第6話:君と過ごすもう一つの日
朝。
リハルは早起きし、エネルギー満タンで目を覚ました!
元気がありあまっていて、大声を張り上げて叫んでいる。その声の大きさたるや、本人いわく「村まで届いちゃうんじゃないかしら!?」というほどだ。
彼女はベッドの上で跳ね回りながら叫び始めた。
「ユル、起きて! ユル、起きてってば! 朝よー!」
ユルは頭を抱えて神に祈った。
(頼む……もう少しだけ寝かせてくれ……神様、助けてくれ……!)
神様が祈りに応えてくれる前に、リハルはユルの毛布を強引に引っ剥がした!
「ユル、起きなさーい!」
ユルは眠い目を擦りながら、がばりと起き上がった。
「どうしたんだよリハル……なんでそんなに早起きなんだ?」
「今日は街で過ごす最後の日なのよ! 横になっている暇なんてないわ、観光に出かけるの!」
ユルはうめき声を上げると、再びベッドへと倒れ込んだ。
「あと少し……あとちょっとだけ寝かせてくれ……」
「駄目ーっ!」
リハルはユルの片足を掴むと、ベッドから引きずり降ろそうとし始めた!
「やめろって! おい、やめろ!」
ひとしきり格闘した末、ユルはついに諦めて起き上がった。
「……こんな早朝から、一体どこに行きたいって言うんだ?」
「まずはショッピングモールに行って、あなたに似合う格好いい服を買うの! だから早く準備して!」
ユルは顔を洗いに洗面所へ向かった。しばらくして、濡れた髪をタオルで拭きながら戻ってきた。
「リハル、荷物を全部まとめるぞ。今すぐこのホテルをチェックアウトする」
髪を綺麗なお団子に結び直していたリハルが不思議そうに尋ねた。
「え? チェックアウトは今夜じゃなかったの?」
「一日中外に出かけるんだ、夜遅くにチェックアウトの手続きをするのは二度手間だろ。先にキュウキの家へ行って重い荷物を置かせてもらおう。夜になったら荷物を引き取って、そのまま牛車で出発すればスムーズだ」
「なるほどね! じゃあ、すぐまとめるわ」
昨日モールで買い込んだものがほとんどだったため、荷造りはすぐに終わった。ユルの着替えと、彼女が買ったアクセサリーを鞄に詰めて準備完了だ。
二人は一階のフロントへと降りていった。ユルが受付のスタッフに尋ねる。
「キュウキはどこにいますか?」
カウンターの裏に立っていた別の女性スタッフが答えた。
「キュウキは本日、お休みをいただいております」
「そうですか。分かりました」
手続きを済ませ、ホテルを出た二人はバス停へと歩き出した。
「キュウキのこと、なんて言っていたの?」
「今日は休みらしい」
「じゃあ、これからどうするの?」
「先にキュウキの家に行って荷物を預けてから、モールへ向かおう」
「分かったわ」
二人はバスに乗り込んだ。リハルは頭の中でスケジュールを計算した。
「そういえば、今夜出発すれば、明日の朝には村に着くわね」
「ああ、そうだな」
しばらく走ると、見覚えのある街並みが窓の外を過ぎていった。
「あ、ここ来たことある! キュウキが連れてきてくれたモールの近くね。彼女の家はこの近くなの?」
「ああ、モールのバス停から三つ先がキュウキの家だ」
数分後、ユルが立ち上がった。
「ほら、着いたぞ。降りよう」
バスを降りた二人は、キュウキの家のドアの前へ向かった。リハルがチャイムを鳴らすと、間もなくキュウキが扉を開けた。
「キュウキ! あなたのアドバイス、最高だったわ!」
扉が開くやいなや、リハルは興奮気味にキュウキへ抱きついた。
荷物を両手に持ったユルが少し離れた場所から声をかける。
「リハル、キュウキに荷物を渡したら行くぞ」
「キュウキ、私の荷物も預かってもらえるかしら? ユルとお出かけして、今夜引き取りに来るから」
