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夫のパスワード

最新エピソード掲載日:2026/11/02
 夫の健一を亡くした主人公の美由紀は、高校二年生の娘の多香子とともに、悲しみに暮れていた。夫のスマホに残っていたアプリなどを消去していく美由紀。
 美由紀が夫と出会ったのは、高校生のときの通学の車内だった。数学の問題の解き方を教えてくれたことがきっかけだった。やがて、毎朝のように会話を交わすようになり、美由紀の方から遊園地に誘ったのだった。
 社会人になった美由紀に、ある日、高校時代の同級生の雅代から、会って欲しい人がいると言われた。美由紀の目の前に現れたのは、大人になった夫だった。やがて交際がスタートする。引っ込み思案な性格は当時と変わっていなかったが、少しずつ愛を深めていき、やがて結婚へとつながった。
 夫のスマホを触っていて、美由紀にはどうしてもパスワードがわからないアプリがあった。それはSNSと呼ばれるもの。夫がパスワードを忘れたときのために設定していたヒントの言葉には、『初めて話をした日付』とあったが、それがわからなかった美由紀。ある日、夫の書斎を整理していると、一冊の手帳が見つかった。その中に、夫の高校生のときの成績表が挟まれていて、それを見た美由紀は、そこに書かれていた日付に釘付けになる。それは、紛れもなく夫と最初に言葉を交わした日付だったのだから。
 SNSの書き込みの中に度々出てくる『masa』という人物。それが女性であることに気づいた美由紀は、真面目だった夫が浮気をしていたのではないかと思い至る。そのことを多香子に相談すると、多香子は『masa』という人物が、雅代であることを突き止める。どうやら、夫は、結婚二十周年を迎えるにあたって、美由紀や多香子のためにどんなことができるのかを、雅代に相談しているようだった。
 後に知ったことだったが、実は高校生の頃、夫は美由紀とのことを雅代に相談していた。そのことがあったからこそ、雅代は二人の交際がうまくいくように、美由紀に遊園地に行くように勧めていたし、大人になってからは、夫との再会の場を作ってくれたのだと思っていたのだが……雅代から打ち明けられたことは、美由紀にとって思いがけないものだった。それは、かつて健一のことを好きになった雅代が、友人である美由紀の幸せを願って、健一に働きかけてくれていた。そのことを知った美由紀は、亡き夫との思い出を胸に、未来に向かって歩み出していくことを、雅代の前で誓うのであった。
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