8.第二章 雅代 エピソード3
そう、私と夫が再会して、付き合い出したのには、雅代の力があったから。
大学に行っている間も、雅代とは実家が近かったこともあって、休みの日に一緒に買い物に出かけたり、遊びに行ったりしていた。
ある日、雅代は、私を合コンに誘った。女性側の人数が一人足らないので、顔を出すだけでもいいから、来て欲しいと言ってきたのだ。今はどうかはわからないが、当時、学生同士の合コンは、よくあることだった。実際に、その場で意気投合した者同士で、交際を始めていた学生も少なくなかったし、異性との交際までは求めていなくても、ちょっとした時間潰しで参加する学生たちもいた。
女性側が四人で、男性側も四人だったと思う。ただ、行ってみて驚いたのが、男性側の四人ともが、医大生だったこと。気乗りのしない私とは違って、雅代は将来の伴侶を見つけるために、やけに積極的に自分のことをアピールしていたかな。確か、後にその中の一人と、付き合うまでに発展していたと思う。結局、その人とは、性格が違い過ぎるとか言って、一年ほどで別れてしまったみたいだったけど。
そんな四人の男子学生たちの中で、一人、私に気を寄せてくれていた人がいた。合コンの席上でも、どちらかと言うともの静かで、夫とはよく似たタイプの真面目な学生だった。
その日の合コン自体は、居酒屋で飲んで、全員揃って二次会のカラオケに行っただけで終わったのだが、後になってから女子側の幹事をしていた雅代から、私に気を寄せてくれているその男子学生が、改めて私と会いたがっていることを伝えてきた。
「いいじゃない。なんといっても、医大生だよ。将来のお医者さんのたまご。こんないい話はないと思うけどな……」
幹事をしていた手前があったのかも知れないが、雅代は私にその話を勧めてきたのだ。私は、乗り気ではなかったけれど、雅代があまりに力を入れて言うものだから、雅代の顔を立てる意味でも、一度だけ会ってみることにした。
会ったのは、フレンチレストラン。大学生なんだから、もう少しカジュアルな場所で会いたかったが、雰囲気が大事だからと、雅代がその場所をセッティングしてくれたのだった。
夫よりも、少しだけ背が高いその男子学生は、異性を前にして緊張しているのか、夫のように口数が少なく、不器用そうな振る舞い一つとっても、どこか夫を思い起こさせるものがあった。
だけど、その人と一緒にいても、少しも楽しいとは思えなかった。むしろ、緊張が乗り移ってしまったのか、私までもが落ち着かなかった。一刻も早く、私はその場から逃げ出したかった。
別れ際に、その男子学生は、またよければ会いたいと言ったけれど、私は曖昧に返事をしたと思う。それで、どうだったかを訊いてきた雅代に、「私よりも、もっとふさわしい人がいると思う」と話して、雅代の口からそれとなく断ってもらったのだった。
「どうして、断っちゃったのよ。美由紀のためを思って、せっかくいい話を紹介してあげたのに……」
後になって、雅代から、そんなことをちょっぴり嫌味っぽく言われたが、私は、正直に自分の感じたことを話した。そう、あの男子学生と会ったことで、かつて自分が思いを寄せていた人のことを思い出したことを。
「何度も二人きりになったと言うのに、手も繋いだことのなかった人でしょ。他に、もっと素敵な人がいると思って……」
私の話を聞いて、雅代はそう軽くあしらおうとしたら、私は真剣だった。
「私が好きになった人なのに、雅代にそんなことを言われるなんて、私、ショックだった」
泣きながら雅代に打ち明けたと思う。それには、さすがの雅代もはっと我に返ったようで、「美由紀、ごめん」と言っただけで、すぐに言葉を返さなかった。
それから、雅代も私も、就職活動や大学の勉強が忙しくなって、なんとなく連絡を取り合わないまま、時間だけが過ぎていったのだが、私が地元の会社に就職してしばらく経ったとき、前触れなく雅代からの電話が鳴った。
「美由紀に合わせたい人がいるんだ。今から、出て来られないかな」
「またか」と思った。私に合わせたい人って、まさか前に会った医大生ではないだろうけど、どうせまた合コンの人数が足りなくなったから、来て欲しいということではないだろうか。
時間が経ったこともあって、その頃には、雅代とのひと悶着は、私の心の中ですっかり忘れてしまっていたが、「私に合わせたい人」という台詞が、嫌な思い出を思い起こさせた。
私って、いい意味でも悪い意味でも、お人好しなんだと思う。断れないのだ。だから、雅代に言われるがまま、しぶしぶといった感じで、指定されたフレンチレストランに向かったのだったが、そこで私を待っていた男性の顔をひと目見るなり、私はわが目を疑った。『予約席』と書かれた奥のテーブルに座っていたのが、夫だったのだから……。
唖然とした私に向かって、夫は決して物怖じすることなく、「久しぶりだね。元気だった?」と、笑顔を見せてくれていた。
「えっ、うん、元気に……していたよ。健一くんは?」
初めこそ、そんなぎこちないやりとりを交わしていたと思うけれど、すぐに打ち解けていって、気がつけば心は高校生の頃に戻っていた。純真で眩い青春の日々。だけど、あの頃と違って、その日の帰り、レストランを出た夫は、私にそっと右手を差し出してきてくれた。頬を真っ赤に染めて、それをそっと握る私。
それからは、離ればなれになっていた期間を埋めるかのように、一気にとは言わないけれど、時間をかけて少しずつ交際を深めていって、やがて私たちは無事にゴールインを果たしたのだった。




