは肉屋のすぐ隣にあるエアコンの効いたアイスクリームショップの中にいた。大きなガラス窓越しに、自分を探して右往左往するユルを観察しながら、優雅にアイスを頬張っていたのだ。
疲れ果てたユルがバス停のベンチに腰掛け、眉間を揉んでいる。
リハルは店の小窓をガラリと開けると、ひょっこり顔を出して呑気に声をかけた。
「ユル〜! そこで何しているの? お買い物はもう終わったの?」
彼女はアイスをもう一口パクリと食べた。
しかし、次の瞬間――ユルの顔が視界に入った。
その表情は、バス停の誰もが怖がって近寄れないほど、恐ろしい怒りの炎に包まれていたのだ!
その絶望的な怒りを目にした瞬間、リハルの目が恐怖で飛び出んばかりに見開かれた!
彼女は即座に買い物袋をひっ掴むと、脱兎のごとく全速力で逃げ出した!
「待てぇぇぇっ、リハル――ッ!!」
街中を追いかけ回された末、息を切らして立ち止まるリハル。
しかし、彼女が顔を上げた時には――すでにユルが目の前に仁王立ちしていた!
ユルは彼女の両頬をギュッと力いっぱい引っ張った!
「黙って逃げ出すとは良い度胸だな、ああん!?」
「ひゃああっ! バス停が暑かったんだもん! だから中でアイスを食べてたのぉ!」
「今は真冬だぞ!? 熱が下がったばかりでアイスを食べただと!?」
「分かった、分かったから! もう食べないから離してぇぇ!」
ユルは手を放した。
「たく……それで、次はどこへ行きたいんだ?」
リハルの目が輝いた。
「お祭り広場よ! 一番高いアトラクションに乗りたいの!」
「お、そうか! よし行こう。だがその前に、みんなと合流するためにキュウキの家へ行かないとな」
「みんな……?」
(あ、そうだ。ジャンキャストと話していた時、こいつは熟睡していたんだったな)
「ジャンキャスト、モコン、セムリ、ジャスキがみんなお祭りを観に街へ来ているんだ」
リハルは飛び上がって喜んだ。
「本当!? みんなに会いたいわ! 早く行きましょうユル!」
「ちょっと待て、ジャンキャストに電話してみる」
ユルはスマホを取り出し、数分ほど通話した。通話を終えると、ユルは言った。
「キュウキの家には行かず、直接お祭り広場へ向かうぞ」
「どうして?」
ユルはニヤリとウインクしてみせた。
「なに、キュウキの体調がよくないから、ジャンキャストが看病で残るそうだ。他の連中はもうお祭り広場に向かっているらしい」
「えっ、でもキュウキのお見舞いに行った方がいいんじゃないかしら?」
「ジャンキャストが『来るな』ってしつこくてな」
「どうして?」
「男同士の友情ってやつさ! さあ、バスに乗るぞ。キュウキのことは心配いらない、ジャンキャストがしっかり看病してくれるさ」
「……そうね!」
二人はバス停で並んで待った。間もなく一台のバスが滑り込んできた。
扉が開いた瞬間、車内から賑やかな大声が響き渡った!
「ユル! リハル! なんでこんな所にいるの!?」
リハルの顔がパッと輝いた!
「セムリ! ジャスキ!」
「ちょうど二人のお話をしていたところなのよ!」
ユルとリハルはバスに乗り込み、一番後ろの席でモコン、セムリ、ジャスキと合流した。
全員が拳を突き上げて叫んだ。
「お祭り広場へ、出発だ――――ッ!!」
【第8話:もうひとつの告白――完】