キュウキはユルをチラリと見やり、それからリハルに向き直ってニヤリと不敵に笑った。
「ってことは、今夜村に帰るのね?」
「ああ、今夜出発する」
キュウキはリハルに顔を近づけ、耳元で小声で囁いた。
「荷物は預かってあげるわ……だけどその代わり、昨日の夜何があったのか『全部』話してもらうからね! 女の約束よ!」
「〜〜っ! 分かったわ、女の約束ね!」
照れくさそうに顔を赤らめるリハル。
ユルとリハルは手を繋ぎ、再びバス停へと歩き出した。
キュウキがドアのところから笑いながら手を振った。
「二人とも、すごくお似合いよ! 今日一日楽しんできてね!」
「また夜ね!」
「ええ、行ってらっしゃい!」
バスの一番後ろの席に並んで座り、二人はぎゅっと手を握りしめていた。
リハルが愛おしそうに囁く。
「ユルの手を握ると、すごくゴツゴツして力強い感触がするわ。上手く言葉にできないけれど、握っているだけでとても心地いいの。ユルも同じように感じているの?」
「君の手を握ると、まるで綿菓子みたいに柔らかいんだ。……だけど、時々不安になる。僕のこの手で、誤って君を傷つけてしまわないかって」
リハルは優しくユルの肩に頭を乗せた。
「余計な心配なんてしないで。お互いの手を握り合っている、ただそれだけで幸せなんだから。そうでしょ?」
ユルは微笑んだ。
「……そうだな。本当に心地いいよ」
車内にアナウンスが響いた。
「あ、もう着くみたいね!」
「キュウキの家から三つ目だからな」
「本当、あっという間ね!」
バスを降りた二人は、ショッピングモールへと向かった。
「君の好きなものを買いなよ。それとおじいさんへの服も選ぼう」
「ええ!」
――数時間後。
ユルはすっかり参っていた。リハルが自分用の服を選んでくれようとしているのだが、どれを見ても首を傾げて気に入らない様子なのだ。
「おじいさんの服は買えたけど、あなたに何を選べばいいか全然分からないわ……」
「気に入るものが無いなら、また今度にしよう。この人混みの中にいるだけでストレスが溜まるんだ。混雑した場所は昔から苦手でね」
「分かったわ、あと一つだけ見たいものがあるから、少しだけ待ってて!」
「分かった。じゃあ僕は下で冷たい飲み物でも買って待っているよ」
リハルは一人エレベーターに乗り込んだ。
(さっき見かけたシャツとパンツを買っちゃいましょう。どうせ他を探してもピンとこないんだから!)
彼女は手早くシャツ一着とパンツ一本を購入すると、急いでユルの元へと戻った。
「お待たせ! 行きましょう!」
「ああ」
「ねえユル、他にどこか行きたい場所はある?」
ユルは頷いた。
「ああ、輸入肉の専門店に行きたいんだ。村へ持ち帰るための特別な肉を買いたくてね」
リハルは不思議そうに首をかしげた。
「……? お肉屋さんなら、私たちの村にもあるじゃない?」
「色んな国の肉を味わってみたいんだよ。外国の肉料理の本も買ったから、すごく参考になると思ってね。どう思う?」
リハルは目を輝かせた。
「素晴らしいわ! だけど、何を作るにしても私に分けるのを忘れないでね?」
「勿論さ。行こう」
二人は再びバスに乗り込み、目的地へと向かった。
「どこのお店に行くの? この辺りにはたくさんあるみたいだけど」
「一番有名なお店だよ。今朝、テレビのCMで見かけたんだ」
「最高ね! 次の目的地は肉屋さんよー!」
あまりの興奮に、リハルは混雑したバスの車内で大声を張り上げてしまった。
「ヒャッホー――――ッ!!」
ユルは慌てて彼女の口を手で塞いだ!
「何やってるんだ!? 公共のバスの中だぞ!」
リハルは口を塞がれたまま、申し訳なさそうに小さく呟いた。
「う、うん……ヤッホー……」
【第6話:君と過ごすもう一つの日――完】




